閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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今回はスピンオフでも活躍中のゼストが主人公です(^^)



後日談 〜ゼスト・ストライカー side〜

 

地獄の一角にそびえる巨大な建造物、天地の裁判所。

さらに麒麟亭と呼ばれるまたもや巨大な建造物と渡り廊下で繋がれ一つの大きな施設は現在世紀の大損壊のため修復作業が進められていた。

 

閻魔大王が頂点に君臨し、現世からやって来た魂を裁きながら導く道標としての機能を持ついわば通過点のような重要な施設でもある。

 

しかし、現在閻魔大王は天国に行ってしまい不在状態となってしまっている。

それでも秩序を保ち、一人一人がしっかりと自分の役割を果たしている所を見ると閻魔大王の力量とカリスマ性が見てわかる。

 

「再建もいい具合に進んでるな。俺は何もすることはねぇか?」

 

「そうですね、今のところ人手も十分足りてますし貴方の出る幕ではありませんね。いつもみたいに現世をフラフラしていればいいんじゃないですか?」

 

「そうも言ってられない状況だろ?ていうかマチは俺をそんな風に見てたわけ?別に毎度毎度現世で遊んでるわけじゃないぜ、必要物資も仕入れないといけないし」

 

「また私からも注文させてもらいますね」

 

「遠慮しておく」

 

死神の青年、ゼスト・ストライカーは苦笑いと共にとても冗談とは思えない強い否定を表す。

青鬼の少女、蒼麻稚は小さく舌打ちをしてコーヒーカップを手に取り一口で中身を全て飲み干す。

 

現世と来世を自在に行き来が可能できる能力を持つゼストは目の前の少女の父親である蒼隗潼によって大虐殺された死神の生き残りである。ちなみに鬼と死神のハーフという存在も確認されているが純粋な死神はゼストのみである。

本来ならば一触即発の状況になり会話など弾まない状態のはずなのだが何とか和解は実現しているため双方共に無益な争いは望んでいなかった。

 

「そういや今日はアズと一緒じゃないんだな。珍しいんじゃないか?」

 

「別に常に一緒というわけじゃありませんよ。今日は亜逗子の怪我がある程度回復してきたのでリハビリがてらとか言ってあの辺で木材でも運んでるでしょう」

 

「.....相変わらず元気だな、あの人」

 

「それが取り柄ですからね」

 

麻稚は表情を僅かに緩めるがゼストはその一瞬に気がつくことはなく、持参して来た昆布の入ったおにぎりを口に運ぶ。

 

彼らは今、再建途中の麒麟亭の一角にあるテラスで仲良くお茶をしていた。

多くの天地の裁判所で働く鬼達が住む麒麟亭は比較的作業が早く進みもうすぐで改築が完了するといった状態にある。

元々損壊もそこまで酷くなく、サイズも天地の裁判所よりも一回り小さいためでもあるが。

 

「それで一体何の用なんだ?マチが呼び出す理由ってのは大体予想はつくが一応聞いといてやる」

 

「.....上から目線なのが物凄く気になりますが呼び出したのはこちらですし一先ずはスルーしましょう」

 

麻稚は服の中から一冊の薄い雑誌を取り出す。

 

「実はこれを一度やってみたいのですが」

 

「どれどれ?」

 

ゼストは体を少し乗り出して麻稚の指差した場所を見てみる。

見た瞬間、ゼストの瞳は一瞬動いたようにも見えた。

 

「へぇー、そういや俺も何やかんやでやったことないな。でも俺たちだけじゃ流石に面白くないぞ」

 

「安心してください。もう既に二人追加可能です。というか部屋に呼んでます」

 

「用意周到だな。ていうか他の準備はどうなんだ?」

 

「バッチグーです」

 

麻稚が親指を立てて笑顔を浮かべるとゼストも釣られて怪しい笑みを浮かべる。

そして二人は何かを感じたかのように互いに右手を差し出しガッシリと固い握手を結んだ。

 

「よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、楽しくいこうぜ」

 

二人は麻稚の部屋へ向かった。

 

 

 

天地の裁判所の知識とも言われる施設、ベンガディラン図書館は地獄一保管されている本の量が多い大図書館で歴史書から古文書や同人誌と言ったありとあらゆる本を取り揃えている。

そこで働く煉獄京という男は見るからにイライラした様子で一人の女性を見下している。

見下している対象は煉獄の上司でありベンガディラン図書館館長の月見里査逆と呼ばれる天邪鬼である。

 

「で、弁解の言葉は一応聞ゐとゐてやるよ。あんたみたゐな鬼でも一応人権は認められてるらしゐからな」

 

「一応って酷くない!?ていうかウチが一体何をしたって言うの、そこに置いてあった美味しそうな肉まん食べただけでいきなり殴るなんてマジで酷くない!?」

 

「あれは俺が楽しみに取っておゐた現世にしか売ってなゐ、いや現世でも幻とされてゐる貴重な肉まんなんだよ!二度と食べれなかったら本気であんたを恨むからな!」

 

「それってあまりにもマジで理不尽じゃない!?そもそもそんな大事なモノを誰でも取れるような位置に置いとく煉獄君にも非はあるとウチは思いまーす!」

 

「理不尽上等、言ゐ訳無用だクソ上司がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」

 

「.....いつに増して激しい気がする」

 

「ていうか最近煉獄さん結構理不尽にキレてないッスか?」

 

「.....それは気のせい」

 

「そもそもあの人確か脳波の使用控えるように先代に言われてるんじゃ」

 

そんな二人の様子を離れた位置から間宮樺太と笹雅光清の二人がそれぞれの思ったことを口にして、オドオドしながら成り行きを見守っている東雲胡桃の三人がいた。

 

「ゐくら坊ちゃんと閻魔様が不在だからって仕事サボってんじゃねぇぞ!」

 

「仕事サボってんのはいつもだし!」

 

「言質は取らせて頂きました、閻魔様が帰り次第提出しますね」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

そう、煉獄京という鬼と死神の双方の血を身に宿す男はある戦闘をキッカケに頭蓋骨に傷を残してしまいその影響は脳にまで及び、多大な脳波を使おうとすれば負担がさらに大きなモノとなってしまう状態になってしまった。

だから最近の彼は脳波を使わずに査逆を圧倒して勝つという目的からかなり姑息な手に走り始めたらしい。

 

「じゃあ俺っち達はそろそろ行かせてもらうッス」

 

「.....バイト?」

 

「いや、麻稚さんに呼ばれてるんッスよ。胡桃と一緒に適当な食材を持って部屋に来いって」

 

「ササ、食材何持った?」

 

「バイト先で適当に余り物をいくつか貰った程度ッスね。胡桃は何にしたんッスか?」

 

「ちょっと色々、じゃあマミそろそろ行くからここよろしくね」

 

「.....どうして俺は呼ばれてない?」

 

「さぁ、影薄いんじゃないッスか?」

 

この一言をキッカケに間宮が数週間このことを気にし続けたのは別の話である。

 

 

 

「.....凄い匂いッスね」

 

「は、鼻が、鼻が.....」

 

「おいマチ、一体何を入れて何をどうしたらこんなことになるんだ?とてもじゃないが食いモンとは違う何かになりかけてないか?」

 

「.....ダ、ダイジョーブデスヨー」

 

「クソ!メチャクチャ不安になってきた!」

 

笹雅と東雲が麻稚の部屋に辿り着き、ゼストが今回の企画を説明、もとい麻稚のやりたかった闇鍋を実行しようと全員にルールを説明し最初は皆して面白そうだなー、程度で食材をポンポンと放り込んだのが間違いだったのかもしれない。

 

もしかしたら彼らは闇鍋という未知の娯楽を甘く見過ぎていたのかもしれない。

 

「と、とりあえず私が一番最初にいきます。やりたいと言ったのは私なので...」

 

「オイ、無理すんなよ」

 

「大丈夫です、私食べ物は残さない主義なので」

 

そう言いつつも麻稚はゴクリと唾を呑み込み覚悟を決めた表情を浮かべる。

麻稚は箸を手に取り鍋に向かい手を伸ばす、暗くてよく見ることができないが何やらプニプニした柔らかい物をつかむことに成功する。

 

麻稚はゆっくりと口にプニプニした物体を口に運んだ。

 

(.....ヤバイ、吐きそう)

 

.....初っ端からゲームオーバー状態であった。

ちなみに麻稚の食べた物は八咫烏の心臓と呼ばれる地獄珍味の一つでだが、一口食べるだけで好みが分かれるとも言われているほどの食材である。

更に言うと持ってきたのは笹雅である。

 

「どうだマチ」

 

「.....しばらく話しかけないでください」

 

「.....つ、次行こうか」

 

「俺っちスゲー帰りたいんッスけど!?」

 

笹雅が大声で抗議する、東雲もよく見えないが否定の行動を取っているのが確認できた。

 

「じゃあ笹雅君いってみよう!」

 

「俺っちの全力の抗議をあっさり無視!?」

 

「覚悟決めろや漢だろ?さっさとしないと影でお前の神経を操作して」

 

「漢、笹雅光清!二番手行かせていただくッス!」

 

「.....ササ頑張れ」

 

東雲のエールもあり空元気でウォォォォォォ!と最早ヤケクソ状態の笹雅だが実は彼には勝機があった。

確実にハズレを選ばない絶対的な自信が!

 

(俺っちの千里眼があれば視力が上がって鍋の中身を確認できるッス!)

 

そう、笹雅は両目に千里眼という特別な目を持っている。

幼い頃人体実験の末に手に入れた能力であり名前の通り千里の先まで見通すことができる。

だが、それはあくまでも光のある時限定であり今この場所は真っ暗闇。

 

(.....し、視力上がってるだけで何も見えないッス、ていうか余計見にくくなってる!)

 

笹雅はぐぬぬ、と唸り声を上げて千里眼に頼ったイカサマは諦めて普通に鍋に向かって箸を伸ばした。

掴んだ物は今にも滑り落ちそうで油断してしまえば鍋に戻ってしまうかもしれない。

器用に箸を扱い口元まで箸を近づけてゆっくりと掴んだ物を口に運んだ。

 

(あれ、意外においしい...ッ!?)

 

次の瞬間、笹雅の口の中に激しい痛みが襲った。

笹雅の食べた物はハバネロで滑り落ちそうだったのは単純にハバネロから出た汁と色々な物が混じった鍋のだしが合わさり滑りやすくなっただけだった。

笹雅は声にならない叫びを上げて部屋の隅で涙を流していた。

 

「ササ!?」

 

「一体何があったんだ!?」

 

状況を掴めない東雲とゼストは不安気に声をかけるが返事が返って来ない。

 

「ええぃ、こうなったら俺も!」

 

次にゼストが笹雅を襲った謎を解明すべく鍋に箸を伸ばす。

そして何かを掴み勢いよく口に運ぶ。

 

するとゼストの口の中からガリッという音が響いた。

 

(な、なんだ、こ、これは!?)

 

ゼストが食べた物は殻を剥いていない何かもわからない謎の木の実でとんでもなく硬かったためゼストの前歯が欠けてしまった。

更にわずかに砕けた木の実の中からとんでもなく酸味の強い液体がゼストの舌を刺激した。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

突然のゼストの叫びにビクッと体を震わせる東雲だったがここまで来て自分だけ食べないなんていかない、という謎の誠実さから東雲も得体が知れない鍋に箸を伸ばす。

 

そして、掴んだゴーヤを勢いよく口に運び込む。

 

「.............................きゅう」

 

そのまま東雲も意識を失い、麻稚の室内がとんでもない異臭に支配されてしまい復活した四人が全力で換気を行った。

 

『もう二度と闇鍋はやらねぇ!!』

 

これが四人が長い一日で学んだ唯一の教訓だった。

 

 




番外編のリクエストはまだまだ受け付けております(^^)

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