黒絹の皇妃   作:朱緒

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第181話

 元帥就任拒否を表すため、足をばたつかせた結果、どうなったかと言えば、

 

―― なんか、眩しい……

 

 いつもより強い朝日を肌で感じ、彼女はゆっくりと目を覚ました。

 天蓋の一面が開いており、そこから眩い朝日が差し込んでいるのが分かった。

 体を横にして、開いている側のほうを向くと、直立不動の姿勢でファーレンハイトが立っているのが目に入る。

 

「……おはよう」

 

 一睡もしていないファーレンハイトだが、ぼんやりしたところもなければ、欠伸をする気配もなく、普段とまったく変わらず。

 一晩寝られなかった程度で音を上げていては前線指揮官は務まらないが、あまりにも整然としており、昨晩ぐだぐだ言いながら、気付けばぐっすりと眠ってしまった自分に、なんとも決まりが悪くなる。

 

―― 一晩中、様子を見ていたんですね

 

 昨晩報告を受けてから寝るまでの、自分の狂乱ぶりを思い出し ―― 枕に顔を埋めて、足をばたつかせていただけだが ―― 彼らが自傷などを心配して、夜通し付き添っていたとしても不思議ではないと。

 

「おはようございます」

 

 彼女が起きたと連絡を受けたフェルナーは、焼きたてのプリンとホットコーヒーを持って、寝室へとやってきた。

 ファーレンハイトは無言で彼女を見るように促す。

 

「相変わらず、お可愛らしいことで」

 

 その時彼女は、精神が地の底まで落ち込んでいたときにしでかした、自傷行為じみたことをしていたことを思い出し、恥ずかしさのあまり、ベッドの上で右に左に転がっていた。

 

「まあな」

 

 勢いよく転がっているのではなく、半回転する度に止まる程度のゆっくりとしたもの。

 

「……」

「……」

 

 二人はしばらく彼女の動きを見て、

 

「今日はお休みということで」

「身支度を調えるついでに、パウルに連絡を入れてくる」

 

 きっと疲れているのだろうと、彼女を休ませることにした。

 

―― まさかベッドの上で転がっていただけで、心配されてしまうとは

 

 フェルナーがやってきたことに遅れて気付き、差し出された焼きたてのプリンを食べ、クリームを入れたコーヒーを飲み、さて準備でも……となったところで”勝手ながら休みを取りました”言われた彼女は、昨晩の奇行に引き続き、今朝の奇行も反省した。

 

―― 天蓋がしっかりと閉じられている時だけにします

 

 反省したが、二度としないわけでない。

 

 予期せぬ休みだったが、せっかくの休みならば、リフレッシュに使おうと、朝からピアノを弾くので用意するようフェルナーに伝えた。

 

「今日は練習着ではなく、舞台用のを着て練習したいわ」

「私が選んでもいいのでしょうか? それとも、ジークリンデさまがお選びに?」

「そうね……」

 

 まったりとドレスをどうしようか、アクセサリー類はなにが似合うかなどを話し合っていると、準備を終えた、ファーレンハイトが出仕前に彼女に挨拶をするために戻ってきた。

 そこで彼女は元帥位の保留と、もう一つを言いつける。

 

「ファーレンハイトだけではありませんが、付き添う場合はソファーでも用意して座りながらにしなさい」

 

 自分を夜通し見張る場合は、ソファーに横になり、好きな本でも読んでいなさいと。

 もうおかしな行動は取らないので、それほど心配する必要などない ―― 言ったところで信用してもらえないのは分かっているので、身を以て証明するしかなかった。

 

「当主の寝所に、そのようなものを持ち込むわけには参りません」

 

 命じられた側は、それは困ると返す。

 当人たちの真面目な気質は失われていないので、習慣やしきたりなどを無視するような真似は簡単にはしない。

 

 だが彼女に重ねて頼まれれば、拒否することもできず。

 

「ご命令とあらば」

「命令です」

 

 こうして彼女が休んでいる間、見張る場合には寝室に椅子が持ち込まれることになったのだが ――

 

 ”特注の椅子”が彼女の寝室にやってくるのは、もうしばらくしてから。

 

「どれを弾きましょう」

 

 彼女はサーモンピンク地に白系統の花柄のプリントが施された生地の、タッキングスカートのドレスを選び、身支度を整えてから、邸内のホールに一人きりになり、用意されていた楽譜をいくつもテーブルに広げ、ページをめくる。

 曲目が決まったところで、彼女は手袋を外した。

 昨晩塗り直したゴールドのマニキュアが塗られた指と、白い手が露わになる。

 

「……あ」

 

 まじまじと自分の手のひらを見た彼女は、思わず声を漏らした。

 

「生命線、短いわ。生命線なんて言っても、誰にも通じませんけれど」

 

 毎日見ているので分かっていたことだが、自分の生命線の短さに思わず苦笑する。

 

―― 私も早死にするのかしらね。それは、それで構いませんけれど……

 

「悪い占いは信じないべきよね。大体私、手相の勉強したわけでもないし。あれ、これ頭脳線……やだ、短……」

 

 彼女は楽譜を持ち、ピアノが置かれている舞台へと向かった。

 彼女の言う通り、手相が当たるかどうかは不明だが、彼女の場合はある程度的中していた。彼女は二十二歳でこの世界を去ることになる。

 

**********

 

 彼女の元帥就任問題だが、無事に阻止することができた。

 最初はオーベルシュタインに動いてもらおうかと考えた彼女だが、リヒテンラーデ公がいなくなったのだから、いつまでも他人任せにばかりしていてはいけないと考えを改めた。

 そこで自分の考えをまとめ、オーベルシュタインに、このように説明して周囲を納得させたいのだが、おかしなところはないだろうかと添削を依頼した。

 書類に目を通したオーベルシュタインから問題はないとされると、各人を呼び説得し、上級大将を落としどころにして決着をつけた。

 

 説明そのものは単純で、彼女はあくまでも中継ぎであり、カザリンに子供ができたら、その座を退くこと前提で後継者となっているのだから、皇太子と同じ扱いをするべきではない。

 後継者は皇太子よりも少し低い地位であるべきだ、争いを避けるつもりがあるのならばと、そうしなくてはならないと。

 

 双方が妥協し、彼女は元帥ではなく大元帥代行上級大将に就任することとなった。

 当初の大将よりは階級は上だが、元帥ではなかったので、彼女としては満足であった。ごちゃごちゃ言っても、どうしようもないという諦めの気持ちが大きいのも事実だが。

 

 彼女は自分の階級が上がった際には、直属の部下である侍従武官たちの階級も上げるよう、ファーレンハイトに指示していたので、こちらも彼女の昇進にあわせて、全員一階級昇進した。

 ただ一人だけ、侍従武官ではないのだが、この時期に、何もしていないのに昇進した人物がいる。

 

「なんで私が中将になるんですか?」

 

 アントン・フェルナーである。

 自分が仕事をしていないとは思わないが、出世するほどのことをしたかと問われれば答えは否定しかない。

 

「お前が平民だからだ」

 

 書面上は彼女の命により昇進したことになっているが、彼女が人事に一切関わっていないことは、フェルナーは誰よりも知っている。

 

「平民の地位は普通、余程のことをしても上がりませんよ、ファーレンハイト」

「まあな。平民で三十で中将。前線指揮官ならまだしも、後方で事務仕事をしているだけだからな」

 

 彼女の代わりに手続きを命じたファーレンハイトが元凶だろうと ―― この昇進の真意を言えと詰め寄っていた。

 

「で、なんで私を昇進させたんですか?」

「言っただろう。お前が平民だからだ」

 

 執務机を挟んで身を乗り出しフェルナーが吠えている最中、従卒が水が入ったコップを二つ、執務机前方の応接テーブルに置き、一礼して立ち去る。

 

「私が平民なのは、今に始まったことではありませんが」

「ジークリンデさまは大公妃となられたことで、社交界に顔を出す機会が増える」

「そうですね。今までも、かなり頻繁でしたが」

「門閥貴族が開催するパーティーは、門閥貴族か中将以上の将校以外、会場入りできんだろう」

「貴方やシュトライトが対処すれば宜しのでは?」

「俺は若干階級が上がりすぎた。以前ならば、俺にはなんの権力もなかったが、元帥ともなると俺自身にもな」

 

 完全にフレーゲル男爵夫妻の部下だった頃は、ファーレンハイトに何かを頼んでくるような輩はいなかったが、彼自身が元帥の地位についたことで、彼の権力に人がまとわりついてくるようになった。

 

「その程度、処理できない貴方ではないでしょうが」

「まあな。だが厄介なのも事実だ。だが俺はまだいい。上流階級に知り合いはいないからな」

 

 鬱陶しいものの、ラインハルトと同じく、上流階級に縁故のいないファーレンハイトはまだ良い方であった。

 元ブラウンシュヴァイク公の部下で、上流貴族の傍系筋にあたるシュトライトは、直属の上司が彼女ということもあり、縁故を頼った口利きをあちらこちらから頼まれ、それを拒否するのに追われる始末。

 

「今回昇進したことで、ますますパーティー会場で縁故が群がってくることだろう」

「それで、ジークリンデさまの従者をしている暇がないと」

「正確には、ジークリンデさまの従者をしていると、縁故が近づいててくる。その際に戯れ言じみた言動が、ジークリンデさまのお耳に入ってしまうことを懸念している」

「……なるほど」

「その点フェルナー家は、帝国建国まで遡っても平民だからな。縁故頼みの門閥貴族はそれだけで弾かれる」

 

 おまけに階級も、決して低いものではないのだが、平民の中将では、落ちこぼれた貴族が望むような便宜を払うことはできない。―― してもらえるかどうかは、また別の話だが。

 

「まあ、それなら仕方ありません。キスリングが育つまで、孤高の平民として頑張ります」

「そこはシュトライトに頑張ってもらおう」

 

 門閥貴族の決まり事などを、彼らに教えたのはシュトライト。彼は現在、キスリングに貴族社会の細かなことを教えていた。

 

「では、人事局で手続きをしてきます」

「待て、フェルナー。そんなことよりも、重要な話がある」

 

 執務机を挟んで話をしていた二人だが、水が置かれている応接ソファーに移動した。

 

「この元帥府には、コーヒーを出すという選択肢はないんですか」

 

 飾り気のない円柱タイプのコップを掴み、フェルナーは水を飲む。

 

「客には出すが、お前にコーヒーを出してどうする」

「まあいいや。それで、重要な話とは?」

「ジークリンデさまが、大元帥代行の座に就くからには、軍事を習うと言い出してな。形だけで良いそうだが、高級将校と同じことをするのだと強く希望されている」

 

 コップを口元から離し、情けないという表現が相応しい表情で、

 

「止めるべきでしょうが」

 

 ”無理だ”とは分かっていながら、ファーレンハイトに文句を言った。

 

「大元帥代行就任との交換条件だった」

「……」

「話し合いが終わってから、説得してみたのだが、ジークリンデさまは女帝の軍事教育のための道筋をつけるおつもりなのだそうだ」

 

 男子皇族ならば、問題なく軍人教育が施されるのだが、女性皇族にはそのような決まりはない。女帝が立つことがなかったので、今まではそれでも良かったのだが、カザリンが即位し従来の慣習だけではどうにもならなくなった。

 尚書就任前の彼女は、出過ぎた真似はしないようにしていたが、今や宮内省書となり、皇帝の教育を率先して行う立場であり、責任を負う者となったので、カザリンの将来を広げるためにも、軍事を学ばせることにしたのだが、女性皇族に対する手本がないので ―― ならば彼女が試行錯誤し、それを元に教育方法を確立させようと考えたのだ。

 

「私たちが何か言ったところで、どうにもなりませんが……本当にそれだけの理由で?」

「どうも、他にも理由があるらしいが、それは後で教えてくださるそうだ。あまり人に聞かせたくはない理由もあるそうだ」

 

 ファーレンハイトは応接セットに移動する際に持ってきた、端末をフェルナーに手渡す。

 

「そうですか」

 

 それを受け取ったフェルナーは画面を立ち上げた。

 映し出されたのは顔写真付きの幼年学校の名簿。

 

「私にジークリンデさまの従卒を選べと」

 

 ここまでの流れで、この名簿を渡されたら、することは一つ。

 

「ああ」

「ちなみにあなたは何を?」

「搭乗員の選別。演習も教育に組み込むよう指示された」

「……ああ、ジークリンデさま、戦艦お持ちでしたね。すっかり忘れてました。パーツィバルでしたっけ?」

「そうだ」

 

 フェルナーは名簿を眺めながら、自分がこの年齢だった頃のことを思い出し、同意を求める。

 

「ファーレンハイト。あなた十四、五歳頃、七歳くらい年上の異性に興味持ちませんでしたか? 姉に虐げられていた私でも、年上の綺麗な女性には興味を引かれたものです」

「大いにあった。俺は年上の女性が好きだった」

 

 従卒候補の少年たちの年齢の頃、自分たちが異性に対してどのような状況だったのかを当てはめると、誰も選びたくはなくなる。

 画面をスクロールさせながら、

 

「ちょっと綺麗な女性でも、胸がざわついたものですがね」

「お前にも、そんな時代があったのか、フェルナー」

「あったんですよ。姉のせいで、女性に対して夢も希望もありませんでしたが、性欲だけは一人前に……ジークリンデさまですよ。十四、五の男子学生には、刺激以外の何者でもありませんよ」

 

 健全な青少年に耐えられるものではないと。

 

「”あなたから見れば十一年下ですが、私は彼らからすると、七つも年上なのですよ。若い男の子の興味の範囲外に決まっているでしょう”……ジークリンデさまのお言葉だ」

 

 だがジークリンデにしてみれば、七つも年下の少年など、自分に興味を持つはずもないと、安心しきっていた。

 

「相変わらず、男心が分からないお方ですね」

「男心が分からんというより、自分が人を、特に男を惹きつける魅力があることに、無頓着だからな」

「宇宙の男は全て私にひれ伏すと思われていたところで、自意識過剰でもなんでもない、ただの事実なのですがね」

「そうだな。まあ、ジークリンデさまのことについて話していても仕方がない。その中でマシなのを選び、手続きを整えてくれ。あと監視も忘れるな」

「分かりました。なにかしでかしたら、即刻銃殺でいいんですね?」

「構わん。貴族の子弟であろうが、容赦は無用」

「最初からするつもりはありませんが。あ、ゼッレ医師の息子がいます。エミール・フォン・ゼッレ」

 

 キルヒアイスが生きていることで、ラインハルトは従卒を側におこうとはせず、エミールは誰の従卒も務めてはいなかった ―― そして、彼女の元に配置されることになる。

 

**********

 

 彼女の昇進に伴い、晴れて大尉となったリュッケは、

 

―― 技に磨きがかかっている上に、新技まで!

 

 今日も新無憂宮の南苑の奥で、帝国でもっとも高貴なお方の三輪車を押していた。

 ある日押していた三輪車を引っ張ったところ、カザリンがいつもとは違う動きにたいそう喜び ―― 帝国職業軍人の多くはそうだが、根が真面目なリュッケは、前方に押すだけではなく、変わった走らせ方もしたほうが良いのではないか? 安全面に気をつけるので許可して欲しいと、彼女に申し出た。

 ただ押すだけでは、リュッケもつまらないのだろうと思った彼女は許可を与える。

 

「あの若い子、ほんと、いろんな技を覚えてくるわよね」

「ええ、そうね、カタリナ」

 

 彼女とカタリナは椅子に座り、ウィリー走行中のカザリンを見守る。

 三輪車の前輪を少しだけ上げて疾走するウィリー走行から、後輪一つだけの片輪走行。そしてついに今日はスピンまで(ただし低速)

 自腹で三輪車とダミーを購入し、自主トレーニングを続け、その成果をカザリンに献上し続けた結果、

 

「りゅ!」

 

 お茶の時間に三輪車脇に立っていたリュッケは、カザリンに呼ばれ、マフィンを一つ手渡された。

 

「三輪車押しの褒美じゃないの」

「良かったわね、リュッケ」

 

 両手で受け取ったリュッケは、カザリンに感謝を述る。

 

「……」

 

 カザリンは途轍もなく偉そうな態度で(実際偉いのだが)頷き ―― こうしてリュッケと皇帝カザリンは和解した。

 

「ところで、あなた。軍服変わったわね。なんになったの? 大佐かなにか?」

 

 彼女が淹れた紅茶を飲んでいたカタリナが、リュッケに階級を尋ねた。

 

「大尉にございます」

「大尉……ふーん。この年で、大尉って昇進速度としてはどうなの? ジークリンデ」

「二十で大尉は、充分速いと言えますよ」

 

 聞かれた彼女は、速いと言ったものの、なにもしていない自分が二十一歳で上級大将になっているのだから、信憑性もなにもあったものではないと、少しばかり苦笑する。

 

「でも、あなたの夫は、二十歳で元帥よね」

「あの人と比べるのはちょっと……」

 

 少尉から約五年で元帥になったラインハルトや、大佐から約一年で上級大将(元帥位は蹴った)とまでなった彼女の前では、

 

「あの、申し訳ございません。小官は二十一でございます」

 

 二十歳の大尉だろうが、二十一歳の大尉だろうが、あまり変わりはない。

 

「あら、いつの間に?」

 

 彼女は部下の誕生日には、祝いの品を贈っている。今年はまだリュッケになにもプレゼントしていないので、誕生日はまだだとばかり思っていたのだが、聞けばリュッケの誕生日は彼女の誕生日の半月後。

 その頃彼女は忙しく、すっかりと忘れた形となっていた。

 

「今更ですけれど、なにか欲しいものある?」

 

 彼女が聞くとリュッケは手にマフィンを持ち跪いたまま、お気持ちだけで充分ですと、身分と階級に合った返事をした。

 

「せっかくジークリンデが言ってるんだから、キスの一つでもしてもらえば? 頬くらいなら、いいでしょう」

「私は構いはしませんけれど、それはかなり好き嫌いが分かれるかと」

 

―― 好きでもない女にキスされて、喜ぶような性格には思えませんけれど

 

「そんな、恐れ多い! ですが、許していただけるのでした、手を繋いでこの庭を一緒に歩いていただけましたら!」

 

 本当にそんなことでいいのかと、彼女は怪訝に思ったが、それで良いと言うので、あまり押しつけてもいけないと、その望みを叶えることにした。

 

「恋人つなぎくらい、してあげたら」

 

 カタリナにそう言われ、散歩のために急いでマフィンを食べているリュッケも、それに関してはまんざらではないようなので、手袋を嵌めたままだが、指を絡めて握り合い歩いた。

 本当に歩くだけで、会話などもなく。

 

―― なんか、異常に緊張しているみたいですけれど……大丈夫なのかしら

 

 本当にこんなことで良いのかと不安になりつつも、庭を一周した。

 手が離れてからリュッケは喜ぶ。

 それを見ていたカザリンが、彼女の小指と薬指を小さな手で掴み”きさまには、負けん”とばかりに、彼女を連れて散歩を開始した。

 

「陛下、どちらへ」

「あっちー」

 

 大尉と皇帝、和解は成立したが、彼女を巡ってのライバル関係は、いまだ続いている ――

 


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