閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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英語って難しいデスネー(^^;;


Eightiesecond Judge

 

現在麒麟亭の大広間では地獄の突然の異常事態のため亡者達を一時的に避難する場所として利用されていた

本来ならば鬼として地獄に落ちた悪人に容赦や情けをかけないのだがヤマシロの意向によって特別に治療やメンタルケアなんかも行っている

 

「.....煉獄さん」

 

彼女、東雲胡桃も治療の手伝いをする一人の少女なのだが運ばれてきた一人の上司の安否が不安で仕方なかった

上司、煉獄京は左脚複雑骨折、頭部に打撃によるダメージ

もしかしたら脳に影響が出てもおかしくないほどで頭蓋骨にもヒビがあるかもしれない危険な状態だった

 

治療組の一時主任だった紅亜逗子の第六感なるモノが働かなかったら今頃どうなっていたかなど考えるだけでも恐ろしい

亜逗子は全ての仕事をすっぽかしてでも煉獄の元に急いだ

彼女は治療の為に脳波を多大に使用していたので脳に対する負荷はとんでもないほど掛かっているはずだ

それでも迷いなく走り出した亜逗子を誰が止められる訳でもなく数人が後を追うこととなった

 

(それに比べて、私は...!)

 

何も出来なかった、恩人である盃天狼が死んでしまった時も上司である月見里査逆に恨みを持っていることを知っていながら止めることが出来なかった幼馴染である間宮樺太の時も...

東雲胡桃という一人の少女は自分の弱さを今まで以上に呪い嫌った

今でも自分の知っているヒトも知らないヒトも戦っているのに何も出来ずにここにいることが何より許せなかった

 

(私は、どうしたらいいの...)

 

気がつけば涙を流していた

今は煉獄の眠るベッドの側の椅子に腰を下ろしているがそれだけでは彼は戻ってこない

無力な自分に怒りを覚えながら煉獄の右手を握りしめて目覚めることをただひたすら信じていた

 

 

 

一方、麒麟亭を飛び出して平欺に喧嘩を売った亜逗子は持てる力の全てを解放してただひたすら攻めていた

平欺がどのような手段で攻撃を防ぎ、離れた位置から四天王をダウンさせたかは不明だがそんなことを考えている暇があれば攻撃という亜逗子らしい考えでパンチとキックをひたすら連打していた

それでも平欺が傷やダメージを負うことも平欺の方から攻撃を仕掛けてくることは一切なかった

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「中々いい攻撃だがそれが相手に通用しないと全く意味がないゼ」

 

平欺はただ何か特別なことをしたわけではない、ただ喋っただけ

それだけで亜逗子には何だかよくわからい重苦しい雰囲気を押し付けられた気がした

平欺赤夜は自身の天邪鬼という種族の特徴である脳が五つに分かれていることを応用し自分の周囲に硬化の脳波を常に纏わせている

ここで二つ分の脳を使っている為硬度は相当なモノとなっている

柔い攻撃や生半可な攻撃では攻撃した方がダメージを負うこととなってしまう

脳波を纏わせることが無意識になってしまっているため睡眠時にもこの効果は適用される

つまり平欺は息をするのと同じくらい当たり前に脳波を展開しているので解除させることは不可能に近かった

 

「畜生、硬過ぎだろ!」

 

亜逗子は愚痴を零しながら一旦平欺と距離を取る

しかし平欺はまるでどうぞ殴ってください、と言わんばかりの様子で両手を横に広げてゆっくりと亜逗子に近づく

 

(.....まさかMなのか?)

 

一つの可能性が亜逗子の頭を過るがそれはないと即座に否定する

 

「仕方ねぇ、アレを試してみるか」

 

亜逗子は不敵な笑みを浮かべて全速力で平欺に近づく

平欺の顔面目掛けて左ストレートを振るい...

 

「!?」

 

平欺に当たる直前で引っ込める、これに関しては平欺も虚をつかれたようで表情が初めて余裕のないモノに変わる

亜逗子は更に一歩後退して右拳を前に突き出す

さっき利き手でもない左ストレートを放ったのはこのためである

 

亜逗子の右拳から平欺を飲み込むほど大きな衝撃波が発生した

 

「おォォォォ!?」

 

「ハァ、ハァ...」

 

砂埃が立ち平欺の姿が完全に目視できなくなる

その昔、ある青鬼に教わった技術なのだが当時の亜逗子には上手く扱うことができずにいた

近々そのことを思い出して仕事の合間にコッソリと練習していたのだ

まだ右ストレートを放たないと発生しないがそれでも威力は十分である

 

「ハハ、今のはちッと焦ッたぜ。まさかあいつと同じ衝撃波を使う奴がいるなんてな」

 

しかし平欺は何事もなかったように冷や汗を流しながら右手を突き出して無傷で立っていた

目立った変化が見られるとしたら突き出した右手の袖がボロボロになっていることだけであろう

 

「だけど見た感じ完璧に使いこなせてるわけじャないんだナ。中々伸びしろのある若い芽だ、才能も凄いよ」

 

けどな、と平欺は今までで最高まで口を引き裂き目を見開く

 

「オレの敵として立ち塞がッたのが運のツキだッたなァ!」

 

平欺は右手に脳波を集中させる

すると皮膚の色が鋼に変わる、恐らく硬化の脳波を集中させたのだろうが色が変わるほどの変化を見たのは初めてだった

 

「せめてもの礼儀だァ!オレの拳で終わりにしてやるよォォォォ!!」

 

平欺の拳が亜逗子に迫る

 

「あたいは、まだ諦めてねェぞォォォォォォォォォォォォ!!」

 

対する亜逗子も右手に脳波を集中させて平欺を狙う

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「フン!」

 

ズガガガガガガガガガ!!という激しい効果音とともにヤマシロに無数の雷撃の矢が迫る

もう既に何十、何百という数の雷撃を真面に受けてきたヤマシロの体は限界を迎えていた

いくら閻魔であっても肉体は人体であり雷は天災で厄災、一度二度なら未だしも何度も受けて無事でいられるはずがなかった

 

「まだ歯向かうのか?」

 

「ハァ、ハァ、あんた、一体何が目的でこんなことしてんだよ」

 

「.....どういう意味だ?」

 

「そのまんまの意味だよ、あんたに俺を倒して何かメリットがあんのかよ。少なくとも今地獄や天国で起こっている事態が少しでも回復するとは思えないけどな」

 

ヤマシロは鬼丸国綱を支えにしてやっとのことで立っている状態だった

フラフラの状態でも聞いておかなければならないことだった

本来ならばこんな所でゴクヤマとの戦闘で時間を潰さずに一刻も早い事態の解決の為にゼストと共に現世に向かわなければならない

現世に行って何かを掴めなくても手がかりは見つかるかもしれない

それを先代で引退したとは言え閻魔であるゴクヤマに邪魔をした所でメリットがあるとは到底思えない

 

「それとも何か、俺が親父の引退理由を知られんのが怖いのか?」

 

「ッ!!」

 

引退、という言葉に反応してゴクヤマはヤマシロに雷を放つ

ヤマシロは鬼丸国綱に炎を纏わせて初めて雷を弾くことに成功する

 

「どうしたんだ、今までの雷よりもずっと弱かったぜ」

 

「貴様、やはりそれが目的で現世に向かうつもりだったのだな...!」

 

.....何やら面倒な誤解を生んでしまったようだ

ゴクヤマはそんなヤマシロの思考を知らずに額に青筋をピキピキとマスクドメロンのように入れる

次第に雷雲までもが天気が変わることが中々ない三途の川上空に現れ始める

 

「やはり貴様をここで行動不能にするのが得策のようだな」

 

「なんでそうなるんだよ!?」

 

迫真の表情でヤマシロに敵意を丸出しに迫るゴクヤマはもはや理不尽以外の何モノでもなかった

ヤマシロは鬼丸国綱を器用に操りゴクヤマの攻撃を防ぎ、弾いて防戦一方の状態だがゴクヤマは素手である

僅かでも刀の刃が当たればダメージは少なからずあるはずである

ヤマシロは閻魔帳を経由して炎を放出し鬼丸国綱に纏わせてゴクヤマに斬りかかる

 

「いい加減にしろよ馬鹿親父ィ!」

 

「いい加減にするのは貴様だ、馬鹿息子ォ!」

 

ゴクヤマは腕を雷で纏わせて鬼丸国綱を弾き飛ばす

 

「しまった!?」

 

「トドメだ!」

 

ゴクヤマは左腕に纏った雷を鎗状に変化させてヤマシロの心臓目掛けて拳を振るう

どうやら冗談抜きに本気でヤマシロを殺すつもりのようだ

もしもの時は自分が再び閻魔大王の職に就けばいいという勝手な考えで自分を納得させて

 

しかし、ゴクヤマの拳はヤマシロに届くことはなかった

 

「なっ...!?」

 

第三者の介入があったのだ、その者はゴクヤマを吹き飛ばしヤマシロを守った

ヤマシロもよく知る人物だった

天に伸びる一本の大きな青い角にゴクヤマに劣らない大きな体格を持つ男

 

「....隗潼さん!」

 

「まったく、しっかりしろよ五代目」

 

隗潼はかつて敵対していた頃とは違う昔のような優しく穏やかな顔でヤマシロに鬼丸国綱を手渡した

 

「隗潼さん、何であんたが」

 

「詳しい話は後だ、早くこの場を離れるんだ」

 

隗潼は再びゴクヤマを睨みつける

蒼麻稚の父親にしてかつて四代目閻魔大王ゴクヤマの補佐を務めていた人物

現在は行方不明として捜索隊まで出されたほどの大物だがこの際今までどこにいたかなんてどうでもいい

 

「ありがとう隗潼さん!この恩は必ず返す!」

 

「その前に死ぬなよ」

 

隗潼は苦笑いを浮かべる

ヤマシロはふらふらの体を引き摺り出来るだけ遠くに移動する

 

「兄弟ィー!」

 

「ゼスト!」

 

まだ隗潼が近くにいるタイミングでゼストがこちらに向かってやって来た

 

「兄弟急ぐぞ、今すぐ現世に向かう!」

 

「え、どうやって」

 

「悪い、それは企業秘密だ!」

 

ゼストは早口に話を終わらせると有無を言わす前に収影術でヤマシロを自身の影に取り込む

収影術は取り込んだモノの重さが本人に負荷が掛かってしまうのだがヒト一人くらいどうってことなかった

 

「隗潼さん」

 

「.....ゼストか、あの時は悪かったな」

 

「構いませんよ、金は払ってくれたんですから」

 

ゼストと隗潼は会話を始めるが互いに背を向けたままで顔を合わせずに話し始める

 

「この場は任せますよ」

 

「そのために来たんだ、そうさせてもらうよ」

 

「俺は仲間達を抹殺したあんたが正直言うと憎い。だけど憎いからってあんたを殺して皆が戻ってくるわけじゃない」

 

ゼストの言葉には殺意も込められていた

ゼストの言うことを隗潼は黙って聞く

 

「だけど俺はアンタを殺さないと気が済まない、たとえ仲間達が戻ってこなくても俺自身が納得できない。だからこの場は見逃してやるけど戻ってきたら俺はアンタを殺す!絶対に逃げるんじゃねぇぞ」

 

「.....いいだろう、受けて立とう」

 

会話を終えるとそれぞれが進むべき道に足を進める

 

互いが互いの決着をつけるために

 




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