黒絹の皇妃   作:朱緒

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第102話

 執務室の隣の小部屋でフェルナーは、ファーレンハイトから情報が入った端末を渡された。

 普段使用している、厚みがあり丈夫さが最優先の軍用のものではなく、やや薄めで画面が大きい”ぱっと見”は民生品。

「フェザーンの街中で、軍用品を出すわけにはいかないからな」

「ですね」

 フェザーン行きの際には、できるだけ民間人を装うので、持ち物にも気を使う必要がある。

「外見を変えているだけだから、操作方法は問題ないだろう」

「厚みの違いは?」

「予算の問題だ。その金属ケース、配給品と強度は同じだが、値段が五十倍に跳ね上がる」

 軍用の端末は、大量に無料で配布するものなので、コストは最小限に抑えられる ―― 結果、かなり厚みがあった。

 フェルナーは画面を立ち上げて、扱い方を確認していると、ソファーにおかれていたケースを開けて、ファーレンハイトが宝石箱の中のような端末を取り出した。

「こっちは、ジークリンデさまのものだ」

「なんですか、この装飾がすごい端末は?」

 全面がきらきらとした宝石類で飾り立てられたもので、端末の大きさの割には重い。

「言っただろう。ジークリンデさまのものだと。貴婦人は自分ではこういうものは持たんから、護衛のお前が所持して取り次ぐんだ」

 ジークリンデが所持しないので、重さなどは一切考慮されない。

「盗まれそうですね」

「装飾している宝石は全て本物だからな。なくしたら、大変なことになるぞ」

「おっかないこと言わないでくださいよ。震えて手から落としそうになったじゃないですか」

「よく言う。まあ右側の赤い石があるだろ? それは発信器だ」

 言われたフェルナーは側面の赤い石に触れる。

「言われると、これには見覚えありますね」

 よく使われる発信器で、大体はこれにカムフラージュのを施すのだが、大量の宝石の中に上手く紛れ込み、これ以上ない偽装になっていた。

「盗まれたら、お前の端末で追跡しろ」

「登録されているんですね。このジークリンデさまって項目は……発信器ついてるんですか」

 追跡機能を立ち上げると、二箇所に反応があった。一つは自分と重なり、もう一つは少し離れたところ。

「結婚指輪の裏側のダイヤモンドの裏側に小さいのを一つ。あまり出力がなく、バッテリーも長持ちしない。充電、忘れるなよ」

 もっと派手で大きな宝石がついた指輪ならば、発信器も仕込みやすいのだが、ジークリンデが毎日つけるのは、外側には宝石一つついていないシンプルな結婚指輪のみ。

「毎日?」

 シンプル至上主義だからではなく、着用しているドレスに使われている生地が、非常に高価で、少しでも扱いを間違うと裂けてしまうものが多いため、できるだけ引っかからないようにしたところ、シンプルなリングに手袋装着という格好で落ち着いた。

「ああ。慣れれば簡単だが、充電用のワイヤーを差し込むのが結構大変だ」

 ジークリンデの装飾に意見する立場にはなく、彼女が望んだ格好に合わせて最善を尽くすのが彼らの仕事。

「充電について、男爵夫人はご存じなのですか?」

「ご存じではない。入浴前には外すから、その隙に充電しろ」

「分かりました。入浴時間は長いほうなんですか?」

「かなり長い。シャワーで済ませることはほとんど無いので、そこは安心しろ」

「それは良かった……ところで、この料理はなんですか?」

 端末の他にテーブルの上に置かれていたのは、料理が盛られた銀食器。

 ローストビーフ、マッシュポテト、ベルリーナー・プファンクーヘンに温かいエッグタルト、ブラウニーにティラミス、アイスコーヒーが入ったポットにガムシロップとミルクが乗っていた。

 それも、二人分とは思えない分量が。

「俺たちの昼食だ」

 椅子に腰を下ろしたファーレンハイトが、アイスコーヒーをグラスに注ぎフェルナーの前に置く。

「国務尚書、見た目に似合わず、優しいんですか?」

「まさか。ジークリンデさまが”食事抜きで仕事をさせると、胸が痛むのです”と、国務尚書の訴えた結果だ」

「それまで、食事出なかったんですか」

「当たり前だろう。見ただろう? あの露骨な選民の態度」

「ええ、まあ」

「食事に手を付けていないと、ジークリンデさまが気にするから、食べるぞ」

―― 食べなさそうな顔している人だけど、こういう雰囲気の人って、意外と食ったりするからなあ

 そんなことを考えながら、フェルナーはアイスコーヒーにミルクを注いだ。

「分かりました……ついでに、先ほどの話の続きを教えてください。実質侯爵令嬢で、跡取りを得るため……というところから」

「それか。国務尚書は結婚する気はないので、跡取りを一族から得ようとしたのだが、一族の男子に見るべき人物がいなかった……俺の台詞ではないぞ。あくまでも国務尚書がそう言ったのだ」

「国務尚書なら言いそうですね」

「国務尚書は門閥貴族の中で、優秀そうな人物を何人かリストアップした。国務尚書は一族の娘たちを、その男たちに嫁がせて、生まれてきた子でもっとも優秀な子を、跡取りにすると決めて実行した。その中の一人にグントラムさま、ジークリンデさまの父君がいた」

 フェルナーはエッグタルトを食べながら、片手で端末を操作し、ジークリンデの親族について調べる。

―― 男爵夫人にはお兄さまがいらっしゃるんですね。ローデリヒ・ツェーザル・ヴィルフリート。格好いいお名前ですね。……ギムナジウムでの成績……もう大学生ですか。飛び級ねえ……そういえば、准将もギムナジウム飛び級だったな。貴族って、頭いいんだな

「跡取りは男爵夫人の……お兄さまですか」

 情報の一部であるローデリヒの優秀な成績を見て、跡取り候補の最有力だろうと、ファーレンハイトに尋ねる。

「ほぼ確定で、ほとんどリヒテンラーデ侯爵令嬢扱いだ」

「だから侯爵令嬢ですか、分かりました。でも伯爵家は、兄君と男爵夫人しかいませんよね。伯爵家はどうなるんですか?」

 伯爵は再婚もしておらず、子供は二人きり。

―― ずっと一人っ子ばかりで、綱渡りっぽく家柄を受け継いできたんですね

 珍しく実子二人に恵まれた伯爵だが、その二人が優秀であったのが災いし、両者とも権門へ ―― 栄達しているので、災いと言ってはいけないのだが。

「ローデリヒさまか、ジークリンデさまの子が継ぐそうだ」

「伯爵家としては、悪い話ではない、ってことですか」

「どちらにしても、侯爵家からの養子だからな」

「伯爵さまは、どちらの子を跡取りに希望しているのですか?」

「ジークリンデさま。国務尚書も同じ考えのようだ。とくに国務尚書は、爵位はローデリヒさまに継がせるが、次の跡取りはジークリンデさまの子を期待している……とは、グントラムさまのご意見だ。俺にもそう見える」

「随分と重要なお方なのですね」

「もっとも気に入っているし、国務尚書は、掛け値なく信頼している」

「そんな大切な一族の姫君を、よくフレーゲル男爵に嫁がせましたね。父親に似ていたら、どうするつもりだったんですか?」

「暴力のことか?」

 フレーゲル男爵の父親に限ったことではないが、暴力的な門閥貴族は多く、召使いを殴る蹴る、食事を抜く、機嫌が悪ければ殺す ―― などは、よくあること。

 もちろん全てのの門閥貴族がそうなのではないが、フレーゲル男爵の父親である侯爵は暴力的で、男爵もそうであった。

「はい」

―― 男爵に限れば、最近はあまり聞きませんがね

「それは重々考えた上でのことだ……そうだ」

「考えた?」

 国務尚書は幼いジークリンデを見て、この娘は一族に役立つと見なすとともに、最高の幸せを与えるべく、嫁ぎ先を捜したのだが、ジークリンデの生まれと、国務尚書の思惑に一致する人物は少なかった。

 国務尚書は侯爵か公爵、それも家督を継ぐ男以外にジークリンデを嫁がせるつもりはなかったので、必然的に選択肢はごく僅か。

 その中で最も良かったのが、フレーゲル男爵であった。

「夫婦関係というのは、当人が過ごした家庭や、影響力が強い家庭が基準になる」

「でしょうね」

「レオンハルトさまに、最も影響力のある家庭はブラウンシュヴァイク公だ」

「一族の当主だから、ですか?」

「そうだ。そのブラウンシュヴァイク公だが、奥方は皇女。レオンハルトさまの母君は公爵令嬢。どちらも夫よりも地位が高く、それは大切に扱われている」

 フレーゲル男爵は生まれのよい妻は、大切にされるという環境で育ったため、ジークリンデを殴るという考えは存在しなかった。

「妻を殴ったりしないのですね」

「ああ。ジークリンデさまの血筋は、レオンハルトさまにも劣らず、後ろに国務尚書がついている。レオンハルトさまは、このような生まれ育ちの妻を殴ることはない……と、国務尚書は見た。姪たちの夫は性格度外視の才能のみ、ジークリンデさまの場合は、身の安全を最優先にした結果だ」

「酷いですね」

「国務尚書曰く、ジークリンデさま最大の武器は美貌なので、それを損なうような男は、どれほど才能があろうとも駄目だ……そうだ」

「分かるような分からないような……国務尚書も、意外と普通の人なのですね」

「ジークリンデさまに関しては」

 男爵が夫人を殴らないのならば、安心して警護ができると、フェルナーはかなり気持ちが軽くなった。

 帝国はいまファーレンハイトが語ったような例外を除けば、男性上位で妻を殴るのは罪になどならず。たとえ護衛であろとも、夫が妻を殴っている場合は、よほどでも無い限り止められない。下手に止めた場合、護衛は解雇され、妻にはより一層酷い暴力が待っている。

 なのでフェルナーも止める気はなかったのだが、ジークリンデを見て、殴られているのを黙って見ていることが出来そうになかったので ―― 

「男爵夫人が殴られないのでしたら、気楽です」

 ジークリンデが殴られていたら、とうの昔にファーレンハイトが連れて逃げているのだが、今日顔を合わせたばかりなので、そこはフェルナーにも分からない。

「俺たちは、失敗したら普通に殴られるからな」

「失敗したら……ですか?」

「ああ。あまり感情任せに殴ってくることはない。殴るというか、鞭で叩く……だが」

「乗馬鞭とかですか?」

 フレーゲル男爵といえば馬術なので、冗談半分で言ったわけだが、

「そうだ。馬を打つよりも激しくな」

「あー」

 本当に乗馬鞭で叩かれると聞かされて、ローストビーフを頬張った。

「下手に避けるなよ」

 舌の上でとろける極上のローストビーフを味わい、フォークを行儀悪く指先で回し、

「貴族のその手の行動は、避けませんよ。避けたらより酷くなりますからね」

 そこは”わきまえている”と、頷いてみせた。

「分かっているならいい。べつに、避けても構わんがな」

「避けそうですか?」

「分かっていて避けるクチだろ、お前は」

「よく分かりましたね」

「面構えがな」

「いやー准将に言われたくないな」

「俺は猟犬よりも、主に従順だ」

―― 主って誰なんですかね。男爵? 国務尚書? それとも夫人?

「へえ。では、そんな忠実な准将を見習うとします。そういえば、内務次官の内縁の妻は、子爵家の出でしたね」

「家督を継いだ弟とは、折り合い悪かったんだそうだ。弟にしてみれば、正妻の娘は嫌だろうな。離婚して出戻ってきたが、家においておきたくはない。ということで内務次官へ差し出した。身分が高く、自分の出世に必要な女性に対しては優しい内務次官だが、この子爵家の女性はそうではなからな」

 これらに関しては、不愉快だが、相手は門閥貴族なので、彼らにはどうすることもできない。

「それで、内務次官の内縁の妻に対する暴力行為だが、ジークリンデさまは知らない。だから、これからも隠し通せ」

 みなが隠しているので、ジークリンデは知らない。

 義理父はジークリンデの前では、完全によき義理父であり、暴力癖の片鱗すら見せない。その程度のことは、簡単にやってのける。

 また万が一、ジークリンデの耳に入ったとしても、義理父と内縁の妻のいびつな関係に、口を挟むのは難しい。

 

「分かりました。次に、サイオキシン麻薬についてなんですが……」

 

 料理を食べつつ、概要説明を聞いた。

「極秘裏に動くということですか」

「そうだ」

 彼らが人知れず調査しなくてはならないのは、サイオキシン麻薬だけでない。

「ではご希望通りに……って、なんですか?」

 ファーレンハイトが自分の端末から極小の記録媒体を引き抜き、フェルナーに渡す。

「こっちは、フレーゲル男爵からの密命だ」

「は?」

 ”なんだ?”と、差し込み ――

「ということは、私たちはフェザーンで、サイオキシン麻薬とフェザーン商人と地球教徒のつながりを探り、男爵夫人が本当に伯爵家の令嬢なのかどうかを調べ、なおかつ男爵夫人を誘拐犯と変質者から守らなくてはならないのですか?」

 フェザーンで施設を借りて、ジークリンデが本物の伯爵令嬢なのかどうか? 調べなくてはならないことを知った。

 

 ジークリンデはサイオキシン麻薬と地球教、そしてフェザーンのつながりを知らせたいので、フェザーン行きを希望した。

 ジークリンデが何者なのか? 確証を得るために、DNA調査をしたいフレーゲル男爵もフェザーン行きを希望していた。

 

 両者、自分の本心を隠しての、フェザーン行き ―― 間に挟まれているファーレンハイトは両方の事情を知っているが、どちらにも言えない理由なので口を閉ざしていた。

 

「そうだ」

「人員が足りていませんよね」

 護衛として私服姿の軍人が随行する。数そのものは普通なのだが、割り振りに問題があり、ジークリンデの側に控えるのはフェルナーとファーレンハイトのみ。

 彼らがどうしても付けない場合は、同行するシューマッハが付くことになっていた。

「だが、多ければいいというものでもないだろう。誘拐は身辺にいる者が、買収されて……ということも考えられる」

「それはそうですが」

「フェザーンでは駐在武官を一人、専任護衛として追加する予定だ。資料は入っている。あとは女の護衛も付けようということで、フェザーンの婦人警官を数名。そっちの管理はナイトハルト・ミュラーに任せる」

「ナイトハルト・ミュラー……中尉ですか。彼は信頼できるんですか?」

 金さえ払えば何でも売るフェザーン人など、帝国は全く信用していないが、帝国では女性軍人と婦人警官は後方勤務に限定されており、護衛を担当できる女性は、どれほど権力と金を持っていようが、国内では調達のしようがないため、仕方なくフェザーンの婦警を護衛として付けることになった。

「さあ? 俺が知る筈もないだろう。経歴には後ろ暗いところはない、くらいしか知らん。軍歴は浅いし、卒業後すぐにフェザーン行きになったから、評判も分からん」

「さあ……って」

「ジークリンデさまがご自身でお選びになり、ご自身で国務尚書を納得させたのだから、大丈夫なのではないか? お前もそうだがな。俺もそうらしいが、その場にいなかったので分からないが」

「少々伺いたいのですが、よろしいですか? 准将」

「なんだ?」

「なぜ小官は、男爵夫人の専任護衛に選ばれたのでしょうか? 小官は貴族ではありませんし、とくに成績が優秀なわけでも、なにか功績があるわけでもありません。そのような小官が選ばれた理由は」

 フェルナーが選ばれた理由は「フェルナーだから」以外はないのだが、そんなことは誰も知らないし、ジークリンデも言えない。

「ああ、それか。俺は理由など知らん」

「……」

「ジークリンデさまが、お前の顔写真を見て、数分悩んで”フェルナーにします”と仰った」

「詳しい理由などは?」

「聞いてはいない。精々、お前の名前が”アントンって言うのね。雰囲気からするとヴェンツェルのほうが似合いそうな……いいえ、良いんです”と言われていたくらいだ」

 二十四年間「アントン」として生きてきたフェルナーだが、ジークリンデにそう言われたからには「ヴェンツェル」に改名すべきか? と、本気で悩んだ。

「そんな適当に選んでいいんですか?」

 普段であれば、当たり前のことなので、配属に疑問など持たないが、今回だけは妙に引っかかるものがあった。

「さあな。そもそも、国務尚書も首を傾げるくらいに、選定条件がおかしかった」

「どんな条件だったんですか?」

「二十代半ばから三十代前半、才能はあるが、少々上司から持て余されている、銀髪か白髪の持ち主で、諜報部などの情報解析関係の部署に在籍している男。ただし細身」

―― 准将が冗談で言ってるんじゃなさそうだが……どういう条件だよ。だいたい当てはまっているが……意図が読めない

「どういう条件ですか、それ」

 ジークリンデの不可思議な条件を前に、聞けば聞くほどフェルナーはやや困惑した。実はこの条件、フェルナーを捜したものではなく、オーベルシュタインを捜す目的のもの。

 ”三十の義眼の下級貴族。パウル・フォン・オーベルシュタインなら最良”などという、ピンポイントにも程がある条件は出せないので、できるだけ範囲を広げたところ、部下のほうが先に手に入ってしまったのだ。

 国務尚書も選民意識の塊で、ジークリンデの周囲に仕える者は、できるだけ貴族にしたいという考えの持ち主なのだが ―― 条件に当てはまる貴族が思いの外少なかったため、枯れ木に花を……程度のつもりで、数名の平民を紛れ込ませた。その一人がフェルナーだった。

「知らん。俺が贈れる言葉はこれだけだ”俺よりましだ”」

「……なにかあったんですか?」

「俺は士官学校卒業後、ずっと装甲擲弾部隊の内勤でな。選定会の招待状が送られてきて……まあ、選ばれるとは思っていなかったんだが、なぜか選ばれたあげく、艦隊指揮官と勘違いされていた」

「意味がよく分からないのですが」

「俺もよく分からんのだが、ジークリンデさまは、俺が艦隊指揮官だと思っていたそうだ」

―― たしかに内勤って感じですよね。提督って感じでもないが、陸戦が得意にも見えないし……白兵戦をしろと言うよりは、いいのではないでしょうか?

「でも准将、提督ですよね」

「ジークリンデさまにお仕えしてから本格的に。その点、お前はサイオキシン麻薬の調査を任せるべく、諜報部から引き抜かれたんだ。俺より良いだろう」

―― よく考えたら、艦隊司令官だと思っていたのにもかかわらず、サイオキシン麻薬の調査をさせようとした訳だから……夫人、無茶言うお方のようだな

「それだけ聞けば、はあ、まあ。できる限り、ご期待に添いたいと思いますが……ところで准将。ご自身が選ばれるとは思っていなかったとは、どういう理由で?」

「声もかけられなかったし、なにより近づかなかったからな」

「どうして」

「門閥貴族のご夫人に選ばれたいと思うか?」

「結構多いんじゃないんですか? 実際、辞令を受け取ったさい、長官に羨ましがられましたよ。”フレーゲル男爵直属とは、出世確実だ”って」

「出世はできるな。なにせ気前がいいから。……俺が招待状を受け取ったのは……」

 


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