たとえ、この身を汚そうとも...
現世にて、深夜の東京と呼ばれる地域の市街地の暗い路地裏の一角で血の匂いが周囲に漂い異質な雰囲気を演出させる
一人の男を中心に複数人の人物が全身に切り傷を身体に刻んだ状態で倒れていた
その全員が出血多量の状態で放っておけば死んでしまう可能性が非常に高い危険な状態だ
中心に立つ男が口を開く
「今宵は雨か...」
男が呟いた瞬間に雨が急激に激しくなる
先程から小雨程度に降っていた雨が台風の時のように激しいスコールとして姿を変えた
男は雨で身体に纏わりついた血を洗い流すようにわざと雨に打たれるような態勢になる
そして自らが直截殺めたヒトとして生きていたモノに対し静かに合掌する
そして死体に気がついたのか、赤いランプを光らせ、パトカーが数台音を鳴らしながらこちらに向かってきていることに気づき男は暗闇に溶け込むようにして姿を消す
そして、高層ビルの屋上にまで辿り着くと自身の頭に指を当てる
まるで何処かとテレパシーをしているような動きを手慣れた様子で一つ一つの動作を丁寧に行う
しばらくして男は頭から指を離し影から影に移動するような動きで光のない深夜の街を移動する
「俺の身がどれだけ汚れようとも、それが世界の秩序を保ち世界が安定するならば俺は喜んでこの身を汚そうではないか、」
男は移動しながら独り言を呟く
血よりも異質な深紅の瞳の見据える先には何があるのか...
闇よりも深い黒い髪とマントに光が差す時はあるのか...
肩で支えている巨大な大鎌は何を斬り裂いてきたのであろうか...
光が失われた東京の街は影が支配し、雨が降り注ぐ...
死神と呼ばれる男は今日も首を狩り、魂を黄泉の国へと献上する
たとえそれが彼の罪となり彼が恨まれようとも...
「ヤマシロ、お前が俺を止めようとも俺は止まらない、たとえ全世界の生物の血を浴びようとも、たとえ俺の存在が厄介になろうとも、たとえお前が俺を拒絶しようともな....」
闇に生きる死神は延々と独り言を淡々と呟く
まるでそれを誰かが聞くことを望んでいるかのように
かつて自分のことを友と呼び、共に実力を高め合った友人のことを思い出しながら
次第に彼の思い出は雨に流され闇に消えゆく...
雨は無情にも彼の血も罪も流すことはなく降り続ける
そしてやがて東京から離れたある過疎地にまでやってきた死神はフッと現世から姿を消した
「許せヤマシロ、俺はもう引き返せない...」
その言葉が死神が現世を去る直後に呟いた最後の独り言であった
次回から新章突入です!