黒絹の皇妃   作:朱緒

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第59話

 乖離を指摘するのならば、オーベルシュタインのほうが、よほど変わっているが、オーベルシュタインは彼女を皇后の座に就けようとはしないので ―― この時点では、彼女は自分が皇后にされかかっていることは知らない ―― 彼女としては変化を受け入れるのは難しくはなかった。

「不特定多数を相手に語られている言葉でしょうか?」

「お前以外に言ったことはない」

「……」

「三番目の夫は俺でどうだ?」

 シェーンコップと同じでロイエンタールのことはキャラとしては嫌いではなかったが、リッテンハイム側に与し、なし崩し的にではなく、本気でラインハルトと敵対しようとしているロイエンタールの皇后になれと言われるなど、彼女にとって迷惑でしかない。

―― 私やリヒテンラーデ一族だけならばまだしも、ブラウンシュヴァイク公にまでご迷惑をかけてしまうではありませんか

 リヒテンラーデ公の道連れにはなりたくはない彼女だが、同じくらい他人を巻き込みたくもなかった。

「マールバッハ伯ならば、女性など幾らでも手に入るでしょう。皇帝となられれば尚のこと。なにも私でなくとも」

―― ロイエンタールは私のなにが? ……顔が好きなのでしょうか? ほとんど接点はなかったのですから、容姿くらいしか知らないでしょう。見た目が気に入られたのですか……

「お前ほど美しい女はいない」

「お褒めいただき嬉しく思いますが、私はもう盛りを過ぎ、あとは老いさらばえ朽ちるのみです。若くて美しい少女に、その座は譲ります」

 彼女は絶叫したい気持ちを抑えて、必死に固辞する。

―― 一人きりでロイエンタールに会ったのは間違いでした……ですが、まさかこんなことを言われるなどと……今は言い返しましょう。黙っていたら、肯定と解釈されかねません

 そして無言は拒絶にはならないだろうと、緊張で乾いた舌を潤して言い返さねばとグラスに手を伸ばすが、すでにグラスは空。

 とても他者に聞かせられる話の内容ではないので ―― 貴族にとって給仕は人ではなく道具でしかないが、よく喋る道具も数多く存在する ――  給仕を呼ぶわけにもいかないので、彼女は立ち上がり、水差しから自分のグラスに冷たい水を注ぎ入れ座り直す。

 

―― 現時点で私はラインハルトの妻なので、ロイエンタールと結婚することは不可能。ラインハルトは内乱終了後、私と離婚して流刑地に幽閉するか、もしくは、なにか考えがあって私をそのまま妻にしておくかもしれない。運がよければ離婚して自由の身になれる……可能性としては低いですが。あとは考えたくはないのですが、処刑。ロイエンタールが本当に私のことを好きだとして、幽閉されている私のところに来る……戦争になる。ラインハルトの妻のまま……やはり戦争に。離婚して自由の身になったら、結婚の障害はないですけれど、ロイエンタールの希望は銀河帝皇帝……その座は一つだけ。私が処刑されたらされたで、争いになる可能性も……下手したら戦死者一千万人規模の戦争原因になるなんて御免です

 

「不愉快だったか?」

 黙り込んでしまった彼女に、ロイエンタールは彼らしくもない自信なさげな声で尋ねた。ロイエンタールは自分が彼女に好かれていないことを知っている ―― だが今日の彼女は、いつになく自分のことを怖がっていなかったので、ついつい語ってしまった。

 様子をうかがっている彼らはロイエンタールの声の変化に、聞かれているのにも関わらず、随分と本心を露わにしているものだと半ば呆れ、半ば感心していたが、

「なにがでしょうか?」

 動揺している彼女は、ロイエンタールの変化について気付く余裕はなかった。

「お前のことを愛している……と告げたことについてだ」

「結婚している身ですので、不愉快といえば不愉快ですね」

 ロイエンタールに愛を語られたことは衝撃ではあったが、それよりも自分が第二次ランテマリオ会戦のきっかけの一つになりそうな事実 ―― 不愉快と表現したが、それは絶望にも似ていた。

 饒舌な男は更に彼女に語り続ける。

「それを気にしていると、いつまで経っても伝えられんからな。お前が十五歳くらいになったらプロポーズしようと考え、出世が早い軍に入ったはいいが、お前は十一で嫁いでしまったからな」

 両者とも伯爵家の血は引いているが、ロイエンタールの血筋では彼女に釣り合わず、彼個人に、なんらかの付加価値がなければ、結婚を申し込むのは不可能。また彼の母親を買ったロイエンタール家の資産だが、それも上から数えたほうが早い門閥貴族相手では大した価値はない。それを分かっていたため、ロイエンタールは早くに軍人となったのだ。

「マールバッハ伯……私のことをいつ頃から?」

―― 私は四歳の時に話したくらいしか記憶にはないのですけれど……それ以外でも会ったことが? 四歳から十一歳までの間で……近親者に軍人はあまりいませんでしたし、この容姿ですから瞳の色を変えていても目立つと思うのですが

 話しぶりから、自分が嫁ぐより前から興味を持っていたことが分かった彼女だが、四歳の時の出会いが原因だとは考えもしなかった。

「教えられんな。お前が妻になってくれたら教えるが」

 他人(ファーレンハイト)には堂々と語ったロイエンタールだが、さすがに本人を前にして語るのことはためらわれた。もっともファーレンハイトに対しては「卿も同類だろう」との意を込めて語ったに過ぎず ―― 語られたほうも意図を理解し、否定もしなかったので ―― わかり合ったようである。それに関して善悪を問うのは愚かというもの。

「そうですか。私がエッシェンバッハ侯と離婚し、あなたの妻になったら、その野心を収めてくださいますか」

 数多の男の人生を、現在進行形で狂わせていることなど自覚なく、彼女は「あり得ない」と分かっていながら、ロイエンタールに問いかける。

「さきほどお前が言ったではないか”お願いしようとも更なる高みを目指すことを止めない”と……時間のようだな」

 突如ドアがノックされ、キスリングが帰る時間であることを告げる。

―― 大変な話になってしまいました

「そうですね。分かってはおりましたが、念の為にお尋ねしたのです……最後になりますが、私は皇后にはなりたくはありません」

「それは俺の皇后になりたくはないのか? それとも誰が皇帝であろうとも、皇后になりたくはないのか?」

「後者です」

 彼女は告げて席を立ち礼をする。右耳の上から一房の黒髪が落ち頬にかかり、室内の抑えた明かりが穏やかな口元に境界線が曖昧な陰を落とす。

「そうか……それは生きている人間限定の答えか?」

「さきほども言わせていただきましたが、マールバッハ伯もお人が悪い」

 彼女はほつれた髪を耳にそっとかけた。

「フレーゲルが生きていたら、皇后になったか?」

 ロイエンタールも席を立ち、ドアを開ける。

「なったと言いますか、良人は自分が皇帝に推戴されたのならば、妻であった私を皇后に添えてくださったはずです。それに良人はマールバッハ伯のように、選り取り見取りではありませんでしたので、私以外選びようもなかったでしょう。失礼いたします」

「だがお前は逃げぬのであろう? ジークリンデ」

「皇帝になられたら、口説きにきてください。その時まで返事は保留にしておきます」

 キスリングと共に去る彼女の後ろ姿に、

「完膚無きまでにふられた、というわけか」

 ロイエンタールはそう呟くことしかできなかった。

 

―― 長い一日でした……

 

 彼女は車中から自宅の門が見えたとき、一日の終わりに安堵したのだが、残念なことに、彼女の長い一日はまだ終わってはいなかった。

「伯爵夫人」

「元帥」

 ラインハルトと帰宅時間が重なり、玄関前で鉢合わせしてしまった ―― 鉢合わせ ―― 同じ家に住んでいる新婚夫婦に使われるのに適切ではない表現だが、その場にいた誰もが「鉢合わせしてしまった」そう感じた。

「お帰りなさいませ」

 そのような状況だが彼女は流れるように、玄関で久しぶりに出迎えの挨拶をする。

「あ、ああ……伯爵夫人。あの」

「はい」

「少し話がある」

 なぜ玄関で。それも扉を開けずに ―― 思いはしたがキスリングは礼をし、シュワルツェンの邸から去った。

 本来ならば室内まで付き添うのだが、(一応)夫が目の前にいるので、そこまで出過ぎた真似をするわけにはいかない。

 キスリングが去ると、ラインハルトを送ってきた車も挨拶をして同じように帰っていった。

 玄関前に取り残された二人は、互いに見つめ合う。

「伯爵夫人。少し庭を歩かないか?」

「喜んで」

 ドレスを脱ぎ捨ててベッドに直行したかった彼女だが、ラインハルトの誘いは断れないので笑顔で答える ―― 基本、貴族女性は夫の誘いを断ることはない。

 ただし女性のほうが身分が高い場合は拒否は可能。彼女はラインハルトよりも血筋という点では遙かに上回っているが、それらを憎悪し、唾棄すべきものだと考えているているラインハルトの前で誇示するほど、彼女も愚かではない。

 

 膝の高さほどの外灯が並び、照らし出されている小径を、ラインハルトは彼女の腰に手を回して歩く。

―― ……なんでしょう、この違和感。愛を語るロイエンタールよりは、まだ……まし、でしょうか?

 逃げないよう拘束するかのような掴み方が気になったものの、なにせラインハルト。女性をエスコートすることに慣れていないのだろうと彼女は理解し、なにも言わず体を引き寄せられるままに歩いた。

 庭の一角にある白いガゼボ(西洋風あずまや)の前でラインハルトは立ち止まり、

「少し休もう」

 備え付けのベンチに座るよう促す。

―― 家に戻って休みませんか? もう深夜ですし

 彼女はそう思ったが、腕を引かれて半ば強引に連れ込まれたので、返事をすることしかできなかった。

「はい」

 ベンチに腰を降ろした彼女と、立ったまま落ち着かず、難しい表情を浮かべたまま、ラインハルトはガゼボの中を歩き回る。

 彼女から話すことはないので、外灯に照らし出される邸と庭を眺めながら、ラインハルトが話すをの待った。

 だがラインハルトは中々話そうとはせず、夜の冷たい空気にこれ以上肌を撫でられると、体調を崩すかも知れないと考えて、彼女から尋ねることにした。

「どうなさいました?」

「今日はギレスベルガー子爵夫人とマリーンドルフ伯縁の少女と夕食を取ったあと、ファーレンハイトたちと会うと聞いていたが」

「はい」

 ロイエンタールが漁色家であることもそうだが、話の内容もあり、正直には言えないと判断し『私たちと久しぶりに会い、遺産相続について話合っていることにしましょう』という提案を受け入れ、連絡などはオーベルシュタインに任せていた。ちなみに提案の内容については事実である。

 フレーゲル男爵が死亡し、ラインハルトと再婚した彼女だが、前夫の遺産は莫大で、まだ相続が完了していない状況であった。

 事務手続きを行っている者が無能なわけではない。むしろ優秀過ぎるほど優秀なのだが、それでも手続きが終わらないほど。

 

 そんな莫大な遺産より、いま彼女にとって問題なのは、目の前にいる将来の覇者。

―― もしかして、ロイエンタールと会っていたのばれましたか。でもロイエンタールと会ったと認めるのは……サビーネの身体的な話や、ロイエンタールの野望など語りようがありません

「……」

 ラインハルトの態度に、嘘をついたのがばれたのかと焦った彼女だが、ラインハルトが疑っているのは嘘ではない。

「あの……」

「どのような話をしていたのか、教えてはもらえないか?」

「ギレスベルガー子爵夫人とは……」

「女性同士の話ではなく、ファーレンハイト、フェルナー、オーベルシュタインという男たちと、なにを話していたのか」

―― 話の内容を聞かれるとは思ってませんでした。いままで聞いたこと、なかったじゃないですか。遺産についても、興味がないので報告すら受けてませんから……なんと答えたら

 ラインハルトの今までの彼女に対する言動から、詳細に口裏を合わせる必要はないとオーベルシュタインが判断し ―― 彼女も同意見であった。聞かれもしないことをわざわざ考えて覚えるのは無駄であると。

「……」

「答え辛いこと……なの、だろうか?」

 ラインハルトの声は大きくはないが高圧的。だが頼りなさから揺らぐ、とても不安定なものであった。

 僅かな外灯の明かりでも、王冠を頂いたかのごとく輝く金髪の煌めき変わらないが、表情は曇り、白皙の肌は表情のせいかやや色褪せていた。

「あの、申し訳ありません……その、前夫の想い出話ばかりを……」

 彼女はつき通せるだけの嘘をつこうと決めた。

「それだけ、なのか?」

 ”ほっ”とした子供のような表情と、瞳に宿る猜疑心のようなもの。苛烈な性格を映し出す、透き通ったアイスブルーの瞳には似合わない感情の原因を捜すため、彼女は立ち上がり顔を近付けて理由を問う。

「なにをお疑いですか、元帥」

 人工の明かりに浮かび上がる、金属を編んで作ったかのような白いガゼボ。その隙間を埋める闇夜と星空を背にした彼女を前に、ラインハルトは左手でマントを握りしめながら、本心を吐露する。

「あなたを信用していないわけではないのだが」

―― それは”疑っている”と宣言しているも同然ですよ、ラインハルト

「あなたは女性で、相手は……男だから……」

 ラインハルトは独占欲が強く、妬心もそれなりにあった。彼女はそのことは覚えていたが、自分が妬心を持たれるとは考えてはいなかったので、甘く考えていた。

「浮気をお疑いですか」

「……」

 ラインハルトから答えはなかったが、この沈黙は肯定と取るべきであろうと彼女は判断した。

―― 完全に疑われていますね。私がファーレンハイトかフェルナーかオーベルシュタインの誰かと浮気したのではないかと疑っている……と。三人にも相手を選ぶ権利はあると思うのですよ。なにもこんな二十歳で二度も結婚している女でなくとも、ロイエンタールほどではないでしょうが、三人だって選べる立場。貴族の権力で行為を迫ったと思われているのなら最悪ですが……ここで感情的になっては駄目ですね。落ち着いて、落ち着いて、ジークリンデ。私はともかく、三人の名誉回復しておかないと。ラインハルトの部下になる際の障害になったら困りますから

 

 三人がラインハルトの部下になる可能性など皆無に等しい状況なのだが、彼女はそんなことは知らないため必死に考え、単純明快な答えを導き出し、即座に行動に移した。

 ミッドナイトブルーのドレスの両側つまみ、腰を少々落として礼をし、ゆっくりと顔を上げてラインハルトを正面から見つめた。

「疑われるような行動を取ったことをお詫びさせていただきます。私一人のことであれば、弁解などいたしませぬが、浮気となれば一人では出来ぬことゆえ……元帥、この場でお確かめください」

 

―― 分かるかどうかは知りませんけれど……

 

 ロイエンタールに愛を告白され、ラインハルトに濡れ衣とはいえ嫉妬され、自宅がすぐそこだというのに、風の通りが良すぎる西洋風あずまやで、上質な素材ゆえに少しでも乱暴に扱うとすぐに裂けてしまう自分のドレスを敷いて ―― 彼女はため息をつく代わりに、己の未来の選択肢に、自殺を組み込んだところで”終わった”

 ラインハルトは格好は他者の目に晒すことはできないが、基本清らかなまま。彼女は傍目から見ると悲惨な状況に。この状況になるまで要した時間は、十分にも満たない。

 彼女は軍服を採寸した時と同じように下着はゲピエール姿で、靴下は内腿側に銀糸で蔦と葉が刺繍されている。それらの下着と黒髪が残滓が飛び散っている。

―― こういう時って、なんと言えばいいのでしょう。気にしないでくださいは駄目ですよね。もう一回……も違いますよね。マリーンドルフ伯、もはや関係のないことでしょうが、もしかしたら二人は何度か失敗したかもしれませんよ。でも、あれは二十四歳くらいでしたから、今よりは落ち着いて……私には力不足でした……どうしましょう

 

 神々しいまでに美しい男女が近距離で顔を赤らめているというのに、気温だけではなく、薄ら寒く悲惨な空間がそこに広がっていた。

 

「あの……伯爵夫人」

 彼女は混乱し、ラインハルトはそれ以上に混乱していた。

「はい」

―― 私は収拾つきませんが……ラインハルト。満足したのでしたら、しまってください。それ

 ラインハルトは敵だが、だからこそ、彼女としてはあまり間抜けな姿をさらして欲しくはない。そのくらい今のラインハルトの格好は間抜けであった。

「本当は疑ってなどはいないのだ!」

「え……」

 いくら象牙細工のような手であろうとも、男性の手であり指である。その軍人の指が行った調査により、内側が傷がつき痛むものの、

「あなたに触れるための口実で」

 他人が聞いたら激怒しそうな理由だが、彼女としてはこちらの理由のほうがラインハルトらしいと感じ微笑んだ。

「それは……私はあなたの妻です。触れるのに、口実など必要ありません」

 もっとも、この状況では彼女は微笑むしかない。下手に泣いたりして、理不尽ながら鬱陶しがられては後々に響く。

 泣くよりも笑っていたほうが良い ―― いい意味でも、悪い意味でも。

 

「元帥閣下」

 

 完璧な貴族女性らしく微笑んでいた彼女の表情にひびを入れたのは、落ち着き払った声 ―― 邸の警備責任者であるケスラーが、二人の元へと近づいてきた。

 ケスラーはラインハルトに声をかけ、邸に先に戻るよう促し、

「分かった。伯爵夫人……その」

「いつでもお呼び下さい。元帥の寝室に招いていただける日を待っておりますわ」

「あ、ありがとう」

 行為未満の行為と、警備に見られていたことに動揺したラインハルトは、邸に急いで戻った。

「……」

 ここは近衛に警備をさせることを美とする新無憂宮ではなく、ラインハルトは警備には最新技術を用いているので、とうぜん監視カメラが死角なく設置され、二十四時間体勢で万全の警備が施されている。

 彼女とラインハルトが玄関で遭遇し、やや乱暴な手つきで庭へと連れ出されたのを見たケスラーは、通常オペレータを下げ、副官と共にモニターの前で状況の推移を見守っていた。

 なにごともなければケスラーも出てはこなかったが、仲裁に入った方が良いであろと判断し、監視映像の処分副官に任せ、急ぎやって来たのだが時は既に遅し ―― ケスラーの想像以上に早かったというのが正しいのか、その部分は曖昧にしておくが、全ては終わっていた。

 ラインハルトを先に邸に帰したケスラーは、顔を背ける彼女に脱いだ軍服を羽織らせ、ドレスを回収する。

「邸に戻りましょう、お嬢さま」

―― 失敗した現場に踏み込むって、勇気が要ったことでしょう。誰かに来てもらわないと、私にはかける言葉もなかったのですが……できることなら、初恋の人に踏み込んでもらいたくはなかった

「一人で戻れます。軍服、着たいと言った時には着せてくれなかったのに……」

「お部屋までお供させてください」

 

 ケスラーは彼女の手ではなく、逃がさぬように手首を掴み引き ―― 彼女は拒否せず従った。

 


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