閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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テストが終わったので早速執筆!


Sixtiethird Judge

天地の裁判所の下層部は地獄に位置しており、地獄に特に野放しにすることが出来ない罪人を収容している「七つの大罪」と呼ばれる最高地獄拷問施設がある

簡単に言えば七つの生きている方が辛いと思わせるトンデモ地獄メニューである

 

孤独監禁、超熱湯釜茹、疫病蔓延、無期限絶食、精神破壊、温度七変化、複雑迷路と全てが生きている方が辛いと思わせる内容が「七つの大罪」と呼ばれる最大苦行地獄である

しかし原則的に亡者達を故意的に地獄メニューで命を絶つことが禁じられているので微妙な調整と亡者のタフさという天秤が安定することで初めて拷問として成立している

 

その中の一つ、超熱湯釜茹...

大きな特別熱を通しやすい鉄を素材に作成された大釜の中で水を熱してそこで二時間入浴してもらうというモノである

ちなみに温度は一万度を軽く越えており、釜の中の水がメラメラと燃えるという不可思議現象まで起こってしまう有様である

当然生身の人間であれば入った瞬間に皮膚が焼かれドロドロになってしまうのだが亡者という存在は既に死んでしまっている存在でちょっとやそっとのことで再び命を失うことはない上に何故か生者の頃よりも体の構造が少し変わってしまい多少のことは日常の様に流してしまうのだから不思議である

 

そんな今日も悲鳴と叫び声とメラメラという音が響き渡る超熱湯釜茹地獄の中央の大釜では、

 

「あぁ〜、いい湯だな。疲れが吹き飛ぶぜ」

 

「閻魔様よ、確かに湯加減は丁度ゐゐかもしれなゐがBGMが悲惨過ぎて和むに和めなゐんだが...」

 

「ンなモン無視だ無視、気になるんだったら耳栓でもしとけ」

 

「アンタって意外に白状なんだな!」

 

多忙な第五代目閻魔大王様と最近少し地位を上げた鬼と死神のハーフが頭にタオルを乗せて気持ち良さそうに疲れを癒していた、よく見ると水の色が違うトコロから入浴剤を使った形跡まで見られる

 

「まさか亡者にとっての大拷問が俺たちにとって極楽な巨大温泉に変わり果てちまうとはな」

 

「そこは種族の差ってヤツだよ。感覚の違い一つで快楽にも苦楽にもなるからな」

 

「.....間違っちャなゐが何処か納得できねゑ」

 

鬼と死神のハーフである煉獄が辺りをキョロキョロと見回す

やはり右を見ても左を見ても後ろを見ても快楽に浸り落ち着いている様子を見せている様子はどこにも見られない

.....逆に見れれば拷問としてもどうかと思うが、煉獄達を例外として

 

「ちなみにここは男湯だぞ」

 

「誰も何も期待してないですよ。てゐうか分ける意味あるんですかゐ?」

 

「亡者とて男と女の二種類存在するんだ。欲情働かせて野郎共の快楽になったら地獄として終わりだからな、少し費用は高かったが親父の世代にハッキリと男女分けられた」

 

「では、それまでは混浴だったと?」

 

「そうなるがここの本来の意味を忘れるんじゃねぇぞ」

 

煉獄は明らかに残念そうに舌打ちをする

亡者達の悲鳴をバックグランドミュージックとして第五代目閻魔大王、ヤマシロが煉獄に質問をする

 

「で、態々話って何だよ?」

 

「あぁ、この間新しく配属された奴らのコトなんですけどね」

 

ヤマシロはあぁ、と相槌を打ちながら煉獄の話を聞く態勢に入る

今回は煉獄から少し部下のことで相談があると申し出てきたので落ち着けて且つヤマシロの疲れが取れる場所ということでヤマシロは煉獄を案内してここまでやって来たのだ

ちなみにヤマシロはかなりの常連で今入っている釜も特注で作成した彼専用の湯船である

 

話に勢いが乗り次第に相談事から仕事の話しと世間話、与太話、卑猥な話とまるで年の近い友人達が仲良く話すような雑談を制限時間一杯まで話尽くした

いくら閻魔大王と鬼とはいえ長時間の入浴は流石に危険なので亡者達と同じように制限時間が設けられている

ヤマシロと煉獄は釜から上がり着替えを済ませ飲料販売機でコーヒー牛乳を購入し一気に飲み干す

余談だが飲料販売機でコーヒー牛乳が一番値段が安くボタンが押しやすい位置にあったので選んだだけであって風呂上がりのコーヒー牛乳とか特に深い意味はそんなにない

 

「じゃあな、俺は飛行機の時間があるから先に失礼するわ」

 

「あン?天国までバカンスでもしに行くんですか?ゐゐですよね〜閻魔って種族はよ」

 

そう、閻魔という種族は天国と地獄を自由に行き来する権利があるが鬼にはないのだ

勿論現世と来世を自在に行き来できる死神にもそんな権限はない

煉獄の嫌味にヤマシロは「馬鹿野郎が」と吐き捨てるように呟き苦笑いを浮かべて、

 

「ヤマクロを連れて行くんだよ、俺自身は仕事が多すぎてバカンスなんてやってられねェよ」

 

 

 

麒麟亭、憩いのスペース

数多の椅子と机、パラソル(室内なのだが雰囲気を出すために取り付けたらしい)のついた一席では赤と青の対照となる色が特徴的な鬼の少女が二人腰掛けていた

 

赤鬼、紅亜逗子と青鬼、蒼麻稚

 

供に閻魔大王の補佐を務める鬼の中でも上位に位置する職種に就ている彼女達が一緒にいるのは珍しいようで当たり前な風景でもある

彼女達はそれぞれ個別にそれぞれの部隊を所有しており分担場所も違うため仕事で顔を合わすとなれば閻魔大王の補佐を行う時くらいであろう

しかし休憩中やプライベート時間では仲が悪いわけでもないのでこうして一緒にいることが多いのだ

 

「どうも最近忙しくなってきた気がしますね」

 

「まぁ裁判も連続で行われたこともあったし、現世で人が大量に死ぬような事件が立て続けに起こってるって話だしね。あたいとしてはこれ以上安月給になっちまうと生きていける自信ねぇよ〜」

 

「.....また閻魔様に給料減らされたの?」

 

「地獄で大暴れした時からちょいちょいとね、修繕費と責任費と。賭博では久々に四天王が集まったから十ゲームくらいやって内六ゲームが大惨敗で」

 

「ほとんど自業自得じゃない」

 

麻稚は目の前の親友に救いの手を差し伸べようとも考えたのだが理由を聞かされて差し伸べかけた手はあっさりと引き下がる

まぁ、彼女は救いの手を差し伸べるとしても利子をつけて十倍くらいで返してもらおうと考えがあっての行動なのだが亜逗子がそのことを知る術はない

 

亜逗子は項垂れた状態で目の前の水をゴクゴクと飲み干す

ぷはぁ、とまるでビールを飲んだ後の中年男性のような仕草を行う

 

「でもさ、まさかこんなに早く地獄が回復するとは思わなかったな。瘴気のバランスで異常気象や生態系の変化とかも色々あったけどなんとか保ってるし」

 

「確かに三途の川と比べて回復が随分と早いですね、こちらはもっと餓鬼の数を減らさないといけないですからね」

 

「そういえばさ、」と亜逗子は思い出したように体を起こして、

 

「何で餓鬼って絶滅させちゃいけないんだろうな?あたい的には迷惑でしかない存在なんだから全部一気に殲滅してもいいと思うんだよね」

 

「そうねぇ...」

 

このことは麻稚も何度か思ったことのある問題だった

確かに餓鬼は三途の川で彷徨う幼子の魂が行う作業、積み石を完成直前に崩すことを繰り返し、繁殖力も異常で、瘴気に何らかの作用が働いた生命体なので瘴気に変わりがない

思えば餓鬼の存在にメリットなんてあるのだろうか、そもそも餓鬼はどのようにして繁殖するかも未だに解らずにいる

それなのに完全に滅することを昔から禁止されている

 

「どうしてかしらね」

 

「いや、わかんないのかよ!」

 

「どうだっていいんじゃない?」

 

「い、いいのかな?」

 

亜逗子はどこか納得のいかない表情で首を傾げる

すると今度は麻稚が何かを思い出したかのような表情を浮かべる

 

「そういえば亜逗子、最近煉獄に告られたんだって?」

 

「ブフフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!?」

 

目の前で亜逗子が盛大に吹き出した

 

「な、なっ、ななな!?」

 

「なんで知ってるかって?煉獄が酔っ払った拍子に喋ってたわよ、あの誕生会の時に」

 

麻稚のまさかの事実をカミングアウトされた瞬間に亜逗子の顔はゆっくりと真っ赤に染まっていく

.....麻稚としては少し鎌を掛けた程度だったのだがどうやら亜逗子はそれどころではないらしい

 

「断ってやったよ、だ、だだだれがあんな女垂らしなんかと」

 

「それは過去のことじゃないでしょうね?私は『最近』と言った筈よ」

 

麻稚のまさかの追い打ちに亜逗子は遠い目で体が白く染まっていく

たしかにあの時は心臓が波打つほど亜逗子は嬉しく満更ではなかった

以前の告白と違いなんだか悪い気は全くしなかった

 

結論としてはまだ答えを出せずにいる

 

あの後、亜逗子は煉獄に笑顔を向けると黙ってその場を立ち去ったのだ

煉獄が追いかけてくることはなかった

そしてあのヤマクロの誕生会以来仕事も多くなり煉獄も忙しくなったので全くと言ってもいいほど会っていない

彼女はまだ葛藤とジレンマでどうすればいいのか決められない複雑な想いの中で漂っているのだ

 

「.....その様子じゃ結論はまだ出していないようね」

 

「い、いや、そんなこと」

 

「まぁ承諾してくれた方が私としてはありがたいわ、閻魔様独占できるし」

 

「..............」

 

いつもなら亜逗子は麻稚の言葉に反撃を入れるのだが今の彼女にそんなことできる力はなかった

麻稚はニコリと笑い優しく告げた

 

「あなたの道だから私はどうこう言わない。でも親友としてこれだけは言わせてもらうわね、後悔だけはしちゃ駄目よ」

 

麻稚はそれだけ言うと静かに席を立ちその場を後にした

 

(あたいは、一体どうすればいいんだろ.....)

 

亜逗子はしばらくその場にボーッと留まり続け、悩みに悩んだのだが気がつけば眠ってしまい仕事に遅れてしまったのはまた別の話

 




キャラクター紹介

刹那(せつな)
種族:人間?
年齢:謎
趣味:表記不可
イメージボイス:宮野真守
詳細:現世、来世と二つの世界で有名ライトノベル「セレモニー・カルドセプト」の悪役
最近では主人公に協力する形で一種のダークヒーローとして人気を集めているが登場回数は少ない
作者的に嫌いなキャラではないがチート過ぎるから、という理由があるらしい


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