いつの日か、幼かった閻魔と死神が出会った日があった...
一度や二度といわずに親友と会う感覚で何度も会った
二人は互いに競い、笑い、楽しみ、喜び、悲しみ、泣きあった
やがて二人は将来を期待されるほどの人材に育ち、元気に逞しく育っていった
やがて、二人は成長し出会うことが少なくなった
※
「この辺りか...」
見る形もなく無情に姿を変えてしまった三途の川では先程からヤマシロと麻稚に向かって、明らかに自然のモノではない冷気の攻撃が襲っている
「鬱陶しいですね、全く」
麻稚は文句を言いながら、さっきまで袋で包み背負っていた愛用のスナイパーライフルで冷気の攻撃を撃ち落としたり、叩き落としたりしている
ヤマシロもヤマシロで寒さと格闘しながらも鬼丸国綱で応戦する
一撃の攻撃力はさほど高くないが、四方八方休む暇なく攻撃は飛んでくるうえに、寒さのせいでヤマシロのスタミナは徐々に奪われていく
麻稚は時間が経ち環境に慣れたのか、白い息も吐かなくなってきている
「畜生、うざったいな」
「落ち着いてください、焦っては見えるものも見えなくなってしまいます!」
麻稚の格言を無駄にはせまいとヤマシロは気持ちを落ち着け攻撃に備える
しかし、時間が経つにつれ攻撃が増えるどころか徐々に数が減少していっている気がする
風も落ち着き、今はそこまで寒くはない状態である
「この冷気は俺の心...」
突如、ヤマシロと麻稚の耳に聞き覚えのあるようなないような声が侵入してくる
その声は寒さに紛れているせいか、僅かにノイズが走っている
「そして日の当たらぬ影の差す世界の現れでもある」
やがてヤマシロ達の前に黒い塊が現れ、ヒトの形を象っていく
麻稚はこの現象に見覚えがあった
「久しいな、ヤマシロ」
塊は闇よりも深い美しい黒の髪と姿を隠すかのような影を象徴するかのような真っ黒なマント...
極めつけには悪趣味なデザインが施された大鎌、今にも魂が宿り動き出しそうな雰囲気が放たれている
そんな男の登場にヤマシロはやっとのことで口を動かす
「ゼ、ゼスト?」
「互いに成長したな」
ゼストと呼ばれた男は僅かに頬を緩ませる
そして、冷酷で残酷な視線をヤマシロに向ける
「今まで黙っていたが、俺は死神だ」
ヤマシロにとっては衝撃のカミングアウトだった
ヤマシロとゼストは天地の裁判所では数少ない同期であった
ひょんなことから二人は出会うことになり、力を高め合い、互いの目標に一直線に走って行った
その頃から閻魔大王に憧れを抱いていたヤマシロに反し、ゼストは自分のことを話すような男ではなかった
なにせ、魂を刈り取り、欲求を満たすだけの己の運命にゼストは耐えきれなかった時期があった
死神としては、暗殺術の扱いに関しては他の死神の群を抜いていた彼だが、自身の家系と仕事を誇るようなことは一度もなかったという
「俺は報酬さえあれば請け負った仕事は完遂する、それが死神であり俺でもある」
それがどうだろう、そんな彼はこの長年の間に変わってしまった
残忍で冷酷な死神の本質が現れ始めていた
「今回俺が請け負った仕事はただ一つ、」
ゼストが右手をかざすと、正面から幾つもの冷気がヤマシロを襲った
先ほどの攻撃とは比べものにならないほどの殺生力を持った凍てついた刃で
「お前を天地の裁判所に戻さないことだ...」
※
数日前...
まだ空の色が赤黒く、雷も降り注いでいた地獄の片隅にて...
「...まさかあんたから依頼が来るとはな」
「フン、確かに不本意ではあるが今の天地の裁判所を変えることができるならばこのくらい苦でもないな」
その屋敷の一室では二人の男による会話が繰り広げられていた
出されたお茶は湯気を立て、互いに動く気配も見せない
どちらかの一言が原因で戦闘が始まってしまうほど緊迫した状況の部屋で湯気はユラユラ揺れている
「五十万出す、仕事をいくつか頼みたい」
依頼主がゼストに向け、仕事成功の報酬と内容が記された一つの巻物を手渡す
ゼストは簡単に読むと巻物を閉じ、足元に置いてからまだ冷めていないお茶を一杯丁寧に飲み、
「引き受けた、詳しい内容を頼むよ隗潼さん」
ここからが蒼 麻稚の父親、蒼 隗潼の計画は始まり大騒動を巻き起こした大事件はここから始まっていた
全ては我らの秩序のために...
しかし、この事件も後に発生するとてつもない大事件の一部でしかないことはこの時点ではまだ誰も知らなかった
キャラクター紹介
百目鬼 雲山(どうめきうんざん)
種族:鬼
年齢:1418歳(人間でいう141歳)
趣味:演歌、デスメタル
イメージボイス:内海賢二
詳細:冨嶽に次ぐ老鬼、盲目で目でモノを確認することはできないが、脳波を放つことによって形や位置を捉えている
八咫烏など地獄の生物を多く手懐けており、地獄に堕ちた魂達からは「地獄の猛獣使い」という名前で呼ばれていた
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