閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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今回少し残酷描写ありです





Fourth Judge

三途の川...

此岸(現世)と彼岸(あの世)を分ける境にある川で

善人は川の上の橋を渡り、罪人は悪竜の棲む急流に投げ込まれるという川

一般的に生と死の狭間を漂う魂の溜まり場となり

子供の霊魂が集まりやすい

親より先に他界した子供が此処で供養のために石を積む行為、

世間一般に言う積み石だ

その石の塔を完成さすべく子供の霊魂は河原に多いが、

餓鬼と呼ばれる理性のない鬼が完成まじかに塔を破壊してしまう

そのため子供の霊魂は中々裁判所まで辿り着くことが少ない

 

「....で、今度は三途の川かよ」

 

その問題の解消を指示するのも閻魔大王の立派な仕事である

 

「お忙しい中、誠に申し訳ありません、閻魔様」

 

「いや、いいよ、少し驚いただけだから...」

 

共に歩く蒼 麻稚がメガネをぐいっと調整しながら謝罪する

天国にて五右衛門を改心させた後、何故か三人で信長の行きつけの飲み屋に行って、

たまたま居た末田幹彦も一緒に混ざり、最終的に店の客全員を巻き込んだ宴会があって、終わったのが3時間前...

そして、天国を出発して裁判所の空港まで着いたら、麻稚が居て三途の川まで直行

 

そして現在に至る

麻稚は亜逗子の補佐と同時に三途の川の管理も行っている

その麻稚が三途の川に閻魔であるヤマシロを連れてきたのは何か問題が発生したからに違いない

 

「それで何があったんだ?」

 

「実はこの頃、餓鬼の数が異常な数にまで増加しているんです」

 

「道理で最近子供の魂が来ないわけだ、原因は?」

 

「それは現在捜査中です」

 

なるほどね、とヤマシロは本を取り出しメモを取る

そもそも餓鬼という存在は地獄に堕ちた者の感情が具現化したもののため、居なくなることはない

しかし、数が増加しているとすればそれは問題である

 

「それで、閻魔様には餓鬼の駆逐をお願いしたいのです」

 

「.................はい?」

 

閻魔大王に休みはない

 

 

 

餓鬼の駆逐は本来鬼達が定期的にするものだが、今回は異例の事態の為閻魔も参加

それほど事態は深刻ということになる

しかし、餓鬼を殺すには首を撥ねるか、頭を潰すかの至ってシンプルな方法で鬼達にとっては造作にないようにも思える

 

「閻魔様と私はこの近辺を担当します、貴方達はいつもの持ち場で作業を」

 

「了解しました!」

 

「閻魔様、給料期待してますよ!」

 

三途の川に一度集合した鬼達は麻稚の指示に従い持ち場に戻る

...給料期待したやつはあえて引いといてやろう

 

「そういえば閻魔様」

 

何かを思い出した様に麻稚はヤマシロに尋ねる

 

「本日の給料が8割程上がっていたのですが...」

 

「気のせいだろう、いつも通りだよ」

 

何事もなかったかのように右から左へと受け流した

そして、また何処からか刀を右手に出現させる

 

「....それ、鬼丸国綱ですよね?なんで天下五剣の一本持ってるんですか?」

 

「気にしたら負けだ」

 

麻稚は呆れたように溜息をつく

天下五剣とは、数ある日本刀の中でも室町時代頃から特に名刀と呼ばれた五振の名物の総称

童子切、鬼丸国綱、三日月宗近、大典田、数珠丸...

そのうちの一本、鬼丸国綱を何故かヤマシロは所持していた

 

「とりあえず俺はここから西に行く、麻稚は東を頼む」

 

「.......わかりました」

 

どこか腑に落ちない顔つきで麻稚はヤマシロに指示された東の方向へ向かった

 

 

 

「もうすぐ、だよ、お父さん、お、お母さん」

 

一人の幼い少女が石を一つずつ積み上げまでいく

彼女は生まれたときから体が弱く、さらに心臓病まで患ってしまい幼いながらに命を落としてしまった

彼女は自分の両親を安心させるために石を積む

たとえ、また化け物に崩されてしまっても...

 

その時だった

 

「ヴゥァァァァァアアアア!!」

 

「...ひっ!?」

 

化け物がやって来た

真っ黒で顔と体の区別がつかず、目だけが怪しく紅く輝く餓鬼が...

少女は悟った、

 

(あ〜ぁ、またやり直しか...)

 

正直少女の心は既にボロボロだった

完成する手前になると必ずあの化け物がやって来て石を崩す

最初は泣き喚いたが、誰も慰めてくれる者はいなかった

泣いていては仕方がないためもう一度頑張ろうと思った

お父さんとお母さんのために

 

しかし、彼女の努力はまた完成直後に崩される

それ以降も結果は一緒だった

何度も、何度も、何度も、何度も....

 

そして、また崩壊が迫る

ガラガラと無残に崩れ去る音が聞こえるはずだった

 

ボトッという音が聞こえるまでは

 

「...えっ?」

 

少女が目を開くと餓鬼の頭が赤い液体と共に地面に転がっていた

少女がゆっくり顔を上げると一人の刀を持った青年がいた

その刀には赤い液体がポタポタと垂れている

 

「大丈夫か?嬢ちゃん」

 

青年、ヤマシロが話し掛ける

 

「...あっ」

 

「ん、やっぱし血はまずかったかな?でも、これ以外だと...」

 

「ち、違う」

 

「え?」

 

「う、う、後ろ...」

 

ヤマシロが後ろを振り向く

そこには5体の餓鬼がヤマシロに迫っていた

 

「やれやれだわ」

 

ヤマシロは刀を鞘に仕舞い本を取り出す

 

閻魔帳...

あらゆる情報が記載された閻魔の手帳を開く

 

「地獄の炎よ、汚れし魂に永遠の苦痛を...!」

 

ヤマシロが呪文を唱えると餓鬼達は頭から赤黒い炎が発生する

餓鬼達は頭を燃やしながらその場に倒れる

 

「あ、あ...」

 

「今のうちだ、さっさと完成させちまいな!」

 

ヤマシロは再び刀を構え、少女に怒鳴りつける

少女は頷くと積み石の方に急ぐ

辺りから餓鬼達がやって来るがそれらは全てヤマシロが潰す

 

(お父さん、お母さん...!)

 

そして、少女は最後の石を積む

積み石は淡く輝き始め、光は少女にまとわりつく

ヤマシロの周りにいた餓鬼達は何処かへと消え去る

少女の体が透けていく

 

「よかったな」

 

「あ、あの!」

 

「うん?」

 

「ありがとうございました!あの、名前は...?」

 

少女は満面の笑みを浮かべる

ヤマシロも笑い返し、

 

「俺はヤマシロ、死の世界の秩序を守る閻魔様だよ」

 

少女は一瞬驚くが、

 

「ありがとう!ヤマシロ!」

 

その返答にヤマシロは苦笑いする

 

「もし、会えるなら裁判所で会おう」

 

その言葉と共に少女の体はそこから消え去った

 

 

 

「それでは本日はお疲れ様でした」

 

おつかれーっす!と鬼達は地獄にも向かっていく

三途の川の担当だろうと住処は地獄にあるからである

 

「閻魔様もお疲れ様でした」

 

「あぁ、そっちもな」

 

ヤマシロはあの後、駆逐した餓鬼の死体の回収も手伝った

最初は麻稚に反対されたが、率先してやったらなんやかんやで手伝ってくれた

ちなみに餓鬼の肉はかなりの高級食材として扱われている

 

「閻魔様、」

 

「うん?」

 

麻稚が笑顔で尋ねる

普段、ポーカーフェイスの彼女が表情を変えるのは珍しいことだ

 

「何か...いいことでも?」

 

「いいや、別に」

 

ヤマシロは笑顔で応えた

 

 

 

 




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