閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

32 / 112
急展開注意!


Thirtieth Judge

「.....あれ?ここは....??」

 

地獄で隗潼の連撃を受け、意識を手放したヤマシロが目を覚ますと白い天井が目に入る

感触からしてベッドの上に寝かされているらしく白い布団が覆いかぶさっており、全身には細かいところにまで包帯が巻かれている

 

(俺、確か隗潼さんから攻撃を受けてそこから...あ!」

 

意識をはっきりとさせるのと同時に気絶する前の記憶が蘇る

蒼 隗潼率いる軍が天地の裁判所に攻めてきたこと、それを迎え撃つために兵を挙げたこと

 

「こんなことしてる場合じゃ...」

 

「うるさゐなぁ〜」

 

「!!!?」

 

ヤマシロの隣から何処かで聞いたような声が聞こえた

今まで気が動転していて気がつかなかったが、ここは天地の裁判所にある医務室のようだ

隣のベッドには額に生えた短い三本の角と黒みを帯びた真紅の髪...

 

「少し静かにしてくだせゑよ、閻魔様」

 

敵対していた隗潼の協力者の一人の煉獄 京がヤマシロ以上の包帯で体がグルグルに巻かれた状態でこちらを見るからに不機嫌そうな眼差しで見ていた

 

「..............」

 

「...............」

 

沈黙が続く

煉獄はヤマシロのことを噂程度でしか知らないし、ヤマシロに至っては煉獄とはほぼ初対面のようなものである

お互いに話題が見当たらずに沈黙が無限にループする

 

話題が見つからないまま、ヤマシロが再び意識を手放そうとしたその時...

 

 

「煉獄っちー、マジ起きてるなら図書館の整理手伝ってよねー!」

 

 

「ひゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐゐ、ゐやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

ドタドタ、スパパパーン!と金髪で盛り髪のギャルもどきが勢い良く扉を開くと同時に大声で叫ぶ

どうやら彼女にここが病室だという認識がないらしい...

 

「あ、閻魔様起きてたんだ、どもっす!」

 

少し遅れこちらに気がついたようで右手を軽く挙げ簡単な挨拶を済ます

....亜逗子以上の自由人かもしれないと思ったのはここだけの話である

 

「じゃ、閻魔様こいつ借りてきますね」

 

「ゑ、ちょ、待っ、俺まだ完治してなゐんスけど!?俺まだ安静にしとけって医者から言われてんスけどー!?」

 

「そんな事情ウチが知るわけないだろ?」

 

「何なんだよあんた!」

 

そのまま首根っこを掴まれ、ズルズルと煉獄を引きずる(物理的に)形で病室から出て行く

煉獄は何やら彼女にトラウマのような恐怖心を植え付けられてるようだったが、そこはあえて触れないでおこう

 

「.....あの雰囲気からすると戦いは終わったのかな?」

 

遅くとも現状を判断したヤマシロはとりあえず動こうとベッドから降り病室から出て行くことにした

そこでふと彼は思い出す

 

「.....仕事溜まってるんだろうな」

 

どんなイレギュラーな事態が起こっても、やはり閻魔大王という役職に休みはないらしい...

 

 

 

地下闘技場...

天地の裁判所のペンガディラン図書館よりも更に下に位置する巨大なトレーニングルームであり鬼達はそこで日々体を鍛えている

また、とてつもなく頑丈な作りになっておりそっとやちょっとのことでは壊れない作りとなっている

 

その真ん中の闘技台に立つ二人の鬼...

 

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

紅 亜逗子と盃 天狼が拳と拳をぶつけ合っていた

その周りはギャラリーに溢れかえっており、どちらが勝つかなどの賭けをしている者も見られる

 

「.....何やってんだか」

 

ヤマシロが強い力を感じ、闘技場にやって来るとこうなっていた

病室から出て何人かの鬼によればヤマシロはかれこれ二週間近く眠っていたらしい

その間は先代であり父でもあるゴクヤマが代わってくれていたらしく、ある程度仕事を終わらせそそくさと帰ってしまったらしいが...

 

ついでにその二週間の間に何があったかを尋ねると様々な変化があった

まず、事の首謀者である蒼 隗潼が行方不明になり現在捜索中ということ、隗潼の協力者達が再び

一部だが天地の裁判所で再び働くことになったこと、話によれば隗潼に協力するために態々引退した鬼もいるらしい

そして天地の裁判所の修復がつい先日完了したこと

 

(本当、何もできなかったな...)

 

ヤマシロは心の中で呟き、再び闘技台に目を向ける

....というよりも今ここで改めて亜逗子の有り余る体力に驚かされる

 

そして決着はつかないまま、制限時間オーバーとなり勝負は引き分けとなった

 

「クソー!また決着つかなかったな....」

 

「これで紅と俺の戦績は127戦0勝0敗127引き分けだな、ヒック!」

 

「天狼さん、また一杯やります?」

 

「望むところだ、そっちで一勝してやるよ!」

 

「お前ら一体なんなんだよ!?」

 

思わずヤマシロは突っ込んでしまう

どうやらこの闘技場で二人が戦うのは初めてではないらしい

それでもこの二週間で戦いすぎだと思う...

 

「あ、閻魔様!」

 

「うげ!?」

 

亜逗子はこちらに気がつくと涙目でこちらに向かってきて骨が何本か逝ってしまいそうな勢いで抱きしめて来た

 

「閻魔様、心配かけやがってコノヤロ、コノヤロ!」

 

「いだい、いだいい!た、頼むから力もっとゆるめ、て」

 

ヤマシロの必死の訴えは亜逗子に届くことはなくミシミシミシボキボキボキという音がヤマシロの全身から鳴り響いた

その後、天狼の助け舟によって意識を手放すことだけは避けれたがその場に倒れてしまい、亜逗子に肩を掴まれ体をブンブンブンブンと前後に振られたのは別の話である

 

 

 

天地の裁判所、屋上テラスにて

 

「.......」

 

半壊に追い込まれた裁判所はたった二週間で元の姿を取り戻し本日も平常運転である

彼女、蒼 麻稚を除いて...

 

「...閻魔様」

 

麻稚は自身の上司であり昔馴染みでもあり、守る事のできなかった人物の名を小さく呟く

そして、隗潼とゴクヤマの一戦を思い出す

 

率直に言えば決着は一瞬だった

 

自分があれだけ苦戦した隗潼がゴクヤマによって意識不明の重体にまで持っていかれたほどだ

先代の閻魔大王の実力が計り知れない

その後ゴクヤマの一言により戦闘は終結した

ヤマシロ以上のカリスマ性があり、優れた人物だと心からそう思った

何故彼のような人物が引退してしまったかわからないほどだった

 

その後、隗潼は行方不明扱いになりヤマシロは未だに目を覚ますことはない

 

「......閻魔様」

 

麻稚は涙を流し自身の弱さを悔いる

大切な人を二人も失ってしまった

隗潼に至ってはどこかで生きていても不思議ではないが、ヤマシロは現在危篤の状態にある

親友の亜逗子が心配して声を掛けたこともあったが彼女の耳に聞こえることはなかった

そして、もう一度守る事のできなかった人物の名を小さく呟く

 

「閻魔様ぁ...」

 

「呼んだか?」

 

麻稚は一瞬理解できなかった

麻稚は一瞬幻聴だと疑ってしまった

返答があった...

麻稚は勢い良く振り返りその姿を確認する

 

流れるような無造作な銀髪に全身に巻かれた戦闘の跡を思わせる痛々しい包帯...

そして、見間違えるはずのない全身...

 

「どうした麻稚、らしくな、ウゴブ!?」

 

「閻魔様、閻魔様、閻魔様ぁ!!」

 

麻稚は気がつけばヤマシロに抱きついていた

彼が目を覚ました、彼が生きている!

そのことが今の彼女にとってこれ以上の喜びはないだろう

 

「悪いな、心配かけちまって」

 

「いいんです、ご無事でなによりです」

 

「だけどもう大丈夫、心配かけることはこれで最後だ...」

 

ヤマシロは一旦言葉を区切り、

 

「俺はもう二度と負けないから!」

 

これ以上ない清々しい笑顔で決意を声にした

その言葉を聞き、麻稚はヤマシロに負けない笑顔で大きく頷いた

 

 

 

 

 




これにて第2章完結です!
少し無理矢理感があるのはきっと気のせいでしょう
まだ物語は続きますのでよろしくお願いします!

そして、この小説を読んでくださってる方々には本当に感謝します!
このまま完結までお付き合いいただけると幸いです!

次回もよろしくお願いします

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。