閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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今回はヤマシロの出番ゼロです(笑)


Sixtiesixth Judge

 

煉獄はベンガディラン図書館に戻る前に少し寄り道をし、途中で東雲が慌てた様子で走っているのを見つけ事情を聞いたところ、何やら煉獄のことを探していたらしい

急いで図書館に戻ってきてほしいと涙目でテンパり主語と述語が反対になったり動詞が動詞を行っているとか文法から崩れてしまった彼女の慌て具合は尋常ではないものと判断し急いで図書館に戻ると...

 

「あ、煉獄さん!良かった...」

 

笹雅と間宮がホッと安堵の息を吐く

間宮は言葉は発していないが笑顔を浮かべたところから安心している様子が読み取れる

 

「笹雅、一体何があったんだ?」

 

「えっと、ちょっと俺っちの口からじゃ言いにくくて...」

 

あははは、と笹雅はバツが悪そうな笑みを浮かべながら冷や汗をタラタラと流している

煉獄は間宮の方にも目を向けるが首を横に振るだけだった

基本間宮は無口なため言葉を発すること自体が希少である

煉獄もそのことは十分に承知していた

実際見た方が早いと判断した煉獄は扉を開き、ズカズカと歩き始める

今天地の裁判所には仕事が大量に入り込んでいるので読書をしている鬼は少ないが調べ物をしている者は多数いる

元々来る者が決まっているこの本だけが無駄に多い図書館で喚こうが騒ごうが誰も咎めはしないのだが、図書館では静かにという暗黙の了解が成立しているため図書館内にいる者は誰一人として話す者はいなかった

.....どちらかと言うと煉獄達従業員がうるさい気もするのだがそれは恐らく上司のせいなのでここでは気にしないでいただきたい

 

その上司が目の前でヨダレを垂らしながら項垂れていることも見逃していただきたい

 

「うへへへへ、坊っちゃ〜ん。置いていかないでくださいよ〜」

 

「........................................................笹雅、間宮、胡桃ちゃん」

 

「えぇ、そのまさかです」

 

「俺っち達じゃ手に負えなくて...」

 

「.....迷惑ですので」

 

たしかに迷惑だけど、と煉獄は溜息を一つ漏らしながら三人の名前を順に呼ぶと東雲、笹雅、間宮の順で応える

東雲は何やら自分の上司の駄目っぷりに嘆くように、笹雅はあくまでも笑みは崩さずに苦笑いをしながら申し訳なさそうに、間宮に至ってはゴミクズを見るような冷たい視線で

煉獄は顔に手を当てアチャー、と言いそうな仕草をして静かに溜息を吐く

煉獄達の上司、月見里査逆はあの日以来元々駄目だったのに更に堕落してしまったと煉獄は常々感じている

ヤマクロが救われて査逆も彼の世話役に配属されたのだがそれでも長年勤めていた図書館館長という重要役職を放棄するわけにもいかない、煉獄が継げばいい話なのだが本人が拒否したので査逆は未だに図書館館長をしながらヤマクロの世話役の役職に就ている

ちなみに東雲胡桃、笹雅光清、間宮樺太の三人は月見里査逆ではなく彼女の部下の煉獄京に憧れを抱いてここに勤めている

つまり査逆に対する尊敬心は特にないし、お世話になっている上司とか恩も感じる暇すらない

煉獄の方が明らかに人望もカリスマ性も彼女を上回ってしまった結果である

特に間宮にいたっては何故か査逆に嫌悪感を抱いてしまっている

 

だからこそこの場に煉獄が呼ばれたのだ

ここに就任して日が浅い三人よりも古株の煉獄ならばこの駄目上司の扱い方もよく知っているだろうというのが三人の意見である

 

(......な〜んかあんまり嬉しくなゐ頼られ方だよな)

 

本来ならば部下が上司を頼ってくれることは嬉しいことのはずなのだが何故か今回に限ってはそこまで嬉しいとは感じなかった、いや逆に落胆というかそんな残念な感情さえも湧き上がってくる

あまり気が乗らない我らが煉獄だったがこのままこの上司を放置していても状況はプラス面に働くことは絶対にないだろう、むしろただでさえ堕落しきっている評判が更に落ちる結果となってしまう

 

煉獄は覚悟を決めて「えへへ、えへ、でへへへ、坊っちゃん坊っちゃん坊っちゃん坊っちゃん坊っちゃん坊っちゃん坊っちゃん坊っちゃん坊っちゃん」と何やら自分の世界に入り込み過ぎて元々危ない性格が修復できないくらい病んでしまいそうな勢いの査逆の背後にゆっくりも近づき、椅子に手をかけて全力で引っこ抜いた

 

「むきゃ!?」

 

椅子という支えを失った査逆の体は重力に従って落下する

煉獄は無機質な機械のような、まるで喜怒哀楽の喜と楽を抜いた冷たい目で査逆を見下す

どうやら今の一連の動作で査逆は桃色の頭の世界から帰還したようでキッと煉獄を涙目(目は髪で隠れてるけど多分涙目)で睨みつける

 

「いてて、ちょ、煉獄君!?いきなり何すんのよ!ウチ本気で怒っちゃうよー!」

 

「少し黙ってろ病原菌、ここは図書館だ。静かに無駄な時間を過ごすのが暗黙のルールなんだよクソッタレ」

 

「今までにないくらいマジで罵られたー!?」

 

立場逆転である

最近では彼唯一の弱点と言ってもいい鎖のジャラジャラという音も克服してしまっているので査逆が煉獄に勝てる要素は戦闘という選択肢以外になくなってしまう

しかしここは図書館なので戦闘をするわけにはいかない、何故なら壊した分の修繕費として査逆の給料が減ってしまうからだ!

基本的に管轄場所の損害やその他諸々の被害の修繕費はそこの責任者の給料からゴッソリと減らされる

ちなみに最近の被害者は地獄の大規模の修繕のため給料が減った亜逗子である

.....彼女の場合は半分以上自分自身で破壊したため自業自得でもある

 

「笹雅、間宮、胡桃ちゃん、よく覚ゑとゐてね。こうゐう輩の扱い方は多少の暴力、罵詈雑言でも許されるってことをね」

 

「無駄にマジ爽やかな笑顔で何言ってんのー!?まだ就任したててでピュアな方達に変なことを教えな」

 

「了解ッス、俺っちも日頃のストレスを解消するために参考にさせてもらうッス!」

 

「ええ、と、何言っても許されるんですね?」

 

「.....早速実行」

 

「もう既に全員承知!?」

 

改めて煉獄(部下)のカリスマ性に驚かされた査逆(上司)であった

冗談抜きで下克上とか案外可能かもしれない

戦闘を抜けばの話だが...

 

(.....つか、何で俺こんなヒトに負けたんだろ?)

 

 

 

現世、日本のある山間地区

 

(反応が強くなってきた!)

 

人が住めるような環境にない巨大な大木が生い茂る森の中で死神、ゼスト・ストライカーは木から木へ人間離れした跳躍力でぴょんぴょんと移動する

普段ならばこのような大自然が支配する人気のない場所に用はないのだが今回の依頼と調査にはどうしても調べておかなければならない場所だった

現世では本来感じることのできない力、瘴気の反応が濃い場所が現れ始めたのだ

麻稚の読み通り、三途の川や来世だけでなく現世にまであの日の戦闘の影響が出ている可能性もある

あれだけの膨大な瘴気が四方八方に分散してしまったのだから地獄を越えて三途の川、そこから現世にまで飛んでしまったのだ

 

(ま、金さえ貰えればどんな調査でも仕事でも俺はやるけどね)

 

足での移動が面倒になったのか、ゼストは影に身を潜め影から影へと一気に移動する

潜影術は影に潜り影から影へと高速で移動する技術、つまり太陽の光がある程度差して木々が生い茂っていい具合に影が生成される森林にはもってこいの力である

 

そして瘴気の出処まで一気に飛ぶ

 

「ここか」

 

辺りにはやはり影響が出ていた

木々は腐敗し、動物は死に血を流していた

瘴気そのものの量は少ないが、やはりある程度耐性のある来世の住人と違い現世の生物には耐性どころか本来なら接する機会すらない

 

「ま、ちゃっちゃと終わらせるか」

 

ゼストは腰を下ろして瘴気に手を当てる

辺りに冷気が集中し、瘴気はたちまち凍てついていく

彼は脳波を自然の属性に変換する本来閻魔という種族の特権である属性変換を何故か扱うことができる

凍の属性を司る彼は脳波を冷気に変えて範囲内に入った水分を一気に凍てつかせることができる

しかし瘴気に水分は存在しない

だが辺りの冷気で包むことはできる

冷気で包んで内部に浸透させて氷に変える

彼にしかできない技術であり、ゼストだけに与えられた力

ゼストはその力を遺憾無く発揮する

そして完全に凍てついたところを見計らって氷を完全に跡形もなく粉々に踏み潰す

 

(ま、こんなもんかね。人気がなくて良かったけどこれが大都会とかにあったら処理とか大変だよな)

 

吐き捨てるように呟いてゼストはその場から姿を消した

瘴気はここ一つではない、まだやることが残っている

どうやらしばらくは現世を楽しむ暇もなさそうだ

 




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