閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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キャラクターが予定よりも多くなりすぎて大変なことになってきました(^^)


Seventieth Judge

 

ほんの少しだけ時を遡り...

天国に向かったヤマクロは夏紀、五右衛門、瓶山、信長、信玄と行動していた

嫉妬と何やらドス黒い感情に囚われてしまった瓶山と信長と信玄を置いて二人の元へ五右衛門は向かって三人から遠ざける

本当にあの三人の近くにいたら悪影響が及んでしまいそうで心配になってきたのだ

 

「五右衛門さんは兄さんとどうやって知り合ったの?」

 

「俺?俺が旦那と出会ったのは何の変哲もないある昼下がりでな」

 

ある程度の情報をぼかしてヤマクロにあの日のことを五右衛門は楽しそうに話す

夏紀も気になったのか五右衛門の話に興味津々に耳を傾ける

話している内に五右衛門もかつての自分の愚かな行いに笑みを零す

どうして何百年もあんな小さなことで悩んでいたのか、今までにどれほど無駄な時間を費やしその費やした時間でどれほどのことができたろうか

仮定すれば仮定するほど生前の様々な日々が同時に頭を過る

 

話の途中で近くにベンチを見つけ立ち話は疲れてしまうのでベンチに腰掛ける

ヤマクロと夏紀も五右衛門を挟むように座る

最初は五右衛門とヤマシロの出会いについての話だったのだが国語力の乏しい五右衛門にしては語れるだけ語り尽くしたつもりなので他愛のない雑談に変わっていく

その様子を遠くから何も知らない人々が見ているとまるで親子か歳の離れた兄弟が仲良く話している微笑ましい様子にしか見えない

 

「実は私もヤマシロに助けられたんだよね。三途の川で」

 

「え、そうなの?」

 

「その後俺達があちこちを駆け回って瓶ちゃんと再会できたんだったよな、今思えば旦那がいなかったら今の俺たちの繋がりはなかったかもしれないなぁ」

 

ハハハハハ、と五右衛門は本当に嬉しそうに笑みを浮かべる

夏紀も嬉しそうな笑顔でヤマクロと五右衛門に目を向ける

どちらもヤマクロの知らない出来事でもう関わりたくても過ぎ去ってしまった出来事だ

それでも自分の兄がここまで頼りにされていて彼らにとって大きな存在であることがとても嬉しかった

 

「.....やっぱり兄さんは凄いや」

 

ヤマクロは誰にも聞こえないくらいの小さな声で空を仰ぎながら呟いた

空には裁判所で見ることのできない青い空と白い雲が広がっている

こんな平和な光景を歴代の閻魔大王達が守り続けてきており、自分にもその血が流れているとこが何だかとても誇らしかった

ヤマクロ自身は長い間ヒトに関わるどころか偽りの自分を表に出して自ら進んで孤独に逃げていた気もする

だからこそヒトとヒトの繋がりの大切さ、温もり、愛おしさを自ら拒絶してしまっていたのかもしれない

もしかしたらヤマシロはこのことをヤマクロに知ってもらいたかったから天国に連れてきてくれたのかもしれない

 

「そんじゃお二人さん、そろそろ瓶ちゃん達も心配するから戻るとしますか」

 

「うん、コンサートもそろそろ始まるしね!」

 

「もうそんな時間か。結構話し込んじまったな」

 

五右衛門と夏紀が軽く言葉を交わし合いながら歩き始める

ヤマクロも少し遅れて追いかけるように歩き始める

急いで歩き始めてしまったせいか、前方が不注意となってしまいヤマクロは通行人とぶつかってしまう

 

「あ、すみません」

 

「いえいえ、こちらこ...」

 

ヤマクロは通行人の女性の顔を見て時間が止まった感覚になった

瞬時に音が消え通行人の女性と二人だけになってしまったような錯覚さえも覚えてしまう

通行人の女性はそそくさとその場を歩き去ってしまう

 

「.....母、さん?」

 

人集りでわからなくなってしまったがヤマクロはしばらく女性が去って行った方向を呆然と凝視していた

まるで金縛りにあって動けなくなってしまったみたいにヤマクロの体は言うことをきかなかった

 

「ヤマクロ君!早くしようよ、お父さん達心配しちゃうよー!」

 

夏紀の言葉で我に返ったヤマクロは視線を動かし、夏紀と五右衛門が待つ方向に目を向ける

現実を見なければならない、ヤマクロとヤマシロの母はもう既に輪廻転生の輪に乗って現世にも来世にもいないのだ

いつまでも引きずっているわけにはいかない

 

「ごめん、今行くー!」

 

ヤマクロは大きく手を振り返して夏紀と五右衛門の元へ走り始める

ここでヤマクロはある異変に気がつく

天国なのに僅かに瘴気の気配がした

本来瘴気は地獄に漂い地獄を構成するのを支える重要な役割を果たしている

天国は瘴気を防ぐ結界のようなモノが大昔から貼られているはずである

 

明らかに普通ではなかった

 

「夏紀ちゃん、五右衛門さん、すぐここから...」

 

瞬間、目の前の天国と裁判所を繋ぐ空港をドス黒い瘴気の火柱が貫いた

 

「え?」

 

一瞬だった、一瞬でパニックになり人々が悲鳴を上げ空港から離れるように人が一気に移動を始めた

 

「なんだ!?」

 

五右衛門はヤマクロと夏紀を庇うように前へと自らが動く

瘴気は徐々に空気に浸透していき空を覆い始めた

ヤマクロは呆然した状態から瞬時に立ち直り、今自分が何をすべきかという結論を導き出す

 

「五右衛門さん、夏紀ちゃんのこと頼みます!ボクはこのことを兄さんに知らせないといけないので」

 

「わかった、任せとけ!」

 

この非常事態にも関わらず五右衛門は狼狽えも怯えたりもせずに冷静な状態を保ち続けている

流石は生前様々な場所で盗みを働き何度も危険な目にあってきたため要領が良かった

夏紀は未だに現状を理解できず五右衛門の足にしがみついている

 

「兄さん!」

 

『ヤマクロか、どうした!?』

 

どうやら向こうでも何か起こっているようでヤマシロの声に余裕が感じられなかった

それでも今ここで起こっている事態を伝えなければならない

 

「兄さん、天国にとてつもない量の瘴気が激突した。空港が爆発を起こしてパニックになってる」

 

『まさか、そっちにも影響が...!?」

 

「そっちは?」

 

『地獄で異常気象とも言えるほどの大問題が起こっている。悪いがこっちのことが手一杯でそっちに行けそうにない。天国はお前に任せる』

 

「.....ボクでいいの?」

 

『お前以外誰がいるんだよ。大丈夫、信長とかも思いっきりコキ使ってやれ、自信を持て!お前は俺の弟だ!』

 

「兄さん...」

 

『そっちの空港が機能停止した今、俺がそっちに行く術は現状ないんだ。お前だけが頼りだ!』

 

ヤマシロの言葉には責任の重みも、かつての敵対していたころの感情も存在しなかった

心の底からヤマシロはヤマクロという一個人に期待していたのだ

ヤマクロはうっすらと笑みを浮かべる

 

「わかった。こっちは任せてよ、兄さん!」

 

 

 

「今の通信は坊ちゃんから?」

 

「そうだ、あいつにこんな偉そうなこと言っちまったんだ。俺たちも負けてられねェな!」

 

一方、天地の裁判所ではヤマシロと枡崎がこの怪奇現象のことを分析しながら使える者たちを片っ端から指示を与えている

麻稚は自らの管轄地である三途の川へ部下を数人連れて向かって行った

地獄や天国でも異変が起こっている中で三途の川だけが無事なはずがない気がしたのだ

 

「どちらにしろタダ事じゃなさそうだ、俺たちは俺たちに出来ることを少しずつ済ませるぞ!」

 

「はい!」

 

ヤマシロと枡崎は麒麟亭へと向かっていた

麒麟亭はこの天地の裁判所で働く鬼たちの巨大な共同住居、裁判所に出社していない鬼たちもこの異変に戸惑いパニックに近い状態のはずだ

誰かが声を掛けなければパニックが収まることはない

 

「閻魔様ッ!」

 

唐突に枡崎は叫ぶ

どうやら地獄に降り注いでいる黒い雷が何があってかは知らないがこちらに向かってきたようだ

このまま真っ直ぐ標準が変わらなければヤマシロに直撃してしまう

 

しかし、ヤマシロはあくまでも冷静に対処する

閻魔帳を出現させページを一枚破り黒い雷に投げつけると、黒い雷は標準を変え地獄へと真っ直ぐ降っていった

 

「落ち着け枡崎、平成を欠けてしままえば見るべきモノが見えなくなってしまう」

 

枡崎は口には出さなかったが静かに頷いた

 

(やはり、この方はすごい!最年少ながらも閻魔大王に任命されただけはある!)

 

実は枡崎仁という一人の男はヤマシロ就任時からヤマシロに対して非常に強い憧れを抱いていた

年の差が少なく、それどころか年下の少年がこんなにもの責任感のある役職に務め、どんな時でも冷静に対処する

本当に凄いと、あの人の下でなら働けると年月を重ねるごとにその想いは次第に強くなっていった

 

だからこそ、現在枡崎はヤマシロの隣に立てていることに対してこれ以上ないくらいの喜びを感じているのだ

 

(この人からまだまだ学べることがある!この人となら僕はきっと強くなれる!)

 

静かな喜びと決意を胸に秘めて枡崎はヤマシロに置いて行かれぬように必死に追いかけた、憧れのヒトの大きな大きな背中を...

 

 

 

天地の裁判所、物陰喫茶「MEIDO」の手前...

 

「そ、そんなことが」

 

「.....驚き」

 

「今言ったことは本当だ、恐らく閻魔さんは既に奮闘なさってるだろうな。今笹雅が閻魔さんのトコに行ってるから戻ってくるまで俺たちは待機だ」

 

「.....待機?」

 

「そうだ、いくら何でも閻魔さんの指示なしで動くのは危険だ。今何が起こってゐるのかも詳しくわからなゐのに独断で動ゐて事態を悪化させるわけにはゐかなゐからな」

 

煉獄は無事に間宮と東雲と合流することに成功した

二人とも突然のことで状況が飲み込めずにいたが実際に地獄を見ることで納得したようだ、今起こっていることがタダ事ではないことに

 

「煉獄さーん!」

 

一通りの説明を終えたところで笹雅が走りながらやって来た

 

「笹雅、早かったな!」

 

「俺っちだってやる時はやるんッスよ、閻魔様からの伝言で亡者を避難させてくれだそうです。あと、査逆さんも自由に使っていいって」

 

「了解」

 

煉獄は短く返事をすると、査逆を自由に使っていいということに日頃の苦労の分きっちり働いてもらおうとプランを練り始めた

 

「あ、あのー、煉ご、くさん?」

 

「ん、あぁ、ごめんね胡桃ちゃん」

 

東雲が煉獄に声をかけて煉獄は現実に戻された

 

「じゃあ今すぐ地獄に向かおう。査逆さんも連れて行きたゐから図書館に寄ることを前提とした最短ルートで向かおう」

 

「依存ないッス!」

 

「.....俺が館長呼んでくる、だから煉獄さんは先に行ってて」

 

「わ、私も問題ないです」

 

「よし!じゃあ間宮、図書館まで行って妄想女を呼んできてくれ。それから地獄へ向かう前に俺に通信を一本入れてくれ」

 

「.....了解」

 

間宮は図書館を目指し走り出した

正直に言えば纏まって行動したかったのだが今は一刻を争うので二つに別れてそれぞれ目的を絞った方が効率は良い

 

「よし、俺たちは今から地獄へ向かうぞ!」

 

「わかりました!」

 

「了解ッス!」

 

それぞれが事件解決へと向かって動き始めた

 




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