閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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連続投稿です(^^)


Sixtieight Judge

 

ベンガディラン図書館...

 

「月見里ー、いるかー!?」

 

「はいはい、いるいる。だからそんな大声で叫ばない」

 

やれやれと言った様子で査逆が髪を弄りながらカツカツと何処からか姿を現す

普段亜逗子はこのような知識の溜まり場のような場所に用はなく来ることはないのだがヤマシロからの指示では仕方ないと言った様子である

 

「貴方がこんなとこに来るなんてね、マジでウチは驚き隠せないんですけど」

 

「どうでもいいだろ。あたいだってこんなトコ来たくなかったよ」

 

「そう言いなさんなよ」

 

査逆はケタケタと笑い始める

目元は髪が掛かっていて見ることはできないが怪しく輝いていることが少し離れてていても確認することができる

 

「安心しなよ、今煉獄君はいないからさ」

 

「.....何であいつの名前が出てくんだよ?」

 

これだからこの女は昔から苦手だった

何を考えているのかわからないくせに実力はあるし、それなりの知識も所有している

その上ヤマシロからもある程度の信頼も持っている

「まぁいいわ、」と査逆が一言で話を切り替える

 

「それで、何をお探しなのかしらね?天地の裁判所鬼の部隊総隊長、赤鬼紅亜逗子さん」

 

査逆の台詞の嫌味を感じ取ったのか亜逗子は苦虫を潰したような表情を浮かべ一つ舌打ちをする

 

「呪殺ってモンについてだ」

 

亜逗子の一言で査逆の表情が変わる

 

「.....くっ」

 

口の端をゆっくりと吊り上げて、

 

「くぅははははははははははははははは、はははははははははははははははははははははは!!」

 

まるで狂った変人の様に声を裏返して大声で笑い始めた

その態度に亜逗子の血は登り、査逆の胸ぐらを思いっきり掴みかかった

 

「お前、馬鹿にしてんのか?」

 

「とんでもない、まさか貴女からそんな言葉が出て来るなんてね。意外だしマジで興味深いと言ったところね」

 

亜逗子はその対応に対して更に腹を立てて首を握りしめる

元々亜逗子は短絡的でムカつく相手に関しては手加減など忘れてしまうほどの力で正面から捩じ伏せる性格をしている

彼女としても今回は穏便かつ平和に終わらせたかったのだが査逆の態度によってそれは叶わぬモノとなってしまった

 

「は、離しな...よ、ウチの、首を絞めた...トコで、あんたの、知り、たいこ...とが、わかるわけじゃ、ない、よ」

 

「..........」

 

亜逗子は無言で査逆を投げ捨てる

 

「全く、ウチが一体何したってのさ?」

 

「別に、ただ今はあたいの腹の虫の居所が悪かっただけだ」

 

普段慣れない雑務作業、連続として行われた裁判と亜逗子は知らず知らずの内に心理的なストレスを感じていたのだ

だから誰かを攻撃したくなった、だから安い挑発にも乗ってしまった

 

「.....ねぇ、煉獄君と会ってるの?」

 

査逆が先程と打って変わって真面目な調子で尋ねる

 

「いいや、あの宴会以来会ってない」

 

「一度会ってみたら?彼会いたそうにしてたよ?」

 

「.....いい、それより呪殺に関する資料はないのか?」

 

亜逗子の声のトーンが少し暗くなったのを査逆は見逃さなかった

査逆は少し寂しそうな表情を浮かべ、やがて覚悟を決めたような雰囲気で告げる

 

「ねぇ亜逗子、ウチがこの目を隠してる理由って話したことあったっけ?」

 

 

 

一方同時刻、天地の裁判所第二資料室ではヤマシロと麻稚が枡崎に頼み調査と言って部屋を開放してもらった

 

「.....なんでお前もついてきてんだよ」

 

「別にいいじゃないですか。少しでも人数が多い方が片付きやすいことですし」

 

そう、本来麻稚は亜逗子の方に付いて行くはずだったのだが何故かこちらに付いて来てしまったのだ

.....亜逗子一人を図書館に行かせるのは不安しかヤマシロにはなかったのだがその不安が正に的中しているなんてことまでは知る由もない

 

「それで閻魔様、お探しの資料は呪殺についてでしたよね?」

 

「あぁ、できるだけ早めに目を通したいんだが...」

 

「でしたら、私からも知っていることは話しましょう」

 

枡崎は手元の資料を一旦机の上に置きヤマシロのことを見据える

 

「枡崎さん、何かご存知なのでしょうか?」

 

「えぇ、実は昔そちらの方の研究をしていた時代がありましてね」

 

ヤマシロと麻稚からしたら意外なことだったが嬉しいことでもあった

資料をただ読むだけでなく研究をしていた経験者から聞くことのできる話ほど貴重なモノはないからだ

 

「そもそも呪殺、いえ呪いというモノは脳波の応用の一つなんです」

 

「脳波の?」

 

「イメージをして放つのです。物に呪いを込める時には恨みや憎悪といった感情そのものを脳波に通して、遠距離間で対象の相手に呪いをかけたければその相手のことを強く念じて脳波を飛ばすといった類です。つまり脳波にマイナスの思念を乗せることで呪いが成立するわけです」

 

つまり対象に病のイメージを送れば呪いによって病が発症したと勘違いさせ、不自然な死を演出することも可能となる

 

「呪殺も脳波の応用です、例えば藁人形に釘を打ち付ける行為なんかでいいでしょう。アレは藁人形に対象の髪の毛など強い思念が残っているモノを使い、木槌に怨念など憎悪といった脳波を纏わせて釘を打ち付ける。対象の強い思念が残っているモノというのは離れてもある程度は見えない力で繋がっているのです。だからこそ呪いの類には昔から髪の毛や骨などの体の一部が使われることが多かったのです」

 

「骨?」

 

「呪いというモノは非常に厄介で死後にも影響を及ぼしたり死んでから初めて発動するモノもあるのです。だからこそ対象の骨というのは思念の塊ですからよく使われていたのです」

 

「まぁ、既に死んだ者を恨むほどの極悪人ならほとんどが地獄ですけどね」と枡崎は補足する

どうやら呪いというものは現世と来世の境界をも通過するようだ

 

「なぁ枡崎、逆はどうなるんだ?」

 

「逆、と言いますと?」

 

「こっちから現世に呪いを送ることは可能なのか?」

 

「.....あまり過去にないケースなのでわかりませんが、死神のようにこちらからあちらに行く術があるのですから不可能ではなさそうですね」

 

枡崎は顎に手を当てながら慎重に言葉を選びながら応える

 

「麻稚」

 

「えぇ、こちらから何らかの力が働いた可能性も捨て切れませんね」

 

ヤマシロと麻稚の知識では現世で脳波の存在に気がついた人間はいない

無意識に使っている可能性もあるが今回は確実性を求める、憶測や推測で判断していい問題ではないため一つでも確かな情報が必要となる

 

(最近の亡者の様子といい最近の仕事の量といい、ゼストと顔を合わせる回数が減ったことといい、全部こっちの世界が関係してんのか?もしかしてあの時分散した瘴気に関係が、それとも...)

 

「閻魔様、あまり難しく考えては泥沼にはまってしまいますよ」

 

麻稚が笑みを浮かべながら告げる

 

「麻稚...」

 

「私は貴方の片腕です。貴方が頼るべき存在です、貴方には裁判所の皆様や私達がついています」

 

枡崎も首を縦に振る

 

「.....ありがとう麻稚」

 

ヤマシロも笑顔で彼らの期待に応えたいと思った

こんなにも頼もしい部下達がいることに改めて気づかされた

 

不意に頭に激痛が走る

 

「閻魔様!?」

 

「だ、大丈夫だ。通信が入っただけだ」

 

脳波による通話技術、脳話

脳波を広げて対象の脳波と繋げることでテレパシーのように会話をすることができる

しかし、一気に複数の脳波を受信したり脳波を展開していないのに無理矢理引っ張り出された時には今のヤマシロのような症状が発生してしまう

 

「お、俺だ。どうした?」

 

『閻魔様!大変です、地獄のそ、空が...!』

 

この時、ヤマシロは妙な胸騒ぎとともに大きな何か得体の知れない力を感じ取っていた

 




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