閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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タブレットの操作に慣れない..



Third Judge

天国にやってきたヤマシロは依頼人である織田信長と出会い

犯人(鬼情報)である五右衛門の家へと信長の愛車で向かっている

 

「信長、もっとスピードでないのか?」

 

「儂もそうしたいが、これ以上はスピード違反になってしまうからな」

 

「....そういうのきちんと守るんですね」

 

「意外か?」

 

「意外です」

 

だって目標の為ならこの人なんでもしそうだし

そこは天国の治安が荒れ切っていないことを示しているのかもしれない

.....窃盗は起きているが

 

「ヤマシロ、もうすぐだ」

 

信長が更にスピードを上げる

目的地が近いのかもしれない

.......上げる?

 

「あんた、さっきスピード違反とか言ったばかりじゃねぇか!」

 

「ん、何のことだ?」

 

訂正、やっぱりこの人、ルール守る気ない...

若干暴走気味の信長のスポーツカーは五右衛門の家に超特急で向かう

 

 

 

「着いたぞ」

 

信長はスポーツカーから降り、ヤマシロもそれに続く

五右衛門の家は信長程大きくはないが、それでも公園一つ入りそうな庭がある

作りはレンガ製で、サンタさんいらっしゃいの煙突まである

ヤマシロはとりあえずチャイムを探すが信長は、

 

「五右衛門、邪魔するぞ」

 

扉を蹴破りズカズカと家に土足で入る

 

「待て待て待て待て待て待て待て待てーい!」

 

「なんだヤマシロ、止めるな!」

 

「そうじゃなくて、あんた、何してんだ!?」

 

「家に入ってるが?」

 

「他人のな、その時点で立派な不法侵入だ!仮にも閻魔の前で堂々としてんじゃねぇよ!しかも土足で!」

 

「大丈夫だ、問題ない!」

 

そう言い止まることなく信長は進む

.....天国の治安が乱れている理由の一端が判明した気がする

 

「待てよ、信長!」

 

信長の行動を止めるのを諦めたヤマシロはこれ以上信長が暴走してはこちらも困るので追いかける

.....もちろん土足で

 

 

 

石川五右衛門...

1594年に死んだ盗賊で伊賀の国の抜け忍という伝説持ちの人物だが

詳しい資料は多くなくも、どこまで本当かわからない様々な伝説も残している

一説では金の鯱まで手を出したとか

一説では悪事を働いたものから金品を盗み庶民のヒーローだったとか

一説では処刑前に辞世の句を詠んだとか

エトセトラエトセトラ....

 

「信長よ、悪く思うなよ」

 

その本人がこの家に住む信長の友人、石川 五右衛門

短い黒髪に迷彩柄のバンダナに顔に刺青を入れている

彼は今回の盗品の中身を確認する

実は天国で何度か盗みを働いており、今回被害者が信長であったから閻魔の下に情報が届いただけである

よって、何故彼が天国に来れたかますます謎である

 

「さてさて、金目の物は、と...」

 

信長の鞄を漁ろうとしたその時、

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!と

五右衛門の後ろにあるドアが勢い良く吹き飛ぶ

 

「信長、幾ら何でも吹っ飛ばすことはないだろ」

 

「いいんだよ、こうやって登場する方が格好が付くだろ?」

 

「違いないが少しは自重してくれ」

 

そこには二人の人物が居た

一人は鞄の持ち主であり、友人でもある織田信長

もう一人は何処かで見た服装をしているが初対面の青年

話からするとドアを蹴破ったのは信長らしい

 

「石川五右衛門...」

 

青年が話し出す

 

「俺は第5代目閻魔大王、ヤマシロだ。盗品を大人しく差し出せ」

 

静かに冷静に淡々と告げた

閻魔大王と...

 

 

 

「格好付けやがって」

 

「いいだろ、さっきお前目立ったんだから」

 

石川五右衛門を前に二人は世間話をする軽い調子である

正直緊張感が足りないのは仕方ない

片や人間よりも遥かに長寿の閻魔大王

片や生前は魔王と恐れられた戦国大名

その二人の前に大泥棒の肩書きを持つ人間など緊張する程緊迫感は必要ない

ヤマシロは五右衛門に近づく

 

「あ、あんたが閻魔?」

 

突然五右衛門が口を開く

その表情はどこか嬉しそうにも見える

 

「そうだ」

 

ヤマシロはそれに短く応える

五右衛門はそれを確認すると更に歓喜に満ちた表情をし、

ガバッと、

 

「頼む!地獄に落としてくれ!!」

 

突然土下座をし、そんなことを頼み出す

突然のことでヤマシロも信長も目を見開く

 

「勝手なことだってのは分かってる!でも、あんたしか居ないんだ!」

 

「ちょっと待てよ」

 

突然の要求にヤマシロは混乱する

今まで地獄から天国へ行かせてくれといった者は多くいるが、その反対は事例がない

好き好んで地獄に行く輩ははっきり言って少ない、というかいない

前代未聞の出来事である

 

「五右衛門、お前どういうつもりだ?」

 

ヤマシロの質問を遮るように信長が口を開く

その表情から怒りの感情が読み取れる

 

「おい、信長!こいつとは俺が...」

 

「少し黙っておれぃ!!」

 

怒鳴り声が部屋に響き渡る

そして、信長は五右衛門の胸倉を掴み、

 

「貴様は天国という楽園にいながら自ら苦の世界を望むと?」

 

「そうだ!だからお前の鞄を盗んだんだ!お前のことだから閻魔でも何でも騒ぎを起こしてでも呼ぶと思ったからな!!」

 

五右衛門が信長の胸倉を掴み返し、怒鳴り返す

しかしその声に迫力はなく、子供の言い訳にも聞こえた

 

「俺は泥棒だった、多くの者から盗み盗みひたすら盗んだ!だが、死んだらどうだ!?天国?冗談じゃねぇ!!」

 

どうやら五右衛門は死んだら今までの罪を地獄で償おうと考えていたらしい

 

「俺は悪だ!数多くの同業者が地獄に行ったのになんで俺だけこんなトコで幸せに暮らさなきゃならないんだ!?納得できるかよ!!」

 

確かに五右衛門の言葉には一理あった

理屈は通ってるし間違ってはいない

あまりの正論にヤマシロは言葉を失ってしまうが、

 

「ぬかせ」

 

この男、織田信長は違った

 

「それは貴様の勝手な我が儘だ!!現実を受け止めろ!!」

 

信長は涙を流しながら五右衛門に怒鳴りつける

 

「儂だって、数多の命を殺めた!しかし、心広い閻魔様は儂を楽園へと導いてくれたのだ!!確かに我が同胞の多くが地獄へ行った!ならば天国に来た我らのすべきことはただ一つであろう?」

 

「な、なんだよ」

 

 

「天国に来れなかった者の分も精一杯生きることじゃ!」

 

ヤマシロと五右衛門は言葉を失った

これが、信長...

 

「で、でも」

 

五右衛門は震えながら声を絞り出す

 

「これだけのことをしちまったんだ、もう無罪じゃ避けられず天国に居られないんじゃないか?」

 

なぁ、閻魔様、とヤマシロに話し掛ける

 

「ヤマシロ...」

 

信長もヤマシロの方を見る

何やら五右衛門が地獄に行くなら自分も行くみたいな表情をしている

ヤマシロはそれに対し、

 

「その心配はない...」

 

笑顔で五右衛門の顔を見る

 

「一度天国、地獄行きが決まったものはどんなことがあろうと変更はできない」

 

つまり、死んで天地の裁判所で行き先が決定し、世界が設定されるとその世界の変更は閻魔の力でもそれは変更できない

 

天国行が決まった者は天国で、地獄行が決まった者は地獄で永遠に暮らすことが定められる

 

その言葉に五右衛門は泣き崩れ、

 

「か、かたじけない...」

 

歓喜に満ちた震え声でそう静かに感謝の言葉を口にした

 

 

閻魔大王に休みはない...

迷える魂を導くために今日も忙しく働く...

 

 

 

 




次回もお楽しみに!

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