閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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今回は場面の移動がとても多いです、お気をつけけください(^^)


Sixtieth Judge

 

....ここは?

 

あれ、そういえばボクどうなったんだっけ?

 

何だかよくわからないけどいつもの場所じゃない、布団の上で寝ているんだから

 

あの無機質で何もない真っ暗な場所じゃないみたいだけど...!

 

...光?扉?

 

ボクは体を起こしてその光に吸い込まれるように足を運んで行く

 

なんだろう、とても騒がしい気もする

 

ボクはドアノブに手を伸ばしてギュッと掴むと同時にドアノブを捻って扉を引くと眩しい光がボクの両目に飛び込んできた

 

そして、目を開いた先にあった景色は...!

 

 

 

二日前、天地の裁判所...

 

「閻魔様、こちらの書類もよろしくお願いしますね」

 

「...まだあんのかよ」

 

「失礼しました、」と言い書類を置いていくなり鬼が退出した

先程一通り終わり一息つこうとしたところなので思わず溜息が漏れてしまう、だがそこまで量は多くないようでそれが救いなのかもしれない

 

あの大騒動から一日、閻魔大王ヤマシロはいつも通りの仕事部屋に篭り黙々と雑務をこなしていく

それはヤマシロだけではなく亜逗子にも煉獄にも査逆にも言えることである

しかし、ヤマシロはいつもよりも仕事速度が微妙にだが遅れていた

休憩時間も上の空になっていることが多い

それには二つの大きな理由があった

 

(.....ヤマクロ)

 

様々なヒトの協力を得てやっとの思いで救い出すことの出来た彼の弟、ヤマクロは未だに目を覚まさないでいるのだ

何とか二日後には目覚めてほしいのだがその願いが届くかはわからない

 

ヤマシロは何処からか煙管と閻魔帳を取り出して煙管に閻魔帳を経由した炎を灯す

煙管を咥え、フゥーっと息を一息吐く

残る雑務も判子を押せば済むようなモノばかりになってきたので残りはゆっくりとした時間配分にするつもりであった

閻魔とは疲れを最も感じにくい種族なのだが、あくまでも疲れにくい体質なので疲れることは疲れるのだ

それもほぼ同じことをほぼ毎日行っているようなモノなので精神的な体力は相当鍛えられているように思われる

不意にコンコンッと扉をノックする音が部屋に響く

ヤマシロが「どうぞ、」と煙管を吸いながら告げると一人の鬼が大量の紙束を持って「失礼します、」と入室してきた

 

「閻魔様、こちらの書類にも一通り目を通してもらっても、」

 

「これ全部かよ!?」

 

先程の十倍はあろう紙束を見るなりヤマシロは机をバンッと両手で叩いた

 

 

 

「よろしかったのですか先代、ヤマシロ様に全てお任せして」

 

「構わねェよ、もう俺の時代じゃねぇんだ。いつまでも老兵がしゃりしゃりと出るわけにはいくまい」

 

地獄某所、ゴクヤマの邸宅

三途の川の整備がある程度済んだ蒼 麻稚は三途の川とミァスマを襲った瘴気とヤマクロのことについて報告するためにゴクヤマの元を訪れていた

正直に言えば彼女自身はヤマシロの補佐に就きたかったのだが、ここまで事態が急速に進むとは予想外だったため参加できなかったのだ

 

「流石はヤマシロの坊主だ、やはりあの時感じた力は本物だったみたいだな」

 

「フン、閻魔大王として問題解決は当たり前じゃて。基本中の基本じゃわい」

 

ゴクヤマの右隣に座る百目鬼雲山と左隣に座る冨嶽厳暫が意見を述べる

百鬼夜行対戦時にヤマシロを苦戦させた二人だが、現在はゴクヤマの邸宅で静かに隠居生活を送っている

 

「だがヤマシロの坊主はまだ脳波による戦いは知らん様だな、それでいてあそこまで戦えるのは些か疑問があるな」

 

「おいゴクヤマ、何故あいつに教えてやらんのだ?」

 

百目鬼と冨嶽の問いにゴクヤマはフッと笑みを浮かべる

 

「あいつにそんなもんは必要ないよ。蒼の娘、お前ならなんとなくわかるんじゃないか?」

 

「...........」

 

ゴクヤマの問いに麻稚は言葉を返すことができなかった

たしかにヤマシロが脳波を使った戦い方を知らないのは事実である、周りに使い手がゴロゴロいながら疑問にすら思わない彼にも問題はあると思うがそれでなくてもヤマシロは強いのだ

それは閻魔だからとかそんなものとはまた違った何かがあるのかもしれない

 

「ではそろそろ失礼します」

 

麻稚は答えを出さないままゴクヤマの邸宅を後にする

 

「隗潼、お前の娘は色んな意味で逸材だよ。俺はいつか必ずお前の娘を手元に置いてみせる、クソガキの補佐にしては勿体無いからな...」

 

ゴクヤマはニヤリと不気味な笑みを浮かべて静かに空を仰いだ

 

 

 

地獄の麒麟亭の屋根の上では一人の少女が空をぼーっと眺めていた

紅亜逗子、ヤマシロの補佐として鬼たちのまとめ役として若いながらにもかなりの権力と実力派の彼女は今にも泣き出しそうな哀しい表情を浮かべながら酒を飲んでいた

 

「.....天狼さん」

 

あの時一人の男の無茶を止めることができなかったことに、彼の最期をこの目で見ることができなかったことを激しく悔やんでいた

そして彼の死を受け入れることができなかったのだ

 

亜逗子はあの後すぐに目を覚まし、ヤマシロと供に再びあの場所に戻ったがそこにいたのは横たわって動かなくなっていた一人の男だった

しかも原因はわからないが両腕が無残にも抉れてしまっていたのだ

彼女自身、いやこの世界に住む者はあまり死というものに敏感ではない

なぜなら例外を除いて普通であれば寿命以外で生命活動が止まるということはないからだ

その上ここは元々死後の世界、その世界の住人の生命活動が止まった時に現世の人間とは違い魂が天国と地獄に行くことはなく輪廻転生の輪に乗り新たな魂として再生される

これで世界の天秤が平等に保たれているのだ、だからこそこの事実は覆すことはできない

 

(あたいに、あたいにもっと力があれば...!!)

 

亜逗子は空になった酒瓶を握力だけで握りつぶす

その思いは誰にも届かずその願いは儚く散ってしまうしかなかった

 

と思っていた

 

「亜逗子ちゃん、こんなトコで何暗ゐ顔してんだよ?」

 

声の聞こえた方向に亜逗子は目を向ける

そこには亜逗子と似ているが少し違う黒ずんだ紅い髪にその上から帽子を被っている鬼と死神のハーフの青年が立っていた

 

「煉獄、一体いつから...!」

 

「つゐさっきだよ、何かが割れた音がしたから様子を見に来たんだよ」

 

煉獄はそう言うと亜逗子の隣に腰掛ける

彼はかつて亜逗子に告白をしたことがある、あっさりとフラれてしまったが彼の想いは変わることなく未だに亜逗子に好意を抱いている

だからこそ彼女が悲しそうな表情をしているのが放っておけなかった

実は彼はかなり前から亜逗子の近くにいた、亜逗子が悲しそうな表情で酒を持ちながらここまで来ていたので影に潜り込んで今の今まで身を潜めていたのだ

彼は彼女のために何かしたかった、彼女の力になりたかったのだ

 

そんな複雑な一人の男の恋心に気がつかない亜逗子は二本目の酒を取り出して一気飲みをした

 

「...泣ゐてもゐゐぞ」

 

「え?」

 

「愚痴も聞く、だからさ、頼むからもうそんな悲しい顔をしなゐでくれよ...」

 

「煉獄...」

 

「一回あの時断られたけどさ、俺やっぱあんたが好きなんだよ。これだけは絶対に曲がらなゐんだ、しつこゐ男と思ってくれてもゐゐからさ、言ゐたゐこと全部吐き出して、笑顔でゐてくれよ」

 

これが不器用で絶賛片思い中(しかも一回フラれてる)の煉獄ができる精一杯だった

そんな必死な彼に亜逗子は...

 

 

 

その翌日、地獄某所バッカス村跡地...

 

「ここか、査逆?」

 

「えぇ、石碑の名前からしてもコレは間違いなく、酒井田銀狐のお墓」

 

ヤマシロと査逆、亜逗子は天狼の遺体を葬るために彼の故郷にまでやって来ていた

幼い頃、査逆は天狼からある女性の話を聞いたことがあった

その女性が酒井田銀狐である

かつて天狼が愛し姉貴分として慕っていた酒呑童子

彼女の横に葬ってやった方がいいと査逆は独断でヤマシロに提案した

おそらくだが彼も彼女の隣で眠ることができるのが幸せかもしれない

 

「もう天狼さんの意思を聞くことはできないけど、俺たちにできることはここまでだな」

 

「あたいからはこれを...」

 

「それは」

 

「あの人が一番好きだったお酒」

 

亜逗子はそう言うと酒瓶を二本新しく作った天狼の墓に供える

 

「本当にありがとうな、天狼さん」

 

 

 

『ハッピーバースデー!!ヤマクロ坊ちゃん!!!』

 

パーン、パパーンっとクラッカーが幾つも鳴り響く

ここは麒麟亭大広間、扉を開いたヤマクロを待っていた光景は大宴会の席上だった、しかもヤマクロが主役の

 

「え、え?」

 

「ヤマクロ、おめでとう!」

 

「兄、さん?こ、これって...」

 

あまりにも突然すぎる出来事にヤマクロは混乱する

そんなヤマクロの反応にヤマシロはニヤリと笑みを浮かべながら、

 

「今まで祝ってやれなかった分も祝ってやる!好きなだけ騒いで好きなだけ笑え!」

 

「わ、わわ!」

 

ヤマシロに背中を押されたヤマクロは前に転んでしまいそうになるも何とか態勢を整えて倒れるのを止める

 

「坊、ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

「査逆、って、わぁぁ!!?」

 

しかし、査逆がどこからか飛び込んできたのでヤマクロは結局倒れてしまう

査逆は査逆で頬を赤くしてヤマクロの頬をスリスリとしている

 

「ぁあ、坊ちゃんよくご無事で!この月見里査逆、もう坊ちゃんに寂しい思いなどさせません!!」

 

.....もう酔っ払っているのか単純に安堵しているのかよくわからない状態の査逆にヤマクロを一先ず任せることにしてヤマシロはステージに移動する

 

「それじゃ皆!ヤマクロ80歳の誕生日に...」

 

『カンパーイ!』

 

ヤマシロの掛け声と共に騒ぎ出す者、飲み比べを始める者、料理を奪い合う者、乱闘を始める者が麒麟亭の大広間を支配した

 

「お前らーーー!盛り上がってるかーーーーー!」

 

『オォォォォォォォォォ!!』

 

このタイミングで宴会大好き唐桶祭次が更にテンションを上げようとマイクを握りしめる

 

「本日はこの日のためにスペシャルゲストを呼んでいる、もっとテンション上げて最高の一日にしようぜーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

ヤマシロはスペシャルゲストという言葉に首を傾げた

今回の主催者はヤマシロなのだがスペシャルゲストを呼んだ覚えはない

とんでもない前科があるので一応不安要素は先に潰しておこう、とヤマシロは宴会の席を見渡す

 

まずはこの間にパンクファッションでとんでもないキャラ崩壊を見せた麻稚、

 

...普通に宴会を楽しんでいた、ついでにその隣に亜逗子もいたのでこれで亜逗子であることもなくなった

 

次に意外にノリがいい煉獄、

 

...普通に酒に酔っ払って謎の踊りを披露していた、どうやら彼はあまり酒に強くはないらしい

 

査逆はもはや確認するまでもなかった、あえて内容は割愛しよう

 

他にステージに上がるようなスペシャルゲスト候補は特に見当たらなかった

 

「ではお願いします!」

 

ヤマシロが考えている内に証明が暗くなり天井のミラーボールが輝き始めた

ステージではドライアイスの演出が行われており、その中心に立っていたのは...

 

「YO!お前ら!俺と兄弟の魂のセッションを聞いてけYO!」

 

「てめぇかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

そこにはヤマシロの義兄弟の死神、ゼストがサングラスにヘッドフォンとジャラジャラしたチェーンやら光モノを付けて言葉のノリとは正反対にいまいちぎこちない動きで会場を盛り上げていた

 

ヤマシロはそんな彼の姿に呆れながらも一つの笑い声を耳がよぎった、ヤマクロだった

 

見てみると彼は満面の笑顔でこの状況を年相応の子供らしく楽しんでいた

 

その姿にヤマシロは思わず笑みと共に涙が流れた

 

 

 

 

 




はい、長かったですがこれにて第四章は終了となります!
本当にこんなグダグダな内容にお付き合いいただきありがとうございます!

伏線はなるべく回収するつもりがまた増やしてしまいました(笑)

どうか完結までお付き合いくださいませ(^^)

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