「えぇ、ヤマクロ君って80歳なの!?私より年上じゃない!」
「でも人間と閻魔じゃ元々の寿命も時間の感じ方も成長速度も違うから多分夏紀ちゃんの方がお姉さんだと思うよ」
「え、そうかな?」
「うん、何か雰囲気もお姉さんっぽいし!」
「そ、そうかな、そうだよね!きっとそうだよね!」
ヤマシロは知り合いに会いヤマクロのことを説明したらそのまま裁判所に戻るつもりであったが出会った知り合いが夏紀だったので誰か大人が来るまで一緒にいることにした
いくら天国といえど幼い二人がぶらぶらするのは危険だからだ
ヤマクロも力を持っているとはいえ天国ではその使用を固く禁じられており普通の幼い少年と変わりないのだから、最もどうしようもない緊急事態の時は閻魔権限で使用可能が通ることがあるが
一応先ほどその大人の知り合いと出会いヤマシロは裁判所へ戻るつもりだったのだが...
「......閻魔様、何度もおっしゃいますがいくらあんたの弟でもウチの夏紀に手を出せばタダじゃ済ませやしませんぜ」
「わかったから肩を掴んでるその手を離してくれ、地味に痛いから!」
面倒な大人、瓶山夏紀の父親である瓶山一に絡まれていた
というか青筋をピキピキと浮かべる瓶山にヤマシロは引きつった笑みで対応し何とか裁判所まで戻りたいのだが瓶山の握力が思いの外強く中々外れないので戻れずにいる
獲物を狩るような眼光まで放ってしまっていて余計に怖い
.....娘を取られた父親は嫉妬のあまりに豹変するという迷信はどうやら嘘ではないらしい
「ていうかあんた五右衛門はどうしたんだよ?」
「この辺りで合流する予定なんだがな、また須川さんにアプローチしてる可能性があるからな」
「.....よくやるよな」
ヤマシロは呆れたように溜息を大きく一つ吐く
どうも大泥棒石川五右衛門は天国一の明治の情報屋である須川時雨に一目惚れしてしまいあの手この手でアプローチを続けているらしい
須川はヤマシロが見てきた中でもかなり美人の類に入るがあれでも中々の堅物である
流石情報屋と言ってもいいほど本性を晒すことが少なく、滅多なことがない限り感情的になることはない
しかも信長とも口喧嘩するほど仲が良いため敵は多い
もっと言えば生前坂本竜馬に救われた経験もあるらしいので彼女の気持ちはそっちにいってしまっている可能性もある
目の前で楽しそうに幸せピンク色オーラを遠慮なく放つ幼いこの二人も信長と須川のような関係になってしまう可能性があることに関しては激しく残念でならないが未来はどうなるのかわからない
あくまでも可能性の話である
.....まぁヤマシロも瓶山もそんな未来はないと願いたいのが本音なのだろうが
「おーい、瓶ちゃん!」
「五右衛門」
そんなこんだで時間を潰していると五右衛門が合流した
「あれ、ヤマシロの旦那もご一緒だったんスね!」
「よっ!」
ヤマシロと五右衛門が軽く拳を打ち付け合って簡単に挨拶を済ませる
五右衛門は信長の鞄の一件があって以来ヤマシロのことを何故か旦那と呼んでいる
そこに大した問題はないのだが天下の大泥棒に旦那と呼ばれてしまっているので時折ヤマシロは悪の親玉的な心情になってしまうこともあると言えばある
「そういや夏紀ちゃんは一緒じゃねェんスか?」
「ん」
瓶山が忌々しそうに後ろの方向に親指で指し示す
そこには五右衛門が初めて見る少年と夏紀が仲良くソフトクリームを食べている踏み込んではいけない聖地があった
「な、夏紀ちゃんにもついに彼氏が!?」
「俺は決して認めないッ!!」
親バカはとりあえず右手で五右衛門を全力で殴り飛ばした
※
一方、ヤマシロが向かおうとしたが即座に選択肢から消え去った居酒屋「黄泉送り」の一角にて、
「ほう、来週にニューシングルを発売するのか。一応チェックはしといてやろう」
「いやチェックするくらいなら買え!ていうか買ってくれ、今度は絶対に謙信の奴に負けるわけにはいかないんだ!」
「そうだ、主から直接貰うほうが早かったのう」
「何賄賂みたいに嫌らしい笑み浮かべてんだお前はッ!」
生前は天下の戦後武将であった、尾張の大うつけこと織田信長と甲斐の虎こと武田信玄が酒を飲みながら盛り上がっていた
何やら会話の流れから信長はニヤニヤと悪い笑みを浮かべ、信玄は青筋をピキピキと広げる結果となってしまい、まさに一触即発の不穏な雰囲気となってしまい他の客達は彼らの覇気を感じ取ったのかそそくさと距離を取る
「落ち着けやお前ら、ドンパチやるなら外でやってくれ。店内で暴れられちゃこっちとしても止めようがないからな」
「それは誤解だ親父。儂は何もコイツと争うつもりはない、コイツが勝手に突っかかってきただけじゃ」
「こ、のやろう...!!」
「まぁまぁ、とりあえずこれでも飲んで冷静になりな。俺の奢りだ」
「.....感謝する」
信玄は親父こと相谷宗吾(あいたにそうご)から酒を受け取るとガブガブと一気に飲み干す
相谷は天国で三年前にこの居酒屋を立ち上げて以来様々な顔見知りが自然と増えて今では親父という愛称まであるくらいだ
閻魔大王が訪れた居酒屋としても有名であり、商売繁盛なんてレベルでは済まないくらい大繁盛している
「親父、時雨の奴は今は部屋にいるのか?」
「多分な、あいつが外出する時と言えば閻魔様がおいでなすった時か気分が向いた時しかないからな」
「親父も大変じゃの」
「まぁ一応家賃は払ってもらってるから文句はないんだけどな」
相谷はポケットから葉巻を取り出しライターで火を灯す
須川時雨は転々と住居を移し替えるため「黄泉送り」に隠れ家を固定するまでは連絡はおろか行方を掴むことすら難しかった
なぜ彼女がここを隠れ家に選んだのかは相谷にも信長にも未だにわかっていないがわかることは、一日のほとんどを室内で過ごしている引きこもりということである
「何かの縁ってヤツだろ、何か食うかい?」
「枝豆と焼き鳥を貰おう」
了解、と相谷はカウンターの奥にある厨房へと姿を消した
「縁、か」
信長は静かにポツリと呟いた
キャラクター紹介
間宮樺太(まみやからふと)
種族:鬼
年齢:200歳(人間でいう20歳)
趣味:睡眠
イメージボイス:松岡禎丞
詳細:煉獄に憧れを抱き彼の部下として働いている青年
人見知りが激しく基本的に無口なのだが心を許したヒトにはグイグイといく
かなりの甘党
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