黒絹の皇妃   作:朱緒

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第119話

 フェザーンの警官たちに「片眼鏡の人は、夫人が小さいころから仕えている貴族」と勘違いされ気味のファーレンハイト。

 そう言われていることは分かっているが、面倒なので訂正することもなく、聞き流している ――

 前身の縁に派手ではないが、銀糸で手の込んだ刺繍が施されている上着をはおったファーレンハイトは、監視映像の録画に目を通し、不審人物が写っていないかを確認する作業をしていたフェルナーの元にやってきた。

「俺はジークリンデさまが、不愉快になられるであろうことを話すために、お部屋を訪問する。お前もついてこい、フェルナー」

「嫌ですよ」

「お前も原因だ」

「私も……ということは?」

 録画画像を停止し、すでに情報を取り込み、照合作業を行っていた相手 ―― アンドリュー・フォーク ―― の情報に、自分の目頭をもみほぐしながら、画面を指さす。

「あとミュラーだ。だがミュラーには話す必要はない」

 のぞき込んだファーレンハイトも、嫌そうな表情を浮かべて、ため息を吐き出した。

「なんですか?」

 嫌とは言ったが、ついて行かないとは言っていないとばかりに、腰をかけていた机から飛び降りて、ドアの方へと向かう。

「お前、平民だろう?」

「ええ、まあ。帝国建国時から、フェルナー家は平民ですよ。”家”と言うほどでもありませんが」

「それが問題になった」

「え?」

 採用した時点で、分かっていたことを今更言われても……フェルナーの正直な気持ちであった。

「ジークリンデさまの専任護衛が平民なのは何故か? と、レオンハルトさまが、結構な数の門閥貴族から問われた」

 前の護衛であるファーレンハイトは、末端ながらも貴族なので、なにも言われなかったのだが、次が平民であったので、門閥貴族たちは驚いた。

「あー……それは、そうでしょうね」

「一つ断っておくと、悪気はない。純粋な疑問というやつだ」

「あーはいはい。ランズベルク伯爵閣下的な、純粋さですね」

「あの方ほど、純真さはないがな。そんな理由で、お前やミュラーを選んだのがジークリンデさまでは、色々と問題になりそうなので、俺がお前たちを選んだことするようにとのお達しだ。下級貴族出で、さほど出世していない俺が、頭ごなしに従わせやすいのを選んだ……対外的にはそうする」

 ファーレンハイトが出自も、軍人としても自分より下の階級の者を欲しがったと、思わせたほうが無難だろうということで。泥を被ったといえば、その通りだが、彼にはそうするだけの価値があった。

 ジークリンデの希望に添うこと、そしてフェルナーという男が、予想以上に優秀であること ――

「構いませんし、むしろ納得できます……で、それをお伝えしに?」

 その優秀さはフレーゲル男爵をして「本来ならば、下級貴族に変えるべきだろうが、さすがジークリンデが階級を無視して選んだだけあって、そこらの帝国騎士では替えが効かん。だから他の門閥たちを黙らせる、いいな」言わせたほど。

「ジークリンデさまに納得したいただかない場合、聞かれた際”違います。私が選んだのです”と言いそうだからな」

「分かります、本気で訂正しそうです」

 

 このような理由をジークリンデにの元へと出向き、人払いをし、事情を告げた。

 

―― 門閥貴族の皆さん。平民は大切なんですよ! 後々恨まれて見捨てられるようなことばかり……意識改革なんて、そんな簡単にできるはずないもんね……

 

「分かりました。手袋を」

 ちょうど練習が終わり、ピアノの前に座ったまま話を聞いていたジークリンデは、握り拳で鍵盤を叩きたくなったが……淑女というか、人間として我慢した。

 フェルナーは縁と甲の部分に繊細なカットワークが施されている、絹の手袋を持ってきて差し出した。

「せっかくジークリンデさまご自身が選び、国務省書閣下も認める優秀な人物を、私が横取りするような形になってしまうことを、お許しください」

 細い手袋に、細い指を通し、両方はめて指を組むようにして馴染ませ、鍵盤にそっと手を置く。

「そんなことは、気にしませんけれど……でも、そこまで気にするなんて。平民が私の護衛を務めたところで、他の門閥たちに、なにか損害でも出るの?」

 アンネローゼとは別の意味で、貴族に敵を作らないようにしているジークリンデは、選民意識の塊であること理解しているので、彼らに平民の重用を進言したりしていない。

 それどころか今まで、自分の配下に平民の部下を求めたことはなく ―― シューマッハやフェルナー、ミュラーはあくまでも”偶然の産物”でしかない。

 

「ジークリンデさまの護衛を務めるということは、陛下のご尊顔を拝する機会に恵まれ、また、こちらの顔と名前も、覚えていただける幸運に与かれること確実。陛下はあまり謁見を受けるお方ではないので、顔も名前も覚えてもらっていない貴族は、嫉妬するのだろう。もしかしたら帝国騎士の地位を与えてしまうのではと、疑心暗鬼に……とは、レオンハルトさまのお言葉です」

 

 フレーゲル男爵は皇帝と会って話す機会が、頻繁といっても過言ではないほどあり、その中でジークリンデとその部下について、何度か会話をしたことがあった。

 皇帝の会話は、貴族の間では噂になるのは必須。

 

「陛下がアントンの顔を名前を覚え、才能を買って帝国騎士に叙したとして、彼らになんの損害もないでしょうに。有爵貴族に叙するというのなら、反発も分かりますが」

 まだ西苑に足を踏み入れたことすらないフェルナーの、未来を勝手に思い描いているとは、ジークリンデも考えてもいなかった。

「そうですね」

「そうなったら爵位はともかく、領地は私の化粧領を割譲するわ。そうしたら、文句も言われないでしょう」

 領地の所持している貴族(領地を持っていない貴族もいる)の娘が、持参金代わりに持たされる領地のことを、帝国では化粧領といい、これは嫁いだ娘が死亡すると、子どもがいようが領地はその家に返却される。

 ジークリンデは父親と、国務尚書の二人から化粧領を渡されており、かなり潤沢な資金を持っていた。

「文句は言われないとは思いますが、やたらと目立つかと」

 普通の領地と違うのは、領主は実家の当主(ジークリンデの場合は父親と、国務尚書)で、渡された娘もそうだが、夫もなんら金額に口を出すことができない ―― 夫と父親の仲が良好であれば、共同開発をすることもあるが、そうすると後々、領地の返却を巡って争いになるので……帝国の所領があまり発展しない理由でもあった。

「お父さまからいただいた化粧領は、小さいから平気じゃないかしら」

 ”良いこと考えた”とばかりに手を打ち微笑むジークリンデだが、

―― あれは小さいのではなく……

 その収益を知っているファーレンハイトは、笑いを堪えつつ視線をそらす。

「伯爵さまが持たせた領地って、小さいんですか?」

「面積は八万平方キロメートル。人口二十万人を擁する商業都市が含まれている」

 ヴェスターラント惑星の全人口が約二百万人なので、この広さでこの人口は、帝国では大都市に数えられる。

「広くはないが、あがってくる収益は多いってことですか」

「そうだ」

「駄目ですよ、夫人。そんな大切な領地をあげるなんて、簡単におっしゃっては」

「そうですよ、ジークリンデさま。それで、フェルナーとミュラーの件ですが、レオンハルトさまに心配をかけないためにも、この方向で納得していただきたいのですが」

「分かりました……アントン」

「はい」

「帰国後の私の警護、アーダルベルトよりも大変になるでしょうけれど、頼みますよ」

「御意」

「それにしても、もっと鷹揚に構えていればいいものを」

「そこまで余裕がある方は、なかなかいらっしゃいません」

「私としても貴族の方々は、随分と無駄な心配をしていると思います。代々平民の私が、皇帝陛下の視界の端にいただけで、貴族になるはずもないでしょう……どうなさいました?」

 フェルナーは杞憂を笑ったが、貴族たちには、彼らにしか分からない焦る理由があった。

 ジークリンデは「知っていた」ので焦りはなかった。なにせ彼らの杞憂が五年後には、現実になることも知っているので。

「陛下はこの前、寵姫のアンネローゼさまを、グリューネワルト伯爵夫人に叙したの。それがあったから、過敏になっているらしいの」

「…………それが? なにか問題なんですか?」

 グリューネワルト伯爵夫人アンネローゼ。

 宮廷の花について興味などないフェルナーでも、皇帝の寵愛が深いと聞いたことがあるほどの人物。

 なのでフェルナーの認識では、至極当然のことと受け取っていた。

「グリューネワルト伯爵家は、名門だったの。一門は途絶えてしまったのだけれど、アンネローゼさまよりは、近い血縁がいるのに、それらを無視して帝国騎士の娘に授けたので、貴族の方々は納得できず。同時に陛下は気に入った者には、簡単に爵位を与えてしまうという認識が生じてしまったわけよ」

「あー……ベーネミュンデ侯爵夫人もですか?」

「侯爵夫人は子爵家の出ということもあって、反対はなかったそうよ。アンネローゼさまは、帝国騎士の娘に爵位を与えたとういことで」

「へえー。側室って、爵位授かるものだと思ってました……あれ? もしかして、子どもを産んでいたら、とくに問題にはならなかった?」

「そうなの。有爵貴族の一族ではない側室は、子どもが生まれたら褒美として授かるのが慣わしなのよ」

 アンネローゼが皇帝の子を産んで、伯爵夫人と呼ばれるようになったなら、貴族たちも大きな反発はなかっただろうが、流産したわけでもなく、なんの兆候すらみせないアンネローゼに、地位を与えたのが、慣例やら前例を重視する貴族社会で問題になった。

 そしてこのような悪しき前例ができてしまった以上、身分が低い者たちも ―― 選ばれし民と自負している彼らにとっては、由々しき問題であった。

「ああ。じゃあ……はいはい。ところで陛下は、そんなにも簡単に爵位を授けるお方なのですか?」

 理由が分かったフェルナーは、話すことはなさそうだが、顔を合わせることになる、皇帝について軽く尋ねた。フェルナーはあの通りの性格なので、至尊の座もなにも、あったものではない。

「御本人は冗談で言われているつもりかも知れませんけど、陛下の口から出ると……」

―― 冗談なのか酔っ払いなのか、本気なのか、分からないのよねえ……陛下としては、どうでもいいのでしょうけれど

「ジークリンデさまにも、くれてやるとおっしゃってましたね」

 帝国の権威を、あまり気にしていない皇帝は、ジークリンデにも爵位をくれてやろうと ―― 後年、ジークリンデは賜ることとなるのだが、この当時は断っていた。

「あれは酔って上機嫌だったからでしょう」

「上機嫌の理由はジークリンデさまかと」

「なにがあったんですか?」

「アンネローゼさまが爵位を授かった日、小さいながらお祝いをさせていただいたの。お祝いなので、陛下もいらっしゃって、歓談したのですけれど、その席で”ジークリンデもどうだ?”と言われたのですよ」

 

 叙爵されたら、それにともないパーティーを開くのだが、アンネローゼは当然ながらそんな用意はせず。

 叙爵された知り合いも身内もいないので、どうするのか知らなかったので、受け取っただけで終わらせてしまった。

 いかにもアンネローゼらしいとは思ったが、思っただけで終わらせるわけにはいかないと、本当に小さなガーデンパーティーを開いた。

 アンネローゼが喜んだかどうかはジークリンデには分からないが、お礼を言われ、後日館に招いてくれたので、仲良くなるのに少しは成功したと、前向きに考えている。

 そしてアンネローゼを寵愛しているが、いじめられるがままにしている、かなり不可思議な行動を取る皇帝はというと、寵姫のために努力した少女に、褒美を取らそうと、爵位を持ちかけてきた。

 

「断られたのですか?」

―― 皇帝からの贈り物断るとか、さすが権門のお姫さまだ

 皇帝から”やる”と言われて”いやです”という貴族がいるとは、さすがのフェルナーも想像すらしていなかった。

「それは、もちろん。アンネローゼさままで、自分がもらったのだから、私にも授けてくださいみたいなこと言い出して、断るの大変だったんだから!」

―― 脇で見ていたこっちは、冷や冷やしましたが

 パーティーにはもちろん参加していないが、準備を手伝い、少し離れた位置で警護に当たっていたファーレンハイトは「かたくなに拒否しないで、受け取りましょう。そんな頑固さは必要ありません。ジークリンデさま!」声をかける訳にはいかないが、拒否を止めたくてしかたがなかった。

「よく断りきれましたね」

「レオンハルトがもらっていないのに、妻の私が先にもらうわけにはいきませんということで、逃げました」

「夫人らしい逃げ方ですね。あの、夫人。一つうかがってもよろしいでしょうか?」

「いいわよ」

「さきほどグリューネワルト伯爵家が名門貴族と仰いましたが、名門とそうではない貴族の違いとは、なんですか? ジークリンデさまや男爵閣下が名門の出なのは、分かるんですけれど、特別な系譜みたいなのがあるのでしょうか?」

「名門の門閥貴族についてね。分かったわ! でも、長くなるから、お茶を飲みながらにしましょう。なにが飲みたい?」

 

 ダージリンが注がれた浮き彫りが施された純白のカップに、フィナンシェやチーズサブレなど焼き菓子が盛られたバスケットを、テーブルの中央に置き、紅茶を一口飲み、浮き彫りを触りながら、ジークリンデは貴族についての説明を始めた。

 

「名門について触れる前に、二人はルドルフ大帝が帝国開祖となる以前、なにをしていたのか知ってる?」

「終身執政官と記憶しておりますが」

 それは覚えておかないと、帝国の臣民的にまずいでしょう ―― とばかりに、フェルナーが答える。

「その前は? オーディンの末裔はなしよ」

 神話の神を統治に使うのは、昔からあることなので、珍しいことではないが、帝国ではルドルフはオーディンの末裔と言われている。

 そうなるように、情報を操作した感は否めないが。

「寡聞にして存じません」

「大帝は銀河連邦の一政治家だったの。選挙で選ばれた代表ね」

「そうらしいとは聞いておりましたが」

 かつて人民に選ばれた一政治家であった過去を、神聖不可侵の皇帝の座についたルドルフは否定した。彼は自分は生まれながらの皇帝であったと。

 選挙だとか民主主義だとか議会だとか、そういった情報を残すのは、誕生したばかりで、盤石とは言いがたい専制君主国家にとって命取りであったのも、理由の一つ。

「それでね、政治家って、お金がないとなれないの」

「はあ」

「そういうものなんですか」

「極限まで単純化して言えば、軍資金が豊富なほうが勝つ。だから選挙に出る人は、みんな資金集めを頑張るの。もちろん、個人資産で挑む人もいるでしょうけれど、企業に自分が当選したら、便宜を払うから協力してくれと説明して、寄付という名の資金提供を受けて挑むのね」

「そんなにお金掛かるんですか? 夫人」

「掛かるわよ。選挙は顔を覚えてもらうのが重要だから、大衆に発信する企業が用意した、高額な宣伝枠を買って顔を売ったり、週刊誌のような媒体に載せたり。他にはポスターを用意して貼ったり。あとは事務所も自分で用意して、演説用のシャトル費用も必要。講演をする会場もね」

 アメリカの大統領選のような形式の選挙を、惑星規模、あるいは星系規模で行う必要があるのだから、その額は相当なもの。

「それは大変ですね」

「選挙制度についてはあまり触れないけれど、寄付してくれた人は、見返りを期待していたわけ。そして大帝ルドルフが帝国を開き、今までの見返りとして、特権階級である貴族の地位を作り、大帝が定めた基準によって爵位を授けた。この時に爵位を授かったのが、いわゆる”名門貴族”」

 

 協力者には白人以外の人たちも大勢いたのだが、彼らは反社会分子などと理由を付けて処刑されたり、迫害されたりすることになる。

 

「それで、乱暴に言うと寄付金の額が多かった企業の代表が”公爵”。開祖ルドルフになるまで協力した公務員が”伯爵”。公爵ほど寄付金の額が多くはなかったが、それなりに寄付していた企業の代表や、公爵に選ばれた企業の一族の者などが”男爵”と定められたの。フライリヒラート伯爵家は、大帝が終身執政官となったことで、違憲を申し立てられた際の裁判の、裁判長だったそうよ。違憲という判断を下していたら、私はいまここに存在していないでしょうね」

 

 違憲を申し立てられた時点で、すでにルドルフの独裁政権は確立しており、証人たちも買収されていたので、茶番に等しい状況であった。

「大帝に違憲申し立て……ですか。想像が付きません」

「そうよね。言い伝えを聞く分には、大変な状況だったらしいわよ。裁判所の前で、デモ隊と警官隊が衝突したり、証言者が行方不明になったり、弁護人が殺害されたりと。私の遠い祖先である伯爵家の開祖ホアキンも、自宅に爆弾投げ込まれたり」

「ホアキン?」

「ゲルマン風に名を改める前の、フライリヒラート家の当主の名前。ヨアヒムのスペイン読みがホアキン。伯爵を賜ったさいに改名したの。話が逸れたわね。公、伯、男を先に定めたのは、古来爵位はこの三つで、後に侯と子ができたことに由来してのこと。こうして”公、伯、男”を定めてから”侯と子”が制定されることになったの」

 

「それで侯はブローネ侯爵やリンダーホーフ侯爵などから分かるように、主に大帝の親族。あとは、フリードリヒ三世の異母弟バルトバッフェル元侯爵からもわかるように、皇后が産んだ嫡子以外も大公位は授からず侯爵に定められています。そして子爵は、当時の学識者たち。彼らは銀河帝国を開くのに関わったわけでないけれど、国を造る上で欠かせない才能を持った人たち。大帝の地位を脅かす法律や、社会組織をつくられないようにするという目的もあったそうよ。もっと細かいところもありますけれど、大まかにこんな感じ。こうしてルドルフ大帝から直接爵位を賜った貴族たちが、名門貴族と呼ばれるの」

 

「叙爵の時期が早い家ほど、名門っていうことでいいんでしょうか?」

―― こんなに聞いて、いいのか? 機密扱いだよな

 ジークリンデはかなり軽く語ってくれたのだが、内容は口外してはいけないレベルだろうと。フェルナーは空になったカップを包み込むよう持ち、肘をテーブルにおいて、カチューシャで留めただけで、艶やかな黒髪を降ろしたまま、微笑むジークリンデを見る。

「そういうこと。古い家柄が尊ばれるのが貴族ですから」

 視線があったジークリンデは、フェルナーの眼差しの意味に気付かず”まだ、なんでも聞いて!”と、目を輝かせて答える。

「昔から支えていたわけですね」

 ”それは、通じんぞ”と目配せするのはファーレンハイト。

「フライリヒラート家は支えてたというよりは……そうなのかしら? あとは武門に、ミュッケンベルガーやローエングラムなど伯爵家が多いのは、元々部下だった軍人たちも、協力した公務員の枠に入れられたからよ」

「国家から給与もらってますもんね」

「それで最後に帝国騎士。この人たちは、大帝が銀河連邦の首相になるよりも前に、ボランティアで、大帝の陣営を支えてくれた人たちに与えられたの」

「そうでしたか」

「アーダルベルト、自分の家のことなのに、知らないんですか」

「知らんな。大帝より拝命したとは聞かされていたが、選定理由は伝わっていない」

「民主主義の選挙活動に関係していることですから、言うに言えなかったんだと思いますよ」

「へえ……」

 

 ジークリンデはこれらのことを、父親から習っのだが、”公、侯、伯、子、男”については、とくに驚きはしなかったが、帝国騎士に関しては驚くというか……。

 

―― ラインハルトやロイエンタール、オーベルシュタインの祖先が、ルドルフの選挙ボランティアとか……ふふ……

 

 笑いをかみ殺すのに、必死であった。

 


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