閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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今回は長い+会話中心です


Tenth Judge

「裁判を始める前に...」

 

ヤマシロは亜逗子と麻稚に了承を得て、予定していなかった質問をする

 

「瓶山、あんたの娘は瓶山 夏紀、死因は心臓の手術の失敗で間違いないな?」

 

「...あぁ、間違いない」

 

でも、と瓶山は言葉を繋ぐ

 

「生きてる可能性があるんだろ?だったらなんでこんなことを聞くんだ?」

 

「.....すまない」

 

「え?」

 

突然の謝罪に瓶山は目を丸くする

事情を全く知らない亜逗子と麻稚でも同様の表情をする

 

「.....ちゃんと天国に居たんだ、あんたの娘」

 

その発言に瓶山は目を大きく見開く

瓶山が驚くのも無理はない、その存在を確認した時ヤマシロも驚いたくらいだ

 

「.....本当なのか?」

 

「今まである理由で天国への到着が遅れただけだったんだ、全ては気づけなかった俺のミスだ」

 

そう言い、ヤマシロは再び頭を下げる

 

三途の川...

先日、ヤマシロが訪れ一人の少女を餓鬼から場所...

そう、その助けた少女が瓶山 夏紀だったのだ

天国で彼女に再開し、ヤマシロは当然驚いた

だが、直ぐさま閻魔帳で確認すると再開した少女が瓶山 夏紀であることが証明された

ヤマシロが最初に探ったのは四年前、しかし実質裁判所に夏紀が来たのは三日前

 

そう、今まで四年もの間、両親の為に積み石の作業を行っていたのだ

 

「元気でいたよ」

 

その言葉を聞き、瓶山は未だに信じられない表情を浮かべる

 

「...でも、俺は一度天国への招待を手放した、今更どのツラ下げて夏紀に会えってんだ?」

 

心なしか、瓶山の声は震えていた

拳を強く握りしめ、今にも泣き出してしまいそうだった

 

「あんたはまだ天国への切符は捨ててない、この裁判次第で天国に行ける可能性だってある」

 

そう、これはあくまでも天国か地獄の行く先を決める為の審議、裁こうとかそういうものではない

だけど、とヤマシロは付け足す

 

「俺だってプロの閻魔大王だ、やるからには今までの情は全て捨てて徹底的にやらせてもらう」

 

ヤマシロの表情と身に纏う雰囲気が変わる

今の彼は死者を導く、本物の閻魔大王だった

その言葉に瓶山は覚悟を決める

 

「上等、天国に行く理由ができちまったからには絶対に行ってやるよ!夏紀を一人にしない為に!」

 

「.....いい返事だ」

 

ヤマシロと瓶山は互いに笑う

まるでこれから因縁のライバル同士がぶつかり合うような雰囲気が法廷を支配する

 

「亜逗子、麻稚、待たせたな」

 

ヤマシロが左右にいる従者に声を掛ける

 

「これより、瓶山 一の行く先を決定する裁判を開廷する!」

 

殺伐とした雰囲気が法廷を駆け巡った

閻魔大王の大仕事が今、始まる!

 

 

 

「では、改めまして魂の詳細を詳しく」

 

麻稚が資料を取り出して読み上げる

 

「瓶山 一、男性、48歳、いて座のB型、家族構成は妻と娘が一人ずつ、娘は既に天国にて生活中、ここまでは間違いないですね?」

 

「あぁ、間違いない」

 

「職業は製品会社のサラリーマン副業として小説家、特に目立った成績はなし、間違いないですね?」

 

「間違いない」

 

「では、単刀直入に尋ねる」

 

ヤマシロが麻稚と瓶山の会話を遮る

 

「何故天国への道標を自ら絶ったんだ?楽園には興味がなかったのか?」

 

「.....認めたくなかったんだ」

 

瓶山は静かに応える

小さ過ぎて聞き逃してしまいそうな小さな小さな声で

 

「俺は自分の死を認めたくなかったんだ、妻を一人にしたくなかったんだ、いやしてはいけなかったんだ」

 

「ちょっと待てよ」

 

「...亜逗子、何でお前が発言してんだ?」

 

「あんたは自殺したんじゃないのか?死んだ時の映像を見させて貰ったが、あんた自分から駅のホームから飛び降りてたじゃん」

 

「なっ...!?」

 

「............」

 

亜逗子の発言にヤマシロは驚く

というより、本来進行役の筈の亜逗子が発言したことに問題があったが今は関係ない

 

「おい、亜逗子、何で俺に言わなかったんだ!?」

 

「いや、何か、言うタイミングがなかったっていうか...」

 

亜逗子があからさまに目を逸らす

忘れてやがったなコイツ...!と思ったが今は裁判の最中、とりあえず裁判に集中する

 

「瓶山、今のは本当か?」

 

今のが本当であれば瓶山は嘘の発言をしたことになり、天国から遠ざかってしまう

やがて、瓶山は口を開く

 

「......違う、あの時、何かわからないが、後ろから突然押された感じがあった」

 

「どういうことだ?あの映像には何も映ってなかったぞ?」

 

「本当なんだ!信じてくれ!俺は妻を一人置いていくマネだけは絶対にしない!」

 

瓶山は堪らずに叫ぶ

ヤマシロはその映像を見ていないから何とも言えないが、両者共に嘘を吐いているようにはとても見えない

 

つまり、亜逗子も瓶山も真実を言っているが、どこか矛盾している部分がある

 

ヤマシロは亜逗子と反対側にいる麻稚に耳打ちする

 

「麻稚、その映像直ぐに用意できるか?」

 

「すみません、裁判が終わってからは可能ですが今は...」

 

ヤマシロは忌々しげに舌打ちする

 

(全く、亜逗子は何でそんな大事なことを話さないかな...)

 

ヤマシロから何やら不機嫌なオーラが放たれていることに気がつき亜逗子と瓶山は一先ず黙る

そして、今度は亜逗子に耳打ちする

 

「亜逗子、後で話がある」

 

亜逗子の返事を聞く前にヤマシロは瓶山に話かける

 

「瓶山、一旦この件は置いておく」

 

分からないことが多い今は、これで手を打つしかなかった

 

「だけど、閻魔様...!」

 

亜逗子が反論しようとしたところでヤマシロは目の前の台に全力で拳を叩きつける

その行動に思わず亜逗子も言葉を失う

 

「少し黙れ」

 

ややドスの効いた声で亜逗子を睨みつける

それが効いたのか亜逗子はここが法廷であることを思い出し、「申し訳ありませんでした」と彼女が敬語で謝罪する

...何故か麻稚がニヤニヤしているが、今はスルーしてもいいだろう

 

「すまなかったな、瓶山続けようか」

 

「あ、あぁ」

 

瓶山も若干引き攣った顔を浮かべる

さっきの殺気と行動を見れば当然ともいえる

 

「質問を続けるがお前は自殺したのではないんだな?」

 

「あぁ、自殺する時は妻と一緒にすると決めていたからな」

 

「よし、では次の質問だ」

 

 

 

そして、一通りの質問が終わり判決の時がやってくる

あの後以来、亜逗子は一度も発言することはなかった

 

「閻魔様、そろそろ台本が終わります」

 

「よし」

 

「あ、あの、台本って.....」

 

瓶山が何か言っているが、ヤマシロと麻稚は無視する

 

「さて、」

 

ヤマシロが雰囲気を変え、ピリピリした空気が支配する

 

「では、判決を下す!」

 

瓶山の体がより一層強張る

瓶山は大丈夫、大丈夫と自分に自信を付けるように拳に力を入れる

亜逗子と麻稚はヤマシロを見守る、法廷に入る前に声を掛けたときと同じ暖かい瞳で

ヤマシロは二人の視線を感じ、静かに頷く

 

「判決、瓶山 一は...」

 

瓶山は祈る

娘との再会のため...

一度自分が捨てたチケットをもう一度手にするため...

 

 

「瓶山 一を、白!天国行きに決定する!」

 

 

ドンっと大きな音が法廷に響き渡る

瓶山は未だに何を言われたかわからない表情で固まっている

 

「...え、えっ?」

 

「おめでとうございます」

 

笑顔で麻稚が瓶山に声をかける

 

「いや、大した奴だよあんたは」

 

いつの間にか立ち直ったある亜逗子も労いの言葉を送る

 

「あ、あぁ...」

 

瓶山の目から涙が零れる

その涙は悲しみの涙ではない

歓喜の涙

夏紀が産まれたときに流した時以来、流すことがないと思っていた涙

 

「あ、ぁあ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

瓶山はあの手術の日に泣いたときに匹敵するくらいの大声で泣き叫んだ

 

ヤマシロは静かに法廷を後にした

 

 

 

瓶山が無事に天国に行ったことを確認してから、亜逗子の言っていた映像を見ていた

そしてヤマシロは驚いた様子で目を大きくした

 

「そうか、そうだったのか...」

 

ヤマシロがもう一度、よく見てみようとしようとしたところで、

 

コンコンっと扉がノックする音が響く

 

「閻魔様、あたいだ」

 

やはり亜逗子だった

 

「いいぞ」

 

「失礼します」と亜逗子が静かに入室する

やはりどこかいつもの亜逗子と違い、元気がなかった

 

「閻魔様、本当、今回の裁判では勝手なことしてすみませんでした」

 

「...降格か給料ゼロのどっちがいい?」

 

「どちらでも構いません」

 

やはりいつもの亜逗子と違った

相当責任を感じているらしい

 

「...冗談だよ、お前は一週間謹慎だ」

 

「わかりました」

 

そう言い亜逗子は出て行こうとするが、ヤマシロが彼女の名を呼び引き止める

 

「ミスをすることは過ちじゃないんだ、誰だってあることだ」

 

ヤマシロは笑う

 

「重要なのは、そのミスを次どう活かすかだ、いつまでも引きずってたって仕方がねぇ、忘れろとまではいかないが気にすんな、いつものテンションでいてくれないと俺が調子狂っちまう」

 

どこかで聞いたようで名言を引用したような長ったらしい台詞を言うヤマシロ

しかし、彼女にはいつも通りでいて欲しいと言ったのは本心であった

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

亜逗子はそう言い静かに退室する

さっきまで亜逗子の立っていた場所が少しだけだが濡れている

 

「.....女の子泣かしちまったよ..」

 

ヤマシロは最後の最後で心底後悔したとさ

 

 

ここは死人が集い、人でない者がせっせと働く天地の裁判所

若き閻魔大王、ヤマシロはこの短い期間で閻魔大王の責任の重さを知る

 

(でも、立派な仕事だよな...)

 

それと同時に、先代達が行ってきた仕事に誇りを持つことができた

 

「さて、もう少し頑張るか!」

 

若き閻魔大王に休みはなく、今日も、また明日も働く

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず第1章終了です!
ここまで読んで頂き本当にありがとうございます

...完結ではありませんので


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