黒絹の皇妃   作:朱緒

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第204話

「キスリング、怪我などしていないかしら」

 

 フェルナーに脚を見せるのを諦め ―― ダンスや食事の相手にカストラートの歌をも一緒に聞かせ、眠る準備を整えてからの長話。どれもこれも、苦痛にならないことばかりで、そう言った意味では居心地が悪くなるフェルナーに、今日の最後ですと、ベッドに腰をかけて話すように命じる。

 ”これが罰ですか”

 むろん最初は拒否したが、彼女が細く華奢な手のひらで、シルクのピローケースがかけられた枕をばんばん叩き ―― もちろん、可愛らしい範囲内の叩きぶり ―― 座ることを強要したので、フェルナーは仕方なしに腰を下ろす。

 彼女とフェルナーは、ベッドの上でパッションフラワーベースで、ローズヒップとカモミールを少し混ぜたハーブティーを飲み話をしていた。

 

「きっと大丈夫でしょう」

「何位かしら?」

「一位か二位、このどちらかなのは確実ですがね。個人技で競うのなら、一位でしょうが、部隊で競うものですから」

 

 現在キスリング不在の理由は、彼が順位が付けられる軍事演習に参加しているためである。大佐として部下を率い、過酷な環境の中、与えられた任務を遂行する。その時間や完成度を教官が査定し評価し、最後に順位が発表される。

 この演習に参加している時点で、一流の指揮官であることは認められているも同然。その中で順位を競わせる。

 キスリングは個人技では抜きん出ているのだが、この演習は個ではなく隊が評価されるもの。キスリング以外の大佐は、三、四年はその地位に就いており慣れている。対するキスリングは、大佐に昇進して半年も満たない。彼の指揮に完全についてくることができる部下を育てるには、少々時間が足りなく、そのため、一位か二位のどちらかではないかとフェルナーは考えた。

 

「そうですか。何位でも隊員が、全員無事なら」

「そうですねえ」

 

 彼女と共に白に金で模様が描かれているカップでハーブティーを飲んでいるフェルナーは、含みもなく、彼らしからぬ穏やかな表情で同調するが、

 ”姫さま、それは無理です。既に三名、衛生部隊に回収されてます”

 そいつは無理ですと内心で呟く。

 彼女は演習がどのようなものか、当然はっきりとは分からない。何となく、厳しい訓練をしているのだろうくらいは分かるが、その厳しさ彼女の想像の遙か上をゆく。

 食料も水も持たずに、敵地に潜入し、敵から食料を奪い、弾薬を奪い、帰還に必要な足をも奪い ―― 同時に任務をも遂行する。

 環境は厳しく(オーディンではない惑星で行われている)実弾を使った砲撃もあり、気を緩める時間もなければ、眠れるような時間もほとんどない。

 死者が出るのは当たり前、部隊の半数近くが発狂するのもよくあること。

 演習が終わった際には、生き延びたことに感謝するより前に、精神の高ぶりを収めるために女の肌を欲する。割と荒れた男になれている娼婦も、料金をはずんでくれないと、相手をしたくないというくらいに。

 

「失礼します」

 

 そんな話をしていると、ファーレンハイトが帰宅し ―― 彼女がまだ起きていると聞いたので、挨拶に出向いた。

 

「ただいま戻りました」

「あら、ファーレンハイト。ご苦労でした」

 

 彼らとしては早くお休み下さいと言いたいものの、時間は二十三時少し前。健康な成人女性に眠るのを促すには早い。

 ちなみにベッドに腰をかけているフェルナーには、冷たい視線を向け、向けられた方は、フェルナーらしく気にしない素振り。

 

「……」

 

 ファーレンハイトを見た彼女は、あることを思いつく。

 ”あ、ジークリンデさま、なにか思いつかれた。なんだ?”とフェルナー。

 ”良いこと思いついた時のご表情だが、ジークリンデさまの良いことはなあ”とファーレンハイト。

 当然この寝室にいる二人は、彼女の表情に気付き、なにを言われるのだろうかと、笑顔の彼女が、あどけなさの残る唇で楽しげに語る提案に耳を傾ける。

 

「キスリングの労をねぎらいに、その軍事惑星まで行きたいわ。改装が終わったパーツィバルで!」

 

 ファーレンハイトとフェルナーは目配せをし、彼女に向き直り、

 

「畏まりました」

「明日の昼の出発で調整いたします」

 

 その程度ならば問題はない、むしろ改装部分を試していただけるので ―― 演習終了後の荒み殺伐としているキスリングの感情などは、彼らが考慮することはない。

 

 パーツィバルの改装 ―― 彼女は自らの旗艦に搭乗し、演習を見学したいと希望し、彼らはそれを叶えるべく準備に取りかかった。その一つが、改装である。

 帝国は前線に女性は出ない。当然、軍艦には女性に必要な設備は一つもない。

 またパーツィバルは門閥貴族用に造られた艦でもないため、住居機能がさほど良くなく、彼女をそのまま乗せるわけにはいかないと、ファーレンハイトは彼自ら、同盟の捕虜の女性兵士を呼び出し、軍艦での不自由さや、あって良かった設備、用意しておくべき薬品や、安全面において考慮すべきことなどを、事細かに聞き取り調査し、それらの中から必要だと思えるものを厳選し、パーツィバルに加えた。

 また同盟の女性兵士たちは欲しなかったが、彼女には必要だと思える設備「浴槽と広いバスルーム」も、当然追加している。

 それらの改装が終わり、あとは演習 ―― 誰が彼女に付き従うのかが決まらず、もうしばらく時間が掛かる。

 

 なんにせよ、オーディンから一日足らずの距離にある惑星は、改装したパーツィバルの乗り心地を彼女に体験してもらうには、ほどよい所に位置していた。

 

「ジークリンデさまが、不自由していないかどうか見極めろ」

 

 彼女の性格からして、艦で多少の不自由があろうとも我慢することは予測できるので、ファーレンハイトはフェルナーに注意するように言うも、

 

「言われなくても」

 

 任せてくださいと、最後までは言わなかったが、それを語るようにフェルナーは口の端を上げて笑う。

 彼らは準備があるのでと、リュッケを呼びだし警護を任せ、彼女の寝室を辞し、明日の準備に取りかかっていた。

 

**********

 

 旧グリンメルスハウゼン邸 ―― 現在は彼女の持ち物であり、彼女はグリンメルスハウゼンの爵位を継いでいないので、正式にはヴォイルシュ伯爵邸なのだが、長年グリンメルスハウゼン子爵邸と呼ばれてきていたので、簡単には名称は変わらず。彼女自身、さほど名称にこだわらないので、好きなように呼ばせていた。

 

「女性兵士を呼び出しました」

 

 シェーンコップたちとバグダッシュは、一時期別々に管理されており、その間に何か変わったことはなかったのかと。シェーンコップが尋ねると、バグダッシュはファーレンハイトのホログラフ映像を軽く指先で叩きながら”ありました”と答えた。

 

「理由は?」

「遠征中、どのようなことに不自由を感じるかについて聞かれたそうです」

「……妃殿下のためにか?」

「さすが准将、話が早い」

 

 バグダッシュはそう軽口を叩いてから、女性兵士たちが話していた情報を纏めて、話し始めた。

 女性捕虜たちに、呼び出しがあった。

 最初は女性限定だったのだが、男性の士官が身を案じ ―― 捕虜の虐待はいつの世にも有ること。その上、女性のみを連れてくるように言われれば、あまり良いことが有るとは思えず、男性士官の付き添いを希望したところ、あっさりと許可が下りた。

 

「この時点で、かなり驚いたようです」

「まあ、そうだろうな」

 

 集められた女性兵士たちは、ファーレンハイトの旗艦アースグリムへ。

 そこで待っていたのは、元帥のファーレンハイトと通訳に招いた人数と同じ数の兵士。

 室内には多種多様な菓子と紅茶。宇宙共通、何処でも聞かれているクラシック音楽が、会話を邪魔しない音量で流されていた。

 

「男性には椅子はなく、女性だけが着席させられ、ファーレンハイト元帥が同盟語で軽く自己紹介したあと”あとは帝国語で話させてもらう。俺の言葉が分からなければ通訳に聞け。俺は同盟語は分かるので、答えは同盟語でもいい”そう言い、帝国語で質問し始めたそうです」

 

 同盟の戦艦の内部映像を出し、女性兵士たちに、使いづらいところはないかなどを聞き ――

 

「同行していた男性士官いわく、元帥は格好良かったそうです。仕草も貴族風で……って、貴族ですからな」

 

 ファーレンハイト当人に言えば、口の端を微かに上げる程度で流してしまうことだろう。彼は自分を卑下する性格ではないが、自身が持つ貴族の風格などに関しては、誰よりも評価が低い。

 

「割と冷たい喋り方だったんだろうな」

「それはそれは、あの見た目そのものの、話し方だったそうですが、それがいかにも帝国貴族らしく、女性たちには評判が高かったです。それこそ、捕虜の同僚が嫉妬するくらいには。何より聞かれた内容が、女性兵士が前線に赴く際に、できる限りストレスを感じないようにするには、なにが必要なのか? このような設備はあったら嬉しいものか? など。まさか帝国元帥が、そんなことを聞いてくるなどとは思ってもいなかったので、衝撃を受けたそうです」

「そうだろうな」

「帝国軍の元帥、それも三長官の一人が聞いてきたということは、これは帝国の転換期なのかと、捕虜たちの間でもかなり話題になりました。小官はこの辺りで、准将からお呼びがかかり収容所から出され、しばし尋問を受けることになり、あとの様子は分かりませんが。それほど劇的に変わるものなのでしょうかね?」

「妃殿下の行動一つで、帝国が大きく変わる。ところでバグダッシュ、妃殿下は旗艦をお持ちなのか?」

「お持ちですよ。現夫から新造艦を贈られています。あの怖ろしい夫のブリュンヒルトによく似た新型戦艦で、艦名はパーツィバル」

 

 ラインハルトの旗艦であるブリュンヒルト。

 帝国にあっては白く美しく、主たるラインハルトと、その常勝の名にふさわしい機体 ―― だが、同盟軍側からすれば、それは同盟の敗北を司る、溢れんばかりの死を満たした器である。

 

「……隊長。小官はよく分からないのですが、女性に戦艦を贈るのはありなんですか?」

 

 女性に対する贈り物が戦艦? 一個の贈り物としては最高額だろうが……あまり女性に贈り物をしたことがないブルームハルトが、それはどうなのですかと、色事に長けているシェーンコップに、やや困惑気味に尋ねた。

 

「さあな。新造戦艦を贈る坊やも、贈られて維持できる妃殿下も、俺には想像の範疇外だ」

 

 さすがのシェーンコップも、これに関しては善し悪しの付けようはなかった。なにせ過去に新造戦艦をもらったという女に会ったこともなければ、くれてやったという男にも会ったことはない。

 

「オラニエンブルク大公妃とエッシェンバッハ公の仲はどうなのだ?」

 

 ”美男美女”という言葉では言い表せない、神もかくやといった夫婦 ―― だが、別姓の上に別居中。尚書としては、対立はしていないが、夫に唯々諾々と従うわけでもない。それらの情報を前にしてリンツは、二人の関係が気になった。

 

「残念ながら、そこはよく分かりません」

 

 様々なことを調べたバグダッシュだが、彼女の身辺については、部下や侍女たちの口の硬さから調査が行えず ―― 彼の手元には、噂込みの話ばかりが集まっていた。

 

「分からない?」

「帝国人、それも門閥貴族の考え方が分からないので、小官には何とも言えませんが、このエッシェンバッハ公、同盟でやったら、即離婚されそうなことを、ことごとくしています。ここまで新婚で地雷踏むやつは珍しい。あの戦場での華麗な指揮とは、真逆と言っていいでしょう」

 

 私人としてのラインハルトについて、知る同盟人はほとんどいない。

 

「なにをしたんだ?」

「この二人、結婚した理由が酷いんです」

「政略結婚というやつか?」

 

 リンツの言葉はもっともだが、彼女とラインハルトの結婚の経緯は、彼らが想像する政略結婚とはまるで違った。

 

「政略結婚と言いますか……エッシェンバッハ公が同性愛者だという噂が立ち、このままでは彼が失脚する恐れがあるのでと、夫に先立たれてまだ一年も経っていなかった大公妃があてがわれました」

 

 同盟は反ルドルフ体制。彼が否定したことは、全て許す ―― 故に、同性愛者を迫害する法律はないし。ただし、まったく差別がないとは言えないのも事実。

 

「夫の仇を討ちに行くほどだ。妃殿下ご自身は、未亡人として余生を送りたかったことだろうな」

 

 シェーンコップは寡婦を推奨するような性格ではないが、他人の気持ちが分からぬ男でもない。むろん、彼女のことなど知らないに等しい立場だが、そんな彼ですら、彼女はそういう人物だろうと思わせるものがあった。

 

「ええまあ。ですが、皇帝からの勅命でしたので、断るわけにもいかず、ご結婚なさいました。これは、故リヒテンラーデ公が絡んでいたとか」

「どのような形で?」

「リヒテンラーデ公は固有の武力を持ちません……固有の武力ってのが、小官なんぞにはちょっと分かりかねますが、門閥貴族は個人で武力を所有する者もいるそうで。だがリヒテンラーデ公は武力を所持せす、武力を持っている者と婚姻を結び、間接的に武力を所持する方法をとっていたとのこと。当然武力を所持している貴族との結びつきは重要ですので、一族でもっとも美しく賢い娘である大公妃を、強大な武力を持つ一門に嫁がせた。それが前夫のフレーゲル男爵。彼の死後、失われた武力を再び得る方法を考えた時、年の頃も同じで、皇帝の覚えもよく、軍事的才能に優れているエッシェンバッハ公を選んでもおかしくはない……どころか、公一択だったでしょう。裏は取れてはいませんし、もう取りようもありませんが、世間的にはそのように見えたそうです」

 

 表面上の結婚理由はともかく、裏の絵に描いたような政略結婚ぶりに、リンツは露骨に眉を顰める。彼の表情の変化には気付いたが、バグダッシュは話を彼女とラインハルトの新婚生活へ。

 

「結婚を命じた皇帝ですが、命じてからすぐ死に、エッシェンバッハ公の姉君は自由の身になりました。姉君が後宮に十年ほどいた間に、父親は病死。母親は収められる前に事故死しており、実家はすでにありません」

「まさか、新婚の弟の家に?」

 

 既婚の姉がいるリンツは、その状況により発生する問題が、容易に想像できた。

 

「そのまさかです、リンツ少佐。姉君は金がないわけでも、健康を害しているわけでもないので、一人暮らしも可能だったでしょうに。でもこの辺りは、大公妃はお優しいので受け入れてくださったでしょうが、何故かこの家に、同性愛者の噂の元凶となった副官まで一緒に住みだしたのです。この副官は、最近姉君の養子となり、大公妃の甥になりました」

 

 何がなんだかさっぱり分からない ―― ブルームハルトの呟きは、切実であった。

 

「バグダッシュ、一つ聞いておこう。エッシェンバッハ公は、そっちなのか? それともどちらも行けるのか?」

 

 他人の趣味などどうでもいいシェーンコップ、彼自身、こんなことを聞く日がくるとは ―― 

 

「いいえ。どちらかと言えば、同性にも異性にも興味がなかったタイプで、現在は大公妃一筋のようです」

「そうか……だが、妃殿下一筋ならば、仲は悪くはないのでは」

 

 バグダッシュは困り果てたようは表情で、首を振り、肩をすくめて、シェーンコップの言葉を否定する。

 

「大公妃、もてるんですよ。准将も霞むくらいにもてます。皆が挙って欲しがり、とにかく離婚させようとしているんです」

「俺なぞ比べ物にならんだろう……それで、御本人の気持ちは?」

「大公妃のお気持ちはまったく分かりません。周囲は離婚を待ち望んでいるようですが」

「離婚したところで、妃殿下がそいつらのものになる訳でもなかろうに」

「そこはまあ、ほら。准将。男として、気持ちとしては分かるでしょう?」

 

 シェーンコップは頷きはしなかったが、リンツとブルームハルトはバグダッシュの意見に完全に同意し頷いていた。

 

**********

 

 彼女がファーレンハイトとフェルナーを連れて、自分のもとを目指しているなど知らないキスリングは、演習が終わり、帰還までの間、ご多分に漏れず女を買い、酒を飲み最悪な時間を過ごしていた。

 贅肉などついていなかった体は更に絞られ、顔は人相が変わるほど肉がそげ落ち ―― 人間性が勝り、精悍な表情に踏みとどまっているが、表情は酷いものであった。

 まだベッドに横になっている女と、戦場帰りの空気が抜けず、椅子に座って酒を飲むも眠れないでいるキスリング。

 重苦しい空気の中、インターフォンが鳴る。

 

「……」

 

 返事をする気になれなかったキスリングは放置していたのだが、インターフォンを鳴らした部下 ―― 声が聞こえたので、部下だとは分かった ―― が、まるで気が狂ったかのように扉を叩く。

 それでも無視し、女は身を起こしてキスリングを見る。ベッド脇の小さなナイトテーブルには、普段連絡に使われる端末が、電源を落とした状態で置かれている。

 精神的にも肉体的にも追い詰められた演習の後は、誰とも喋りたくないという者も多く、電源を切ってしまう者も多い。緊急の場合は放送で呼びだされるので、問題はなかった。

 

「……」

 

 ドアのノックは収まり、キスリングは再び瓶ごとアルコール度数が七十パーセントを超えている酒をあおる。

 

「たいちょーぉ!!」

「たいちょうぅ!」

「たいちょー!」

 

 静かな空間だったのだが、先ほどキスリングを呼びに来た部下が、同僚を引き連れもどってきた。それも武装して。

 彼らは「隊長! 隊長!」叫びながら、ドアにトマホークを叩きつけ、ホラー映画よろしくドアを破る。

 キスリングは手に持っていた瓶を割り、押し入ってきた部下に割れた面を向ける。ベッドで気怠げにしていた女は、急いで服を着込む。

 

「隊長大変です!」

 

 扉を破壊した部下たちは、今にも人を殺しそうな目つきのキスリングを完全に無視し、

 

「大変です、隊長」

「早く準備を!」

「あと二十分で到着なされます」

「隊長早く!」

 

 口々に叫び出す。

 酔ってなどいないキスリングだが、彼らの意味をなさない大声を聞き頭が痛くなってきた。だがその痛みが一瞬で霧散する。

 

「パーツィバルがここに来ます」

「あと二十分で入港です」

「ローエングラム大公妃殿下が、試し乗りなさって、ここに立ち寄られるそうです」

 

 キスリングは握っていた割れた透明な酒瓶を床にたたき付け、服を着終えた女に向き直り、大股でベッド脇のテーブルに近づき、端末に電源を入れて、金額を入力する。

 

「金はこれで足りるか?」

 

 金を渡して帰れと。女としても言われなくても、帰らせてもらいたいシチュエーションである。

 女は渡された金を見てその額の多さに驚くも ―― これは今の出来事も、この大佐と寝たことも口外するなということなのだと理解し、その額を振り込んでもらい、確認してからトマホークを持っている兵士たちの間を抜けて去っていった。

 


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