閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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急展開?何のことでしょう?


Ninth Judge

閻魔の裁判...

現世で行われる裁判よりも遥か昔から行われており、制度も大きく異なる

魂(被告人)と閻魔大王(裁判官)が向かい合う形で行い、形式上検察と弁護は存在しない

ただし、閻魔大王の両隣に従者の鬼達が進行を行う

よって、裁判は基本的に閻魔大王と魂の口論によって進められる

裁判の結果が白なら天国、黒なら地獄というところも、異なる点である

 

 

「閻魔様〜正装全然似合ってないですよ〜」

 

赤鬼である亜逗子が含み笑いを浮かべながら茶化す

今回の裁判で進行を務める従者の一人だ

 

「うるせぇ、お前のスーツ姿も全然似合ってないよ」

 

ヤマシロは仕返しとばかりに亜逗子に姿を見て笑う

しかも、笑いを半ば堪えながら

 

「や、ヤベェ...もう、限界だ」

 

「そこまであたい変ですかねー!?」

 

亜逗子が額に青筋を浮かべている気がするがきっと気のせいだ

 

「閻魔様、亜逗子との戯れも程々にしてくださいね」

 

「おぉ、麻稚スーツ似合ってるな」

 

「ありがとうございます」

 

「おい、なんだこの扱いの差は?」

 

ヤマシロは正直な感想を述べる

正直、麻稚は元々知性的であるため、スーツがよく似合う

亜逗子も似合うのだが、麻稚とどうしても比較してしまうため、それほど 似合ってるように見えない

 

今更ながら、裁判は正装で行う

閻魔大王であるヤマシロの正装は、冠のような帽子を冠り、マントを羽織うというシンプルなものになる

従者の鬼達、亜逗子と麻稚はどこで仕入れたかわからない黒いスーツを着こなしている

 

「閻魔様、天国での情報収集はいかがでしたか?」

 

「おう、十分すぎるほど集まったよ」

 

「失礼ですが、少し酒臭いような...」

 

「.......情報収集といえば酒場が王道だからな」

 

ヤマシロは冷や汗を垂らしながら適当に誤魔化した

...別に嘘を言っているわけではない

 

あの後直ぐに麻稚から連絡があり、飛行機内で必要な情報をまとめながら裁判所に戻り、直ぐさま裁判の準備が始まった

その準備に急がされ、既に汗だらけなのは気のせいだ

ヤマシロは時計を確認する

そろそろ裁判が始まる時間である

 

「そろそろ行くか」

 

ヤマシロが亜逗子と麻稚に声を掛ける

亜逗子と麻稚は頷き、ヤマシロに続く

ヤマシロは自分の体が重くなるのを感じた

閻魔大王に就任してからまだ日が浅い上に、人の人生を委ねるという大役を背負っている

つまり、怖いのだ

3代目の裁判の資料を読み漁ったからこそ言える

それ以前に、五右衛門という当事者にもあってしまっている

彼らのような人物を自分が作ってしまうとなると、無意識に恐怖がこみ上げてくる

足が震えてきた、汗もさっきから止まらない

 

「大丈夫です」

 

そんなヤマシロに麻稚が隣に来て、話す

 

「たとえ、閻魔様がその人の人生を狂わしてしまったとしてもそれは閻魔様の責任ではありません」

 

麻稚は続ける

まるで心の中を全て見透かされてるみたいだ

それに、と麻稚は笑う

 

「閻魔様は一人ではありません、私達がついています」

 

「麻稚...」

 

麻稚はまるで母親のように優しい言葉を掛けてくれた

その言葉でヤマシロは心が落ち着く

 

「へへへ、閻魔様らしくないな〜」

 

今度は反対側から亜逗子が腕を肩に回してくる

上司と部下ではなく、同僚に話しかける調子で、

 

「ここは法廷だ、そしてあんたは天下の閻魔大王様なんだ、多少のミスはあたい達がフォローしてやるから、言いたいこと言いまくってくれよ」

 

「亜逗子...」

 

何やら突っ込みどころ満載な台詞だったが、不思議と勇気が湧いてきた

亜逗子の台詞は弟を励ます頼れる姉貴の様だった

 

そうだ、とヤマシロは思う

こんなにも頼れる従者が居るんだ、何を恐れろと言うんだ?

 

「ありがとう...亜逗子、麻稚」

 

ヤマシロはここで初めて、穏やかな笑みを浮かべた

亜逗子と麻稚も自然と笑顔になった

 

「さて、さっさと白黒ハッキリしに行くか!」

 

ヤマシロは法廷の扉を開き、入室する

 

 

 

数分前、法廷内

 

(俺は...どうしたらいいんだろうな?)

 

主張席(証言台)にいち早く立った瓶山が考えるのはヤマシロが述べた一言

 

娘、瓶山夏紀は生きているかもしれない

 

その言葉が未だに頭から離れない

そして、現世にいる妻のことを思う

妻にこのことを伝えたらどうするであろう?

瓶山は思い出す

夏紀が生まれた14年前の夏の日を...

 

瓶山 一と瓶山 雛の間に産まれた未熟児、それが夏紀だ

夏紀は生まれつき体が弱いことを医師から告げられていた

しかし、夏紀は医師の言葉が嘘みたいにすくすくと元気に育った

太陽のような明るい笑顔で家族の光となっていた

仕事で疲れた一にとってそれは癒しの光だった

 

しかし、夏紀が八歳の時、衝撃の事実が医師から告げられた

きっかけは学校から夏紀が突然早退してきた

どうやら体育の時間に急に倒れたらしい

そして夏紀を病院に連れていったときだった

 

急性心膜炎...

 

それが医師から告げられた一言だった

夏紀はその病気を患っているらしい

主な症状は、胸痛や呼吸困難などがあるらしい

夏紀は入院することになった

一は反対したが、夏紀は応える

 

治るかもしれない、だからお父さんとお母さんに貰ったこの命は絶対無駄にしない!

 

一は言葉を返せなかった

夏紀の言っていることは最もであったからだ

 

夏紀の入院が決まってから、瓶山家は途端に静かになった

寂しさを紛らわすために自棄酒の回数も増えた

病院に行き、夏紀と会うことも時間の経過と共に少なくなった

 

そしてとうとう手術の日がやってきた

夏紀が十歳のときだった

一はこの日、会社を休んだ

そして、夏紀に質問をした、怖くないのか?と

夏紀は笑顔で応えた

 

お父さんとお母さんが居るんだよ?何を怖がることがあるの?

 

一は言葉を失った

同時に、頬に冷たい感触が感じられた

気がつけば一は夏紀を抱きしめていた

 

 

手術中

 

その三文字の赤い明かりが消えた瞬間、思わず立ち上がった

中から何名かの医師が出てくる

そして、担当医と思われる人物が顔を俯せたまま声を絞り出す

 

申し訳ありません...

 

頭が真っ白になった

医師が謝る理由が全くわからなかった

医師が泣いている理由が全く理解できなかった

一は気がつけば膝を付き、大声で泣き叫んでいた

 

 

 

「では、」

 

その声に瓶山は現実に引き戻される

気がつけば、目の前にはあの閻魔大王が立っていた

そうだ、と思う

 

まずは、この場を何とかしなければ...

 

「これより、瓶山 一の行く先を決める裁判を開廷いたします!」

 

死後の人生が決まる、閻魔大王の裁判が始まった

 

 

 

 

 




次回もよろしくお願いします

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