閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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話がややこしくなってきた(^^;;




Seventiseventh Judge

天国から暗雲が祓われ、漏れ出した瘴気も光によって徐々に浄化されていく

 

「う、ぐぅ」

 

脳波を一定量以上使用したヤマクロは浮遊術に使う脳波に余裕がなくなり草薙の剣弍道を片手で握ったまま落下していく

地面に到達した時に痛みも衝撃もやって来ることはなく暖かい光に包まれている気がした

 

「大丈夫でしょうか、ヤマクロ様」

 

どうやら月夜命が何らかの力で受け止めてくれたらしい

月を神格化したとも言われるだけあって光は月光のようだった

 

「うん、大丈夫。ありがとう、月夜命さん」

 

「お礼を言うのはこちらの方です。姉上が魂を込めて創造なされた力を十分に発揮していただいて、これほど嬉しいことはありません」

 

ヤマクロは草薙の剣弍道を鞘に仕舞う

ガラスの破片にヤマクロの姿が映っており、いつの間にか瞳は元の黒に戻っていたことに気がつく

瞬間、ヤマクロの体にドッと疲労が乗し掛かってきた

 

「あれほどの脳波を酷使したのです。脳への負担は凄まじいモノでしょう」

 

あの一瞬、ヤマクロは二人分の脳波を使ったと言っても過言ではなかった

もう一人の自分の力と彼本来の力と草薙の剣弍道の力が合わさり、初めて大きな力が放出できたのだ

 

「兄貴、少しゆっくりしたいのはわかるけど後始末と確認もしねェと」

 

「そうでしたね」

 

素戔嗚尊が月夜命を呼び掛けて月夜命はゆっくりと立ち上がる

素戔嗚尊の話によるとあの瘴気による黒い柱は地獄からの影響は少なからずあったのだが全部が全部という訳ではないらしい

何やら別の力が働き本来生まれるべきではない餓鬼が生まれ、天国に大ダメージを与えたのだという

 

ヤマクロはその正体を月夜命から既に聞いているのだがどうも実感が湧かずに未だに半信半疑の状態なのだ

それほど現在起こっている出来事はスケールの大きいモノなのだ

そしてそれの存在自体も信用し難い代物なのだから

 

「ではヤマクロ様、私達はこれにて失礼させていただきます。兄上様によろしくお伝えください」

 

「あんたのこと見くびってたこと謝るよ、中々肝っ玉座ったお方だよ。今度神の国まで来たら酒でも飲み交わそうぜ」

 

「では、これにて」

 

月夜命と素戔嗚尊は空港に出来た大穴の下に向かって飛行していく

 

「ねぇ、月夜命さんの話どう思う?信用したいんだけど本当にそんなモノが存在するのかな?」

 

【ボクに聞くなよ。でも誰でもそういうことは望むはずだ、何らかの偶然が重なって実現させる奴がいても不思議じゃないと思うよ】

 

「.....そうだね」

 

ヤマクロは息を飲み込み立ち上がった

天国の事態は何とか解決した、だがそれで天地の裁判所の問題が解決したとは考えずらい

普段平和な天国でもこれほどの大きな事態に発展したのだから天国よりも現世に近い裁判所は更に大きな脅威に襲われている可能性が高い

しかし天国から裁判所へ戻ろうとしても浮遊術で到達するかわからない

それに極度の脳波の使用により先ほどから頭痛が激しいので、とても浮遊術で飛べる余裕がなかった

 

「ヤマクロ君!無事かー!?」

 

「ご、五右衛門さん」

 

ヤマクロが壁に体を預けていると避難したはずの五右衛門達がこちらに向かって走ってきた

 

「五右衛門さん、避難したんじゃ」

 

「旦那の弟を置いて避難なんてできるかよ!皆戦ってたんだよ!」

 

「え、この人閻魔様の弟なの!?」

 

「そうか末田、お主いなかったんだったの」

 

ヤマクロはその様子を見て少し安心した

兄であるヤマシロの守ってきた人達の笑顔を自分が守ることができたのだから

 

「フッ、閻魔の弟か。だがやはり俺の方が背もビジュアルも上回っているようだな!」

 

「謙信、お前何で子供と身長のことで張り合ってんだよ」

 

「.....この人があの上杉謙信?」

 

「残念ながらそうなんだ、現実って残酷だよな」

 

【紛れ込んだ馬鹿な一般人じゃなかったんだね】

 

今も手鏡に自分の顔を映して怪しげな笑みを浮かべている謙信に冷ややかな視線を送る一同、本当に何をどうやったらこんなことになってしまったのだろうか?

 

「五右衛門さん、そう言えば夏紀ちゃんは?」

 

「瓶ちゃんとどこか遠くへ避難したんだけどどこに行ったのかな?」

 

五右衛門はポケットから携帯電話を取り出して電話を掛ける、おそらく瓶山に掛けるのだろう

 

「ヤマクロよ、夏紀ちゃんの気はあっちから感じるぞ」

 

「.....気?」

 

信長はヤマクロの肩に手を置いて明後日の方向を指す

その前にヤマクロは気が何なのかをよく理解していなかったので頭にクエスチョンマークを浮かべただけである

 

「ヤマクロ君、瓶ちゃん達近くにいるらしいぜ」

 

「本当!?」

 

「本当だよ!」

 

「良かった.....?」

 

ここでヤマクロと五右衛門はある違和感を感じた

何やら途中からヤマクロでも五右衛門でもない少女の声が聞こえた気がしたのだ

しかもどこかで聞き覚えのある

 

「夏紀ちゃん、むぐっ!?」

 

「ヤマクロ君!」

 

ヤマクロが後ろを振り返ると夏紀が笑顔で立っていた

そしてヤマクロが反応するよりも早くにヤマクロを抱きしめた

身長的には同じ背丈なのだがヤマクロは腰を下ろしているので夏紀の方が僅かに高いことになる

 

「無事でよかった、本当に!」

 

「な、夏紀ちゃん、く、くる、苦しい...」

 

「瓶ちゃん、いつ戻ってきたんだよ?」

 

「つい今さ、本当に電話があってすぐ。そこまで遠くまで行っていたわけでもないし」

 

「そういや夏紀ちゃんの熱は引いたのか?」

 

「不思議なことにあっさりと引いたな」

 

一先ずは平穏な雰囲気が戻ってきたことに喜びを感じていた

ヤマクロとしては一刻も早く裁判所へ戻る方法を知りたいのだが今は頭を休めることを優先にした

 

夏紀からやっとのことで解放されたヤマクロは呼吸を整えて気になることを口に出す

 

「五右衛門さん、ここにボクの母さんいなかった?」

 

そう、事態が悪化する直前にヤマクロは自身の母らしき人物とすれ違っていたのだ

そのことがずっと気がかりでヤマクロは事件の解決と同時にそのことを考えていたのだ

 

「母さん?」

 

「うん、もう昔に死んだって聞いたのにここにいたから」

 

「そりゃ死んだら天国か地獄にやって来る。それで天国に来たって訳じゃないのか?」

 

「それが現世の人間ならね。こっちの世界で生まれ育ったボクや兄さんみたいな存在は死んじゃうと輪廻転生の輪に乗って新たな命として生まれ変わるんだよ。だからこっちにいるなんて絶対にありえないんだ、だから考えられるのは」

 

「ヤマクロ君や旦那のお袋さんが実は死んでないってことか?」

 

ヤマクロはコクリと頷いた

 

 

 

天地の裁判所、麒麟亭と繋がる渡り廊下前

 

「あれ?閻魔様は?」

 

到着が少々遅れた査逆が近辺をうろうろとしていたのは余談である

 

 

 

「兄貴、やっぱりコレは...」

 

「えぇ、ほぼ間違いないでしょう」

 

一方、天国を襲った瘴気の柱によって出来た大穴に入り込んだ月夜命と素戔嗚尊は予想的中、といっても悪い方の予想が的中してしまい苦虫を潰したような表情を浮かべていた

 

「早くキリストさんと姉貴に報告しないと、空間が歪み始めている」

 

「えぇ、急ぎましょう!」

 

月夜命と素戔嗚尊は神の国を目指して急速に上昇した

 

 

 

「ゼスト、今のこの状況を簡単に説明してくれ」

 

「ズハリ言うぞ、わからん!」

 

その頃、三途の川に到着したヤマシロとゼストは目の前の光景を未だに受け入れられずに立ち往生していた

川の向こう岸は相変わらず見えそうにないが何か起こっていることは確実的であろう

 

「麻稚の部下達がいるはずなんだがな、この三途の川も広いからもしかしたら見つからないかもな」

 

「どっちにしろ異常事態でここが一番どうにかしなきゃならない所ってのもたしかだ」

 

「どうする、いくら何でもここまでの大規模だとは思いもしなかったぞ」

 

「俺だって予想外さ。たしかに空間が歪んでるとは聞いていたけどここまで歪むことはなかっただろうに」

 

二人はどうしようもなく途方に暮れかけていた

何をすべきかは明確になっているのだがあまりのスケールの大きさにどこから手をつければいいものかわからずにいるのだ

 

しばらく三途の川を歩いていると上空から何かが降ってくる気がした

 

「おい兄弟、何か降って来てないか?」

 

「おいおい勘弁してくれよ、いくら何でも空からあんなでっかい鉄の塊....」

 

気がしたのではなかった、空から大きな鉄の塊が降ってきた

 

「ちょ...!?」

 

「チィ!」

 

ゼストは瞬時に脳波を凍属性に変換させて鉄の塊、もとい遊覧船を受け止めた

 

「クソ、まさか遊覧船が降ってくるなんてな!」

 

「おいゼスト、アレは一体何なんだ?」

 

「あれは現世の乗り物だ、遊覧船って言って水上を走るのに特化してんだ」

 

つまり、船底に水分が溜まっていたので遊覧船は見事な氷の造形に姿を変えた

見た感じ古く錆びているので廃棄処分するつもりの物だったのだろう

 

「おい、まだ降って...」

 

ヤマシロが上空を見上げながらゼストに声を掛ける

標札、信号機、電柱、バス、トラック、漁船、飛行機、戦車、戦闘機、本棚、廃屋と種々多様な現世の人工物が三途の川に降り注いだ

 

「どうすんだゼスト!?」

 

「決まってる!一つ残らず凍てつかせるッ!」

 

ゼストが広げれる範囲限界まで脳波を極限に広げる

そしてゼストを中心に脳波に属性を与え変換させる

上層部を中心に集中力を注ぎ、落下してくるまでに凍てつかせて空中に数多くの氷の造形物を完成させる

 

「ハァ、ハァ、ハァ....」

 

予想以上の脳波を酷使してしまったゼストは膝を着きその場に体を預ける

 

「大丈夫かゼスト」

 

「大丈夫だ、この程度休めばすぐ回復する」

 

ゼストは息を整えながら自身の影から一つボトルを取り出す

中身は飲料水のようで蓋を開くと一気に飲み干す

 

「兄弟、どうやらこの問題はこっちにいるだけじゃ絶対に解決しない大事みたいだ」

 

「ゼスト、それって」

 

「応、現世に行くしかなさそうだ」

 

「じゃあ俺はこっちで」

 

「いや」

 

ゼストはゆっくりと立ち上がりヤマシロの肩を掴むと真剣な声色で告げる

 

「兄弟、お前も一緒だ」

 




キャラクター紹介

金平貪欲(かねひらどんよく)
種族:鬼
年齢:500歳(人間でいう50歳)
趣味:賭け事全般、金儲け
イメージボイス:加藤康之
詳細:金こそが全てと考えている鬼
天地の裁判所で働き始めた動機も給料がいいという理由だけである
四天王の中では最年長で長年その座に居座っている


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