閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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初めての番外編です!

今回は紅野生成様の小説、キャミにナイフとコラボさせていただきました
キャミにナイフの内容も含みますのでそちらを読んでからの方がお楽しみいただけます

時系列的にはヤマシロが信長の荷物を取り返しに行く直前辺りです


番外編
コラボ編 〜キャミにナイフ〜


ヤマシロが目を開くと薄暗い森の中だった

 

「..........は?」

 

まだ意識が完全に覚醒している訳ではないが異様な光景がヤマシロの前に広がっていた

まずは黄泉の世界では見ることのない植物、黄泉の世界では見ることのない白い雲と空...

初めは夢かと疑ってもおかしくない状況にヤマシロは意識を一気に覚醒させられる

ヤマシロは仰向けになっていた体を一気に起こし、辺りを見渡す

 

右を見る、木がいっぱいだった...

 

左を見る、やはり木がいっぱいだった...

 

下を見る、大地があった...

 

「.........ははは」

 

生まれて初めての経験にヤマシロは思わず笑ってしまう、いやこの場合は笑わずにいられないの方が正しいのかもしれない

 

織田信長の鞄が石川五右衛門に盗まれたと聞いたから天国に行くための飛行機に搭乗し、今まで忙しかったから飛行機の中くらい一眠りしようと思ったらこれだよ...

 

いや、もしかしたらここが天国なのかもしれない!

...しかしその考えは即座に否定する、彼は何度か天国に行ったことはあったが地面は雲でその上はアスファルトで舗装されている

それにもっと人気と建物があった

 

ヤマシロが意識を覚醒させてから約53秒、導き出された結論は...!?

 

「ははは、はは、ここ一体どこなんだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!?」

 

頭を抱え、大声で叫んだ

ヤマシロの声に驚いたのかたくさんの小鳥と虫が空に飛んで行った気がする

 

こうして、ヤマシロの奇妙で不思議な体験が始まった

 

 

 

ヤマシロはとりあえず現実逃避をしていても仕方ないので辺りを散策してみることにした

道に迷ったらそこを動くなとかよく言うが、何故かそこにいつまでも留まってはいけない気がしたのだ

自分の元いた場所とは違う何かを彼は何度も感じた

 

しばらく歩くと、森を抜けて一本の長い道に出ていた

いつの間にこんな所に来たかはわからないが気がついたら目の前に一本の長く果てしない道が伸びていた

 

「...とても現実とは思えないな」

 

ヤマシロはとりあえず行く宛も右も左も前も後ろもわからないため、目の前に続く道をひたすら進む

....途中何やら奇妙な生物に何度か絡まれたが気にすることはないだろう

 

しばらく行くと目の前に別れ道が現れた

 

「迷ったら右に行くのが無難だよな?」

 

「あえて左に行くという逆転の発想も捨てられないけどね」

 

「それもそうだ...な...?」

 

ここでヤマシロは一つの異変に気がつく

長い間一人で居たせいで感覚が鈍っていたのか気がつくのにワンテンポ遅れてしまった

 

ヤマシロは声のした草むらに目を向ける

そこには顔を半分だけ覗かせ、ギョロリと効果音がしっくりくる目玉を持つ男が甲高い声で話しかけてきていた

最初は驚いたが、既に別世界に来たかもしれないという事実に比べればマシな方であった

 

「兄ちゃん、あんた人じゃないよな?少なくとも俺が知っている臭いではないな」

 

男は片方の目玉をこちらに向けてくる

 

「まぁ、そんなトコかな?」

 

「俺から尋ねといて何だが、何で疑問系なんだ?」

 

「今ちょっと混乱してんだ、突然こんなトコに来ちまったしな」

 

「兄ちゃん、自分の意思で来たわけじゃねぇのか!?」

 

男が驚きながらヤマシロに尋ねる

 

「まぁな、寝て目が覚めたらここにいたんだ」

 

「.....こりゃ珍客だな」

 

男は適当に相槌を打ちながら一人勝手に納得し始める

何のことだかヤマシロにはわからなかったが郷に入っては郷に従えという言葉を思い出し、話を進める

 

「で、あんた的にはどっちの道がいいと思う?」

 

「まだ決めてなかったのかよ、そうだな引き返すことはオススメしない」

 

「安心しろ、そのつもりはない」

 

「う〜ん、この前来た兄ちゃんには左に行ったから...右でいいんじゃないか、ここは無難に」

 

「オイ、今絶対適当に決めたよな」

 

「兄ちゃんだけには絶対にその台詞は言われたくないな」

 

男の正論にヤマシロは返す言葉を失ってしまう

気のせいかもしれないが男がクスクスと笑っている気もする

 

「いや、兄ちゃん中々面白いな、こないだ来た奴とは大違いだ」

 

「他にもここを通った奴がいるのか?」

 

「まぁ、厳密に言えばこことは違うけどな」

 

男の言葉がいまいちわからず首を傾げるヤマシロだが、男はヤマシロの前に通ったという人物について一人勝手に話し始める

 

「この間来たクソ真面目な兄ちゃんと違って話は通じるし、その前になんだか親しみやすいしな」

 

ヤマシロは男の話を黙って聞く

聞く義理はなかったが何となく聞いていたかった

ヤマシロは男に近づき、

 

「いつか、また会えたらいいな」

 

「そうだな、また会おう兄ちゃん」

 

ヤマシロはそのまま別れ道の右を進んだ

彼のお陰でここには話せる生物がいることがわかった

 

ヤマシロは先程よりも軽い足取りでまだ見ぬ道の先に歩み出した

 

 

 

時には急カーブだった道も、時には植物で道が塞がれていたとしても、時には断崖絶壁が立ち塞がったりしても、時にはエトセトラエトセトラ...

 

そんな感じで途方もなく長い距離を進んだヤマシロの表情には疲れが現れていた

時間もわからない、ここがどこかも右も左も把握できていない彼にとっては体力的な疲れよりも精神的な疲労の方が大きいであろう

 

「たく、さっきから同じ光景が続くばっかじゃねぇか、一体いつまで俺は歩けばいいんだよ!?」

 

もはやヤケになったヤマシロは近くにある丸太に腰掛け少し休憩を取ることにした

いくら急いでるといってもここで倒れるわけにはいかなかった

 

「畜生、一体何でこんなコトになっちまったんだろうな...」

 

乱れた呼吸を整えるために右手をかざし、どこからか水の入ったペットボトルを取り出す

水を飲み干し空になったペットボトルはまたどこかに消え去る

 

ヤマシロが立ち上がり、もう少し先に進んでみるかと動き始めようとしたその時...

 

「.....鐘の音?」

 

どこからともなくゴォーン、ゴォーン!と鐘の音が鳴り響いた

天地の裁判所に鐘はなかったためその音色はヤマシロにとって新鮮なモノに感じられた

 

と、鐘の音を聞きながら黄昏ていたヤマシロに声が掛かる

 

「あんた、早く逃げな!」

 

「ん?誰だよあんた??」

 

「いいから、あぁ、もう!ついてきな!」

 

「えっ、ちょちょちょ!?何何何何!!??」

 

声を掛けられたかと思ったら突然逃げろと言われ、誰かと尋ねると首根っこ掴まれて連れて行かれるわ...

ここは本当に一体何なんだ?

 

ヤマシロはそのまま何処か部屋の中に連れられたようだ

土の壁の部屋に中世の城を思わせる豪華な装飾の部屋だった

もしかしたら裁判所の客室よりも豪華な作りかもしれない

 

「一体なんなんだよ、あんた!」

 

「あんたこそなんなのよ、あたしが助けなきゃ死んでたんだよ!」

 

「ハァ!?」

 

あまりのスケールの大きい話にヤマシロは唯でさえ混乱している状態なのに更なる混乱を呼んでしまう結果となった

 

「響子、まずは落ち着いて」

 

「蓮華...!」

 

ヤマシロはもう一人の人物の一言によって一先ず冷静になる

...あの台詞は本来ヤマシロに向けられた言葉ではないのだが今は気にしないでおこう

 

「申し遅れました、私は蓮華、こちらは響子といいます」

 

「ま、一応よろしくな」

 

サラリとした黒髪にどこか大人な雰囲気を漂わせる女性は蓮華、黒のタイトスカートに白のブラウスを合わせている女性は響子と名乗った

 

そしてここの話を聞かされた

 

ヤマシロが聞いた鐘の音は日が沈み闇が訪れた印、ここでは三時間だけ闇が森を包み込み最も危険な時間帯になるらしい

何が起こるかわからないがここで生きるためには知っておかねばならない最低限の知識らしい

 

ここがどこかわからない上に急にやってきてしまったヤマシロがここでのルールを知ることはない

 

「自己紹介が遅れた、俺はヤマシロ、命を救ってもらったのに怒鳴ってすまなかった」

 

「いや、あたしも説明なしに引きずったのは悪かった」

 

ヤマシロと響子は互いの非を認めて、握手を交わす

 

「ヤマシロさんは何故この世界に?こちらの人ではありませんよね?」

 

「まぁ、話せば長くなるが気がついたらここにいたんだ」

 

「ヤマシロ、お前...」

 

響子は自分の意思なしにここに来た自分に同情するような表情を浮かべる

確かに誰しも自分の意思なしに知らぬ場所で目が覚めたら目覚めが悪いものだ

それは響子も例外ではないのかもしれないが、

 

「友達がいないだろ?」

 

「何でそうなるんだよ!?」

 

響子の予想外の心配にヤマシロは思わず声を張り上げる

 

「だって、いくら何でもそんな嘘はよくないぞ」

 

「いや、事実だから」

 

「確かに友達欲しさに嘘を吐くやつもいるけど、それは後々大変なことになるからやめといたほうが...」

 

「頼むから話を聞いてくれませんかね!?」

 

実際友達、というか部下はたくさんいるし!

同期で同種族の友達はいないけど!

 

.....今ここでヤマシロに友達と言える友達がいないことを思い知らされた

 

「.....畜生」

 

「やっぱ友達いないんじゃないか」

 

「響子、少し黙りましょうか?」

 

 

 

その後、ヤマシロと響子、蓮華は闇が晴れるまで他愛のない話で盛り上がっていた

話してみればどこか気が合うところがあったようでとんとん拍子で話は滑らかに進む

 

「お、夜が明けたな」

 

響子が扉を開けた

瞬間、眩しい光がヤマシロの視界を埋め尽くす

 

「ヤマシロ、早く行かないとまた夜がやって...ヤマシロ?」

 

「あれ?ヤマシロさん??」

 

響子と蓮華の表情は驚きよりも戸惑いの表情に変わった

先程まで蓮華の隣にいたヤマシロがいなくなっていたのだ

 

「まさか、もう行っちまったのか?」

 

「そうかもね、彼早く帰りたがってたし」

 

 

 

一方、ヤマシロは...

 

「んあ、」

 

いつの間にか眠ってしまっていたらしい、目を開くと見慣れた光景がヤマシロの目に飛び込んできた

 

「あれ?」

 

そこは天地の裁判所から天国へ向かうために乗った飛行機の乗客席だった

先程まで隣にいた蓮華と響子も綺麗な装飾の部屋もなかった

 

「...やっぱ夢だったのかな?」

 

しかし、どこか夢にしては鮮明で記憶もしっかりしている気もした

 

「また、会えたらいいな...」

 

本当に会ったかはわからないが、ヤマシロはこの不思議な出会いをこの後も忘れることはなかった

 

そして、彼は飛行機を降り天国へと足を踏み入れた

 


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