黒絹の皇妃   作:朱緒

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第152話

「あなた」

「いきなり、なんだ」

 

 強い口調でオルタンスに声をかけられたキャゼルヌはだが「なんとなく」予感はしていた。

 話題はなにかは分からないが、面倒なことを言われるのは、すぐに分かった。

 

「いつまで公爵夫人を欺すのに、荷担しているの」

 

 オルタンスはグラスに氷を入れ、酒を注いで差し出す。そのグラスを受け取り一口含んでから、キャゼルヌは答えた。

 

「いつまでって、おまえ……そりゃあ……」

 

 ”俺に聞くなよ”と思うが、彼女を欺すのに協力してる手前、何も知らないでは済ませられない。

 彼女が会いたいというまで会わせない ―― これは同意したものの、まさか彼女が会いたいと言わないように、ラインハルトがまだ戦っていると思わせるとは、キャゼルヌは考えてもみなかった。

 

「真実を告げないのは、周りの人たちにとっては楽でしょうけれど、公爵夫人にとっては苦しいことですよ」

「苦労しているんだが」

 

 楽をしていると言われたことに対し、少しばかり抗弁するも、オルタンスは聞き入れず、料理を並べる。

 

「あなた方の苦労と、公爵夫人の苦しみは比較できるものではありませんよ」

 

 料理を並べ終えたオルタンスがキャゼルヌの隣に腰を下ろして、言いたい放題とキャゼルヌが言いたくなるくらい、散々に責められた。

 だがキャゼルヌは自分たちが楽をしていると言われたことが、棘となり引っかかり、それがキャゼルヌをとある場所へと向かわせた。

 

「私はジークリンデへのプレゼントが欲しくて、行商を呼んだつもりだったんだけど」

「申し訳ございません、ノイエ=シュタウフェン公爵夫人」

 

 美しい栗毛を無造作にまとめ、紫のアイシャドウが飾る大きな瞳で、キャゼルヌを睨みつける。

 神経の太さには定評のあるキャゼルヌだが、素肌にシルクのバスローブを羽織っただけで、胸元や形の良い足がのぞく美女の前で話すのは、緊張ではなく”苦手”であった。

 相手が帝国では強権を所持する門閥貴族で、没落していないどころか、皇帝を抱えて好き勝手できる立場にいる女性相手に、緊張しないだけでも立派だが ―― とにかく苦手であった。怖くないのと苦手とは別物。

 だが苦手であろうが、訪問理由を説明しなくてはならない。

 カタリナはキャゼルヌの説明を聞き、

 

「あいつらのことだから、打ち明けるつもりなんて、微塵もなさそうよね」

 

 相変わらずの彼女を衰弱死させかねない過保護ぶりに、彼らを鼻で笑う。

 

「はい。方法を聞いた覚えはありません」

 

 キャゼルヌが想像しうる門閥貴族そのものの態度を取るカタリナだが ―― 不快感はなかった。苦手ではあるが。

 

「ふーん」

 

 カタリナは指を組み、キャゼルヌをしばし見つめてから、

 

「騒ぎを大きくしてみるわ。あなたは黙ってみてなさい」

 

 そう言い彼を帰した。

 カタリナに相談してよかったのかどうか? 元ヘルクスハイマー伯爵邸、現ノイエ=シュタウフェン公爵邸の裏口から出たキャゼルヌは悩んだものの、言ってしまったのだから仕方ないとすぐに頭を切り換えて、帰途についた。

 

 キャゼルヌが相談した翌日の午後 ――

 

「なんで呼びだされたか、分かってる?」

 

 侍従武官の仕事を終えた彼女が新無憂宮を退出し、軍人会館のトレーニングルームでキスリングに補助されながら、懸垂に挑戦している頃、カタリナに呼びだされた面々 ―― 誤解の首謀者といっても間違いではないオーベルシュタイン、彼女に絶対の信頼を寄せられている、この作戦には絶対に必要なフェルナー。面会拒否と言われて待機しているラインハルト、その供としてケスラー。

 後は荷担しているシュトライト、シューマッハ、そしてカタリナへの提案者であるキャゼルヌ。

 メルカッツと副官のシュナイダー、シュタインホフに何故かオフレッサーという、あまり一堂に会することのない者たちが、軍務省の一角に集っていた。

 元帥三名とカタリナは席に着き、その他は立ったままの状態。

 その他にも集うことができないほど遠くに居る者たちと通信を繋ぎ、

 

『分からんな、カタリナ。一体、何の用だ?』

「別にあんたは要らないけど、無視したら憐れだろうから混ぜてやっただけよ。黙って聞いてなさい、ロイエンタール」

『……』

 

 画面越しのロイエンタールに、いつも通りの喧嘩まがいの軽い挨拶をする。

 他に画面越しに呼びだされたのは、ビッテンフェルトとファーレンハイト。彼らはロイエンタールとは違い、カタリナの呼び出しに黙っていた ―― 喋ると面倒になることを、よく理解しているので。

 もっともロイエンタールも理解しているのだが、ついつい口をついてしまう。

 ある意味、自業自得とも言えよう。

 

 カタリナは呼びだした面々に向き直り、彼女にいつ頃、どうやってラインハルトが帰還していることを伝えるのかを尋ねた。

 キャゼルヌは後方でいつもながら、部外者顔をして、事態の推移を眺めている。

 するとやはりオーベルシュタインが一歩、前へと出て、はっきりと言い切った。

 

「まったく考えておりません」

「あなたなら、そう言うと思ったわパウル。あなたの正直なところ、大好きよ。でもね、パウル。ジークリンデが疲れてしまうわ。あの子ほら、私と違って優しいから」

 

 ”また同意し辛いことをおっしゃる”

 ファーレンハイトがおかしな笑いを浮かべたのを、彼の横にいる副官のザンデルスは視界に捕らえたが、彼は何も言うことはなかった。

 新無憂宮でカタリナと同じ場にいる者たちも同じ。

 彼らからの完全なるスルーに気を悪くするでもなく、カタリナは話し続ける。

 

「あの子は夫が戦場にいると、不安で神経をすり減らしてしまうから、そろそろ正直に言うべきよ。宇宙艦隊司令長官が死ぬより先に、ジークリンデの心が衰弱死してしまうわ」

 

 現状、彼女はラインハルトではなく、キルヒアイスのことを心配しているのだが ―― たまにキルヒアイスが死ぬシーンを夢で見て、目を覚ましてしまうくらいには心配していた。

 

「そうですね」

「それで、あなた達は事態を収拾する方法を何も考えていないのよね!」

「これから考え……」

 

 彼女にショックを与えないように伝える方法を考えると、言いかけたオーベルシュタインだが、

 

「何も考えていないのよ!」

「御意」

 

 重ねて言われて、これは黙れということだと理解し、意見を引っ込めた。

 

「ノイエ=シュタウフェン公爵夫人には、なにか案がおありか?」

 

 そこまで黙って聞いていたメルカッツが口を開く。

 カタリナは形の良い指を優雅に開き、メルカッツに向かって笑いかけた。

 

「ええ。ファーレンハイト」

『なんでございましょう、カタリナさま』

 

 名を呼ばれたファーレンハイトは内心が漏れるような微笑をたたえて、いつになく穏やかに返事をする。

 ”ファーレンハイト。声かけないで下さいって感情が、こっちまで伝わってきます”

 後で面倒なことになりそうだとフェルナーは思ったが、あの表情も仕方ないなと ――

 

「あなた、元帥になりなさい」

『はい? ……申し訳ございません。一体何をお考えですか』

 

 ファーレンハイトではないが、その場にいる者たちも一様に同じことを考える。

 そんな彼らを無視して、カタリナは自分の考えを語り出した。

 カタリナの考えは簡単で、不可抗力を装うというもの。

 

「あなたが元帥になる。皇帝陛下から元帥杖を授与される。その際の式典、元帥杖を運ぶのが侍従武官長のジークリンデ。式典には三長官も臨席するでしょ。こんな派手な金髪が、最前列にいれば、ジークリンデの目にも嫌でもとまるわ」

 

 元帥杖の授与式ともなれば、三長官も式典には臨む。そうなれば、彼女はあの黒真珠の間の豪華さに引けを取らない、半神めいたラインハルトの姿を見ることになる。

 

『…………はあ、それはそうでしょうが』

 

 他にも対面させる方法はいくらでもあるでしょう ―― とは思えど、では具体策を出せと言われると、彼らは言葉が詰まってしまう。

 

「そこで夫の姿を確認したジークリンデがどうでるか? 元帥就任のパーティーに夫も招待して、そこで話し掛けるも逃げるも自由ってところ。どう?」

 

 そんな彼らとは対照的に、カタリナはそれはすらすらと淀みなく、揺るがぬ自信をたたえて、はっきりと言い切る。

 

『どう……と言われましても。カタリナさま、そもそも元帥の地位には、そんなに簡単に就けるものではありません』

「なに寝ぼけたこと言ってるの、ファーレンハイト。帝国は陛下が「ja」と言えば、どうとでもなるのよ。陛下にはもう許可もらったし」

『……』

「”ジクが喜びますよ”とお伝えしたら「ja!」とのこと。どこに問題があるの?」

 

 どう考えても問題だらけでは? ―― だが全員がそう思ったわけでもない。

 彼らの思惑を余所に、カタリナはファーレンハイトにたたみかける。

 

「コルネリアス一世のように、元帥を量産してるわけでもないし。大体、元帥って軍に五年も在籍すれば、士官学校を卒業していなくても、就ける地位でしょう。あなた十年以上軍に在籍してるんだから、なっても問題ないわ」

 

 五年で元帥とは、説明するまでもなくラインハルトのこと。

 そしてコルネリアス一世とは、かの元帥量産帝のこと。前者ラインハルトは運も味方したが、皇帝の寵姫の弟であったこともあり、通常では考えられないような出世をした。

 後者コルネリアス一世は、知人や友人を元帥に任命しまくった皇帝。

 

『在籍年数ではなく』

「うるさいわね、ファーレンハイト。私はあなたに、元帥になれって言ってるのよ。あなたが選べるのは「ja」か「ja」の二つの内一つだけ。さあ! 好きなほうを選びなさい」

 

 ”Neinがありません、カタリナさま”

 ファーレンハイトが大変だなと、眼前の光景を眺めていたフェルナーだが、この時点では元帥になるなどとは思っていなかった。

 例え皇帝が認めたとしても、さすがに軍の長官、とくに軍務尚書のメルカッツが承認がなければ、そんな無茶は通らないだろうと。

 だが ――

 

「ノイエ=シュタウフェン公爵夫人。お話中のことろ、割って入らせていただきますが」

「なに、メルカッツ元帥」

「陛下はファーレンハイトの昇進を、許可なさっているのですな」

「そうよ」

 

 カタリナに詰め寄られて、許可を出しているペクニッツ公爵の姿が、誰にも簡単に想像できるというもの。

 

「さようですか。ならば小官は異存はありませぬ」

 

 砦と考えられていたメルカッツが、その答えを聞き、あまりにもあっさりと、その意見を受け入れる。

 場は騒然としたものの、メルカッツにはメルカッツなりの考えがあってのこと。

 それに少し遅れて、シュタインホフも元帥昇進に同意した。

 

 シュタインホフはメルカッツとは違う、彼なりの思惑があって。シュタインホフは世情の変化もそうだが、年齢も年齢なので、そろそろ退任したいと考えていたのだが、今回の内乱で統帥本部総長が務まる元帥がいなくなってしまい、後継者選びに難儀していた。

 今シュタインホフが退任すれば、浮いたポストをメルカッツかラインハルトが兼任することになるのだが、どう考えてもメルカッツはポストを二つも欲しがるような性格ではないので、ラインハルトの手に転がり込むことになる。

 それも致し方ないかとは思えど、ミュッケンベルガーの逮捕。

 元帥の地位は守られてはいるが、国家反逆罪の容疑を着せられてしまえば、 特権もなにもない。

 できることなら、軍に影響力を残して去りたいが、ラインハルトが兼任したらその望みはなくなる。

 そこに降って沸いたファーレンハイトの元帥昇進話。

 ファーレンハイトもシュタインホフの言うことを聞くような性格ではないことは、重々承知しているが、彼は彼女の言うことなら、ほぼ無条件で聞き入れる。

 その頼みの綱である彼女だが、もしもの時に彼女ほど信頼できる人物はいない。帝国の門閥貴族は彼女に見捨てられたら、諦めるしかないのが現状。

 それらを踏まえて、シュタインホフはファーレンハイトの昇進を承諾した ―― ただ、統帥本部総長就任に関しては、収拾が付かなくなる恐れがあるので、この場では口にはしなかった。

 

「はい、元帥決まりね」

 

 ”ああ、楽しいわ”とばかりに笑うカタリナだが、その笑みには微量どころではない毒がある。

 

『……』

「ジークリンデ、喜ぶわよ」

『喜ぶ以前に、驚かれるかと。それにまだ、宇宙艦隊司令長官閣下のご意見を伺っておりません』

 

 敵に助けを求めるような状況になったファーレンハイトと、問題の元凶とも言えるラインハルト。

 その場にいる全員の視線を受けたところで怯むことはないが、ここで正論を述べてもどうなるものでもないことも分かっていた。

 

 もともとラインハルトの元帥昇進も、武勲はあれどそれは後付けの理由のようなもので、皇帝のアンネローゼに対する寵愛が理由。

 ラインハルトとキルヒアイス、その麾下の将兵以外は誰も納得しないまま、元帥の座に就いた。万人が納得するような理由はなく、万人を納得させる術は皇帝といえども持ってはいない。

 ただ神聖不可侵という言葉と、それに付属する権威と狂気で押さえつけるのみ。

 

「反対はしない」

「賛成はしないけれど反対もしないと、卑怯で小さい男ね。いいけど。と言うわけで、元帥になったわよ」

 

 話し合おうがなにをしようが、皇帝が元帥に任命すると言った以上、決定が覆ることはない ―― カザリンは、そういったことはまだ喋れないが。

 

 皇帝の権威や各人の思惑。「どうすることもできません」という立場の者の内心の呟き等 ―― とにかく元帥昇進が決まり、解散となった。

 元帥たちが去り、仕事が増えたオーベルシュタインたちが去り、部屋にはオフレッサーとキャゼルヌ、そしてカタリナだけが残された。

 

「どうかしら? フェザーン人」

「お見事と言っていいのやら」

 

 およそ誰もしないような力業で、ラインハルトと彼女が対面できる機会を設置したカタリナに、キャゼルヌはなんと言っていいのか? なにを言えばいいのか? 皆目見当がつかなかった。

 

「あら、酷いわ。一生懸命考えたのに。まあ、いいわ。昇進パーティーはジークリンデが持つでしょうから、手配や予算についての相談は任せたわよ」

「かしこまりました」

 

 キャゼルヌが退出すると、カタリナは立ち上がり、オフレッサーを睨めつけるように見上げ、

 

「メルカッツが、こんな無茶を受け入れるとは思わなかったわ」

 

 最大の障害になるのではと考えていたメルカッツが、いとも容易く同意したことが意外であったと。

 

「小官も驚いております」

「ふーん、そうなの。あとは優秀なあいつらに任せるわ。方向性さえ指示してやれば、それは完璧に遂行する者たちばかりですもの。本当、あんなに優秀なのに、どうしてジークリンデのことに関しては間違っちゃうのかしら。まあ、男のそういう所って、女にしてみると可愛いんだけれど。もちろんあなたも含まれているわよ、オフレッサー」

 

 その時のオフレッサーの表情を見たものは居ないが、想像に難くない表情であったことであったのは ――

 

**********

 

 このような経緯でファーレンハイトが元帥昇進ということで、それを彼女に伝えるフェルナーの表情も、当然冴えなかった。

 

 トレーニングを終えてシャワーを浴び、ゆったりとした時間を過ごしている彼女に、フェルナーはそのことを伝えた。

 理由も経緯も、これから起こることも伝えられない、欺いていたことを暴露するために欺く ―― フェルナーの言葉は切れが悪く、態度は沈んだものであった。

 

「……そう」

 

 それを聞いた彼女の態度だが、彼らの予想していたものとは違い、呟やくと大きな瞳から涙をこぼし、そのまま泣き崩れてしまった。

 

「どうしたんですか? ジークリンデさま」

 

 喜びの涙ではなく、明らかに悲しみに暮れている状態。

 まだ湿り気の残る黒髪とを揺らして、彼女は泣き続ける。

 

「ジークリンデさま!」

 

 どれほどフェルナーが声をかけても、彼女は答えることなく泣き続ける。

 幾ら高級で柔らかな絨毯が敷かれているとはいえ、床に座らせておくわけにはいかないと、フェルナーは彼女を抱き上げる。

 

「どうなさいました?」

 

 なにも答えてくれない彼女。フェルナーは部屋にいるキスリングに”分かるか?”と視線で問いかけるが、脇で聞いていたキスリングもなぜ彼女がこんなにも悲嘆にくれるのか分からず、首を振るのみ。キスリングに出来ることは、寝室へと続く扉を開くことくらい。

 フェルナーは彼女を抱きかかえたまま寝室へと行き、彼女をベッドに座らせようとしたが離れようとしないので、抱きしめる形で座り、理由を聞かせてくださいと頼み ―― 彼女を抱きしめたまま、ベッドに横になり一晩中、彼女をあやし、必死に誤解を解くはめになった。

 

「…………馬鹿だと思ったでしょ」

 

 目を覚ました彼女は、一晩中ついていてくれたフェルナーに、昨日とは全く別の、羞恥と喜びと安堵の入り交じった表情をむける。

 

「いいえ。賢い故の勘違いですから」

「賢い人は勘違いしないと思いますよ」

「そうですね。ジークリンデさまらしいと、しておきますよ」

 

 フェルナーは彼女の額にキスをしてからベッドから降りる。

 

「午後で結構ですので、ファーレンハイトに通信を入れてやってください」

「分かりました……」

 

 勘違いしたことを伝えないように言いかけた彼女だが、あまりにも酷い勘違いなので、いっそ伝えられて笑ってもらえたほうが、さっぱりするかもしれないと考え、内緒にしてちょうだいとは言わなかった。

 

 泣き崩れた彼女だが、どう勘違いしたのか? ――

 

「あなたが戦死したと、勘違いなさったそうです」

『当たり前の勘違いだな』

 

 キスリングから「元帥に昇進したと伝えられてから、かれこれ三時間以上泣き続けていらっっしゃいます」と連絡を受けていたファーレンハイトは、なにも分からぬまま、いつになく長い八時間を過ごしフェルナーから事情を聞いて、理由がわかりやっと胸をなで下ろすことができた。

 

「私もジークリンデさまに言われて気付いたんですが、普通に考えたら特進ですよね。上級大将になってから六ヶ月で元帥ですから。ジークリンデさまが、そう解釈しても仕方ありませんよ」

 

 前回の昇進から約半年で元帥。大規模な会戦などは行われていない。地球の制圧も本当に些細なこと。勢力のある門閥貴族の子弟かラインハルトならば、あり得ないわけでもないが、ファーレンハイトは階級は末端の帝国貴族で、そのような帝国人事の恩恵に与るような立場にはいないので、軽く出征しただけで元帥に昇進するなど、彼女は考えもしなかった。

 

 もっともファーレンハイトは主が彼女のため、帝国人事の恩恵というか、被害をもろに食らったが。

 

『ああ。それにしても、ご心痛をおかけしてしまったな』

「はい。私の話し方も悪かったようです。本当に要らない心配をおかけしてしまって」

 

 なにより彼女の記憶では、ファーレンハイトが元帥になることは、戦死に直接結びついてしまうために、このような事態になってしまった。

 


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