閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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もうしばらくだけグダグダな戦闘にお付き合いください


Twentieninth Judge

開戦の合図は必要なかった

亜逗子が回し蹴りを放ち、天狼がフェイントを混ぜた拳で翻弄する

朧岐は押されるがまま二人の攻撃を受けながら後退しているが、その表情に焦りは感じられない

むしろ、歓喜の表情を思わせる

 

朧岐は両手に持った二つのバトルアックスを防御から攻撃の姿勢に変え、器用かつ的確に振り回す

それぞれを片手で行っていることが嘘のような動きを見せながら三メートル級のバトルアックスを攻撃と防御を使い分ける

その一撃に天狼が吹き飛ばされ、亜逗子が攻撃を仕掛けようとするが防がれ弾かれる

そのまま亜逗子は天狼の場所まで吹き飛ばされ天狼のひょうたんの上に器用に着地する

 

「うぃ、行くぞ!」

 

「あいよ!」

 

その言葉だけで二人の意見は合致する

天狼のひょうたんが後方に下げられ亜逗子はひょうたんの上で助走の構えを取る

そしてそのまま.....

 

「ど、こいっしょー!」

 

ひょうたんを突き出し、亜逗子がロケットの様に真っ直ぐ朧岐に向かって直進する

そのまま勢いに乗った亜逗子は両の拳を構える

朧岐は亜逗子の行動を予測し、バトルアックスをクロスさせ防御の体制に移る

 

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

亜逗子は拳を勢い良く突き出し、バトルアックスに攻撃するように見せかけて拳を直前で思いっきり引っ込め、バトルアックスを足場に上へ跳ぶ

 

「なっ...!?」

 

これには朧岐には予想外であったらしくいつも余裕の雰囲気を出している彼でも驚きの表情を露わにする

 

「理解不能、何故攻撃しなかったのだ?」

 

「分かってないな、こっちはツーマンセルでやってんだぜ!」

 

一瞬、その言葉の意味がわからなかったが朧岐は即座にその意味を理解すると同時に亜逗子から、目の前にいた天狼に視線を向ける

 

「遅いよ...」

 

しかし、正面ではなく自身の背後に...

そう、亜逗子の攻撃は囮であり本命は天狼の酔拳による推測不能の背後からの一撃

亜逗子が攻撃してもよかったが、攻撃が予測される可能性が高いため天狼が攻撃の役割に回った

 

「いつの間に...!?」

 

「うぃ、ンなこと分かってんだろ?」

 

「へっ...」

 

天狼の一撃が放たれる

朧岐はバトルアックスに手を伸ばそうとするが、防御体制に移ったときに大地に固定してしまったためバトルアックスは使えない

よって、素手で防ごうとするがその攻撃の予測は外れる

天狼の魅せる酔っ払い独特のトリッキーで不規則な動きは朧岐の一瞬の判断を奪い取り、結果的に多数の連撃を体に浴びる

 

「ガッ...ハッ...!?」

 

体の中に溜められていた酸素を一気に吐き出す

そして、頭上から更なる追撃が朧岐を襲う、紅 亜逗子が右の拳を握りしめ朧岐の頭上から凄まじい速度で迫ってくる

 

「うお、りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

朧岐は避ける間も無く、頭で亜逗子の拳を受け止める

朧岐を中心に地響きが発生し、巨大なクレーターが形成される

人間が受けたら一溜まりもない一撃だが、鬼なので何とか耐え切ることに朧岐は成功する

 

「流石...!だが、まだまだ!」

 

だが、いくら頑丈な鬼とはいえどもかなりの痛手、ダメージは大きく意識も危うい

しかし、そんな状況だからこそ朧岐 御影は更なる真価を発揮する

 

「なんて、威圧感...!」

 

「やべぇな、スイッチ入りやがったあの野郎...」

 

朧岐の真価、それは生まれながらの戦闘狂の朧岐だからこそが持つ才能

彼は自分の命の危機を感じると体中のアドレナリンと血液の流れが急速に働き出し、戦闘の本能が目覚める

元々強者と闘うことに喜びを覚えていた朧岐がこれ以上興奮する理由もないであろう

 

「あぁなっちまったら厄介だな、さっさと決着つけちまうぞ、ヒック!」

 

天狼は更に大量のアルコールを身体に摂取する

体中が赤くなり、血管が全身から浮かび上がる

 

「あぁ、こっちもペースアップだ!!」

 

亜逗子も殺気を放ちながら髪を結んでいるゴムを外す

そして、先程とは比べものにならない程の速度で朧岐に迫る

天狼も後に続き、朧岐も攻撃に備え防御の体制を取る

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そして、三人の戦士は再び激突した

 

 

 

一方...

 

「ハァ...ハァ...」

 

「どうした麻稚、もう限界か?」

 

蒼 麻稚と蒼 隗潼による親子の死闘は父親である隗潼が優位に立っていた

隗潼の容赦ない連撃により倒れたヤマシロの為に実の父を敵として認識し、一対一に持ち込んだがそれでも力と経験の差は埋まることはなかった

麻稚は隗潼と距離を取りつつ、近づきながら闘うというトリッキーな戦法をとっているが、隗潼はそれらの攻撃全てを的確かつ丁寧に防ぐ

 

「父上、何故あなたがこのようなことを...!?」

 

「言った筈だ、全ては我らの秩序の為...」

 

「いつまでそんな言葉に縛られるつもりですか?」

 

麻稚は隗潼の言葉を遮る

隗潼はその態度が気に入らなかったのか僅かに眉を動かす

 

「全ては我らの秩序の為に、その台詞は先代が裁判の際に必ず言った言葉であり、先代の口癖...」

 

麻稚は呆れるような表情で隗潼を睨みつける

 

「あなたはいつまであの事を引きずっているのですか、今の閻魔大王はこちらにいらっしゃるヤマシロ様です」

 

麻稚は武器として扱っていたスナイパーライフルを支えにゆっくりと立ち上がる

もう立つのが精一杯の状態に見えるが、その瞳には決して消える事のない意思が宿っている

 

「確かに先代は素晴らしいお方でしたよ、しかし、何故このようなことまでする必要があったのですか!?一言先代と話をつければ済んだ話だったはずです!!」

 

そう、麻稚の言う通り隗潼は先代とは仲が良かったため話し合いでの解決も可能だったはずだ

態々兵を集めてまでもここまでする必要はなかったはずだ

しかし、隗潼はその事を否定する

 

「それは無理だ、今の閻魔大王を殺さない限り先代が再び戻ることはない!」

 

「ま、まさか...!?」

 

「そうだ、俺たちの目的は4代目の復帰だ」

 

麻稚は頭が痛くなった

何故そこまで彼は先代にこだわるのであろう?

現在のやり方が気に入らないのか...

それとも先代でなければならない理由があるのであろうか

 

「ゴクヤマ殿の失権は不当だ、俺はそれを証明する!!」

 

隗潼は再び麻稚に衝撃波を放つ

凄まじい衝撃波は麻稚の華奢な体では受け止めることはできず、後方に吹き飛ばされる

 

「うっ、ガッ...!!?」

 

「終わりだ、麻稚!!」

 

隗潼が麻稚との距離を一気に詰める

隗潼は拳を握り直し、その拳を我が娘に向ける

 

もう駄目だ...

 

麻稚は知らず知らずの内に涙を流していた

まさか、あの優しくて尊敬していた父親に殺されるなど夢にも思ってなかったであろう

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

隗潼の拳が麻稚に迫る

凄まじい速度だが、ゆっくりと感じることもできる

 

しかし、その拳が麻稚に届くことはなかった...

 

「なっ...!?」

 

隗潼の拳に天から青い一筋の稲妻が直撃する

ピンポイントで直撃した稲妻は静かにバチバチと音を残して消える

そして、二発目の稲妻が落ちてくる

しかし、その稲妻は一発目とは比べものにならないほど巨大で地面を抉り取るほどの威力があった

 

「全ては我らの秩序の為に...」

 

そして、稲妻はやがてヒトの形に変化していく

隗潼と変わらぬ体格、まだ若干若さの残る顔立ちと凄まじい威厳を放つ雰囲気が特徴的な男...

 

「隗潼、相変わらずやんちゃしてんじゃねぇかよ」

 

ヤマシロの父にして先代閻魔大王、ゴクヤマが戦場に舞い降りた

 

「ゴ、ゴクヤマ...」

 

「久しぶりだな、でも今は感動の再会場面じゃない」

 

狼狽える隗潼を無視してゴクヤマは淡々と言葉を繋げる

そして、次に隗潼を襲ったのは言葉による精神的な痛みではなく、直接的で物理による痛みだった

 

「ガフッ、ハァ...!?」

 

「こんな茶番、さっさと終わらしてやるよ」

 

 




キャラクター紹介

イエス・キリスト
種族:神(元人間)
年齢:謎
趣味:生花
イメージボイス:仲野祐
詳細:聖書にも登場するキリスト教の神
初代閻魔大王と面識がある数少ない人物である
実は本を出版しており、天国で発売された『洗礼のすゝめ』は一時期にかなりの人気を呼んだこともある


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