騎士と魔女と御伽之話   作:十握剣

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まさか小説をお気に入りを入れて下さった方々のユーザー名が分かるなんて…………凄いです( ̄□||||!!


第9話「謙る戦魚(せんし)達」

 

ガウェインはいつもの通りの朝早い時間に御伽学園に登校しようと、朝食を村野邸にて取っていた。

 

基本朝食は皆で食べるのがこの“おかし荘”の規則の一つでもあるのだがどうしても朝早く用事があるのなら先に食べてても宜しいのだ。

 

ガウェインは基本に食している朝食は和食が中心で、ご飯は必ず食べないといけないと自分の中で決めているガウェイン。

この村野邸の家主である村野若人(むらの・わかと)がもう既に電気炊飯器でご飯を沸かしている為、毎日おいしい白米を食しているガウェインは若人にその毎日を至極感謝しなから白米を咀嚼していれば、

 

「ん〜? ・・・・・こんな早朝に起きているのは・・・・・ガウェインか」

 

ガウェインが丁度朝食を終え、自分が使った食器を洗っている時に若人の妻である村野雪女(むらの・ゆきめ)が起きてきたらしく、瞼を重くさせながら台所に入ってきた。

 

「おはようございます、雪女さん」

 

「ん〜おはよ〜・・・・・寝みぃ」

 

「朝まで小説を書いていたんですか、それとも何か本でも読んでいたんですか?」

 

「ん〜いやなぁ、私の尊敬している作家の新巻が出てな、朝まで読み更けてしまった」

 

雪女は眠たそうに冷蔵庫の中を見渡す。

 

「それでは俺は学校に行って来ます」

 

「毎日こんな朝早くに出て行くなんて、何かあるのか?」

 

雪女は冷蔵庫の中にあったスポーツドリンクを飲みながらガウェインに聞く。

 

「・・・・朝練ですよ」

 

ガウェインはそれだけ告げて家から出て行った。

 

ブルルルッ! と少し離れた場所からエンジン音が聞こえた。

雪女は椅子に座り、飲み干したスポーツドリンクのペットボトルを机に置きながら、まだ日が登っていない外を眺めて思った。

 

 

ガウェイン(あいつ)、嘘下手だな。

 

 

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い宝石のように輝いている愛用の黒塗りバイクを走らせるガウェイン。

 

だが走行している線上に、黒服を着ている男二人組が通せんぼするように両手を広げて立っていた。

見るからに怪しい。

もしこんな光景が日中にやられたら大変な騒ぎになるのだが、幸い今は日がまだ登っていない黒い空の下、誰も見ていない。

 

「・・・・・・・・・・」

 

ガウェインは(ヘルメット)越しからズバ抜けた視力で通せんぼしている男二人の顔を確認するや否や、

 

グイッとアクセルを踏み抜き、

 

ゴォォォォォォン!!

 

と躊躇無く更にアクセルペダルを踏み込んだ。

ガウェインの愛用バイク“GALL-10(ガラティーン)”の速度はかなり速くなり、

 

「「危ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」

 

キュゴォッ! と黒服の男二人組は身体を思いきり捻らせて横に避けた。

 

「ちょ、コイツ鬼だ! 問答無用に引き殺そうとしやがったよ兄貴!」

 

「当たり前だ! コイツはきっと地獄に落ちても閻魔大王の喉元を引き千切る程の冷酷さだぞ!? でも味方になりゃあこれほどの大戦力は無ぇ!」

 

黒服の男二人組は互いにガウェインの悪口を言いながら、止まっているガウェインの前まで迫ると、切羽詰まるように、

 

「「どうかお力添えをお願いします! 黒軋ガウェイン様ぁ!」」

 

土下座されてしまった。

 

ガウェインの名前を知り、どうやらガウェインと面識があるらしい。ガウェインは相変わらず鎧のようなライダースーツに身に包みながら、土下座している二人の前まで近寄る。

 

愧鮫(きさめ)に、海蛇(かいだ)か」

 

そう呼ばれた二人はガバっと顔を上げる。

 

「な、名前を覚えていたのか!?」

 

黒服を着ていた黒髪を刺々しく逆立て、顔には無数の刀傷のような痕が残っている青年は、恐ろしいものを見たかのように目が物怖じしている。

 

「あ、兄貴。俺の名前も覚えていやがった」

 

そして『愧鮫』と呼ばれた青年を兄貴と呼び親しんでいる、もう一人の黒服スーツで紫色の髪をした男も隣程では無いが無数の傷が残っていた。

この二人はどこかのマフィアにでも所属してそうな身なりなのだが、かなり腰が低そうだった。

 

「さっきは済みません、だがちゃんと避ける事を信じていましたよ」

 

「くっ! 人の皮を被った鬼畜外道悪魔阿修羅マンが何を言ってやが・・・・」

 

「それで、用件があるのですか?」

 

ガシッとガウェインは自分の方が背が高いことをいいことに、黒髪の青年の首を掴みながらそう言う。年上なのでガウェインは敬語を使って“礼儀正しい対応”した。

 

「ぐぶぅぅぅ! ぐるじぐがきがぁ!?」

 

「絞めてる! 愧鮫の兄貴の首絞めてますってガウェインさん!!」

 

ゲホッゲホッと咳する愧鮫が恐らく海蛇と思われる青年に背中を摩られる。

 

「それはさて置きだ、ガウェイン! お願い協力して欲しい!」

 

だが鍛え抜かれているのか、直ぐに体勢を整い、愧鮫はとても真剣な眼差しでガウェインを見る。

 

 

 

 

「〝浦島太郎〟を捕まえるのに協力してくれ!」

 

「お願いしますっ!」

 

 

黒い騎士の前に、鮫と海蛇が助けを求めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「という話があったんだ」

 

「・・・・・・」

 

御伽学園校門前、そこに黒いコート姿に身に包んだ長身の男と、白い学生服の肩や腰に鎧らしきプロテクターを装備し、綺麗な美脚を魅せる為の短いスカートにその美脚(あし)を掻き消すように腰には西洋剣(サーベル)を帯刀している。

美しいのにとても物騒なその白い長髪の美少女は、黒い長身が目立つガウェインと並ぶかのように立っていた。

 

「・・・・だから何だと言うのですか、ガウェイン殿?」

 

「いや・・・・・浦島太郎なんて本名の奴が居たんだな、と」

 

「そうですか、私としては貴方の名前がまさか日本で聞くことになるとは思いとしませんでしたよ」

 

ガウェインは今朝起きた出来事を白髪の美少女・フェイルに話していた。

 

「そんな話はどうだって良いのですよ、今は通学する学生たちに元気良く挨拶運動し、正しい服装かどうかを確認(チェック)する仕事をやるだけです」

 

「いや、まさか本当に実在してたなんて・・・・・ブツブツ・・・・」

 

「ん・・・えっ、ちょ、話聞いていますか?」

 

というやり取りをやっている内に、真面目な学生の何人かが静かに通学し始め、見知った者たちもやって来ていた。

 

 

「お、おはようございます〝ランスロット〟先輩!」

 

「はい、おはようございます。元気の良い挨拶ですね。今日も頑張って下さいね」

 

「は、はいッ! 例え血ヘド吐こうが、胃や肝臓が内部破裂しても頑張って乗り気って行きますッッ!!」

 

「それは病院に行ってくださいね」

 

御伽学園には何人の美少女さんが通っているのだが、このフェイルも上位に入る程の美少女だ。だが何分融通の利かない所や頑固で短気な所がある為に下がったり上がったりといった位にフェイルが位置している。

 

「おおおおはようございます! 黒軋先輩!」

 

「おはようございます。(騎士道の一つ『礼儀正しさ・親切心』だ)」

 

ガウェインは挨拶して来た後輩らしき女子生徒に挨拶を返す。すると女子生徒は「きゃぁ〜〜////」と頬を紅潮させて校内にダッシュで入って行った。

ガウェインは祖父から教わった『騎士道』と『武士道』を誠実に守っているのだが、基本女性には絶対的優しさで接しなさい。と祖父から固く約束されてはいるが、ガウェインはいまいち深く理解しているか分からないが、それを守りながら生活していた。そしてその教えから女子から結構な人気を誇っている。

 

「・・・・・ジロッ」

 

「ん・・・?・・」

 

だがそこで何故かガウェインを睨むフェイル。

 

「そろそろ時間だ、我々も戻りましょう」

 

「そうだな、しかし何故ランスロットは俺を睨んでいるんだ?」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

フェイルは凄いドスの効いた睨みをガウェインに向けて放つ。だがガウェインも無言で見つめ返すや否、

 

「・・!・・・//////」

 

まさか見つめ返されるとは思わなかったらしく、フェイルはガウェインの顔を反らし、顔を紅潮させた。

そんな二人が学園に戻ろうとした時、背後から殺意の籠った視線が二人を襲った。

二人は瞬時に振り返る、するとそこには今朝ガウェインの前に現れた黒服を着た黒髪の青年・愧鮫。そして同じ恰好をしている紫色の髪をした青年、海蛇(かいだ)の二人を従えてるように前に立つスキンヘッドの巨漢が二人を見ていた。

 

「・・・・・すみません、ここはアナタ方が来るような場所では無いと思うのですが、それに御伽学園(ここ)は学生以外は立ち入り禁止なので」

 

フェイルはこの黒服三人を不審者か何かと思い何一つ物怖じしないで、勇んで腰に帯刀していた模造剣である西洋剣(サーベル)の柄に手を伸ばす。

 

 

だが、

 

 

「今時の学園はこんな刃物(ぶつ)使っとるのを許可してんかいの?」

 

黒服の一人、愧鮫が瞬時にフェイルの懐に入り、手にしようとしたフェイルの西洋剣に手を指し伸ばし“盗ろう”とした。

 

フェイルも『しまった!』といった感じにすぐに後方に下がろうとしたが、どうやら愧鮫の方も手練れらしく、フェイルの足に愧鮫の足を交差させるように捌くと、巧い具合に転ばせようとした、が、

 

 

ツガァッ!

 

 

黒い拳撃が愧鮫の横を貫いた。

 

「うおぉぉっ!?」

 

愧鮫もあの速さのパンチを片手で受け止めた。

その拳撃を放った人物は何者でも無い、ガウェインだった。

 

「大丈夫か、ランスロット」

 

「えっ、え、あ、あぁ。大丈夫だ」

 

転びそうになったフェイルの肩に腕を回して支えていた。その状態にフェイルはすぐに気付き、赤面しながらガウェインから離れた。

 

「痛っ〜〜、やっぱお前のパンチは痛ぇなぁオイ」

 

「き、愧鮫兄貴を退けさせた!? やっぱこの人強い!」

 

「・・・・・・」

 

愧鮫はすぐに立ち上がり、手をぷらぷらさせながらそう言うと、黒服を着た巨漢の隣まで戻る。

ガウェインも長身なだけあって、巨漢と丁度同じ目線だった。

 

「・・・・・貴方が鯨良(くじら)さんですか?」

 

ガウェインがスキンヘッドの巨漢にそう言うと、今まで無表情だった巨漢がスッと薄い笑みを浮かばせた。

 

「そうじゃ、儂んが竜宮の“暴魚(あばれざかな)の鯨良”じゃあ」

 

「そうですか、それで何用に?」

 

ガウェインは素っ気ない反応で鯨良に返す、すると鯨良は『ガッハッハッ!!』と大きな笑い声を詠嘆し、服越しで分かる筋肉質な腹を叩いた。

 

「いやぁ済まんかったわぃ、コイツらが恐怖するっちゅう奴を一目見たくてのぅ、儂もわざわざ来きまった訳じゃあ」

 

鯨良は中々な強面を笑顔にしながらフェイルに頭を下げた。

 

「いやぁ本当に済まんかったのう、お嬢さん。愧鮫が任せろっちゅう言うから任せたんじゃが」

 

「済まねぇな、女に手を出しゃあガウェインが動くと確信してたからな」

 

愧鮫も申し訳無さそうにフェイルに頭を下げた。

フェイルはいきなり過ぎる展開に軽い混乱常態に陥っていたが、ガウェインが間に入った。

 

「それで、用件は」

 

ガウェインは無表情なまま黒服の三人と対峙する。

鯨良は肩を竦(すく)めながら口を開く。

 

「コイツらも言ったようじゃがのう、あんたに協力してもらいたいんじゃ」

 

「浦島太郎、とか言う奴の捕獲にか?」

 

ガウェインがそう言うと鯨良は肯定するように頷く。

 

「その浦島太郎様がどうやらこの御伽花市に入ったっちゅう情報を手に入れたんじゃ」

 

「木を隠すなら森へ、人が隠れるなら街へって意味ですよ。浦島太郎様は年代が近いこの学園にもしかしたら寄るのではと思いまして・・・・・」

 

海蛇が深刻そうな顔でそう言うと鯨良がガウェインの近くまで行き、慮(おもんぱか)るように頭を下げた。

どうやら近隣の学校、学園、学院に調査しているのだろう。

 

「頼む」

 

ガウェインはそんな鯨良を恬淡(てんたん)に見詰める。

 

「呻吟(しんぎん)だな、まるで暗澹(あんたん)しているかのような顔じゃないか」

 

ガウェインは怪訝そうにそう呟く。

 

「・・・・儂らも悔恨(かいこん)しとるんじゃ、学生にまで手伝わせると思うとな」

 

鯨良も思う所があるらしく、サングラス越しから伝わる眼光がガウェインを思わせた。

 

この人も内心、忸怩(じくじ)たるものがあるのかと。

 

 

「・・・・分かりました、その件はまた今日連絡します。愧鮫の携帯に」

 

「はぁ!?」

 

愧鮫が驚いた表情をしてガウェインを見る。

 

「何でテメェが俺の携帯のアドレス知ってんだ!?」

 

するとガウェインはまた恬淡に言う。

 

 

 

 

「雷魚から聞いた」

 

 

 

ピシッ

 

 

「・・・えっ?」

 

その場に居たフェイルだけは聞いた。まるでガラスに罅(ひび)が入ったような音が鳴り響いたことに。

 

 

 

 

 

その後、時間が時間な為にガウェインとフェイルは黒服の三人組が学園から遠ざかって行ったのを確認した後に急いで教室にへと向かった。恐らく結構時間に遅れたので朝のホームルームが終り、一時限目の授業が始まった頃だとガウェインは予想する。

 

「・・・・・色々と貴方には聞きたい事が山のようにあるのですが、一つだけ聞いても宜しいですか?」

 

ガウェインがそんな風に考え込んでいたら、一緒に校内に戻っているフェイルが聞いてきた。

 

「答えられる範囲であれば答えるよ、ランスロット」

 

そう言ったガウェインの前にフェイルは立ちはだかる。

 

「それでは、さっき校門に居た黒服の方達が一気に、その、『雷魚』という言葉で物凄い怯えたような顔になったのは・・・・・何故です?」

 

「雷魚と言うのは人名だ」

 

「いや、それは私でも分かります。何故その『雷魚』というワードであの屈強な方達が恐怖の色に染まった表情になったのか聞いたのです!」

 

一瞬。

 

そう。たった一瞬だけなのにフェイルの懐に入った強者(つわもの)である愧鮫、そしてその愧鮫より強いであろう鯨良という強面でスキンヘッドにサングラスを掛けた巨漢が一瞬で恐怖にさせた人物“雷魚”。

 

フェイルの頭の中には一瞬で間合いに入られた自分の弱さ、そして油断に苛立ちを露にしていた。

フェイルの苛立ちをぶつけるかのようにガウェインに喰って掛かる。

だがガウェインはそれを冷静に答える。

 

「雷魚(らいぎょ)とは昔知り合った人なんだ、あの黒服の人達の上司に当たる人で・・・・・喧嘩になるとかなり強い人で、一人で極道潰しとか出来る人なんだ」

 

「ご、極道潰し!?」

 

「それが原因で二、三回くらい国外逃亡した人で、何でも外国でもマフィアを潰してきたとか、きてないとか」

 

「ここ国外逃亡!?」

 

危険極まりない単語が飛び出し、フェイルも段々と格の違いが分かって来たらしく。

 

「はぁ〜、分かりました」

 

「・・・・理解したか」

 

「していません! してませんが・・・・この学園に関わる事らしいので私も手伝います」

 

「何?」

 

ガウェインは共に歩きだしたが、フェイルの一言によって驚いた表情をする。

 

「私も手伝うと申したのです」

 

「それは、駄目だ」

 

「何故ですか?」

 

「わざわざランスロットまで手伝う必要性が無いからだ。それにまだ手伝うとも言っていない」

 

ガウェインがそう言うと、ランスロットは腰に差していた西洋剣を抜き、鋒をガウェインに向ける。

 

「ほぅ、貴方の騎士道に困った者には救いの手を差し伸べるといった教えは無いのですか?」

 

「・・・・騎士道と来るか」

 

「来ます」

 

ガウェインは目前に剣先があると言うのに物怖じせずにフェイルの瞳を見る。

 

フェイルは『円卓の騎士』内で誰よりもこの学園を愛している。

 

ガウェインはそれも知っている、だからこそランスロットには《普通》の学園生活を送ってもらいたい。

 

そう思ってしまったガウェインは意識しないでフェイルの西洋剣の刀身を握ろうとしてきた。

 

「っんな!?」

 

フェイルも驚き、ガウェインに怪我させないよう器用に鞘に収める。

 

「危ないじゃないですか!?」

 

ガウェインのいきなりの行動にフェイルは叱る。

 

「・・・・危ないな、確かに」

 

だがガウェインも自分でやったことに驚いていた。フェイルも『コイツどうしら良いんだ・・・・』といった感じに困っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後ガウェインはフェイルと別クラスなので別れ、各教室に戻った。

 

何分黒コートに長身なだけに、教室に入った途端に教師が驚いてしまった。

正直に話す、訳にはいかないので風紀委員の仕事の手伝いをして遅れたということでまとまり。授業に入った。

 

そして現在放課後。

 

バイトがある為にガウェインは一度御伽銀行地下本店に顔を出し、すぐに愛用のバイクでバイト先にへと向かっていた。

 

御伽学園から出て、御伽花市近辺に入った瞬間だった。

 

 

ヒュガァンッ!!!

 

 

 

まるで弾丸のような物体がガウェインの兜(ヘルメット)に直撃した。

 

ガウェインは一瞬揺らいだが、すぐに体勢を整えてバイクを止める。放たれた方向に向くとそこには、

 

「あわわわ、本当に投げちゃいましたぁ・・・・!」

 

「これくらいしないと気付かないんだよ、彼は」

 

綺麗な薄水色の髪に、長髪をストレートに伸ばし黒服を着た女の子と、黒服をまるでホストのように着崩した恰好に輝くようなしなやかな黄色い髪、そして鋭い眼光を隠すようなサングラスをした青年の二人が居た。

 

「・・・・!・・・」

 

ガウェインはその青年を見た瞬間に、冷や汗がにじみ出してきた。

 

「久しぶりだね、黒軋ガウェインくん。この可愛い女の子は海月(くらげ)と言うんだ」

 

青年はガウェインの同い年のような女の子の紹介をしていたがガウェインの頭の中ではそれどころでは無かった。

 

「く、海月と申します! あの、すみませんでした! すみませんでした!」

 

海月と名乗った薄水色の長髪の女の子はその長い髪を揺らしながら必死に何回もガウェインに謝る。だがガウェインは海月になど頭に入っていなかった。そう、今目の前に居る人物にだけ前神経を研ぎ積ませる。

 

「そう殺気立つなよ、黒軋」

 

そう言いながらも、黄髪の青年はまっすぐにガウェインに向かって歩き出す。

 

「いやぁ、本当に久しぶりだな。俺が数年前の帰国した後だから・・・・・・四年振りかな」

 

楽しく、弾むような会話に、一切の情が無かった。

そして青年は軽い感じで答えた。

 

「俺の名前覚えてるか? 俺は『海淵雷魚(かいえん・らいぎょ)』だ。今の仕事は竜宮グループ荒事専門部署という仕事で位は“署長”だ」

 

ガウェインは物凄い嫌悪感に襲われる。

思い出したくなかった。その名前を、

 

「ちょ〜とばかし今イライラしていたんだよねぇ・・・・・・」

 

そして思い出したくなかった、雷魚の性格を、

 

「なぁ、ガウェイン・・・・・・・・・・」

 

思い出したくなかった、雷魚の質感を、

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺(や)らないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魚達は追う。

 

乙姫様の為に。

 

浦島太郎を追えや、捕まえ。

 

そこで会うは。

 

黒い騎士と雷の戦魚。

 

波乱はまた、波乱を呼ぶ。


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