First Judge
「では判決を下す...」
広い部屋で一人の青年の声が響く
部屋は裁判所のようになっているが検察側と弁護側の席がなく
被告人と裁判官の席と裁判官の隣に二つ席があるだけだ
青年は裁判官側に座り判決を被告人に下す
当の被告人はガクガクと震えている
それもそうだろう、被告人は裁判官である青年の一言で人生が決まってしまうのだから
「判決は...」
青年が裁判所お決まりの木槌を手に取る
「死人、末田幹彦は天国行きに決定する!」
ドンッ!と大きな音が裁判所に響き渡る
先程まで表情が優れなかった末田の顔が明るくなり
「ありがとうございます、ありがとうございます! 」と
去り際に何度も頭を下げた
※
死人が行く先は天国か地獄
しかし、そこに行くまで絶対に避けられない場所がある
例え聖人と呼ばれ天国に行くことを約束された善人でも
例え南無阿弥陀仏を唱え極楽浄土に行こうとする輩でも
絶対に天国と地獄に直行することはできない
閻魔大王という存在がいる限りは....
「あ〜ぁ、疲れたぁ〜」
「本日もお疲れ様です、閻魔様」
そんな閻魔大王にあたる人物、ヤマシロは疲れを表すように
ドカッと柔らかなソファに腰を下ろす
女性が羨ましがるサラサラかつボサボサな色素の抜けた白髪
閻魔大王らしく威厳のある目つきに圧倒される者も少なくない
ヤマシロは何処からともなく呼び出した一冊の本を手に取る
「今日の判決はこんなけかな?」
「えぇ、閻魔様が判決なさるのは先程ので最後です」
「ふぅ〜〜〜〜〜〜……疲れたな」
「お疲れ様です」
ヤマシロは本をしまいもう一度大きな溜息を吐く
此処、閻魔大王の職場「天地の裁判所」は
毎日毎日毎日毎日毎日毎日絶えずに迷える魂が集まる
そして、現閻魔大王であるヤマシロは毎日が仕事
つまり、休めるのは仕事と仕事の短な合間のみとなる
そもそも閻魔大王という職は先祖代々長男が継ぐことになっている
ヤマシロの父、ゴクヤマが過去異例の450歳(人間でいう45歳)という若さで突如引退し隠居してしまったため5年前にヤマシロは175歳(人間でいう17歳)というこれまた異例な若さで就任している
始めはイマイチ乗り気ではなかったが、ヤマシロが閻魔にならなければ
死後の世界のバランスが崩れ、生の世界にも影響が出てしまう事態だったため
第5代目閻魔大王にしぶしぶ就任することになった
「それでどうですか、閻魔の仕事は?」
「正直滅茶苦茶疲れるよ、あの短気な親父がよくやれたと思うくらいに」
「ですが、閻魔は必要不可欠な存在です」
わかってるよ、とヤマシロがやや不機嫌に応えようとしたその時、
「閻魔様!」
「何だ?」
部屋の扉が勢い良く開かれ一人の鬼が入ってくる
「亜逗子様がお呼びです!」
その名前を聞いた瞬間、ヤマシロは頭を抑える
まだまだ閻魔大王は働かなかねばならない
※
此処「天地の裁判所」に人と呼ばれる生物はいない
閻魔大王は働き手として主に死後の世界に暮らす鬼を雇う
そんな鬼の若き統率者である、
「ちーっす!」
「何の用だ亜逗子?こっちは疲れてんだ」
紅 亜逗子[くれないあずさ]
実年齢不明(ちなみに尋ねると殴られる)赤鬼の少女
燃えるような真っ赤な髪を一つに束ね額に生える赤い二本の角が特徴的である
そんな亜逗子は雇い主である閻魔大王様に向かって、
「いや〜閻魔様疲れてるみたいだからもっと疲労が増したらどうなるかな〜って」
「よし、お前の給料は麻稚の給料に、」
「冗談です、申し訳ありません」
「だが断る」
プライドを捨て土下座した亜逗子を無視してヤマシロは本に何やら書き込みはじめる
「この鬼ー!」と叫ぶ亜逗子はとりあえず放っておく
…鬼に鬼と呼ばれるという珍しい体験をしたヤマシロは
「なら、給料マイナスか麻稚の給料プラスかどちらか選べ!」
「あたいに得なし!?イヤイヤイヤイヤイヤイヤ、いくらなんでもそれは、」
「なら解雇か?」
「まさかの選択肢!?」
うぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!と頭を悩ませる亜逗子
ちなみに彼女、鬼達の中ではかなりのドSらしいがこのままでは格好がつかない
いつも亜逗子の被害を受けている鬼達は
「あの亜逗子姐さんが...」「マジかよ」「閻魔様スゲぇ」
などとヤマシロの株が上昇する
「じゃあな亜逗子、答え待ってるぜ」
「勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
亜逗子は泣きながら走り去った
あれで雇った鬼達を纏めてるんだからどうしたものか
ヤマシロはこれで休めると、体を伸ばすと、
「閻魔様!」
「どうした?」
「緊急事態です!急ぎ天国まで行ってください!」
....閻魔大王に休みはない
※
天国、そこは生前に善行をし、良心を持った者たちが行ける死後の楽園
...とか思っちゃいけない
確かに楽園に違いないが事件がないわけではない
「んで、何があったの?」
ヤマシロが天国行きの空港で同行してきた鬼に尋ねる
ちなみに鬼は天国に入れないためここでお別れとなる
「窃盗ですね」
「…ごめん、帰っていい?」
「いけません」
即答だった
「それ本当に閻魔がすべき仕事なの!?」
「もちろんです、天地の治安を守るのも閻魔様のお仕事です!」
ちなみに天地とは天国と地獄のことである
最近は天国にしても地獄にしても治安が乱れつつあるため両方を自在に行き来できる閻魔は
その役割も担っている
まぁ、地獄の治安は昔から最悪だが....
鬼から窃盗の詳細を聞いているうちに飛行機が到着する
「では閻魔様、よろしくお願いします」
…閻魔大王に休みはない
投稿ミスすみませんでした