閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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前書きの内容がマンネリ化してきた今日この頃...


Thirtiesixth Judge

 

寒い...

三途の川に到着した時に感じた率直な感想だった

現世と彼岸の境の川は氷に覆われており、氷を歩けば向こう岸に行けてしまいそうだった

川を中心に放たれている冷気が空気中を駆け巡り辺りの草や餓鬼までも凍てついてしまう始末である

 

その光景を見たヤマシロは...

 

「クソ、上着着てくれば良かった」

 

...滅多に感じられない寒さを体感していてそれどころではなかった

極寒地獄に比べればまだまだマシだが、生憎ヤマシロが訪れる機会はほとんどないため寒さの耐性はない

 

「マイナス三度と言ったところでしょう、これはもう間違いなく自然の現象ではありませんね」

 

「.....なんで麻稚がここにいるんだよ」

 

寒さに震えるヤマシロの隣にどこから調達したかはわからないが暖かそうなコートとマフラーを着込み、防寒対策バッチリの青鬼、蒼 麻稚が立っていた

鬼という種族はあらゆる環境に対応できるという生まれ持った体質もあるが、やはり慣れるまで時間が掛かるらしい

彼女は先程まで麒麟亭の宴会に参加していたが、彼女の管轄である三途の川に異常が起こったことを枡崎から脳話で聞いたため宴会を抜け出してきたらしい

まだ酒が効いているのか、それとも寒さのせいかほんのりと彼女の頬が赤く染まっている

 

「いつもみたいに防寒具を取り出せばいいじゃないですか」

 

「残念だがあれは片手サイズの単品限定でしかできないんでね」

 

麻稚の提案には無理があったため即座に却下する

そもそもどのような原理でああいう風になっているかは彼女も知らない

...というよりも天地の裁判所で働く鬼たち全員知らないかもしれない

それよりも逆に知っている人を知りたい

 

「チクショウ、マジで何か着てこれば良かったぜ」

 

「冷気は川を中心に発生しているようなので川に近づけば近づくほど寒さは増すと思います」

 

「....その助言はありがたいが今は聞きたくなかったな」

 

溜息をつくと白い息がぼーっと出る

ヤマシロと麻稚は冷気の影響で凍ってしまった地面と格闘しながら、ゆっくりと川へ近づいて行く

 

ついに寒さを耐え切ることに限界を迎えたヤマシロは無理を承知で、

 

「なぁ麻稚、マフラー貸してくれ」

 

「ヤですよ、変態」

 

「ですよね〜」

 

何をどう思って変態と言ったかはわからないが、ヤマシロは寒さと戦い続けることになった

....まぁ、無理前提のお願いだったのでこのことは予想してはいたけどね

 

 

 

「おかしゐな、確かこの辺りだった気がするんだけどな...」

 

所変わって、ベンガディラン図書館では先程から全く同じ、いや煉獄はある一冊の本を探していた

 

死神伝記...

 

物陰喫茶に行く前に偶然見つけた本であり、彼の興味を引いた少し分厚い書物でもある

彼の父親が死神であり煉獄の幼い頃に他界してしまった種族...

...まぁ、死神なのに死んでしまったという謎の展開は今は置いといてほしい

父の生きている間に死神の暗殺術の基本技術である潜影術だけを教わったが、もしかしたら他にも習得できるものがあるかもしれない

煉獄は死神の血を2割程度しか引いておらず習得できる技術にも限りがあると言っていたが、教わることもできず、習得する術を知らないため、もしかしたら他にも出来たものがあるかもしれない

父がまだ生きていれば、まだ自分に何かを教えてくれたかもしれない

 

そんな僅かな希望を抱きながら煉獄は図書館の整理も同時進行させながら、死神伝記という一冊の本を探した

 

 

 

更に所変わって麒麟亭屋根上...

 

「....なんか寒くなってきたな」

 

盃 天狼は酒を飲みながら上空を見上げる

もうひょうたん何個目かわからないほど酒を飲んだ彼に酔っている様子は見られない、というよりもまだまだいけそうな勢いだった

 

ヤマシロが天地の裁判所へ向かってから彼は動くことなくその場で酒をひたすら飲み続けていた

そして空の様子を見ていると、いつもは禍々しい赤と黒で構成されている地獄の空だが、ついさっきから色が青みを帯びてきている

雷の降る回数も減り、風が強くなってきており、竜巻の発生するほどの異常気象に変貌しきっている

 

「こういうこと、前にもあったようでなかったような...」

 

天狼は顎に手を当てて、酔った思考を働かせるが気分とアルコールの問題で上手く思い出せずにいる

というよりも、こんなことをできる人物を一人知っているような...

 

「てーんろーさーん」

 

「ん?」

 

気怠そうでどこか甘ったるい声のする方向を振り返って見ると、酔ってべろんべろんになった紅 亜逗子が天狼の背後に立っていた

 

「お前、ちと飲み過ぎじゃないか?」

 

「あんただけにゃ、いわれたかねーよ!」

 

「俺は酒呑童子だからいいの!」

 

亜逗子の正論を一言で論破する

やがて彼女は天狼の隣まで歩み寄り、どっしりと腰を下ろす

 

「にしても、なんか寒くない?」

 

「風が出てきてるからな、風邪引くなよ...ヒック!」

 

「うるへー、閻魔様も麻稚もどっかいっちまって暇なんらよ!」

 

「.....だからこっちに来たのか」

 

亜逗子は更に酒を飲み、天狼はその姿にため息を吐く

煉獄も苦労したんだろな、と思ったのは内緒である

 

しかし、この地獄の温度はやはり異常であった

彼がそのことを考えてると亜逗子がポロリと愚痴を零す

 

「全く、三途の川が凍りついた程度で麻稚も慌てふためきやがってよ、ホント、あたいは暇で仕方ねーんだよ!だから天狼今日はとことん付き合えよー!」

 

「お前、もう帰れ!」

 

ややエロい体制でもたれかかって来る亜逗子に怒鳴る

もうこいつどうしようもねぇな、とため息を吐きヤマシロに合掌する

 

一つの火山が噴火し、その付近だけがいつもの地獄の空の色を一瞬だけ取り戻した

 

 




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