閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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連続投稿です



Eighth Judge

 

ヤマシロ、再度天国を訪れる

 

「...また、来ちゃったよ天国」

 

ため息交じりに呟く

こう何度も天国に行けるのは閻魔大王くらいであろう

そうでなければ、極楽に行こうと努力している僧達の努力が全て水の泡になってしまう

もちろん、ヤマシロが天国に来たのはプライベートではない(というか閻魔にそんな時間はない!)

瓶山 夏紀のことだ

何故天国に限定するかというと、純粋で裏のない幼い子供は、よっぽどのことがない限り地獄に行くことはない

 

あの後、瓶山 一の捜索は亜逗子と麻稚に任せ、これから起こるであろう裁判に備えて情報を集めておこうと思ったからだ

運が良ければ、瓶山の生前の知り合いとも会えるかもしれない

そんな僅かな期待を持って天国に来たのはいいが...

 

「ヤマシロー!辛気臭い顔してないでもっと飲まんかーい!」

 

初対面でイメージが崩れた戦国武将と、

 

「旦那、俺はまだまだいけやすぜ!」

 

三日前の事件以来、ヤマシロのことを慕い出した泥棒に絡まれていた

...正直両手にヤロウとかあまり嬉しくない

 

「あのさ信長、俺仕事が...」

 

「んな固いこと気にすんなって、別に急ぐ用でもあるまい」

 

「急いでんだよ!」

 

「旦那、焼き鳥要ります?」

 

「とりあえず貰うが、俺を解放してくれ!」

 

半ばヤケクソだった

裁判が始まるまでに情報を集めて裁判所までなるべく早く戻りたいのだが、まずは酔ってベロンベロンになっているこの二人から逃げることが先決である

 

「おい、親父!酒追加だァー!」

 

...これはこれで至難の業かもしれない

 

「おうよ!閻魔様もいらしてんだからな、最上級の出してやるよ!」

 

「わはははは、気前がいいなぁ!親父!」

 

...これが休暇だったら、と何度思ったことであろう

しかし、それに対し、現実はやはり上手くいかないと改めて実感することができた

 

「ほらよ、好きなだけ飲んでけよ、このヤロー!」

 

「おうよ、飲み尽くしてやるわ!」

 

このままでは埒が明かない...

そう思いヤマシロは一先ず情報収集を始める

 

「なぁ、主人、ちょっと聞きたいんだが...」

 

「ん?どうした閻魔様?」

 

「瓶山 一って男の名前聞いたことないか?」

 

「瓶山...?」

 

「こんな男なんだが」

 

ヤマシロは閻魔帳を取り出し、瓶山の写真を主人に見せる

 

「う〜ん...見た顔ではあるな」

 

「!それはどこで...!?」

 

「いやな、俺も生前は居酒屋持っててよ、その時の常連にこいつが居たよ」

 

いきなり中々有力な情報だった

 

「そうか、瓶山って名前なのか」

 

「名前は知らなかったのか?」

 

「あぁ、精々愚痴を吐き捨てたってことは覚えてるよ」

 

「その愚痴、自分の娘のこととか言ってなかったか?」

 

「娘?」

 

主人は娘という単語に反応するが直ぐさま否定する

 

「いや、知らねぇな、こいつの愚痴の大抵が妻のこととか仕事のことだったからな」

 

きっぱりと否定された

しかし、情報を得れなかったよりはマシだと判断する

情報を纏めていると主人が「そういえば...」と呟く

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、あの日を境にバッタリ現れなくなったな、と思って」

 

「それはいつ頃ですか?」

 

「たしか...俺が死んだのが三年前だから、大体四年前くらいかな?」

 

四年前...

娘の夏紀が死亡したという時期

どうやら娘が四年前に他界したことは間違いないらしい

 

「他に、覚えてることなんかは...?」

 

「すまないがないな」

 

主人は心底申し訳なさそうな顔をする

 

「いやいや別にいいよ、これだけでも十分だ、ありがとう」

 

「閻魔様...あと、悪いが...」

 

主人は歯切れの悪い声で申し訳なさそうに、

 

「....こいつら、連れて帰ってくれないかい?」

 

「...................」

 

主人の指す方向を見ると、酔いつぶれた信長と五右衛門がいた

.....主人との会話中静かだと思ったら

ヤマシロは本日何度かわからない溜息を吐き、非常に申し訳ない表情で店を後にした

 

 

 

店を出て、酔いつぶれた信長と五右衛門を信長愛用のスポーツカー「KIPPOUSI」に放り込み

情報収集を再開する

とは言え、どこから当たるか全く考えていなかったため、道行く人々に適当に当たってみる

 

「瓶山?知らないな」

 

「誰だよそれ、俺は知らないぞ」

 

「亀山なら知ってるけどな」

 

「瓶山?日本人?」

 

「瓶山さん?誰それ、マジ受けるわ〜」

 

「聞いたことないな、えっ?有名人じゃないの?」

 

「KAMEYAMA?どんな漫画の主人公?」

 

...........大丈夫か?天国?

まともな返答をしてくれたのは一部だけだった

もしかして皆さんふざけていらっしゃるのだろうか?

ヤマシロはどうやら天国という楽園を舐めていたようだ

 

「さて、どうするかな...」

 

ヤマシロが行く宛てを無くし、頭をワシャワシャと掻きながら質問にまともに応えてくれそうな人物を探す

 

「あ、あの」

 

そんなヤマシロの背後から声が掛かる

どこかで聞いたような少女の声だった、しかも最近

ヤマシロが振り返ると予想通りの人物がいた

 

「やっぱり君か...」

 

ヤマシロは自然に笑みを浮かべる

そこには、三途の川で助けた少女が笑顔でヤマシロの後ろに立っていた

どうやら、無事に天国まで来れたらしい

 

「久しぶりだね、ヤマシロ」

 

少女は太陽のような笑顔を浮かべながらヤマシロの名を呼んだ

 

 

 

 




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