騎士と魔女と御伽之話   作:十握剣

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第8話「おおじ様とシンデレラ」

黒騎士こと黒軋(くろきし)ガウェインは今魔女さんことマジョーリカ・ル・フェイの魔女工房に互いを対するように机に座っていた。

 

前回の問題は魔女さんにあり!

 

と皆が思っていたのだが、毎度のことなので皆は何も言わないでいた。

だが御伽銀行の頭取である桐木リストが『ちょっとだけ黒軋君は魔女君をお説教してもらえないかな? 流石に57回くらいこんな風に騒ぎ立てると僕も笑止千万に笑えないよ? アハハー?』と言っていた。

 

ガウェインはムスッとしているマジョーリカを見る。

 

「何だヨー何だヨー! 別に悪い事なんてしてないヨー!」

 

パタパタと腕から伸びている長いブレザーを揺さぶる。

 

「そうも言ってもな、今回で57回目だ、マカの発明品で失敗した仕事は。数を言った自分でも『そんなにやったのか・・・・』と逆に関心するレベルだぞ」

 

「ふんっ、そんなの私のせいじゃ無いヨー」

 

「・・・・・自分で発明した物は責任を持つべきだと思うのだが?」

 

ガウェインとマジョーリカがこうして話している中で、他の人たちが何処に居るかと言うと地下本店である中央の大きな部屋に頭取や大神、亮士たちが居るのだ。

 

「あの時に明弘が灰原の顔を見ていなかったのが救いだったが、かなり危なかったぞ」

 

「うぅー・・・」

 

マジョーリカは机の上に頭を乗せてぐるぐると顔を右往左往に移動させた。

 

「頭取から聞いた話だともうすぐお昼の放送が流れる時間だ。何故か明弘が出るらしい。犯人探しでもするのかもしれない」

 

ガウェインはそう言って少し待っているとスピーカーから放送部の放送が始まった。

 

(ん? 放送部と言えば“アイツ”も出るのか)

 

ガウェインがそんな事を思っていると、スピーカーから異常にハイテンションなアニメ声が流れてきた。

 

『どうもーこんにちは☆ 皆さんのお耳に舞い降りた天使のさえずり、下桐(したきり)すずめでーす☆』

 

そしてもう一つの声が流れてきた。

 

『そしてこのオレ! 御伽学園放送部の長を務めている烏丸鴉鷺羽(からすま・あろう)がお送りします! ハハハ! 相変わらず変な名前だなと思ったお前・・・後で放送室直行な』

 

御伽学園高等部三年で放送部部長の烏丸鴉鷺羽と、ガウェインと同級生である下桐すずめ。この放送部のカラスとスズメコンビはもうすでにこの御伽学園のお昼の風物詩になっている。

 

『はい、今日の放送もお弁当と一緒にお耳からよくか〜んておいしくいただいちゃってくださいね☆ でも夜のおかずにするのは勘弁してくださーい★ でもすずめのプリチーな声を脳内でエロ漫画や今時ボイスの入ってないエロゲーでやられてる女の子に当てはまることはゆるしま・・・・・』

 

『・・・オイオイこらこら開始一分たってねーのに相変わらず要らん事まで(しゃべん)ねぇ? ん? ん? この口と舌か? 舌が悪いのか?』

 

『いひゃひゃひゃ、ぶちょー舌ひっぴゃらにゃいで〜・・・・・』

 

斑鳩(いかるが)、一旦止めろ』

 

ブツッ

 

放送が途切れる。どうやら烏丸が他の部員に言って止めさせたらしい。

そして一分後何事もなかったように再開した。

 

『というわけで今日も始まりました御伽ステーション☆☆ 毎回思いますが色々なとこからインスパイヤしまくった挙句にパクリ丸出しになってしまったというのに、それを隠す意思さえ感じられないこの番組名はどうにかならないものなのでしょ・・・・・』

 

『・・・・アーハッハッハッハ! ならんならん、まぁったくこの女子(おなご)はあれやこれやと次々とォ~まぁ~ったく』

 

『いひゃひゃひゃひゃひゃ〜、ぶちょ〜おこんひゃいでくらひゃい〜』

 

『・・・・・斑鳩』

 

ブツッ

 

 

放送が強制的に遮断され、再び何事もなかったかのように復活。

 

『え〜ん乙女の頬を問答無用につねるってどーゆー神経してるんでしょうかねーウチのぶちょ〜は☆ えーというわけで、今日はなんとお客様がいらっしゃってます☆ おかげで皆さんがリクエストした曲を流してお茶を濁す真似しなくてもよくなってます★ というわけで、ここですずめとだべりたい方は自薦他薦は問いませんので最寄りの放送部員にご連絡ください☆ でもゲストと会話が弾まなかったり、何かヤバげな空気が流れ出したらリクエスト曲流します〜★ あとリクエストしてくださる方、ありがたいですが毎回金●の大冒険送ってくる方がいるのはどうかと思います☆ 極付けお●の方でないだけマシかもしれませんけどぉ★ まー気持ちはわかりますけどね★ それに、どうにかしてエロゲー主題歌を流させようとする人よりはダメレベルはマシかもしれません★ まぁ、本気で流したいなら放送室を占拠するとかしてくださ〜い☆ そうすればすずめとストックホルム症候群風味な恋が芽生えるかも☆☆☆ あっでもでもカラスぶちょーがずぇっったい許しませんけどね〜★

 あの人今からあんなに怒ってると将来ハゲげますねぇ〜ぷくくくく☆ というわけで内々に連絡いただけるならすずめが内部から招き入・・・・・』

 

『上等だぁぁゴラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

『うひゃあぁぁぁぁ!? マジでキレないでくださいカラスぶちょーー! 斑鳩先輩たすけてぇー!』

 

『分かる! 分かるぞ烏丸! 俺も確かにイラッときたが今は止めろ! 本番ちゅぶぅぅぅぅぅぅ!!?』

 

『きゃああぁぁぁ!? 斑鳩先輩が間髪入れず殴られたぁ!?』

 

 

もう、滅茶苦茶だった。

いつもはストッパーの為に居る部長の烏丸なのだが、たまに爆発する。これも御伽学園のお昼の風物詩だ。

 

『ぜぇーぜぇー。は、はい今日はゲストがいらっしゃってます☆ テニスのおーじさまとして有名な大路明弘さんです☆☆☆ なんでも皆さんに重大な発表があるとか☆ 楽しみですね☆ では大路明弘さんです☆ どうぞ〜☆』

 

離せ! アイツを一度たっぷりと説教せんと意味が成さない! と放送から少し聞こえて来たが斑鳩という少年が抑えていた。

 

『どうも』

 

『おーかっこいいお声ですねー☆ お顔も近くで見ると無茶苦茶かっこいいですー☆ 流石ミスター御伽学園のランキング七位ですねー☆ 怪我をしたと聞いてすずめも心配しましたよー☆ でも、これを聞いている方は分からないと思いますが、なぜか大路さんの顔にでっかい絆創膏がついているので、聴取者の皆さんすべてに代わってすずめが聞いてみます☆ 決してすずめが知りたいだけじゃないですよー★ というわけで、そのほっぺたの大きな絆創膏はなんですか☆』

 

『それはこれから話す』

 

『そうですか〜★ それで、今日はどのようなご用件ですか〜☆ 何か重大な発表があるとか☆』

 

『これだ』

 

ドンッ

 

『これですか☆ う〜ん、なんの変哲もなさそーなインラインスケートですねー☆』

 

『俺はこれを履ける女性を捜している』

 

『え? これを履ける人なんてたくさんいるとすずめは思いますけど☆ 大きさもそれほど小さくないですし☆ なぜこれを履ける方を捜してるんですか☆』

 

『先週の木曜の夕方のことだ。俺が廊下を歩いていると悲鳴が聞こえた』

 

『おおーバイオレンスな香りが漂ってきましたねー★ で、どなたの悲鳴だったかとか分かるんですかー☆』

 

『分からない。振り向いた俺が見たのは、宙に舞う女子生徒だった』

 

『飛んでたんですか☆★☆』

 

『たぶんこれで滑っていて、前のめりに転び、手をついてそのまま前に一回転したんだろう』

 

『おおーそれは、すごい運動神経ですね☆』

 

『そして俺は・・・・・・顔面に蹴りを食らい、気を失った』

 

『・・・・・・・・・・それはまた災難でしたねー☆ 事件なのか事故なのか衝動的な犯行なのか怨恨なのか・・・・・すずめの好奇心がうずきますよー★ で、ここに来た理由は犯人捜しですかあ☆』

 

『そうだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“俺はあの蹴りに運命を感じた”』

 

その衝撃の告白に、学校が静まりかえった。

 

『彼女こそ俺の夢のかけら。運命の(ひと)に違いない。というわけでこの靴だ』

 

ドンっと靴を叩く。

 

『顔も知らない彼女が残した靴、この靴にぴったり合い、尚且つあの蹴りを繰り出せる人を捜している。そう、あの蹴りは素晴らしかった』

 

何処か陶酔したように夢見心地な声でつぶやく大路。かなりヤバい。

 

『あっ、新たな世界に目覚めてしまったのですかぁ☆★☆』

 

声から、どきどきと頬を染めているすずめさんの姿が見えるようだ。どうやら美形が織りなすアブノーマルな世界を想像してツボにはまったらしい。

 

『ああ、あの蹴り、まさに世界が・・・・・・未来が開けたようだった』

 

『それはまた素敵ですね★★★ それで、その靴すずめにもっとよく見せていただけますかぁ☆』

 

『ああ』

 

『あれ、思いのほか重たいですね〜。サイズは・・・・・・あれ、すずめと同じ★★★』

 

すずめがそうつぶやき黙り込んだあと・・・・・・可愛く言った。

 

『てへっ、その蹴りの彼女、実はわたしだったんですよう☆』

 

そしてそのまま靴を履き・・・・・

 

『ほら、サイズだって・・・・・・ぴっぎゃあああああああああああああああああああ〜〜〜』

 

痺れた。

 

『このように、本来の持ち主以外が履くと、電気が流れるようになっているらしい。というわけで、この靴を履ける人お願いだ、今日の放課後テニスコートの脇まで来てくれ。大事な話がある』

 

『・・・ハハハ・・・・スズメ、お前は休んでいろ・・・・・・というわけでね! はい以上、大路明弘さんからでした! この後に予定されていた体育館の使用等の報告がありましたが今日放送担当の下桐すずめ見事に痺れて動けなくなっているので今流行りの音楽をお楽しみくださ~い! それでは午後も張り切って頑張りましょ~!』

 

痺れているすずめを休ませ、代わりに部長の烏丸が放送を締めくくった、ラジオなどで良く聞く、DJ風の好青年の声を思わせた感じだった。リクエストされていた曲が流れ始め、

今流行りの曲のくせに、むなしい曲が鳴り響いた。

 

 

「・・・・・取りあえず、頭取たちのとこに行くか」

 

ガウェインはマジョーリカの方を見ると、とても眠そうに目を擦っていた。自分のしでかした事なのに他人事のような反応のマージョリカ、ガウェインは嘆息する。

「行くぞ」とガウェインがマジョーリカを促すと、スゥっと両手を前に出す。

 

「・・・・・・おんぶ」

 

マジョーリカはそれだけ言うと、眠たそうに瞼をぱちくりする。

 

「・・・・・ふぅ」

 

ガウェインは静かにマジョーリカの前に背中を差し出すと、マジョーリカは満足そうにふさっとガウェインの背中に身を預けた。

 

「むふふふふふ♪」

 

さっきまで眠たそうだっマジョーリカが嬉しそうにガウェインの背中に顔をすりすりとしていた。

ガウェインは苦の顔もせずにひょいとマジョーリカを背負い、工房から出る。

 

「・・・・・・」

 

「・・・どうしたの」

 

ビクッといきなり艶のある声を聞いたガウェインは歩みを止めた。

 

「・・・・・急にどうした」

 

「・・・ふふふ、何故でしょう?」

 

声色ですぐに“いつもの”マジョーリカではない、魔女の長衣(ローブ)を脱いだ素顔のマージョリカは、自分の綺麗な金髪でガウェインの顔にチラつかせる。

 

「・・・・・ぐぅ!」

 

いきなりガクッと力を無くし、足の膝を折る。そんな幼馴染みで従兄妹で、大好きであるガウェインの反応に満足したのか、マージョリカが先を促す。

 

「ほらほらー行くヨー♪」

 

「・・・・・はぁはぁ・・・困ったお嬢様だ」

 

そんな紳士な言葉を吐いたガウェインだったが、物凄い勢いで見開いた目をして理性を保っていた。

 

願わくばこの黒軋ガウェインだけは、変人になってもらいたくないなかった。

 

 

 

 

 

 

 

皆が集まっている中、ガウェインは堂々とマジョーリカをおぶりながら部屋に入って来たので、数名が驚きの表情で固まっていた。

 

「さっきカラス先輩出てましたね」

 

「烏丸君も大変だよねー? 僕と同じく?」

 

「は?」

 

「・・・おっと早い反応だねアリス君。そんなすぐに反応しないでよ? あと止めてその悲しい眼差し?」

 

何故かすぐにガウェインの背中で既に爆睡し始めたマジョーリカをソファに寝かせ、その隣にガウェインも座る。傍から見たら恋人にも兄妹にも見れた。

 

「これで一件落着じゃないっスか?」

 

「灰原さま・・・・・恩を返せたのですね、よかったです」

 

「何の因果か、あのシックスセンスとかコスモとかそんな感じの不思議な感覚に目覚めてしまった七番目の王子様はシンデレラがご所望だそうだね? というわけで、灰原君があの靴履いてもう一回蹴りを入れればそれで万事OKだね?」

 

「新しく夢中になれるものができたんっスから、テニスができなくなった苦しみ、少しは薄れるっスよね?」

 

「いやー良かったね? 一件落着かな?」

 

総楽観な空気の中アリスさんが聞いた。

 

「それで、魔女さん。あの電気の細工はどうなっているのですか?」

 

「よく聞いてくれたヨー!! あれは資格を持った、選ばれし人間しか履くことができないんだヨー!!」

 

ガバッと寝ていたマジョーリカが起き上がった。

寝ながら聞いていたのか。

自信満々で胸を張る。古い言葉で言うと、トランジスタグラマーな魔女さんことマジョーリカ。その張りようが半端じゃない双丘がかなり目立つ。

 

「それはすごいね? それでその資格とは何かな?」

 

「それはヨー」

 

 

話によれば、マジョーリカは小さなペンダントらしき物体を灰原のポケットにこっそり忍ばせた事により電撃は流れないように作られているらしい。

 

一件落着したので皆は一気に雑談モードに切り替わった。

 

だがそこでまたもや事件が発生した。

 

 

靴の電撃のバッテリーの残りがあと十分らしい。

 

それを聞いた頭取たちは一気に焦り出す。

 

 

 

「一年生だけに行かすのですか」

 

大路の靴主捜しをしている現場には一年の大神と林檎、そして亮士の三人を行かせた。

 

「確かに一年生だけでは心元ないと思うけどね? これくらいはやらせないといけないよ〜?」

 

「ただ単に面倒なのでは?」

 

ガウェインが頭取にそう聞くと黙ってしまった。

代わりに隣に立っていたアリスが答える。

 

「頭取の言った通り、この仕事は一年生に任せてみましょう。これも御伽銀行の教えの一つです」

 

キリッと眼鏡を直しながら言うアリスに何も言わないでただ黙るガウェイン。

 

「黒軋君も優しいんだね?」

 

頭取がそう言うとガウェインは不思議そうな表情で頭取を見る。

 

「これが“優しい”という事ですか?」

 

「うん・・・君は優しいんだよ、黒軋君」

 

頭取はいつものふざけた感じの口調では無く、真剣な顔をしてガウェインに言った。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「ガウェインさま、緑茶が入りましたよ。どうぞ」

 

鶴ヶ谷が緑茶の入った湯飲みを渡され、何かを思案しているガウェインをソファに座らせる。

 

(君は、優しいさ。黒軋ガウェイン君)

 

頭取は思っていた。

この感情を無くしてしまったような少年がどんな風に変わっていくのかを。

 

 

 

ガウェインが考え込んでいる時、マジョーリカが静かにガウェインの袖を掴んでいたのは、誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

後で聞いた話だと、見事に二人は互いの気持ちを通じあい、今では熱血王子様と熱血シンデレラの二人はテニス界に大きく踏み込んで行った。

 

 




オリジナルキャラ紹介!

御伽学園の放送部を切り盛りする部長『烏丸鴉鷺羽(からすま・あろう)』が登場しました。
放送部の『オオカミさん』キャラと言えば下桐すずめを思い浮かばせると思いますが、そこの部員たちを登場させれば面白くなるのでは!? と勝手に判断してやりしました。

御伽学園放送部部長を務める烏丸鴉鷺羽さん、まず日本人的にもこんな名前の人聞いたことありませんよね(笑)
烏丸鴉鷺羽の名に入っています『鴉鷺』、もうわざわざこんな意味ありげに付けたんですから理由も話します(;´д`)ゞ!

『鴉鷺(あろ)』とは字の如く鴉(カラス)と鷺(サギ)ですね、名の由来は室町時代から江戸初期までに作られた短編物語『御伽草子』の噺の一つ【鴉鷺合戦物語】から取りました!
鴉と鷺が擬人化して合戦する噺なのですが、内容まで書いてしまうとゴチャゴチャになりそうだったのでやめました。

鷺(白)と烏(黒)を表すように描きたいと思う人物なので、今後原作キャラと絡ませていきたいと思います(´Д`)

オリキャラとしてもう一人居ましたね、斑鳩(いかるが)さん!
放送部は鳥類多目に集ってます(笑)

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