閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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早起きがツライ!



Eightiethird Judge

 

少々時間は遡り...

三途の川で激闘を繰り広げていたゼストと百目鬼の戦いに乱入してきた冨嶽がゼストを押し攻めている

数珠丸常次と影の能力を操り何とか互角に持ち込むがやはり経験と基本的な力の差は埋まるはずはなく冨嶽が一歩圧倒していた

 

「ツェイッ!!」

 

「ぐほッ!?」

 

冨嶽の強烈な拳が再びゼストの体を捉える

さきほどの一撃も含んで既に骨の何本かにヒビが入っていてもおかしくない、折れてないだけでも幸いだがダメージは思いの外大きかった

 

「その程度か、どうやら百目鬼との戦闘で体力を減らし過ぎたようじゃのぅ」

 

冨嶽の言うことは最もだった、ゼストは三途の川にやって来る前は現世から帰ってきてすぐ行動したので十分な休憩を取ることが出来ていない

それに加えて三途の川にやって来たら来たで普段は降ってこないのに上空から現世の残骸が降ってきたので回避と凍結に力を使い、ゴクヤマの登場と百目鬼との戦闘によって想像している以上に力を消費してしまっている

ゼスト自身もそのことは実感していたがそれを理由に退くわけにもいかなかった

ヤマシロを現世に連れて行って一連の出来事の解決を早く済ませるためにゼストがここで倒れてしまっては事態は更に悪化する可能性もある

 

それだけは絶対に避けなければならなかった

これ以上こちらの世界とあちらの世界の歪を広げるわけにはいかなかった

 

「安心しろよ、まだまだ、老いぼれのあんた達と比べたら元気は有り余ってるよ!」

 

「面白い、その根性じゃ小僧ォ!」

 

ゼストと冨嶽は再び走り出す

呼吸を乱しながらもゼストは相手の動きをしっかりと読み分析して数珠丸常次を振るう

対する冨嶽は何の苦労もなくゼストの剣撃を防ぎカウンターからの一撃必殺を狙い、右拳によるストレートをゼストの顔面に放つ

 

「しまっ...」

 

「終わりだッ!」

 

冨嶽の拳はしっかりとゼストを捉えた

しかしその感覚はイマイチ違っていた、特にヒトを殴ったり蹴ったりした時にある感覚が何一つ感じることができなかった

 

「残念だったな、そいつは俺の影武者だ!」

 

冨嶽は咄嗟に背後に振り返る、そこには先程まで目の前にいたはずのゼストが冨嶽の首を狙って数珠丸常次を振るう直前だった

死神の暗殺術の一つ、影武者は主に対象の目を奪ったり欺いたりする時に用いる技法である

そこに影があれば自身の分身を創り出して指示を送ったり囮として活用されることが多い

もちろん防御力はゼロの幻影に近いモノなので触れてしまえばそこで霧のように消えてしまう

 

しかし、冨嶽はゼストの不意打ちをモノともせず冷静に剣撃を回避してゼストの背にカウンターの蹴りを一撃加える

 

「う、がっ、はァ...!?」

 

あまりの重い攻撃にゼストは意識を手放しかける

老人とは思えない身軽さとフットワークにも驚きを隠せないがそれを補う反射神経も相当なモノである

ゼストは思わぬダメージに体の限界を感じ膝をついてしまう

 

「中々良い戦いだった、可能ならば主が全力全開の時に勝負をしたかったものだ」

 

冨嶽は非常に名残惜しそうに倒れかけているゼストに声をかける

 

「だが久々に面白い戦いであった、その点については感謝しよう」

 

「冨嶽よ、そろそろ終わらせて戻ろう。腰がそろそろ痛み出す頃だわい」

 

「わかっとる」

 

悪く思うなよ、と冨嶽が拳を再び握り直す

 

「まぁ待とうぜ、そいつ殺しても特に意味はない」

 

「ぬ?」

 

突如、ゼストは聞きなれない声を耳にする

冨嶽と百目鬼も反応して声のした方向に視線を向ける

そこには二つの大きなバトルアックスを持った緑髪の鬼が立っていた

 

「まだ戦い足りないなら、俺と戦おうぜ、ジジィ共ォ!」

 

瞬間、二つのバトルアックスは冨嶽と百目鬼の二人の体を確実に捉えて一撃を加えていた

 

「ぐはっ!?」

 

「うぐっ...」

 

しかし、冨嶽と百目鬼も負けておらずすぐさま臨戦態勢を整える

 

「死神の小僧、ここは俺が請け負った、さっさと閻魔の所へ急ぐんだ」

 

「.....あんた、一体!?」

 

「俺は朧技御影、戦うことが生きがいの天地の裁判所元従業員だ」

 

緑の髪を靡かせて右目に眼帯を付けた一人の戦闘狂は本当に小さく微笑みを浮かべた

 

 

 

一方、天地の裁判所と麒麟亭を繋ぐ渡り廊下の屋根の上にて

勝者、平欺赤夜は自分の拳を静かに見つめていた

あの激突の際、亜逗子は拳を平欺の顔面に向けて放った

それに対して平欺は拳に対して拳を向けた

結果、互いの拳と拳がぶつかり合い力の差で亜逗子が拳ごと吹き飛んで

壁にめり込んでしまったのだ

亜逗子の腕は幸いくっついているが恐らく無事では済まされないほどの重症のはずである

 

「.....何かパッとしねェな」

 

拳と拳が激突した際の衝撃で辺りに無駄な被害が及び、壁や床が一部どころか半壊に近い状態となっており激突の中心地はクレーター状に大きな穴が空いてしまっている

 

いまいち勝ったのかよくわからない勝敗に満足がいかず平欺はまだ物足りなさそうな表情を浮かべる

 

「.....このまま帰ッて寝るのもシャクだな」

 

「じゃあウチと遊んでくれませんかね、先生」

 

「コイツは驚いた、まさか敗者のガンマさんがオレの暇を潰してくれんのかよ?」

 

平欺は不気味な笑みを浮かべて背後に立つ査逆を睨みつけた

査逆も普段は前髪で隠れている両の目をパッチリと開かせて平欺に視線を固定させている

 

「ま、オレはいいゼ。眼魔で元弟子の実力の成長を見れてないからな、精神面では成長してないみたいだし」

 

「うるせェんですよ、だからこうやってしっかり目ェ出してあんたと向かい合ってんでしょうが」

 

月見里査逆は昔から自分の目が嫌いだった

嫌悪、侮蔑、悲哀、絶望、あらゆる負の感情を受け取るきっかけとなったこの呪いの両目が彼女は大嫌いだった

月のように輝き純白に近い白銀の左目と燃えるように充血してるようにも見える真っ赤な右の瞳が彼女にとってこの世で最も嫌いなモノだった

普段は脳波で左目の色を右目に合わせているのだが更に保険を掛けて前髪で隠している

そのため視界が常に悪くなっていたが自分の目を誰かに見られるのと比べたらマシだった

 

「どうやらオレの言葉も意味はなさそうだな」

 

「.....あれは不意打ちだったからッスよ、もうマジで呑まれはしねぇッスからねッ....!」

 

突如、平欺が右手を前に差し出した途端査逆の体にとてつもない重圧がのしかかる

足元は平欺を中心に亀裂が広がり査逆は身動きを取るのも苦労する

 

「そんな、程度でウチを、止められると、でもォッ!!」

 

「ッ!」

 

査逆は両腕に鎖を巻きつけて平欺に飛びかかる

しかし査逆の鎖による攻撃は平欺に当たるが平欺の脳波の壁によって阻まれてしまいダメージはないどころか当たった部分の鎖が粉々に砕け散る

査逆はそのまま後退して距離を取る

 

「なるほど、小細工は通用しねェか」

 

「いつまでもウチを昔のウチだとマジで思わないでくださいね」

 

平欺は数ある脳波のイメージの中でも最も得意としているのを二つをメインに戦闘で使用している

一つは硬化でこれに関しては戦闘中に限らず常に自分の周りに展開している

もう一つは重さである、言葉に重さを乗せることで精神的な攻撃を可能とし脳波に重さを乗せることで展開した部分の重力を倍以上にすることもできる

 

「それにウチは亜逗子と違ってアンタの力を既に知っている。だから対策も立てることができる」

 

「亜逗子、それがさっきの女の名前か。フッ、初っ端からオレの言葉にやられた奴の台詞じャねェなァ」

 

査逆の返答は鎖だった

無数の硬化によって強化された鎖が槍のように平欺を襲う

 

「ツレないねェ」

 

平欺が失笑する、もちろんダメージはなく無傷である

 

「お前がたとえオレの力を知っていようがそれを越える術がねェと知らねェのと同じだ。現にお前はオレの体に傷一つ付けることができてねェじャねェか」

 

「いつウチの攻撃が終わったといいましたか、先生」

 

平欺はハッとしたように周りに落ちた鎖の破片を見る

鎖の破片は淡く光り輝き始めていた

 

「チッ...!」

 

「ウチらの反撃はここからですよ!」

 

瞬間、ドゴォォォォォォォン!!という効果音と共に無数の鎖の破片が大爆発を引き起こした

 

 




キャラクター紹介

月読命(つくよみ)
種族:神
年齢:謎
趣味:読書(主に古代文字)
イメージボイス:鈴村健一
詳細:大和の国の神の一人で現在は神の国の住人
月の化身とも言われる天照大御神の弟でドジな姉にいつも手を焼いている
月の化身と言われているが実際月のことをよく知らないため月にウサギが餅をついていると本気で信じ込んでいる

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