閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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明後日からゴールデンウィーク(^^)


Nintiesecond Judge

 

埼玉県の街中にそびえる一件の大きなビルの前にまでヤマシロとゼストの二人はやって来ていた

山中で遭難した二人は人の気配もないし全速力で走ったらいいんじゃね?という考えに辿り着き人目のつかないギリギリの場所まで全力疾走で駆け抜けて何とか目的地にまで辿り着いたのだ

 

「.....俺はもう絶対にお前を先頭に走らせねェ!」

 

「なぁ兄弟、さっきから何か怒ってないか?たしかに俺方向音痴でここに来る途中も何回も道間違えたけど辿り着いたんだから許してくれよ」

 

「だが断る!」

 

ヤマシロは絶対断固拒否の姿勢でゼストの言葉に一つ一つ丁寧に応じる

人通りの多い街中でガックリと項垂れているゼストにヤマシロは尋ねる

 

「で、ここでいいんだよな?」

 

「あぁ、間違いない。このビルの八階に奴らの活動場所の一つがある。表向きはカウセリングや職探しとかそういうことしているんだが、こいつがあれば誰でも潜り込める」

 

ゼストはポケットからB5サイズの折りたたんだ紙を取り出す

どうやらネットカフェで印刷したモノらしくこの紙一枚を提示すれば入場から入会と言った手続きも可能なようだ

 

「だけどその紙一枚で全部済むとか簡単すぎないか?現世じゃセキュリティの面でもゆるゆるなのか?」

 

二人はビルに入りエレベーターに乗って八階のボタンを押す

どうやら多くの会社が連携して経営しているビルのようで他にも多くの店や企業が存在していた

 

「多分人数を集めれるだけ集めてるんだろうぜ。死者蘇生っていうのは伝承にあった通りなら多くの生贄が必要だからな、とりあえず適当に勧誘できるだけ勧誘して多くの生贄を集めてたんだろうよ」

 

ゼストはヤマシロの疑問にスラスラと応える、たしかに黄泉帰りの法と呼ばれる死者蘇生の術は多くの生贄と時間を必要とする

更には誤差一ミリというミスも許されない魔法陣も必要とされるため相当な神経と集中力も兼ね備えていなければ死者の蘇生など叶うはずがない

人間生きている中で誰か一人でも生命が再び活動を始めて欲しい、という欲求はあるはずだ

その欲求が形となったのが死者蘇生であり現世と来世のバランスを崩してしまう禁忌の術

 

現世の人間の都合でバランスを崩すというのなら全力で止めなければならない、ヤマシロは閻魔大王としてそのことを覚悟して現世にやって来たのだ

やがて八階に到着する音がポーンと鳴り扉が開かれる

見た感じは何の変哲のないオフィスビルの一室で怪しいとかそういう類の様子は全く見られない

ゼストはヤマシロにここで待ってろ、と小さく声をかけて受付に足を進める

 

「いらっしゃいませ、本日はどのような御用件でしょうか?」

 

「こいつの噂を聞きつけてきたんだがここでいいんですよね?」

 

ゼストは先程の紙を静かに手渡す、すると受付の女性の雰囲気が一瞬だけだが変わるのがわかった

 

「何人様でしょうか?」

 

「二人だ。入会希望なんだけど入会費とかはいらないんですよね?」

 

「もちろんです、こちらへどうぞ」

 

ゼストはヤマシロを手招きする、ヤマシロはゼストの元に移動し受付の女性はこちらへどうぞ、と別室に案内する

するとそこにはまたエレベーターがあり女性を先頭にエレベーターへと導かれた

どうやら先程のエレベーターには存在しなかった地下二階へ向かっているようだ

 

『兄弟、一応戦闘の準備をしておいてくれ。俺はちょっとお偉いさんを捕まえて尋問する』

 

ゼストが急に脳話でヤマシロに通信を飛ばしてくる

 

『了解、俺はどうすればいい?』

 

『俺が合図するまで待機だ。俺は兄弟の隣に移動会話意思のある影武者を置いて行く。それで俺は潜影術で幹部の部屋に侵入して暴れてくる』

 

ゼストが異様なまでの殺意を放っていることに気がついた、あまりの勢いに一緒にエレベーターに乗っている女性がショック死してしまうのではないかというくらいの勢いだった

 

「到着いたしました、この先にまた受付がごさいますのでそこで手続きをお願いします」

 

ヤマシロとゼストの影武者はエレベーターを出た

どうやらゼストはもう既に潜影術で移動を始めてるようだった

二人は受付まで真っ直ぐ移動する

八階のオフィスビルのような雰囲気とは真逆の怪しく少しだけ禍々しい雰囲気と他にも会員の人も見られるが皆が皆異様なまで目が充血しており全身から血管が浮き出ている

 

(.....ここ最近裁判所に立て続けに来ている連中と同じ症状の奴らが多いな。どうやら当たりみたいだな)

 

ヤマシロは簡単に登録を済ませると案内された部屋へと移動する

そこはどうやらお偉いさんが集まる部屋のようだ

 

部屋を開いた案内人の顔は驚愕に染まっていた

そして案内人も口から泡を吹いて倒れてしまう

 

「仕事早すぎだろ、殺してはないよな?帰って早々仕事が増えてるなんて嫌だぞ」

 

ヤマシロは十数人の人が倒れている中で机に座り片手で一人の女の首を掴んでいるゼストに声をかける

どうやら全て素手で終わらせたようで返り血も見られないことからそこまで苦戦はしなかったように思える

 

「当たり前だ、俺が殺すのは金で依頼された奴だけだ。それよりそこ閉めといてくれ、誰かに見られると面倒なことになる」

 

「そうだな」

 

ヤマシロは静かに扉を閉める

ゼストも女の首を離して床に乱暴に投げ捨てる

 

「う、がっ...ハァ、ハァ...ヒッ!」

 

「あんたは俺の質問に黙って答えればいいんだ、正直に話せば悪いことはないし死ぬこともない。あぁ、嘘を吐こうとしても無駄だぜ。そこにいるアイツは占い師だから嘘を吐いたりしたらすぐにわかるぜ」

 

ゼストは女を壁に追い詰めて数珠丸恒次を首筋に突き立てる

あらかじめゼストはヤマシロに脳話で『話を合わせてくれ』と通信があったのでヤマシロがボロを出すことはない

 

「最初の質問だ、本部はどこにある?」

 

「ほ、本部は埼玉県郊外の、森林の中にあります。周りに建物がなくて一軒大きな、廃墟が本部で、す」

 

「そうか、ならこの組織の目的は何だ?」

 

「死者の蘇生で、す。教祖は人体を蘇生する術が、見つかっ、たと言うので人を集めろと、誰も私以外は教祖の、顔を知りま、せん」

 

「その教祖の名前は?」

 

「知りません」

 

「何?」

 

「知らないんです、目的が同じだったから私が協力しただけで、それ以外のことは詮索不要だと」

 

「目的?死者の蘇生のことか?」

 

「正確には蘇生する人物ですね、彼女を生き返らせるなら私はどんな罪でも背負う覚悟です」

 

「誰なんだ、その彼女ってのは?」

 

ゼストは数珠丸恒次に力を込めた

ヤマシロもゴクリと固唾を飲み女の次の言葉を静かに待つ

女はやがて意を決したように覚悟を決めてその人物の名を告げた

 

「美原、千代...」

 

 

 

「.....あと数時間か」

 

その頃、埼玉県郊外の本部では教祖と呼ばれる人物、もとい須川雨竜(すがわうりゅう)がカタカタとキーボードを打ちながら溜息を漏らしていた

組織を結成してから二年、ようやく必要な生贄が最低限にまで達し死者蘇生の儀式はもういつでも行えるという状況で目に隈を作り長かった道のりを順々と思い出していた

 

七年前、若くして大学を卒業して若くして教授として迎えられた須川雨竜は特に支障も不満もない毎日をひたすらのうのうと過ごしていた

美原千代という一人の生徒と出会うまでは、そこから彼の人生に転機が訪れたのだった

教授と生徒という関係はあったものの年の差はそこまで違いはなかったので雨竜は美原千代に恋心を抱いたのだ、遅すぎる春の訪れだった

彼は女っ気のない人生を送り、興味もなかったので自分から避けて生きていたという方が正しいのかもしれない

初めて抱く感情に雨竜は戸惑いを感じたが彼女が卒業するまで一緒にいようと思ったのだ

彼女は次の年で卒業できる段階だった、彼女が卒業してからというもの雨竜はよく美原千代とプライベートで話し合いよく出かけた

ついには彼女の実家に行ったこともあった

 

そして、美原千代が死んでから彼は変わってしまった

須川の一族に伝わる家宝を盗み出し美原千代を生き返らせることに人生という時間を注ぎ込み不眠不休の勢いで作業を進めた

次第に生贄は集まり魔法陣も完成し美原千代の死体も手に入れることに成功した

 

「私は諦めないよ、その為にこれまで生きてきたのだから。君の両親にも私の無罪を証明してみせる」

 

しばらくキーボードをカタカタと操作し最終点検が済んだ時だった、突如鍵の掛かった入り口の扉が無理矢理こじ開けられる音がした

太陽がまだ空に浮かび上がっている頃、ちょうど昼と夕暮れの間の時間帯だった

 

 




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