「お疲れ様でした、お目当ての資料はありましたか?」
「まぁ、上々かな?」
「そうですか」
資料室を出たヤマシロは再び受付にて担当の鬼と雑談している
「あまり長い時間いおられなかったみたいですが....お仕事ですか?」
「まぁ、突然入る可能性があるからあまり長居できないんだよ、あそこ外部との通信できないし」
「それもそうですね」
そう、あの資料室は電波も脳波も音漏れすることもないという完全に外とあらゆることが遮断されている
これは外に情報がもれない為のセキュリティらしい
「じゃあ、また時間があれば」
「お疲れ様でした」
そうしてヤマシロはペンガディラン図書館を後にし、閻魔帳を取り出す
資料室で調べたことをまとめる
結論を言えば殆どわからなかった
断片的なことしか書かれておらず重要な部分がごっそりとなかったのだ
これは盗んだとか破れたとか以前に、最初から書かれていなかったと言った方が正しいかもしれない
「.....調べるつもりが、更に謎を呼んだぞ3代目....」
ヤマシロは小さく呟き、天地の裁判所に戻って行った
※
「閻魔様、一体どこ行ってたんだよ!」
裁判所に戻るなり、亜逗子が血相を変えて迫ってくる
「こんな大変なときによ!」
「ちょっと、待て、亜逗子!俺は図書館の資料室に居た、一体どうしたんだ?」
「資料室、そうか...いや!今はそ
れどころじゃねぇや!」
「だ・か・ら、一体何があったんだよ!」
亜逗子が先程から同じことしか言わない
このままでは埒があかないので一気に問い詰める
「厄介な魂が来たんだ!とりあえず、来てくれ!」
「で?これはどういう状況だ?」
まず話を整理しよう
亜逗子に連れられる→部屋に入る→真っ暗→後頭部殴られる→椅子に座っている状態で上半身と足首が縄で縛られてる(今ココ)
...正直意味がわからないが亜逗子なので気にしないでおこう
というかさっきのは嘘みたいだ
おかしいと思ったよ、鬼達が全然騒いでないんだから
それに、目の前にいるこの状況の実行犯の顔がそう語っている
「ち〜っす!閻魔様!」
「...おい、亜逗子これは何だ?給料はもういらないのか?ただ働きで頑張ってくれるのか?」
「何でそうなるんだよ!」
「いや、これは完全にアウトだろ」
正直、上司を拉致して、拘束するとかクビレベルだと思う
しかし、亜逗子は中々退かない
「ほんと、100年前までは、こ〜んなに小さかったのにな〜」
亜逗子が自分の腰辺りに手を置く
...気のせいか、ハァハァと性犯罪的に荒い息づかいも聞こえるが面倒臭そうなのでスルーする
「で、お前の目的は何だ?解雇か?給料停止か?開拓地送りか?死刑か?」
「給料上げてください、お願いします」
ヤマシロが亜逗子の生きる道を次々と潰していくと、自分が拉致した者に土下座するという奇妙な光景が完成していた
...こうなるとわかっているなら最初からやらなきゃいいのに...
「とりあえず、縄を解け」
亜逗子の実力行使で給料アップ作戦は一時間も経たずに終わりを告げた
※
亜逗子とOHANASIを終え、心を折ってとりあえず放置して部屋から出ると何やら騒がしい
鬼達がバタバタとしている
何かあったのかな?
ヤマシロはとりあえず近くの鬼を捕まえて話を聞いてみる
「おい、何があった?」
「え、閻魔様!実は、少し厄介な魂の方がいらっしゃいまして...」
...何やらデジャヴを感じたが忘れよう
「状況は?」
「ええっと、確か今は客間に...」
「麻稚はどこだ?」
「客間にて、その魂の話を聞いております」
「すぐそこに案内しろ!」
はい!と鬼はヤマシロを部屋に導く
裁判は全て閻魔大王が行っているわけではなく、大抵が生前の履歴書から天国か地獄かを決定する
その時に天国行きのチケットか地獄行きのチケットを魂は受け取る
その際、閻魔大王は何もしないわけではなく、天国行きと地獄行きのチケットに一枚ずつ丁寧に判子を押す
どちらかと言うと裁判よりもこちらの仕事の方が面倒臭い
そして裁判は、魂が問題を起こしたり、履歴書から判断できなかった場合のみ行う
これが今の天地の裁判所の仕事
これでも、昔に比べたら効率は良くなった方らしい
「到着しました」
そんなこんだで例の部屋に辿り着く
部屋の扉の上にはご丁寧に「使用中」と書かれてある
...ここは病院か、という突っ込みは受け付けない
※
ヤマシロが客間に到着する数分前...
「失礼します」
一本角の青鬼...蒼 麻稚が静かに入室する
部屋には痩せた男がいた
髪はボサボサで髭は、もう長い間剃っていないのか、雑草のように生えている
「瓶山...一様ですね?」
「......えぇ」
男、瓶山は静かに応える
失礼、と麻稚は向かいの席に静かに座る
瓶山と麻稚が向かい合う形で座ると、麻稚が最初に話を切り出す
「なぜ、天国行きのチケットを破り捨てたのですか?」
「......俺はまだ死んでいない」
「いいえ、死にましたよ」
バッサリと、瓶山の言葉を麻稚が切り捨てる
よくあるケースだ、こういった人間は大抵現実を受け入れようとしない
瓶山も何やら未練がありながら死んだ人間なのかもしれない
「貴方が行く先は天国か地獄、この二択です」
「....俺はまだ死んでいない」
このままではキリがない、と麻稚が判断しと時、
「失礼する」
今、最も頼れる男がガララッと扉を開け放った
次回もよろしくお願いします