閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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連続投稿です(^^)




Eightieseventh Judge

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ここだ」

 

天国のほぼ中心に位置する初代閻魔大王ヤマトの記念碑から少し離れた一軒家の前までヤマクロは一人で立っていた

この家は美原千代の住まいで人目がつかず天国でも数少ない誰も寄り付かないような場所に住んでいるようだった

一階建ての質素な感じがまた寂しさを一段と演出しているようにも思える

 

息を飲んで扉をコンコン、と軽くノックする

これで疑問が晴れるかもしれない、これで全てを知ることができるかもしれない

そんな思いの前に別人とは言え母の姿をもう一度見られるということの喜びの感情の方が強かった

少しの間があったものの木製の扉はゆっくりと開かれた

おそらく普段来客自体が少ないため対応に困ったのであろう

 

「はい、どちら様でしょう」

 

「....ッ!」

 

ヤマクロは目を大きく見開いた、もう二度と見ることが叶わないと思われていた母の姿をもう一度見ることができたのだ

驚きと感激のあまり声が詰まってしまい言葉が見つからなかった

しかし、ここで黙っていても不自然で迷惑なため言葉を必死になって探し始める

 

「は、はじめましてヤマクロって言います」

 

「はじめまして、何の御用でしょうか?」

 

「あ、あの、ボクは.....」

 

言い出そうとしたのだが言葉が出てこなかった、ここで閻魔と名乗っても信じてくれるだろうか

突然訪問した自分を怪しんだりはしないだろうか、そんな不安感がヤマクロの脳裏を支配する

 

【言い出しにくいならボクが変わろうか?】

 

(いいよ、自分でいける)

 

「ボクは先代閻魔大王のゴクヤマの息子で、その」

 

「.....君、ゴクヤマさんの息子さんなの?」

 

「は、はい」

 

美原千代は驚いた様子で口元に手を当てているがヤマクロからしたら彼女がゴクヤマのことを知っていることに驚きを感じていた

 

「実は、少し話を」

 

「....て」

 

「え?」

 

「帰って!」

 

憤怒の表情を浮かべた美原千代は乱暴に扉を閉めてしまう

その後何度か呼びかけてみたが反応はなかった

 

【一体どういうことだ、父さんの名前を聞いた時から様子が変わったぞ】

 

(一体どういうことなの?)

 

ヤマクロは美原千代とゴクヤマが何らかの関係で知り合っていると推測を立てるまではいけたがそこから先に進めなかった

彼が元々美原千代を訪れた理由は須川から彼女こそがこの事態の中心にいる人物だと聞かされたからでありゴクヤマの名前が出るなんて思いもしなかった

自分の知らない別の何かが起こっていると思い兄であるヤマシロと脳話で話すために脳波を展開するも繋がる気配は一切なかった

それどころかヤマシロと認識できる脳波すらも見つけることもできなかった

 

「どういうこと?」

 

【兄さんが集中力を切らしているか脳波が届かない場所にいるかのどっちかだけど脳波が届かない場所なんてそうそうないよ】

 

ヤマクロは一旦ヤマシロへの脳話を諦めて途方もなく歩き始める

そこまで美原千代の家を離れはせずにひたすら歩き続けた

 

すると目の前にサングラスとニット帽を被ったロングヘアーの女性が現れる、というよりも...

 

「.....須川さん?」

 

「はて、誰のことかしら?私は通りすがりの一般人Aよ」

 

長い髪をなびかせながら須川もとい自称一般人Aは腕を組む

 

「じゃ、じゃあ通りすがりの一般人Aさん。ボクに何か用ですか?」

 

「まぁね、さっき千代ちゃんの家に行って門前払いされている所を見かけたのよ。ま、あんな性格だから許してあげてよ」

 

「は、はぁ」

 

通りすがりの一般人Aは続ける

 

「千代ちゃんは自分の人生を狂わされた閻魔の一族を今でも憎んでるのよ、愛しい人との時間を奪われた閻魔のことをね」

 

通りすがりの一般人Aの表情はサングラス越しでもわかるくらい悲しそうな表情を浮かべていた

目尻にはわずかに涙が溜まっていたのも目に見えた

 

「あの、教えてくれませんか。一体何があったのか、今回の事態と一体どういう風に関係しているのかを」

 

ヤマクロは必死に懇願した

自分の父親によって人生を狂わされたという女性、美原千代のことをヤマクロは知らなさすぎた

まずは事情を知り全てをスッキリさせる必要がある、本当に全てに決着をつけるためならば

 

「いいわよ、でもプライベートの話も混じってくるから所々は省かせてもらうわよ」

 

通りすがりの一般人Aはサングラスをクイっと上げて世間話をするような調子で話し始めた

 

 

 

「すっごい爆発ッスね、あれ引き起こしたのきっと査逆さんッスよ」

 

「.....あいつは変な所でやり過ぎるのよね、亜逗子は無事そう?」

 

「さっき麒麟亭から出てきた誰かが回収してたんで問題なさそうッスね、俺っち的には煉獄さんの安否の方が心配ッスよ」

 

一方地獄では順調に亡者の避難は進んでいた、時間の経過と共に黒い雷の降る回数も溶岩が溢れ出してくる回数もマシになったのだがそれでも警戒は必要な状態だった

 

目を覚ました間宮は救助部隊に合流して現在も亡者の回収に専念している

笹雅は得意の千里眼で天地の裁判所の様子を観察しながら麻稚に報告するというポジションに付いていた

先程亜逗子からの合図で麻稚は一発だけ平欺に向かって発砲したのだが本当に当たり成功すると思っていなかった、笹雅がいなければ成功にも近づけなかっただろう

笹雅の視界を麻稚と共有して遥か遠くにある平欺の脳天に一発放ったのだが効き目はなくかえって挑発することとなってしまいこちらに目を向けた時は度肝を冷やしていたところだった

 

「でもいいんッスか麻稚さん、俺っちが回収班に行かずにここで座って裁判所の様子見てるだけで」

 

「いいんですよ、役に立ちすぎてますので」

 

そうッスか、と笹雅は笑顔で返す

麻稚としては亜逗子やヤマシロのことが心配で今すぐにでもそちらに向かいたいのだが今は自分に割り当てられた使命に全力を尽くすことで精一杯だった

 

 

 

ガラガラガラガラと崩れていく天地の裁判所の中で月見里査逆は右腕をダランと垂らしながら瓦礫の上に立っていた

先程の自らで引き起こした大爆発で大きな瓦礫が右腕に飛来してしまったのだ

目の前には平欺が大の字で倒れ伏している

 

「ククク、まさか瓦礫が爆発するなんてなァ。オレとしたことが自分で自分の弱点を突くようなことをしちまったわけだな」

 

歳をとったもんだ、と自嘲気味に嘲笑う、その笑みは平欺自身に笑いかけているようにも思えた

平欺の体の上には巨大な瓦礫がいくつも覆いかぶさっておりとてもではないが動ける状態ではなかった

査逆はそんな平欺をただ見下ろしていた

 

「なんで手加減したんだ?」

 

「.....言ッている意味を理解できない、オレは全力で戦ッたゼ」

 

「嘘言うなよ、歴史上最強とも言われていた天邪鬼がこの程度の攻撃で終わるわけがない。それに今もこんな瓦礫くらい退かすのなんてどうってことはないはずだ」

 

「嘘じャないさ、今のオレじャこれが全力全開だ」

 

査逆は怒りの形相で平欺を睨みつける

月見里査逆にとって同じ天邪鬼である平欺赤夜という一人の人物は目標であり幼い頃からの憧れの存在だった、査逆を弟子にしてくれた時も自分の目のことで門前払いどころか普通に接してくれた数少ない人物だった

査逆は瞳の色が二つあることから生まれてきた時から親にすら忌み子として扱われ身寄りがなくなり幼いながらも天地の裁判所に就くこととなるという壮絶な人生を歩んできた中で数少ない理解者の一人こそが平欺だったのだ

 

「強くなッたな査逆、オレは嬉しいゼ」

 

「言うなッ!そんなこと聞きたくねェよォ、ウチはまだ先生から教えてもらいたいことがあるんだッ!」

 

「いつまでもオレに寄りすがッてるんじャねェよ、昔と違ッてお前には背中を預けれる仲間がいるはずだ」

 

査逆は涙を流しながら裁判所での出会いを思い出していた

幼い頃身寄りがなく右も左も分からない時に平欺と出会い弟子入りして目を隠すことを覚え、途方に暮れて生きる気力を失っていた天狼と出会い初めての親友と呼べるモノを作り、ヤマクロと出会い心を満たされて...

 

気がつけば平欺は笑顔を浮かべていた

 

「もうオレが心配することも心残りもなくなッたな」

 

平欺は自身の周りの脳波の壁を解除して重力をかける

査逆は平欺の突然の行動に思わず後退りをするがそれこそが平欺の狙いだった

引力に耐え切ることが出来なくなった天井はミシミシと音を立てて崩れ始め瓦礫は全て平欺に落下する

 

「これで、一生眠って暮らせる」

 

瞬間、平欺の周りに展開されていた重力をイメージした脳波の反応が消えた

 

「先生ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

二人の天邪鬼による激闘は勝者の涙により幕を閉じた

 




キャラクター紹介

上杉謙信(うえすぎけんしん)
種族:元人間
年齢:不明
趣味:音楽、買い物
イメージボイス:神谷浩史
詳細:かつては越後の龍という異名を持っていた戦国武将
天国に来てからはかつての面影など見当たらないほど性格が変わり信玄からもうざがられている
ファッション雑誌にも出ており結構な人気があり、憎むに憎めない性格で女性ファンのハートを掴んでいる

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