閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

108 / 112
今回は麻稚さんの話です(^^)
キャラ崩壊にご注意ください(笑)


後日談 〜蒼麻稚side〜

 

ある日の天地の裁判所。

本日も行き場を失った死者達はぞろぞろと行列を作り、天国か地獄かのどちらかの切符を受け取る。

 

今更過去の過ちを後悔している哀れな地獄行きの皆様はもっと後悔すればいいと思う、と青鬼の少女蒼麻稚は魂の行列を眺めながら鼻で笑い飛ばした。

 

「いくら何でもそれは酷いと思わないか、娘よ」

 

「その娘を本気で殺そうとしていた父上はどうなるんですかね?酷いじゃすまないと思いますよ」

 

ぬぐぅ、と真実を言われて反論することができない。

彼女の父、蒼隗潼はあの一件以来裁判所に住み着いている。

行き場を失ったとかそういうものなのか単純に全てが丸く収まり娘達が心配なのか本当のことはわからない。

 

そんな様子に麻稚はため息を一つ漏らす。

 

「ハァ、どうも最近パッとしないんですよね」

 

「ストレスでも溜まってるんじゃないのか?ヤマシロに言って休みをもらって親子水入らずでどこかにでかけないか?もちろん亜逗子も一緒に」

 

「それは遠慮させてもらいます」

 

「おいおい、それが老い先短い父親に言うことかよ」

 

「父上はまだまだ長生きしてくれますよ。でないと私が悲しみます」

 

「麻稚...」

 

「なんて言って欲しかったですか?」

 

「.....なぁ、なんか最近お前冷たくない?仕事中も上の空になってること多いし。悩み事でもあんの?」

 

そう、麻稚は元々こういった性格なのだがそれでも人が傷つくような悪口や毒は吐かない、はずである。

隗潼は父親として娘がこのような状態だと心配でならなかった。

 

やがて麻稚は隗潼に面を向ける。

幼かった頃と比べて随分と女らしくなった麻稚から放たれる色気に思わず見惚れてしまいそうになるが、越えてはならない一線を守るため隗潼は壁に全力で頭突きをする。

 

「.....何してるんですか?」

 

「修行だ。それで何かあったのか?」

 

角によりスパッと切れ込みの入った壁に背を向けて優しく微笑みかける。

 

「実は、ここ最近胸がモヤモヤしてしょうがないんですよ。何をするにしてもやる気が湧かないし餓鬼を潰しまくっても亜逗子をおちゃくっても全然満たされなくて」

 

後半は何やらバイオレンスな内容だったがこの際スルーしよう。

 

「病ってことはないのか?」

 

「既に見てもらいましたが異常はないそうです」

 

「疲れが溜まってるってことは?」

 

「それだったら今頃寝込んでますよ」

 

「ヤマシロと何かあったのか?」

 

「いえ、普段通りですよ」

 

麻稚は淡々と隗潼の質問に応える。

どうやら彼女の言っていることは本当らしい。

もし仮にヤマシロに原因があるとするならば今頃彼は隗潼により半殺しにされていただろう。

本人の知らないところで命の危機が迫る、有名人は大変である。

 

と、そこで天井からニュっと一人の男が現れた。

 

「よぉマチ、探したぞ」

 

「ぜ、ゼストさん!?」

 

麻稚はビクッと肩を震わせた。

黒い髪にヤマシロと同じ瞳の色をした死神、ゼスト・ストライカーが笑顔で現れた。

どうやらゼストは隗潼の存在に気付いていないらしく、そのまま麻稚に話しかける。

 

「この前頼まれてた本買ってきたぜ、遅くなって悪かったな。中々のレアモノで手に入れるの大変でさ」

 

「別に大丈夫ですよ。こっちは頼んでいる身なのですから」

 

「そう言ってくれるとありがたいよ、今度機会があったら現世に連れて行ってやるからよ。じゃあな!」

 

麻稚の返事も聞かずにヒュン、とゼストは潜影術で影に潜り込みその場を立ち去る。

まさに嵐のような男である。

 

(.....ん?)

 

そこで麻稚と隗潼の間にやって来たゼストがいなくなり麻稚の顔を見られるようになった隗潼は気がつく。

 

麻稚の頬が赤く染まり楽しそうな表情をしていることを。

 

長い間一緒に生活していたが、隗潼が一度も見たことない嬉しそうで楽しそうな表情だった。

 

「あ、父上すみません。この辺りで失礼します」

 

「あ、あぁ。またな」

 

そのまま麻稚はタタタッと小走りでその場を後にする。

隗潼はそのままぎゅっと拳を強く握りしめる。

そして麻稚の姿と気配が完全に遠ざかるのを見計らって...

 

「ぐぬぅうォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!嘘だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

大絶叫しながら壁を殴り砕いた。

今のやり取りと娘の表情で隗潼は確信した。

 

我が娘、蒼麻稚はゼスト・ストライカーに恋心を抱いていると。

 

 

 

「そういうわけだ!赤夜ァ、何とかしろォォ!!」

 

「いや、意味わかんねーし。何で俺がお前の娘の色恋話聞かされた上にどうにかしなきャいけないんだよォ」

 

隗潼はそのまま天地の裁判所の下層部分にある平欺赤夜の秘密の部屋に突撃訪問した。

事情を完全に把握できない上にこれから睡眠しようとしていた平欺にはいい迷惑であった。

 

「いいじャねェかよ。もしかしたら孫の顔を見られるかもしんねェぞ」

 

「そういうわけではないッ!何故我が娘が誰かと結婚せねばならんのだ!?」

 

「話飛躍させすぎだ、まだ付き合ってもねェんだろ?親として暖かく見守ってやれよ」

 

「娘の隣にいる男と一緒にか?ふざけんじゃねぇぞ!」

 

「ふざけてんのはどッちだ、あァん!?俺はもう眠いんだよ、寝かせやがれェ!」

 

「年中寝てんだろうが!それでまだ眠いってんなら体に異常でもあるんじゃねぇのか!?」

 

「お生憎様だが正常すぎて困ってるくれェだ。何ならテメェのそのうるせェ口を黙らせてやろうか、おォ?」

 

バチバチバチバチバチ、と互いに睨み合い目から火花を散らせる。

昔から何かと歪み合いながら四代目閻魔大王の補佐官をやっていた。

ちなみに仲裁役は勿論四代目閻魔大王である。

しかし、その仲裁役は現在頭を丸くして出家してしまい行方はわからずじまいである。

 

「お前とやんのは久々だな、赤夜ァ!いい機会だし決着付けてやるよ!」

 

「上等だァ、隗潼ォ!せいぜいへばらねェよォにしろよォ!!」

 

数秒後、天地の裁判所そのものが大きく振動してせっかく修繕が終わりかけた部分までもが破損してしまったのは別の話である。

 

 

 

「え、それ本当なんですか!?」

 

「ガチじゃないとわざわざこんな面白くもない話持って来ねぇよ」

 

デスヨネー、と雑務室にて作業をしていたヤマシロは隗潼という突然の来訪者の話を煙管を吸いながら聞いていた。

傍では枡崎仁が資料の整理をしており彼も興味津々に隗潼の話に耳を傾けていた。

 

「.....ていうか隗潼さん、その怪我一体どうしたんですか?」

 

「.....聞くな」

 

まさかいい大人が喧嘩して出来た傷とはとても言えまい、しかも原因が自分の娘のことで。

 

「たしかに最近ゼストと麻稚が一緒にいることはよく見かけますね」

 

「私も見ましたよ。何か言い争いをしていたようにも見えました」

 

どうやらヤマシロも枡崎も心当たりがあるらしい。

 

「それで、お前はどうなんだ」

 

「.....どうなんだ、とは?」

 

「あの腐れ死神に麻稚を取られてもいいのか、と言ってるんだ!」

 

「.....そういうのは本人の自由じゃないんですか?」

 

「見損なったぞ五代目ェ!!」

 

「ちょ、隗潼さん!?近い近い近い近い、角刺さってますから!俺の頭に刺さってますからー!」

 

ギャーギャーと喚く二人を放置して自らの作業を続ける枡崎君。

どうやら隗潼はヤマシロが麻稚に惚れているとでも思っていたらしい。

たしかに昔から仲良くさせてはいただいていたのだが、ヤマシロ自身そんな感情は一切持ったことはない。

 

歳の近い姉か、将来共に仕事をする友人程度の認識でしかなかったのだから。

もちろん、それは亜逗子にも言えることである。

そんな事情を一切知らない隗潼の怒りは一方的であり、とても理不尽だと百人に聞いて百人が「はい」と首を縦に振るだろう。

 

「最近亜逗子も煉獄の奴のこと気にし出してみてるだし、やっぱあいつらも付き合っちゃうのかな...」

 

「か、隗潼さん?」

 

「このままでは游奈に会わせる顔がないッ!来いヤマシロォ、麻稚とゼストの行動を監、チェックする!」

 

「あんた今絶対監視って言おうとしただろ!」

 

「ええぃ、細かい男め!いいから黙って俺について来い!」

 

「ちょ、俺まだ仕事が...!ていうか隗潼さんこれ普通に犯罪だから、ストーカーだから!プライバシーの侵害だか」

 

扉はバタンッ!と勢いよく隗潼によって閉じられた。

隗潼に首根っこを掴まれたままヤマシロは引きずられて雑務室を飛び出した。

 

「.....いってらっしゃいませー」

 

残された枡崎は自らに課せられた仕事を終わらせるべく作業を一人寂しく再開した。

 

 

 

場所は変わり天地の裁判所で働く鬼たちの住む麒麟亭。

その中央入り口に一人の少女が立っていた。

 

(.....本当、最近の私は一体どうしたのでしょうね)

 

少女、麻稚は胸に手を抑えながらバクバクと高鳴る心臓の音を肌で感じていた。

 

あの一件がある程度片付きプライベートに余裕ができたあたりだろうか、心に靄がかかったような感じが続いているのは。

親友である亜逗子にこのことを相談したところニヤニヤとされるだけだし、父である隗潼に関してはこれと言った答えすら得ることができなかった。

 

「よぉマチ、待った?」

 

そこで一人の青年、ゼストが歩いてやってきた。

互いに仕事が終わり特にすることもないため麻稚がどこかに行こうと誘ったのだ。

理由としては彼女の心のモヤモヤを彼ならば何とかできるのではないかと思ったからだ。

 

死神の使う潜影術の本質には心の闇に潜り込み、精神世界に行くことができると聞いたことがあったからだ。

実際ヤマシロの弟であるヤマクロは死神と鬼のハーフである煉獄の協力によってそれが実現したのだから。

 

「いえ、私も今来たとこです」

 

「そうか、じゃあ丁度よかったな!」

 

ゼストはニッと爽やかな笑顔を浮かべる。

それにつられて普段は冷静沈着でポーカーフェイスの麻稚も自然と笑顔になる。

.....ゼストが笑みを浮かべた瞬間に岩陰から凄まじい殺気がゼストを襲ったことも追記しておこう。

 

「そ、それでどこ行くの?」

 

「地獄街へ視察がてら買い物に、行ったことありますか?」

 

「聞いたことはあるけど行ったことはないな。俺は基本現世に行ってるから」

 

「そうなんですか、地獄街もいい所ですよ」

 

「じゃあ案内頼むぜ、本当に素人だから道に迷っちまうかもしれん」

 

元々方向音痴なんだけどな、とゼストはへらへらと冗談を言う。

そんなゼストの右手を麻稚はきゅっと握りしめる。

 

「でしたら迷子にならないようにしとかないといけませんね」

 

「.....お、おぅ」

 

 

 

「.....ガチャ」

 

「か、隗潼さーん、お願いですからその左手に持ってる物騒なロケットランチャーをどうか仕舞ってもらえませんかねー!?」

 

 

 

地獄街、かつて煉獄と亜逗子が訪れた地獄の商店街とはまた違い住宅もあり多くの鬼が住んでいる。

このエリアもあの一件で影響で溶岩が流れ込み、現在も復興している途中なのだが、それでもかつてのように活気は戻ってきている。

 

人混みに紛れながらも麻稚を先頭にゼストを麻稚が引っ張る形で前に進む。

ゼストは先程から凄まじい殺気を浴びてるせいで平静を保つだけで精一杯で冷や汗もダラダラである。

 

「どうしたんですかゼストさん。顔色が悪そうですけど」

 

「普通だよ、ちょっと人が多すぎて慣れないだけだよ。現世に行くときも人が多いところはなるべく避けてきたからさ」

 

「そうですか、ではどこかの店にでも入って休憩をしますか」

 

「悪いな。気遣わせちゃって」

 

「いえいえ、私の方こそお付き合いいただいて感謝してるので」

 

そう言いながら二人は近くにあったカフェに入る。

.....その後ろを青いリーゼントの大男とバンダナをした白髪の小柄な青年が付いて行った。

 

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」

 

「二人です」

 

「に、め、い...様ですね!ご案内致します!!」

 

何やら店員さんはピューと急いで二つ席を片付けて俊足で戻り、麻稚達を案内した。

 

「何かあったのでしょうか?」

 

「さぁ?」

 

 

 

「お、おおおお待たせして申し訳ありませんでした!すぐにご案内いたします!」

 

「中々気配りのできる店だな」

 

「.....隗潼さんの変装に問題あるんじゃないのか?」

 

 

 

「ねぇ、ゼストさん。ちょっと相談よろしいでしょうか?」

 

「相談?」

 

ゼストは注文したジンジャーエールにストローを指してチューチューと飲みながら麻稚の言葉を復唱する。

 

「はい、元々そのことで」

 

「そうなんだ。でも相談なら裁判所でもできたんじゃないか?」

 

「できたら、知り合いの少ない場所がよかったので」

 

後ろからガタガタタッ!と席を立つ大きな音をBGMに会話は続く。

 

地獄街は天地の裁判所からかなり離れており一人あたりの仕事量からして来るには難しい場所である。

高速移動か特殊な力でもない限りやって来れないのだ。

だからこそ麻稚はここを選び、ついでに視察という仕事を買って出たのだ。

 

「実は、最近何だか胸がつっかえてる感じがするんです」

 

「病気じゃねぇの?」

 

「.....父上も同じことを言ってました。医師には異常はないと言われました」

 

「ふーん、それって常に?」

 

「いえ、特に一人の時にその現象が酷くて」

 

「ふむふむ」

 

「.....これは一体何なのでしょう?」

 

「.....難しいな」

 

ゼストは腕を組んで悩んでいる仕草を見せた。

心なしか顔がニヤけている気もする。

 

「それっていつ頃から?」

 

「そうですね、あの一件が終わって趣味に没頭できるようになってからですかね。心臓が動くのが早くなるのを感じる時もたまに」

 

「もしかして、それって...」

 

 

 

「ちょいちょい隗潼さん!ストップストップ!」

 

「認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ認めんぞ!」

 

 

 

「興奮してるんじゃない?」

 

ゼストはドヤ顔で言い放った。

 

「興、奮ですか?」

 

「おう、あの一件以来マチって百合系の本も俺に頼むようになっただろ?」

 

ゼストが言うにはあの一件のせいで趣味に没頭できず、忘れていた興奮と新たな文化の開拓により新しい自分の目覚めの前兆だと。

要約しても意味はよくわからないが麻稚には伝わったらしい。

 

「なるほど!では私がゼストさんと会うたびにこの感覚になるのは...」

 

「多分俺が新しい本を買ってくるから楽しみなんだろうな」

 

「では、モヤモヤする感じは」

 

「単純な欲求不満、早く本を読みたいって気持ちの表れだな!」

 

「おぉ!」

 

麻稚はキラキラとした尊敬の眼差しでゼストを見つめていた。

 

「ありがとうございますゼストさん!何だかスッキリしました!」

 

「それはよかった!じゃあスッキリしたついでに視察もちゃちゃっと終わらせちゃいますか!」

 

「そうですね!帰って早く本(BLもしくは百合)を読みましょう!ゼストさんもご一緒にどうですか?」

 

「それは遠慮しておくよ」

 

二人は笑い合いながら店を後にした。

 

 

 

「なぁ、隗潼さん。これどういうことだ?」

 

「.....俺に聞くんじゃない」

 

店に取り残されたヤマシロは疲れた表情を、隗潼はどこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

ちなみに後日、雑務室を普段以上に往復する大量の紙を持った隗潼の姿が目撃されたとか。

 




番外編のリクエストお待ちしております(^^)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。