平欺赤夜(ひらぎせきや)、かつて四代目閻魔大王ゴクヤマの側近補佐として天地の裁判所に務めていた戦闘能力のみを見れば歴代最強とも言われていた天邪鬼
一日の七割近くを睡眠に捧げており、勤務時間以外は基本的に寝ているため彼と面識のある鬼もごく僅かに絞られる
性格は自己中心的で気まぐれ、異常な程の戦闘狂で有り余る力を常に体外に出さないと生きていけないと思われてもおかしくないほど戦闘してきた数は凄まじい歴戦の戦士である
ゴクヤマの引退と同時に姿を消して長い間行方不明として扱われてきた男が現在、査逆と煉獄の目の前に明らかな敵意を示して姿を現したのだ
「ひ、平欺さん、何で...?」
「あァ、査逆か。しばらく会ッてねェからすッかり忘れてたわ、まァガンマでもあながち間違ッてはいないか」
平欺の一言一言が査逆の体に痛いほど突き刺さった
普通の会話、それだけでも査逆には体にナイフが何本も何本も突き刺さる感覚で耐えきれなかった
査逆はついに言葉だけで膝をついた
「査逆さん、しっかりしろ!」
「ハァ、ハァ...」
査逆に煉獄の声は届かなかった、周りの音が消えて平欺の言葉しか耳を通らなくなっていた
聞きたくない声なのに突き刺さる、聞きたくない声なのに記憶に残ってしまう、特別なことをしているわけでもないのに査逆は何もしていない平欺の姿を見るのも嫌になっていた
「お前、何者だッ!?」
「オレ?平欺赤夜ッて言われてる、しがない天邪鬼でかつてはその女に先生と呼ばれてた」
「先...生...!?」
煉獄はその言葉の意味が理解できなかった、いや理解したくなかったのかもしれない
かつて査逆と戦ってコテンパにやられていた煉獄でなければこの恐怖を味わうことが出来なかっただろう
煉獄が手も足も出なかった査逆が先生と呼び、恐れる人物が目の前にいることの絶望感を
彼が味方ならば強力だったが明らかにそんな雰囲気ではない
明確な敵意と殺意をこちらに向けてきている
「クハッ、変わってないなそのガンマもよォ、誤魔化してるつもりかもしんねェけど意味なんてねェよ」
煉獄は自身の体が熱くなるのを感じていた
自分の中に半分だけ流れる死神の血が久々に騒いでいるのがわかった
「その生まれついた性質は、一生背負ッて生きてく宿命なんだよォ」
「う....あっ.....」
査逆はもう立ち上がる気力も失っていた
今にも泣きそうな表情を浮かべて肩を震わせながら弱々しい声をやっとのことで絞り出せるような状態だった
その様子を見て煉獄は再び実感した
この目の前のクソ野郎は殺してもいい、と
煉獄は新たに新調し直したばかりのトンファーを構え直して平欺に向かって無意識に殺気を放ちながら走り出していた
※
その頃天国で体を休めて回復を測っていたヤマクロは五右衛門と夏紀と一緒に居酒屋「黄泉送り」の前までやってきていた
「.....結局夏紀ちゃんもついてきたんッスね」
「大丈夫、お父さんもいいって言ってくれたし!」
ない胸を無理に張る夏紀に五右衛門はため息を一つ吐いた
瓶山が許可を出したとはいえ苦渋の選択で相当粘ったことに違いない
あの瓶山が娘を簡単に自分の元から離れさせるとは考えられないからだ
(ここは俺がしっかりしないと俺が瓶ちゃんに殺されかねないな、もう死んでるけど)
五右衛門はまた別の意味でため息を吐いた
信長や信玄を連れてきても事態が悪化するかもしれないという五右衛門の判断はとても正しかったと今でも思っている
三人がここにやって来た理由は情報屋である須川時雨に会うためである
ヤマクロが見たという母親らしき人物に心当たりがないかを尋ねて真相に少しでも近づきたいというヤマクロの強い意思が行動に移ったのだ
彼の場合は真実以前に母親に会いたいという意思の方が強いのかもしれないが
(.....母さん)
母の生存を確かめたい、という想いを胸に秘めながら須川を呼びに行った相谷の帰りを待っていた
そして、待つこと五分...
相谷が顔を腫らしてまるで戦場から逃げ帰った兵士のような足取りで店から顔を出した
『.............』
「と、とりあえず入りな。臨時休業扱いにしとくから他に客はいないからよ」
三人はフラフラの相谷に導かれるまま店の中に入って行った
相谷の話によると原因はわからないがここ数日間須川は部屋に引きこもったまま出て来ていないらしい
「それでその傷は一体...」
「.....室内からエアーガン撃たれて、その他割れ物が飛来したてきた」
ヤマクロの質問に応えづらそうに相谷は応える、その様子に五右衛門は同情の目を向け夏紀は相谷に慈愛の目線を向けた
【.....キミ、勇者だね】
もう一人の声もヤマクロの脳内に響いたがヤマクロはその言葉の意味を理解することが出来なかった
「せめて須川さんが閉じ籠ってる理由がわかればいいんですけどね」
「心当たりすらもないからな」
事態は八方塞がりとなった
このまま無駄に時間を過ごしても仕方ないのだが、実際問題どうすればいいのかわからないので時間をただ無駄に過ごすしかなかった
「.....五右衛門さん、須川さんってどんな人なんですか?」
「一言で言ったら猫かな」
「猫?」
「自由人って意味さ」
あながち間違っていなかった
気まぐれな彼女はどこからともなく猫という雰囲気が一番近いかもしれない、そのことは相谷も納得している
「いつだったかな、俺が店を構えた直後にあいつが転がり込んできてな一言言ったんだよ」
突然昔話を話し始めた相谷に全員が興味の視線を向ける
どうやら彼女はこの店創業当初からこの建物の二階に住み着いているらしい
「何て言ったと思う?」
「そこで質問投げかけるんッスか!?」
「いや、なんとなく」
三人は悩む、ヤマクロに至っては須川と面識すらないためかなり高難度かもしれない
「あいつはこう言ったんだ、えぇぇぇぇこんな所に居酒屋なんて会ったけぇぇぇぇぇ!?って、な」
「シンキングタイム短ッ!?一分も経ってない!」
相谷の行動に異論を唱える五右衛門
夏紀は首を縦に振り納得していたのだがヤマクロには一切合切理解することができなかった
二階からドタドタドタドタドタという効果音が響き渡るまでは
「これは、まさか!?」
相谷が立ち上がり店の入り口に目を向ける
扉は十秒も経たない間にスパーン!と勢いよく開かれる
「ちょいちょい親父!何でこんな大事件起こってるのに教えてくれないのよ!そのせいで情報収集し損ねたじゃない!!」
「一回呼びに行ったわ!お前が出なかったんだろうが!!」
「嘘つけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「嘘なんかつくかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
これがヤマクロと須川の初対面であった
※
一方、三途の川を延々と歩き続けるヤマシロとゼスト
時折上空から落下してくる現世で役目を果たした物質、いわゆる廃棄物質を凍らせたり燃やしたりで回避しながらひたすら歩いている
「おいゼスト、一体いつまで歩くんだ!現世に行くならさっさと行こうぜ!」
「.....兄弟、なんでそんなに楽しそうなんだ?」
普段とは違うどこか遠足に向かう子供のようにわくわくしているように見えるヤマシロをゼストはジト目で見る
つい数分前までは行くことに疑問を抱いていたのに行けるとなったらこれである
「だって現世だろ!?こんな形でも現世に行けるんだろ、一回行ってみたかったんだよ!」
「とりあえずその遠足気分やめろ!兄弟が思ってる程現世ってのはいいとこでもな....くはないけど」
何やら苦い思い出がゼストの頭を過ったようだ、深くは詮索しないでおこうとヤマシロは決意する
「それはそうと本当にどこまで歩くんだよ、別に特別な場所からじゃないと行けないわけじゃないんだろ?」
「まぁ、そりゃそうだがなるべく人目のつかない所で移動したいんだよ。後々面倒なことになったら困るの俺たちだし」
それに、とゼストが周りを警戒している様子で言葉を続ける
「俺たち、さっきから誰かに見られてる気がしないか?」
ゼストが脳波を広げながらヤマシロに尋ねる
そう、ゼストはずっと誰かにつけられている気がして仕方なかったのだ
三途の川は元々人目のつかない絶好のスポットなのだがそんな人目のつかない場所では不自然な程視線を感じていたのだ、ずっと誰かに見られている気がして
「いや、俺はそんなこと全然だけど」
ヤマシロも脳波を周囲一体に展開する
ついでに念のために閻魔帳も取り出す
瞬間、閃光が走った
ヤマシロとゼストを分断するように上空から一つの大きな雷が落ちる
「ゼスト!」
「俺は大丈夫だ、だが一体なんなんだ!?」
雷はやがてヒトの形を象っていく
消えることなくその場に留まり続けてバチバチと青白い火花が飛び散る
「まさか...」
上空からもうもう一つ先ほどとは比べほどにならない大きな雷鳴が一本の槍のように三途の川を貫いた
ヤマシロとゼストは衝撃に耐えきれずに後方に回避した
「親父!?」
「全ては我らの秩序の為に、ここで潰れてろ小僧共ォ!」
雷親父こと先代閻魔大王、ゴクヤマが全身に雷を纏って降臨した
キャラクター紹介
畠斑謡代(はたむらようだい)
種族:鬼
年齢:320歳(人間でいう32歳)
趣味:筋トレ
イメージボイス:吉野裕行
詳細:麻稚の一番の部下で信頼も厚い人物
煽てたら頑張るタイプで、その特性を活かして亜逗子に一騎打ちで勝利したこともある
ちなみに既婚者で妻と子供もいる