閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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番外編です(^^)
今回の主人公はヤマクロです!


後日談 〜ヤマクロside〜

 

「よし、こっちは問題ないぞ。そっちはどうだ?」

 

「同じく問題なし、尾行を続けよう」

 

ここは天国、善なる魂が集まり生前に活躍、もしくは著名だった善人の集まる黄泉の国の休息地でありリゾート地でもあり観光地でもある。

その天国の一角に二人の人物を尾行する三人の人影が映っている。

 

一人は今代の閻魔大王にして絶賛多忙のはずのヤマシロ。人目を避けるようなラフな服装にサングラスを付けている。

二人目は瓶山一。かつてヤマシロが裁判によって裁いて無事天国で娘と再会して以来便利屋を営んでいるまだまだ現役の働くお父さんであり、彼もまた人目を気にするように辺りに気を配り迷彩柄のジャケットを身に纏っている。

そして最後の一人は石川五右衛門、瓶山と共に便利屋を営んでいる元泥棒で今ではすっかり改心して平和に天国で暮らしている。

 

五右衛門はため息を吐きながら一言漏らす。

 

「なぁ旦那も瓶ちゃんもさ、こんなことやめねぇか?俺たちが行ったって何もできることないぜ。むしろ邪魔だし」

 

「黙れ。これは極めて重要な仕事だ、何故なら裁判所の雑務を全て放ったらかしにして来たんだから」

 

「それただ単純に面倒だっただけじゃねぇの!?頼むからこんなことより本来の仕事に戻ってくださいよ、瓶ちゃんも言ってくれ!」

 

「俺は閻魔様に賛成だ。というより俺たちは閻魔様に依頼されてここにいるんだ、依頼人の意向は無視できない。それに俺もあの二人が気になって仕方ない」

 

「お前もかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

うがぁぁぁぁぁ!!と頭を抱えて二人を止めることを不可能に思えてきた五右衛門は重いため息を一つ吐く。

対するヤマシロと瓶山は目をギラギラとさせ周囲をひたすら警戒し、尾行対象から目を離さぬようにとしっかりと追跡を続ける。五右衛門も置いていかれぬようにとついて行くがイマイチ乗り気ではなかった。

 

五右衛門は思う、どうしてこうなったのか。あの時何故自分も興味本位で参加を表明してしまったのかと。

 

そう、あの時点では彼らを止めれるのは自分しかいないと思った五右衛門が馬鹿だったのだ。

ここまで二人が本気で暴走するなど彼の予想の内には入ってなかったからである。

 

どうしてこうなってしまったのか、それを説明するには少々時を遡り一から十まで解説する必要があった。

 

 

 

今も改築作業の続く天地の裁判所では誰も彼もが一丸となって動ける者を中心に皆が汗を流して作業は着々と進んでいた。

麒麟亭は既にほぼ形を取り戻しており娯楽場と天地の裁判所と直接繋がっている渡り廊下に関しては完全に復旧されていた。

 

そんな作業に参加せずに狭い個室でただひたすら黙々と雑務を続けるヤマシロは一服がてらに煙管を取り出していた。天地の裁判所がほぼ壊滅状態となっていても現世からの客は途絶えることはなく、続々とやって来るため審判に裁判にといつも変わらぬ作業を延々と繰り返していた。

 

「はぁ、雑務をできる場所が残っているのは嬉しかったがこの量はありえないな。久々に羽を伸ばしてゆっくりしたいぜ」

 

誰が拾うわけでもない儚く叶わぬ願望を一人ため息を吐きながら窓から外で作業している鬼達を見ながら煙管を吸う。

彼らも頑張っているのだから自分も頑張らないといけないというのは言い聞かせているのだが、やはりやる気はなくストレスと疲れだけが溜まっている状態ではとても捗るとは言えなかった。

あの日以来これと言って目立つ大きな事件が起こるわけもなく平和な日常が悪戯に過ぎ去って行っているのでイマイチ張り合いがなく緊張感に欠けてきているのも事実である。

だがそれでいてこんな平和な日々が一生続けばいいと心のどこかで思っている自分がいることにも気がつく。

所詮ヒトの考えなど矛盾しか生まないのだ。

 

そろそろ作業を開始しようか、と背伸びを一つして席につこうとした所でスパーン!と勢い良く扉が開かれる。

入ってきたのは盛りに盛った金髪に冷たい白銀と燃えるような真っ赤な瞳を持つオッドアイの少女が息をぜぇーぜぇーと激しく切らしながらノックもなしに入室してきた。

少女、月見里査逆は今にも泣きそうな表情でこちらを見つめている。

 

「どうした査逆、ていうか入る時にノックくらいしたらど」

 

「閻魔、様」

 

査逆はギリギリと歯ぎしりをしながら呼吸を整え、ヤマシロに問いかける。

 

「ぼ、坊ちゃんに、い、い、いあいいいつ彼女ができたたたた、たんですかァ!?」

 

「......................................え?」

 

バンッと大きな音が鳴るくらいの力で叩きつけられた机が真っ二つにならないか些か心配な部分もあったのだが査逆の言ったことにヤマシロは目を点にするしかなかった。

彼女の言う坊ちゃん、ヤマシロの弟のヤマクロにそんな浮いた話があるなんて聞いたこともないし噂も立ったこともない。査逆はこちらの事情や言い分を聞かずに続ける。

 

「だって、坊ちゃん今日その人に会いに天国まで行くってマジで楽しそうにウチに話すんですよ!確かに坊ちゃんもいつまでも子供じゃないですけど、それでもウチは坊ちゃんの世話役としてこの話は是が非でも事情を知る権利があると思うんですけど!」

 

「今日?」

 

ヤマシロは記憶をゆっくりと辿って行った。たしかヤマクロが天国から戻ってきて間もない頃に瓶山夏紀と会う約束はしたと聞いていたがそれが今日だったようだ。

しかし、彼らは別に付き合っているわけでもないしそんなことを意識し合う年齢だとはとても思えない。

何よりヤマシロですら彼女を作ったことすらないのでその辺の事情に彼は極端に疎かった。

 

「たしかに夏紀ちゃんと会う約束はしてたけど、別にあいつら付き合っているわけじゃ」

 

「ソノオンナブチコロス。」

 

「やめろ阿呆!ていうかお前どうやって天国に行くんだよ、相手既に死んでる人間の死者だぞ!?」

 

「そんなもの、気合と根性とやる気さえあればマジで関係ねぇっすよ!」

 

「その熱意は仕事に影響させるように今後努力してもらいたいね!」

 

ヤマシロは査逆を全力で止めるべく鬼丸国綱を取り出した。

 

ちなみに仕事途中にいなくなった査逆を探しに雑務室前までやって来た煉獄と間宮によって全力で取り押さえられ査逆が気絶するという形で勝負は着いた。

 

 

 

その頃ヤマクロは既に天国に到着しており待ち合わせ場所である空港で一人静かに待っていた。

いつもの服装とは違い、以前天国に滞在している時に上杉謙信に協力してもらいこっそりと購入した現代風のラフな格好だった。

いつか夏紀と一緒に出かけることがあるかもしれないことと自分が夏紀に好意を抱いていることを謙信に何故かバレてしまったので二人で買い物に出かけたのだ。

そして女性と二人で出かける時の勝負服をヤマクロの意見も取り入れつつ謙信は全力でコーディネートに協力してくれた。

 

(夏紀ちゃん、まだかな)

 

すっかり元の形を取り戻した空港にある時計を見ながら待ち続ける。

約束は天国から帰る間際に決めたことでそこからは何度か携帯(夏紀達は脳話を使えないので連絡用にと滞在中に買った)で連絡をしていた。

天地の裁判所から天国にまで電波が届くという事実も本来ならば驚くべきなのだが生憎とヤマクロはそっち側の分野に関しては一切詳しくなかった。

 

「お待たせ〜」

 

丁度時計の長い針が12を指した辺りで夏紀がやって来た。

彼女もいつもの服装とは違いピンクと白のグラデーションのあるワンピースをメインにいつも以上に可愛く魅せられるコーディネートでやって来た。

 

「ごめんね、待った?」

 

「ううん、全然。その服可愛いね」

 

「ありがとう、ヤマクロ君も似合ってるよ」

 

「そ、そうかな」

 

えへへ、と頬を掻きながら照れるヤマクロに対して夏紀も頬を赤く染めて目線を下に向けて俯いている。

ヤマクロが夏紀の手を取り、笑顔を浮かべる。

 

「そんなことより今日は楽しも。せっかく会えたんだから一杯楽しまないと!」

 

「う、うん!」

 

夏紀もそれに応えるように精一杯の笑顔を浮かべた。

 

二人は手を繋いだまま近くの喫茶店までやって来た。チョイスが少し子供と離れたところがあったのだがヤマクロも夏紀も始終笑顔で不満を一切漏らさず、楽しい時間を過ごした。

次に向かった場所は天国でも有名所である遊園地である。夏紀もまだ行ったことはないらしいがかなり大きな遊園地で一日で全て周りきれるかわからないくらい大きかった。

彼らの他にも若いカップルや家族連れといった客も多く大人気であるということは見てわかった。

 

「楽しそう!」

 

「でしょ、私も一回来てみたかったのよ」

 

「お父さんとは行かなかったの?」

 

「.....目の前までは来たんだけどお父さんが恥ずかしがって結局入れなかったのよね」

 

「あ、ははは...」

 

楽しい一日はまだ始まったばかりであった。

 

 

 

そして冒頭に戻る。瓶山は自分のヘタレっぷりを二人に知られてしまい軽蔑の視線を向けられているところだった。

ちなみにヤマシロはヤマクロの次の便で天国にやって来て偶然夏紀を尾行する瓶山と五右衛門を喫茶店近くで発見したのでそこから行動を共にしている。

 

「畜生!リア充爆発しろ!」

 

「旦那ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?アレあんたの弟さんでしょ、弟さんの幸せくらい喜んであげてくださいよ!」

 

「閻魔様に同意だ、四散爆発してしまえ!弟様限定で!」

 

「お前もか親バカ!さり気なく娘取られそうになってるヤマクロさんに嫉妬心抱いてんじゃねぇよ、既婚者!」

 

やはり五右衛門に二人を止める力はなかった。

 

 

 

遊園地に入ったヤマクロと夏紀が始めに向かった場所はジェットコースターであった。

行く途中に様々な着ぐるみ達と写真撮影も済ませ楽しい時間を過ごしながらきゃはは、うふふ気分の二人は周りから見てもわかるくらいの幸せオーラを放っていた。

そしてジェットコースターで並んでいた二人はあっという間に先頭までやって来ていて次の方どうぞ〜という一言でいつでもコースターに乗れる態勢だった。しかしここで知っておかなければならない予備知識が一つだけある。

ヤマクロは自分の力で空を飛んだり空中を高速で移動したりすることはできるのだが、自分以外の力が備わった事態で空を飛んだり高い所に放り出されたりというイレギュラーな事態に弱いのだ。

つまりヤマクロはジェットコースターやロケットエンジン搭載の車などの乗り物が恐怖の存在でしかないのだ。このことを彼自身が自覚したのは天国滞在中に五右衛門と瓶山が仕事で使っているモンスターマシンに乗せてもらった時であった。

勿論だが夏紀はそんなことは一切知らない。

 

「楽しみだよね」

 

「ソ、ソウダネー」

 

既に二人の間に温度差が生じていた。

楽しそうな夏紀に対して顔を真っ青にするヤマクロ、二人は従業員の人に案内されてコースターに乗る。

 

コースターはカタカタと無慈悲で無機質な音を立ててゆっくりと上昇していく。中間近くでは既に天国のあちこちが目に入るほど高い場所までやって来ていた。

そしてコースターが最高潮の高さに達し...

 

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ#$=〆@○*%☆〒♪!!!」

 

楽しそうに叫ぶ夏紀に対して言葉にならないヤマクロの叫びが木霊した。

 

「あはは、楽しかったね〜!」

 

「ソ、ソウダネー」

 

「どうしたの、何かフラフラしてない?」

 

「だ、大丈夫大丈夫。ボクの歩き方って結構癖があるからさ」

 

あはは、と苦笑いを浮かべながらヤマクロと夏紀は近くのベンチでジュースを飲みながら休憩していた。

彼らの頭上では今でもジェットコースターに乗っている人々の叫びが聞こえており、皆が皆楽しそうに叫んでいる。

聞いている分に恐怖は感じることはないのだが、ヤマクロと同じ感覚を持つ人達もいるかもしれないので心の中で同情した。

 

「ねぇ、そろそろ行こうよ。まだまだ行きたい所は一杯あるんだから!」

 

「そうだね、ボクもまだ行きたい所があるんだ!」

 

二人はあははは、と笑いながら立ち上がる。本当に楽しそうに、ヤマクロは閻魔大王の弟という責任を背負っていないように。夏紀は自分が死んでここが天国であり自身が死人だと認識するのを忘れるくらいに。

おそらく二人にとって今日はこの日のことは一生の楽しい思い出になるだろう。

それが閻魔だろうと死人だろうと関係ない。楽しかったら楽しい、悲しかったら悲しい、嬉しかったら嬉しい、怖かったら怖いと感情がある時点であらゆることを共有し、共に乗り越えることができる。

例え種族や寿命が異なれど笑顔というモノはその壁すらも感じさせない。

 

二人は今日という一日を全力で楽しんだ、年相応の無邪気な子供のように。

 

 




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