閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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裁判の描写が全然ない件について


Fiftieseventh Judge

時間を少々遡り、ヤマシロ達が天地の裁判所を出発する直前

 

「煉獄、お前確か鬼と死神のハーフなんだってな」

 

「あぁ、親父が死神でお袋が鬼で二人とももう生きてなゐけどな」

 

「そうか...」

 

亜逗子が着替えに行くといって中々戻って来ないことに焦るも流石の閻魔大王も沈黙に耐えることができなくなりこの場で唯一の話し相手である煉獄に話を持ち掛ける

地獄で起こっている緊急事態に自身の弟が関わっていることで落ち着きもなく先程からヤマシロの体からオーラのようなモノが満ちているのがわかる

 

「煉獄、潜影術使えんのか?」

 

「あん?」

 

「死神の暗殺術の一つだよ、一応死神の血を引いてるなら使えてもおかしくないだろ?」

 

「まぁ、一応潜影術は使ゑる、とゐうか潜影術以外は使ゑなゐ。親父は潜影術しか教ゑてくれなかったからな」

 

「じゃあ本質まで使えるか?」

 

「.....どういう意味だ?」

 

煉獄は興味を持ったようにヤマシロの一言に喰いつく

潜影術、光によって大地に形成された影に潜るように同化して移動する術であり主に高速移動や緊急回避、暗殺する時に忍び寄る際によく用いる基本中の基本の術である

確かにその他にも使い方があるのなら知りたいとは思うが聞いたことがないため少し興味に惹かれる

ヤマシロは少しニヤリと笑みを浮かべて人差し指を口に当てながら話し始める

 

「潜影術ってのは潜る影の術と書く、だから生きてるモノ全てにある心の闇に侵入することもできるらしい。それが本来の潜影術、心の精神的な暗殺術」

 

そうそれこそが潜影術の本質であり本来の使用用途

確かに影に紛れて移動する力も十二分に役に立つ、だが直接的な攻撃力はないのに暗殺術とつくのは煉獄自身疑問に思っていた時もあった

 

「てか、何で死神でもなゐあんたがそんなこと知ってるんだよ?」

 

「死神本人から聞いたんだよ、本当ならそいつに頼もうかと思ってたんだけど今留守でな、それでお前が死神の力を扱えるかもしれないと思ってたんだが...その様子じゃ本質のことは今知ったようだな」

 

「.....否定はしなゐよ」

 

煉獄は悔しそうな表情でヤマシロから目を逸らす

 

「できそうか?」

 

「あん?」

 

「これから行く場所で絶対に必要になるんだよ、ゼストは不在だから可能性があるのはお前だけなんだ」

 

その言葉は煉獄にプレッシャーを与えるには十分過ぎる一言だった

確かに彼は移動するだけの潜影術は使える、しかしこれから必要とされるのは他者の精神に関与する力

ただでさえ精神的な術は神経と体力を用いることはさすがの煉獄でも知っている

 

「.....一つ聞きたゐ」

 

煉獄は少し悩んだ後、ヤマシロに尋ねる

 

「その心の闇に触れて関与するのはあんたか、それとも俺か?」

 

「....俺を関与させることは可能なのか?」

 

「可能とは言わないが、潜影術は触れた対象を影に引きずり込むこともできる。その応用でもしかしたらできるかもしれなゐと思ったからな」

 

「なるほどね」

 

煉獄の言葉は正論であった

潜影術によって引きずり込まれるということは底なし沼に足を踏み入れて沈むことと似ている、つまり影を沼と見たてることができるのだ

 

「あんたの弟なんだろ、仮に成功したとして俺よりもあんたが本音を聞ゐてやった方が事態は好転する可能性が高ゐ。俺は顔を合わせたことすらなゐんだぜ、成功率を考ゑても閻魔様自身がやるべきだ」

 

「...煉獄、お前!」

 

「悪ゐが今その潜影術の本質とやらを使わせてもらったよ、あんたの心の内覗かせてもらった」

 

どうやら嘘はついていないらしい

なぜならヤマシロは彼の前で弟の元へ行くなんて一言も言っていないのだから

煉獄はこの短い一瞬で潜影術の本質に近づきそれをやって見せたのだ

彼は潜影術しか使えない、だからこそ使用頻度は必然と多くなり手慣れている

使える力は少なければ必然的に一つを極めることになる、その結果が生み出した偶然なのかもしれない

 

「でも長時間の使用は難しゐな、まだ使用回数が少なゐからな」

 

「十分だ、頼りにしてるぜ煉獄!」

 

ヤマシロは煉獄の肩に手を置く

なんだかんだ言って彼には秘められた未知の可能性と才能がある、それは鬼と死神の混ざり合った血が生んだのか煉獄京という一人の男のモノかはわからない

しかし賭けてみる価値は十分にあった、もしかしたらヤマクロを救うことができるかもしれないという希望がヤマシロに芽生えた瞬間であった

 

 

「ハァ〜、今の台詞と行動が亜逗子ちゃんだったらどんなに良かったことか...」

 

「変態か、お前」

 

こんなやり取りがあったとかなかったとか...

 

 

 

先手を取ったのは亜逗子、ヤマクロを直接攻撃せず足元に拳を入れることで大地を粉砕し、破片をヤマクロに飛ぶように脳波を操作する

この時のイメージは風で全ての破片がバラバラにヤマクロの方向に飛ぶようにした

しかし、ヤマクロはそれらを難なく妖刀村正でスパスパと斬り裂いていき、徐々に亜逗子との距離を縮めて行く

途中、煉獄が道を遮る

新たなトンファーはまだ完成していないため素手での肉弾戦でヤマクロにパンチ、蹴り、パンチ、パンチ、蹴りとリズム良く的確にヤマクロの急所を狙う

煉獄自身トンファー主体の戦闘スタイルのため肉体的攻撃力は高くはないが急所はどれだけ強靭に人体を鍛えようとも鍛えることのできない唯一人体の弱点とも言えるだろう

これが格闘技の試合などでは即失格だっただろうがこの戦いにルールは存在しない、だからこそ反則技という概念が存在しない殺し合いに彼は生かされていた

 

しかし、何度攻撃がヤマクロに命中しようとも攻撃が当たった感覚はあっても手応えが全くない

よく見れば煉獄の攻撃の当てた箇所に何か黒い炎のようなモノがユラユラと揺れていた

 

「チッ、全部防ゐでゐたのか!」

 

「アハハ、あんたも結構強いね☆」

 

ヤマクロの剣撃が煉獄に迫る、煉獄は自らの防衛本能が働き背後にバックステップで攻撃を躱す

しかし、ヤマクロの追撃は止まらず上空から瘴気による攻撃が煉獄を襲う

足場を失った煉獄は宙を蹴るように上空へ回避するがそこではヤマクロが妖刀村正を構えながら待っていた

ヤマクロも閻魔の一人、空を飛ぶとこなど造作もないことである、しかし煉獄は違う

煉獄は自らの脚力で一時的に虚空を移動しているだけであり、脚を動かすたびに体力は勝手に奪い取られていく

 

ヤマクロの斬撃が煉獄を襲うも煉獄は咄嗟に左脚に力を加え、一段上を行き妖刀村正の一撃を脳波で強化した右脚の脚力で受け止めるがやはり瘴気の力と今の今まで脚に負担をかけていた煉獄に勝ち目はなく大地に弾き飛ばされ背中から急降下する

 

(せめて、トンファーがあれば...!)

 

「どうした煉獄、今度はあたいの番か?」

 

「亜逗子ちゃん、無理すんな。あの二人の治療で既に脳に負担を掛けてるはずだ、脳波を使うのももうギリギリなんじゃないか?」

 

「あたいの心配してる場合か、坊ちゃんは待ってくれないよ」

 

「ゐゐじゃねゑか、少しくらい格好つけてもさ」

 

「そういうことはあたいに一度でも勝ってからいいなッ!!」

 

亜逗子はその一言を合図に迫り来るヤマクロを迎え撃つ体制を取り、亜逗子自身も右の拳に脳波を集中させヤマクロに迫る

 

瞬間、亜逗子の拳と妖刀村正が激突した

 

その激突は衝撃波を生み辺りに被害が及ぶ

激突の中心に立つ二人を中心に巨大なクレーターが形成される

 

「全く、確かに俺の心配する範疇を超ゑてたな」

 

煉獄はヘラヘラとした様子で帽子を被り直す

そしてニヤリと笑い自身の右の掌を見つめる

 

「最初の一撃、触れさせてもらゐましたよ坊ちゃん」

 

そう、彼の本当の仕事はここからである

潜影術の力は対象に直接触れなくとも行うことは可能なのだがヤマクロは常に止まっているわけではない

だからこそ一手間工夫を凝らす必要があった

それは脳波によるマーキングである

自身の脳波に接着のイメージを重ねた脳波でヤマクロに触れることにより目に見えないマーキングを施したのである

煉獄は自身の脳波であるため感じることができる、つまりこのマーキングを頼りに潜影術をヤマシロ経由で発動することこそが煉獄京の役割である

何もヤマクロに勝利する必要はなかったのだ

 

『閻魔さん、準備出来たぜ!こっちに脳波を飛ばしてくれ!』

 

『了解、中々早かったじゃないか!』

 

『俺の仕事の速度甘く見なゐでもらゐたゐですね!』

 

『今飛ばしてる脳波を使ってくれ』

 

『了解、じゃあ行きますぜ!』

 

煉獄はヤマシロに脳波を使い合図し、潜影術の準備を始める

まず、ヤマシロの脳波を拾い自らの脳波をヤマクロにマーキングした部分に飛ばす

そしてヤマシロの意思の乗せた脳波を煉獄の脳波経由でマーキングした部分まで移動を始める

そして、潜影術を発動する

今回煉獄は中継地点のような役割なので脳波は常に展開しておかなければならない

だからこそ長時間の使用は不可能、だからこそ短時間で決着を望む

 

(頼むぜ、閻魔さん!)

 

目の前ではそんなやり取りがあるとは知らない亜逗子とヤマクロは戦闘を続けていた

 

 

 

「.....ここは?」

 

煉獄の協力を得たヤマシロは上も下も右も左も前も後ろも真っ黒な空間に一人で立っていた

いくら見渡しても見える景色は黒一色である

 

(ここがヤマクロの心の影?影だから黒いのか??)

 

他人の心の内に侵入するなんて経験を生まれて初めてしたヤマシロにとってこれが正常なのか異常なのか判断はつかない

だが、何処か雰囲気が重苦しく冷え切っている感覚もある

 

すると、背後から聞き覚えのある声が響き出す

振り向いて見るとそこだけ僅かに淡い光が集まっていた

 

...ヤマクロ、この子の名前はヤマクロ

 

.....黒は何者からの干渉も受け付けない色、自分を貫いて自分の意思で突き進む力がこの子にはあるわ

 

......ゴクヤマさん、私ね、この子達には幸せになってほしいのよ。閻魔とかそんなの関係なく、生命を授かった一人のヒトとしてね

 

「....母、さん?」

 

ヤマシロは驚きのあまり思考が停止した

 

 




キャラクター紹介

酒井田千里(さかいだせんり)
種族:酒呑童子
年齢:不明
趣味:酒蔵あさり、煙管
イメージボイス:松山鷹志
詳細:酒呑童子の里、バッカス集落の長老
瘴気の実験を考案、実行した張本人で一部の者からは崇拝されている
最終的には天狼に殺されるが若い頃は相当の手練れだったらしい


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