オーディンに戻ってきた彼女は、上空から新無憂宮を撮影させ、オーディンにスパルタニアンを投入し、亡命などしていない叛徒に皇帝の救出をさせるなど、好き勝手した責任を取らなくてはならないと考え、その処分が下るまで自宅で大人しくするべきだとし、人には会うが邸から一歩も出なかった。
彼女が邸に籠もると、警備を万全にしやすいということもあり、彼らは黙って従っていた。
「ジークリンデさまに処分を下せるような者が、この帝国にいると思っているあたり……」
「ジークリンデさまらしいですよね」
地位と身分と勢力が頭一つどころではなく抜きん出ている彼女に対し、誰がどうやってそのようなことを決めるのかと。その辺りを分かっていただきたいとは思うのだが、
「フェルナー、ファーレンハイト」
「ジークリンデさま」
「どうなさいました?」
「フェルナー。泳ぎたいから、プールに水を張って」
「もう張っておりますよ。水着はどれになさいます?」
「ファーレンハイト、どの水着がいいかしら?」
「オレンジと黄色の色鮮やかな、フリル付きのが」
「あなた、溺れても見つけやすい色ばかり選ぶわよね」
「そんなことはございません。ジークリンデさまは、黄色系統の色がよくお似合いなので。なあ、フェルナー」
「ええ、本当によくお似合いですよ。黄色もそうですが、金系統もジークリンデさまの独壇場」
「そ、そんなに似合います?」
そんなことは、どうでもいいかと思わせるほど、彼女を自分たちが作った箱庭に閉じ込めておける生活は魅力的であった。
彼らにとって彼女を閉じ込めておけるのは幸せだが、それはごく一部で、多くの者たちは彼女に早く戻ってきて欲しいと ―― だが首都の安全が確保されていないので、あまり強くは言えない。
「ジークリンデの処分だと? なにをどう処分しろというのだ」
彼女が邸に籠もっている理由を聞かされたロイエンタールは、山積みの決裁待ち書類を前に、それは俺の範疇外だと ―― 司法尚書にあるまじき一言。
「まだ安全が確保されていないゆえ、邸にいてくれたほうが。警備の人員は足りているか……ああ、分かった。処分? 大公妃が望んでいると言われても……」
彼女を罰するとなると、直接撮影に関わったキルヒアイスも罰しなくてはならなくなる。前者彼女は皇族の特権で軽く済まされるが、後者キルヒアイスは彼女の罪もかぶせられ厳罰になるのは必至。
ゆえにこのことには触れたくはない ――
彼女に続く権力を持つ二名も、彼女に何らかの罰を与えるつもりはなく、だが彼女は何らかの処分を望んでいる。
彼女の希望は叶えるべきであり、だが……
「見積もりだ」
その堂々巡りを断ち切った男がいた ―― キャゼルヌである。
彼は業者と監視兵とシルヴァーベルヒと共に新無憂宮の被害状況を確認し、修繕にかかる費用を算出した。
「この費用を、ジークリンデさまに払っていただくというのはどうだ?」
新無憂宮でもっとも破損したのは、ポプランがカザリン救出のために突っ込んだオラニエンブルク邸。次に被害が大きかったのは、コーネフが墜落した庭一帯。
「新無憂宮の修繕費用を全部賄ってもらう。この位で納得して下さいと説得してみろよ」
それ以外に破損した箇所の修繕費用を彼女が持つというもの。
彼女の資産からしてみれば、これも微々たるものだが、
「あまり意地を張られても困ります」
「分かりました」
修繕にかかる費用を財務省と折衝すべき立場の、宮内尚書が自発的に謹慎中で、通常業務はどうにかなるが交渉から予算獲得となると ―― 予算は湧いて出てくるわけではないので、どこからか捻出せねばならず。
いまだ首都の反対側の大陸にある城で、メルカッツ護衛の元で生活を送っているカザリン。意地を張って皇帝の住居の修復が遅れるのは、彼女としては望むところではないのでその案を受け入れた。
だがこの案、実は彼女は損をしない絡繰りになっている。
皇帝の居城を直すのは、身分が明らかで、テロと関係がないと確認されている彼女が所持している軍の工兵が担当する。
通常であれば彼女が貸し出す形になるのだが、今回は国が彼女の私軍を借りている形になり、その間の給与は国家持ち。
テロリスト達が大量に入り込んだこともあり、工兵たちはその間、住居を隔離されることになるのだが、かかる費用はこちらも給与と同じく。
その他資材や輸送なども全て彼女の私軍に、軍務省が依頼する形となっており ―― 彼女が支払った金は、数十倍になって返ってきた。
無論彼女はそんなことは知らないが。
―― お金支払っただけで、許されるって。そんなことで良いんですか
禁を破ったのにも関わらず、金で解決できてしまうなんて……と、彼女は邸内の温室で花々を愛でながら、使者の報告を聞いていた。
「納得できないのは分かりますが、ここはエッシェンバッハ公を助けると思って」
「公を助ける……ですか?」
使者が去ったあと、ボウル型のワッフルコーンに盛られた作りたてのバニラアイスを運んできたフェルナーが、彼女が厳罰に処されると、色々と困る人がいるのでと説明して彼女を納得させた。
「グリューネワルト伯爵が、極刑ギリギリで良かった」
「それを狙って撮影させたんだがな」
「知ってます。あなたがそういう人だということは、良く知っています」
彼らはキルヒアイスを助けるつもりなど皆無だが、彼を引き合いに出せば彼女が「それでは仕方ないですね」と引き下がるのを知っているので、使わせてもらったまでのこと。
「俺がその役を引き受けてもよかったのだが」
新無憂宮上空からの撮影を、彼女に命じられキルヒアイスに命じたファーレンハイトだが、彼は元帥ゆえ、国家反逆罪以外の罪には問われることはない。
今回の争点である、上空からの撮影は、国家反逆罪にはならないと司法省のほうで判断を下し、宮内省も引き下がった ―― 宮内尚書の側近中の側近を罰しようなど、口にする者もいないが。
「ジークリンデさまが泣いてしまいますから、やめてください。まあ、そういう意味では、あなた、元帥になっていて良かったですよ」
「そうだな。ところでフェルナー、お前自分の才能には自信あるよな」
「ありますよ。それがどうしました?」
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新無憂宮を上空から撮影。この最大の問題は、拍子抜けするほど簡単に、ほぼ不問とされた。
本来であれば、厳罰に処されるところなのだが、誰もそれをしなかった ―― 正確には出来なかった。彼女の勢力は爆発的に大きくなっているのにも関わらず、誰もそれを危惧せず黙って受け入れる。
これは彼女が、銀河帝国の頂点に立てる状況になったことを意味していた。
そしてもう一つ ―― 彼女は法の一つだけではあるが、ルドルフが定めたものを、四八九年目にして真正面から破壊することに成功した。最終的にルドルフが作った銀河帝国を滅ぼした彼女の、最初の一歩とも言える。
**********
実務を行うもの達が非常に優秀なため、テロの事後処理に関しては何ら問題はなく、一切の滞りはなかった。
混乱に解決の目処がある程度立ったところで、今回のテロを未然に防げなかったことに対し、国の主要人物の誰かが「皇帝」に対し責任を取り辞任する ―― これが終わって一応事件は終わりとなる。
「こういう時こそ、お飾り尚書たる私の出番です!」
彼女は今こそ自分の出番だと、シュトライトに協力してもらいながら辞表を書き上げ、対策会議の場に臨んだ。
協力していたシュトライトは「受理されることはないでしょうが」と分かっていたが、責任を負おうとする彼女の貴い志を無下にするわけにもいかないと ―― 彼女の内心は「これで辞められるー」のひと言だが、今までの対応もよく、更に責任を取ろうとしていること自体は賞賛されて然るべきことなので、褒められても問題はない。
会議が始まり、誰か一人が辞任して責任を取るべきだとなったところで、彼女はすかさず責任を取って辞任すると申し出て、正式に臨席させている秘書 ―― 彼女としては後で内容をかみ砕き、優しく懇切丁寧に説明してくれる大切な存在 ―― オーベルシュタインが、彼女の命に従い辞表を取り出し、閲覧用のファイルにはさみ、まずは隣に座っていたラインハルトに差し出し、彼を皮切りに各尚書が一人一人閲覧する。
その間彼女は目の前に置かれている水を飲み、待っていた。
最後の一人、彼女の隣に座っているロイエンタールは軽くその辞表に目を通し、彼らしい皮肉めいた笑みを浮かべ、閉じた閲覧用ファイルを片手に、
「大尚書殿下の辞任に同意する者はいるか?」
まさか居ないよな? としか取れない口調で、座っている全員を見回して意思を問うた。
「あなたに辞任されては困る、大公妃」
全員同意せず、だが口を開くこともせず ―― 辞任されては困るが、彼女の意思に反対意見を出せるような気概ある尚書は、この場に二人しかいない。
「何故ですか? エッシェンバッハ公」
「あなたが責任を取るような事案ではない」
「私が一番無難でしょう。私が尚書の座を退いても、誰も困りませんが、あなた方が辞任したら、省の多くの者が困るでしょう」
基本彼女は自分が飾りだと考えている。実際それは正しく、彼女がその座を退いても、次官が残っていれば仕事は回る ―― だが、尚書の座は空白になる。そこが問題なのだ。
「尚書がいなければ困る。そもそも殿下に尚書就任をお願いした理由は、該当する人間が居なかったがためであり、その状況は全く変わっていない」
―― なにも耳元で囁かないでもいいではありませんか、ロイエンタール。あなた無駄に美声……無駄じゃなくて完璧と言うのでしたね
雑務は慣れれば誰でもできるが、責任を負える人間というのは、そうそう居ない。
よって辞任されては困るとロイエンタールも反対する。
この二人が反対に回ったことで、他の尚書たちも、控え目ながら反対の意を示す ―― 彼らは自分たちの中の誰かが辞任を命じられるものだと思い、この場に臨んだのに、まさかの彼女の辞任騒動。辞任よりもまず先に留任を懇願することになり、かなり慌てていた。
「あなた方が兼任すればいいでしょう。私でもなんとか、同時に三つの尚書が務まったのです。あなた方でしたら、なんの問題もなくこなせること間違いなしですわ。この私が保障しますよ」
―― ラインハルトは宇宙艦隊司令長官の地位もありますから、ロイエンタールに国務尚書とあと一つを渡して、残りの一つをラインハルトに任せる……が最良の策だと思うのですけれど
彼女はそう考えていたのだが、彼らは彼女の辞任を思い留めようとする。
「……なぜあなた方は、私を慰留させようとするのですか?」
必死に「考え直してください」と言われるも、彼女はその理由に思い当たる節がないので、怪訝さを露わにして彼らを問いただす。
「……殿下」
「なんですか? ロイエンタール。言いたいことがあるのでしたら、言ってください」
「端的に言えばな、次の皇帝の経歴に傷をつけるわけにはいかんのだ」
「…………私は陛下の御子が誕生するまでの中継ぎとして継承者になっただけで、即位するつもりなどありません」
彼女が皇帝の座を望んでいないことは、彼らも承知しているのだが、彼女の即位は現実の物となりつつあった。
「いや、まあ分かっているのだが……財務尚書殿、頼む」
ロイエンタールから彼女の説得役をふられたラインハルトは、彼女の方を向き、彼には元も似合わぬゴールデンバウムの伝統を語り出した。
ゴールデンバウムの皇族は、基本どれほど失態を犯そうとも、責任を取ることはない。戦争において歴史的大敗を期そうが、責任は別の人物が負うように。
皇族が正式に罪を問われるのは、皇帝に対しての反逆罪くらいのもの。
今回の事案は、皇帝に弓を引いたのは彼女ではない。
「国の安定のためには、辞任されると困るのだ」
もともと帝国臣民には、皇族が責任を取るという認識がないので、ここでいきなり次期皇帝と目されている彼女が責任を取り辞任すると、尊敬よりも先に恐慌に襲われてしまう。
―― 一般人の精神構造が、私が経験したものとは全く違っていることを、すっかりと忘れていました
帝国にあって皇帝とその一族は神聖不可侵であって、この程度のことで辞任したりするわけにはいかないということを思い知り ―― 閉じた扇子で口元を隠し、
「では後継者の地位を降りましょう。この内乱、元はと言えば私を至尊の座に就けようと目論む痴れ者共がなしたこと。国を安定させるために後継者の地位に収まった私のせいで、国が混乱するなど本末転倒」
”銀河帝国後継者を辞めます”となり ―― 全員が尚書慰留から、後継者慰留にシフトチェンジ。その結果、誰が責任を取って辞任するべきかについては、決まらなかったどころか、話し合いすら始まらなかった。
あらぬ方向に会議が紛糾し、後日日を改めてと解散し帰宅した彼女は、
「せっかく手伝ってもらったのに、受理されなさそうなの」
辞表を書く際に、時間を割いてもらったシュトライトに、無駄になりそうだと詫びる。
「気になさることはございません」
言われた方は、もともとこうなることが分かっていたので、改めて詫びられると、何とも言えない気持ちになったが、彼ほどの人物ともなれば、そんなことを気取られるようなことはない。
彼女はそのままシュトライトとオーベルシュタインに、明日の会議に向けての助言を求める。
自分が辞任できないことは分かったので、誰に辞めてもらうべきか? また、後任は誰にすべきかなど ―― 本来彼女が彼らに尋ねるべきこととも言える。
彼らは彼女の問いに答え、そして彼女は、
「いやー!」
叫んで椅子の肘掛けにもたれ掛かり、全身で拒否する。
護衛として椅子の後ろに控え、話を聞いていたキスリングは”そうなるだろうな”と ―― 彼女の頼りない肩とほっそりとした二の腕を見つめる。
彼女が拒否した彼らの提案は「誰を解任しても結構。後任はジークリンデさまが。はい、四つ兼任で」という、辞任しようとしていた彼女にとって、これ以上ない最悪な提案。
だが後任に相応しい人物が居ないために、彼女が慰留されているのだから、当然この方向で調整されることになる。
―― 私じゃなくて、ラインハルトとかロイエンタールが兼任で良いじゃない? そっちの方がいいって!
嫌々と澄んだ翡翠色の瞳を潤ませながら首を振る彼女に、オーベルシュタインはかなり申し訳なさそうに明日の会議の資料を差し出す。
その差し出された上質な紙を読み、深いため息をつく。
書かれていたのは、誰が解任され、誰が継ぐのか ―― 軍部関連のリスト。
文官の首が飛びそうになっているのだ、治安に直接関係している武官の首が飛ばぬはずがない。
「オーベルシュタイン、あなたは誰を選ぶのかしら?」
「グリューネワルト伯爵とメルカッツ閣下」
メルカッツは元帥故に罪に問われることはなく、尚書の座を退くだけ。
キルヒアイスはその任を解かれ降格が妥当だと、オーベルシュタインは彼女に語った。
「私に全ての責任をかぶせ、解任すれば、あとは通常業務に戻れるのに。どうしてみんな、難しい方を選ぼうとするのかしら……せっかく意見してもらったけれど、メルカッツ提督とグリューネワルトの解任はなしの方向で……でもねえ」
―― 軍部の責任ですか。近衛が関係していたから、宮内尚書である私が武官として辞任すべきだと思うのですが
オーベルシュタインを帰らせてから、部屋で一人書類を見つめる。
―― 私の頭では、考えてもなにも思いつかないのですけれどね。答えが出せないのは、考えていないのと同じでしょうが……
責任問題が難しいと悩んでいた彼女は、帰宅の挨拶をしにきたファーレンハイトを捕まえて、本日会議の内容をかいつまんで説明し、また軍部の誰に責任を取らせるべきかを尋ねる。
「グリューネワルトを解任するかどうかは、直属の上司たるエッシェンバッハ公が持ち出すことでしょう。メルカッツ提督が責任を取って辞任というのも、違うような気がするのです。私が責任を取りたいところなのですが、侍従武官長はさほどの地位ではありませんし、大元帥代理は皇族の身分にかかる地位ですので、この地位を返上するわけにはいかず。こんなことなら、元帥になって他の役職にもついておけば良かったわー」
彼女としては面倒だから、もう誰も責任取らなくていいんじゃない? とばかりに笑ったわけだが、
「では私が辞任いたしましょう」
彼女の悩みを減らすのが彼らの仕事である。
誰に責任を取らせたらいいのか分からないのであれば、自身が負える立場にあるのだから、責任の一つや二つ取って辞任しましょうと。
”そうなりますよ”と、キスリングは本日二度目の台詞を内心で呟き、ひっそりと端末を取り出し、同期に「お前の上司、責任とって辞任しそうだ」とメールを送った。
「あなたは一番関係ないでしょう、ファーレンハイト!」
同期ことザンデルスからのすぐに返信があった「ジークリンデさまに迷惑かけんなって突っ込め。フェルナーさんのように」受け取った方は、”出来るわけねえだろ”と内心で悪態をつきつつ「暴力込みで?」と返す。
「ジークリンデさまの頭を悩ませる事案を一つでも解消できるのでしたら」
すると「ジークリンデさま、暴力苦手だからやめておけ。でもお前なら、見えない角度でやれるか」なる返信。
「あなたを辞任させるくらいなら、私が辞任しますよ! 誰になんと言われようとも!」
「ジークリンデさまの辞任は、現実問題として不可能です。ですがこの貧乏帝国騎士たる私でしたら、なんら問題はありません」
「いやー。だめー」
殴って意識を失わせるべきか? 殴ったくらいで意識を失うのか? キスリングが見定めていたところ、
「ジークリンデさま、お食事ですよ。今日はジークリンデさまのお好きな……って、あんたまだ居たんですか、ファーレンハイト」
ワゴンを押してフェルナーがやってきて、給仕として細々と働き出す。「フェルナーさんが来たから、なんとかなりそう。でも念のために、なんか考えておけ」と送り、キスリングはやり取りを眺める。
会議でのやり取りは事前に報告を受けていたフェルナーは、彼女に食事を勧めつつ、先ほどまでのやり取りを聞き頷いた。
「そうですね。私に出来ることはありませんけれど、統帥本部総長の辞任はないでしょう。ファーレンハイトが幾ら辞任すると言い張っても、ジークリンデさまが許さない限りは誰も許可しませんから、ご安心ください」
彼女はサラダを口へと運んでいたフォークを置いて喜んだ ―― だが、誰かが責任を取らなくてはならない事実は変わらない。
「大丈夫ですよ。ジークリンデさまが考えなくたって、他の人たちが上手くやりますから。気に悩まず、議場で座っていらっしゃればいいんですよ。ねえ、ファーレンハイト」
フェルナーはそう言い、彼女のグラスに水を注ぐ。
「フェルナーの言う通り。お気になさらず、気楽にどうぞ」
「いや、確かにあなたの言う通りですけれど……」
―― お飾りなのは分かっていますけれど、そこまではっきり言わなくても……まあ、二人のはっきりと言う所も好きですが……
釈然としないような、だが彼ららしいのでついつい認めてしまう。そんな複雑な気持ちを抱くことしかできなかった。