御伽花市のパトロールをした結果を、ガウェインが所属しているであろう御伽銀行に居る頭取に報告していた。
「ふ〜ん、やっぱり鬼ヶ島高校の人たちが群がっていたんだねぇ?」
そして御伽銀行の責任者であろう頭取・桐木リストがガウェインから報告を受けていた。
「街からの苦情も何件かありますね」
そして頭取が使っている机の傍に立っているのは、知的なメガネと見た目まんま秘書な桐木アリスが分厚いファイルを見ながら答えた。
「はい、俺が見つけた鬼ヶ島高校の生徒は計36人、その全ての生徒には『注意』をした上で聞き入れを拒否され、更に『説得』を試み、それでも尚聞き入れないと俺が判断した場合には『冷静』に対処しました」
「う、う〜ん? 僕には注意が『警告』に、説得が『最終警告』に、そして冷静にが『冷徹』に対処したように聞こえるんだけど? 僕がおかしいのかな、アリスくん?」
「・・・・難しいですね」
ガウェインは相変わらず何の表情も無しに淡々と頭取とアリスに報告するが、その報告内容がとても、凄過ぎた。
彼は確かに最初の二回くらいは言葉で注意をして、すぐに鬼ヶ島高校の生徒が居なくなるなら何もしなかったのだが。それでも、歯向かったり、注意を聞かない生徒が居れば『実力行使』という名の暴力的解決法で鬼ヶ島高校の生徒たちを退けさせて居たのだ。
その内容を見た頭取とアリスは、一気に言葉を無くして、ガウェインを見た。
「・・・・君は本当に『荒事』専門家だね?」
「全くもって」
二人の言葉の内容が分からないガウェインは少しばかり思案する。
すると横から、メイドさんが現れた。
「どうぞ、出来上がりの紅茶です」
メイド姿の鶴ヶ谷おつうだった。
「・・・・言葉の内容が分からん」
「まぁまぁ、そうなんですか? 取りあえずこちらにお座りください」
鶴ヶ谷はガウェインの腕を引っ張りながら御伽銀行地下本店の中央にある長イスに座らせ、机の上に香ばしい紅茶を、では無く緑茶を置いた。
「・・・おぉ、緑茶だ」
「はい、ガウェイン様はこの前に『紅茶は、苦手だ』とおっしゃっているのを憶えていたので、紅茶ではなく緑茶にしてみました♪」
鶴ヶ谷は満面な笑顔でガウェインにそう言うと、ガウェインは鶴ヶ谷に向けて、
「ん・・・(グー)」
「グーです♪」
緑茶を飲みながら鶴ヶ谷にビシッと親指を立てると、鶴ヶ谷も返すようにグーをした。そんな鶴ヶ谷をメイドスキーな人が見ていたら失神ものの可愛いさを出していた鶴ヶ谷だった。
「そう言えば? 赤井君から聞いたかい、黒軋君?」
頭取が思い出したように、座りながら緑茶を飲んでいるガウェインに聞いた。
「・・・?・・・何も聞いてません」
ガウェインも正直に答える。
すると頭取はニコリと笑いながらガウェインに言う。
「どうやらね? 僕ら御伽銀行に新たな仲間が加わるかもしれないんだよね?」
※
頭取から聞いた話だと、林檎が亮士の能力を買い、御伽銀行の新たな仲間しようというらしい。
気配を消す能力に尾行潜入能力などで大活躍する亮士を是非とも仲間に入れたいらしく、もう地上店で大神たちと話しているらしい。
ガウェインは緑茶をすすりながら聞いていると、ドアの向こうから声が聞こえてきた。
「ふふふ、どうやら上手くいったみたいだね?」
頭取が微笑みながらそう言うとドアが開いた。
「あ、騎士先輩。この間はありがとうございました」
「ん? 涼子か。気にするな」
ドアから入って来たのは、可愛らしいフリルのついたボリュームのあるスカートを着ている女の子、赤井林檎とまんまスケ番のような恰好をした少女、大神涼子に、長い前髪で目を隠し、ビクビクしながら歩いて来る少年はガウェインの同じ寮に住んでいる森野亮士だった。
大神は部屋の中央に備えられたソファに座っているガウェインにこの間のお礼を言った。
そして林檎と大神にメイド・鶴ヶ谷がにっこり微笑んでお辞儀を一つ。
「お帰りなさいませ、りんごさま、涼子さま」
「おつう先輩こんにちはですの、騎士先輩も」
「どうも」
「はい」
「おう」
にこにこにこと慈愛あふれる笑顔で後輩たちを迎え入れる鶴ヶ谷、湯飲みを片手に持ちながら後輩たちの挨拶に反応するガウェイン。
そして大神たち二人の後ろに彫像のごとき固まったまま突っ立っている亮士に気付いた鶴ヶ谷。
「あら、そちらの方が噂の・・・・・・」
「そう、期待の新人森野亮士君ですの」
「いったいどこが期待の新人なんだよ」
「涼子ちゃんのハートをゲットするかもしれない人なんですから、期待の新人ですの」
「はっ、ありえねー、ありえねー」
手を振り呆れたといったジェスチャーをする大神、だが、
「涼子ちゃん顔真っ赤ですのよ?」
「なっ!!」
そんな大神と林檎のじゃれあいを横目に鶴ヶ谷は亮士に挨拶をする。
「それはそれは、申し遅れました。わたくし鶴ヶ谷おつうと申します。以後お見知りおきを」
「・・・・・・森野亮士っス。よろしくお願いするっス」
亮士は何故か、かなり驚きながら鶴ヶ谷に挨拶する。まるで生まれて初めてメイドを見たように唖然としたまま答えていた。
「それでですの、森野君に皆さんを紹介しようと思うんですの」
自分の名前が出てきたことでやっとメイドの世界から現世に帰還したそうな亮士を、ガウェインは心配そうに見ていた。
「頭取、仕切っていただけますの?」
「え〜僕がかい? こういうことはアリス君が適任じゃないかな?」
頭取はそう言って自分の隣に立つ大人びた少女に話しかけるが、一言でばっさりと切られた。
「頭取、たまには働いてください」
アリスはその切れ長の瞳が絶対零度の冷たさで頭取を突き刺している。その鋭利な美貌がその冷たさに拍車をかけている。
「ん、ん〜? 黒軋君もそう思うよね?」
アリスから受ける冷たい視線を掻い潜り、ガウェインにへと助けを求める。
「・・・正直俺はどっちで・・も・・・」
「黒軋さん」
「アリス先輩の言う通りだと俺は思います」
ガウェインもアリスから凄みの掛かった声を聞いた瞬間にアリスに寝返った。
「え〜〜黒軋く〜ん?」
「頭取、お早く」
「ん、ん〜そうだね〜?」
そしてアリスの凍えそうなほど冷たい視線を気にもせず、思いきりやる気のなさそうな顔でどうにか話をそらそうとしている頭取、わき上がる非労働意欲を隠そうともしていない。と、そんなダメ人間一直線の頭取に救いの手がさしのべられた。
「・・・・ちょっと待って、お客さんみたいだよ?」
「あらそうですの?」
「うん、ほら」
机の上に置いてある液晶モニターをくるりと回して皆に見えるようにする頭取。その画面には部室の前に立ってノックするかしまいかと迷っている少女が映っていた。
「アリス君、確か今日の当番は二年生組だったよね?」
「はい、そうです」
「じゃあ、それに一年生組も加わってもらおうかな? 実際見てもらえばただ紹介するよりみんながどんな人間か分かるんじゃないかな? 百聞は一見にしかずと言うしね? そう思わないかい? ねぇアリス君?」
嬉しそうな顔でそう問う頭取にアリスはクールに言った。
「頭取はただめんどくさがっているだけでしょう」
「ははは、そんなことないよー?」
「まあ、頭取の言うことも一理あるので依頼によっては一年生組と二年生組の共同作業ということにしましょう。ただ、上の支店に上がるのは二年生組のみで、一年生にはここで待機してもらいます。全員で行ってしまうと依頼者を怯えさせることにもなりかねませんので、邪魔ですし」
「分かりましたの」
一年を代表して林檎が答える。
「では、お願いします黒軋さん、鶴ヶ谷さん。とりあえず、非常勤の方を呼ぶかどうかは依頼を聞いたあとで決めましょう」
「分かりました」
「かしこまりました」
そう言ってガウェインはスタスタと地上店へと繋ぐ階段に向かい、深々と一礼したあと、ガウェインの後を追うように部屋から出て行くおつう(メイド)さん。
ガウェインと鶴ヶ谷が上に上がるまでに簡単な紹介をした頭取とアリス。
色々と女子から攻めたてられていた頭取だったのだが上に着いたガウェインと鶴ヶ谷に視線が一気にモニターに集中する。
『いらっしゃいませ。お飲み物は何にいたしますか? コーヒー紅茶日本茶などの簡単なものなら用意できますが?』
画面の中でメイドな鶴ヶ谷が言った。
『こっ、紅茶をお願いします』
『緑茶』
何気なくガウェインは鶴ヶ谷に注文する。
メイドにもてなされる少女はおどおどとし、可哀想なほど緊張している。
少女の外見は茶色がかった長い髪を後ろで三つ編みにしている。制服はセーラー服をベースに所々手を加えている。というか改造というよりは修復だろうか、なんともなく生活感が漂う少女で、生活感が少女の可愛らしさを打ち消してしまっている。
そんな主婦予備軍といった感じの少女。その少女の目の前に飲み物が用意されたあと、鶴ヶ谷が口を開いた。
『それでは今日のご用件は・・・・・・と、申し遅れました。わたくしは鶴ヶ谷おつうと申します。以後よろしくお願いします』
『俺は黒軋ガウェイン。よろしく願える』
『灰原かかりです。よ、よろしくお願いします』
『灰原さまですね。それではさっそく本題の方に入れらさせていただこうと思います。こちらのシステムの方はご存じでしょうか?』
『は、はい、力を貸してもらうかわりにこちらも力を貸すんですよね?』
『そうだ。俺たちが貸した「貸し」、これはいつか俺たちが必要になった場合に返していただくことになる。ただ、灰原が背負った「借り」はそれに見合った協力しか求めないのでご安心を。あと、何か耳寄りな情報を貰えば、それで「貸し」を相殺することが出来るので記憶に留めておいてくれ』
『は、はい、わかりました』
そんな鶴ヶ谷とガウェイン二年生組とお客様である灰原のやりとりを見た亮士はなるほどと呟きながら納得し、頭取から色々と説明を聞いてる中、ガウェインたちは着々と話を進めていく。
『それで依頼の方はなんなのでしょう』
鶴ヶ谷が微笑みとともにきりだした。それを聞いた灰原はゆっくりと口を開く。
『はい・・・・・黒軋先輩や鶴ヶ谷先輩は二年生の大路(おおじ)先輩をご存じですか?』
『はい、存じています』
『明弘か、確か大きな怪我をして・・・・・・』
ガウェインがそこまで言うと灰原の口が開いた。
『そうです。もう、テニスが出来なくなって・・・・・・』
『それも存じております。一時期ニュースになりましたから』
同学年のガウェインと鶴ヶ谷は知っていたらしく、鶴ヶ谷の表情が少し暗くなる。だが、ガウェインは無表情のまま灰原の話を聞く。
『先週まで入院してたんですけど、今週から学校に来たんです。でも・・・・・・私は見てられなかった』
画面の中で暗い雰囲気が流れる中、大神がぽつりと言った。
「大路って誰だ?」
それを聞いて林檎は唖然とする。
「涼子ちゃん・・・・本気ですの?」
「んなこと言われても知らねーし」
「・・・・・・はぁ。涼子ちゃんは女の子として大事な部分がどこか欠けてますの」
「うぐっ」
「お、おれも知らないっスけど・・・・・・その大路先輩ってのはどんな人なんっスか?」
大神をちらちら見つつフォローに入る亮士、実にかいがいしい。
「大路明弘(おおじ・あきひろ)二年R組、スポーツ科? その整った容貌、テニスの上手さ、そして名前から、テニスのおーじさまと呼ばれているね?」
頭取が自慢気に答える。それを聞いた皆の反応はというと・・・・・・。
「おーじさま・・・・・ぎりぎりだな」
「ぎりぎりですの」
「い、いや、微妙にアウトじゃないっスか?」
「間違いなくアウトです」
様々だった。
『それで、明弘がどうかしたのか』
ガウェインは出来る限り《礼儀正しく》していた。
これも騎士道の一つだからである。
そして何気に大路のことを名前で読んでいることに鶴ヶ谷が気付き、ガウェインに聞いてみると、
『アイツから頼み事があったからな、覚えていた』
大路から受けた頼み事は、テニスの練習相手だったらしく、ガウェインがテニス出来ることに鶴ヶ谷やモニターで見ていた大神たちも驚いていた。
「練習相手って、相手はテニスのエースじゃねーのか?」
「まぁ黒軋君なら相手出来るんじゃないかな? 反射神経や反応速度がズバ抜けて学園一位だからね?」
それを聞いた亮士は驚く。
「学園一位っスか!?」
「うん、彼は本当に凄いよ?」
頭取は笑顔で答える。
『昔・・・・私もテニスをしていたことがあるんです。・・・・・家庭の事情でやめましたけど。テニスやめたあと、いろいろ辛くて、くじけそうになることがあって、そんな時にテニスコートを一人で眺めてたんです。そしたら私相当暗い顔をしてたのか、大路先輩が声をかけてくれたんです』
灰原は思い出を蘇(よみがえ)させながら顔を綻(ほころ)ばせていた。
『それから暇があるときにテニスコートを眺めに行くようになったんです。私はただ見ているだけ、話すといっても二言三言。でもそれだけで良かった。大路先輩が楽しそうにテニスをする姿に元気づけられました。そんな交流が、大路先輩が中学を卒業するまで続いたんです。でも大路先輩が怪我したって聞いて、テニスが出来なくなったって聞いて・・・・・。私は辛いときに大路先輩に助けてもらった。救われた。だから・・・・・・だから、今度は私が、私が・・・・・」
そして灰原は決意を秘めた眼差しで前を向き・・・・・目を爛々と輝かせテンションが異常に高い鶴ヶ谷の姿に面食らった
『恩返し!! 恩返しなのですか!! なんと素晴らしいことでしょう』
『落ち着け、おつうよ』
胸に手を当て恍惚としたまま、灰原ににじり寄る鶴ヶ谷、そしてそれを止めようとするガウェイン。
「むちゃくちゃテンション高いっスね」
「いやー鶴ヶ谷君は恩返しという行為に目がなくってね。だから、お世話になった人に恩返しをするというシチュエーションにぐっと来るものがあるんだと思うよ? そもそも、うちに所属しているのも恩返しのためだしね? むかし僕らが鶴ヶ谷君を助けたことがあるんだよ? で、灰原君の家庭の事情は・・・・アリス君お願いするよ?」
アリスはカチャカチャとキーボードを操作し画面に灰原の個人情報を呼び出す。
「中学二年の秋に母親を亡くなられたようですね」
「ふ〜ん、それで家事をするためにテニスをやめたと?」
「それだけではありません。母親は病死で、その治療費として多額の費用が必要だったようです。金銭的な面からテニスを続けることが出来なかったのでしょう。テニスは持ち前の運動神経を発揮し、前途有望だと期待され、実際に良いところまでいっていたようです。これが春に行われた体力測定です」
画面に映し出される体力測定の結果。
「へぇ、こりゃすごいね?」
そんなことを何気ない様子で話す二人に亮士は驚きの顔で聞く。
「そんなことまで分かるんスか?」
「そうだよ? でも一応プライバシーに関わることは外に漏らしちゃいけないよ? もし漏らしたら・・・・・・君の個人情報が学園内を駆けめぐることになるよ? いやー恐ろしいなー? 情報は基本的に、目には目を歯には歯をどころか、目にも歯にも利子をしっかり付けて返すことにしてるからね? まあ、僕らは人選からしてしっかりしてる、そんな不届き者は今まで出てないけどね?」
「りょ、了解っス」
一通り騒ぎ、ガウェインもなんとか宥め、どうにかテンションが下がってきた鶴ヶ谷。
『わかりました。恩返しに大路さまを立ち直らせればよいのですね?』
『はい。でもどうすればいいのか分からないので、ここに相談に来たんです』
そう困っている灰原に鶴ヶ谷は簡単なことだと答える。
『単純に考えれば、新たな生き甲斐を見つければいいのでしょう。大好きで大好きでたまらなかったテニスに振られてしまった。だから今の状態になっているのですから』
『はい、それはそうかもしれませんが』
『なら、灰原さまが癒して差し上げればいいんですね』
鶴ヶ谷はにっこり微笑んで言った。
『えっ、えっ?』
予想もしてなかった話の流れについていけない灰原。
『ああっ恩を返すために伴侶のように側に寄り添い傷を癒す。・・・・・・たまりませんわ!』
『おつうよ、トリップするな』
暴走気味の鶴ヶ谷にガウェインは緑茶を飲みながらツッコミを入れる。凄い温度差だった。そして、そんな鶴ヶ谷に灰原は訪ねる。
『なんでそんなことに・・・・・・?』
『灰原さまは大路さまのことを憎からず思っているのではないですか?』
『それはあの・・・・その』
灰原は頬を染めつつ乗り気ではないようで、少しの沈黙のあとに答えた。
『・・・・・・・・・・大路先輩テニス部をやめるつもりなんです』
『残念だが、それは仕方がないのではないか?』
ガウェインはため息をつく。それには灰原ですら異存はない。
『はい、やめるのはしょうがない事だと思います。・・・・・もうできないんですから』
しかし、それだけでもなかった。深刻な顔で灰原は続ける。
『でも、今はまだまずいと思うんです。なし崩しに、心の整理もできてないままテニスから離れるのは。このままだと、先輩は絶対に後悔する。・・・・・・私みたいに』
※
上でガウェインが度々テンションが上がる鶴ヶ谷を押さえ込むのに四苦八苦しながらも下でさっそく対応策を練りたててた。
「んーとうことはまずやることは時間稼ぎだろうね? どうするにせよ時間が必要だし? 取りあえず明日を乗り切れば・・・・・・」
「なんで明日を乗り切ればいいんだ?」
大神は頭領に聞くと、正式に退部するためには、部長、顧問、担任から承認を貰った後、体育会に提出し承認を得る必要があるらしい。一度退部した場合、再入部が認められていないかららしい、何事もよく考えてから自分で決断させ、自分の決断には責任を持てと、そういうことらしい。
それを聞いた大神は呟く。
「逆に言えば、そこまでの覚悟を持って大路先輩とやらはテニスをやめるつもりなわけか」
「そうだね? 中途半端な説得じゃどうにもならないだろうね? 話を戻すよ? それで最後に退部届を持って行く体育会は構成しているのが体育会系のクラブメンバーなわけで、週末の金曜日にそれぞれのクラブが持ち回りで体育会室を詰めることになっているんだよね? つまり、今日は木曜だから、明日退部届を提出させさえしなければ、一週間ほど時間ができるということだね? まぁ、今日明日で何が出来る訳でもなし? 明日をしのいでその後、本格的な作戦を立てるって感じかな? タイムリミットは明日の五時半だね?」
「いえ、明日は休日なので体育会室が開くのは今日です」
頭取の言葉にアリスはクールに返す。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
一年生三人の視線が頭取に集中し・・・・・。
「・・・・アリス君、携帯電話を」
「はい」
そう言われたアリスはどこからか鞄を持ってきて開く。そこに並べられているのは沢山の携帯電話。それぞれ携帯の上には男女関係なく人の名前が書いてある。
「えーと、テニス部の部長と知り合いなのってなっちゃんで良かったかな?」
「はい、二宮夏美さんでテニス部に接触したはずでず。確かに一緒に合コンをしたのではなかったですか?」
「あーあー、そうだったそうだった」
頭取はずらりと並んだ携帯電話の中から二宮夏美と書かれた携帯電話を取り出す。
「ごほん。あーあーあー、あめんぼあかいなあいうえおー」
喉の調子を確認。そして、アドレスからテニス部部長を呼び出し電話をかけた。
「・・・・・・何してるんっスか?」
亮士が林檎と大神に小声で聞く。
「まぁまぁ、見ててくださいの。おもしろいですのよ? だてにこの昼行灯の穀潰しの宿六さんが頭取やってるわけじゃないということですの」
「確かにこれは大した芸だな」
そう言われて亮士は頭領に視線に移し・・・・信じられないものを見た。いや聞いた。
『あっ、どうもご無沙汰してます〜、はい夏美です。その節はどうも』
どう見ても男子高校生の頭取の口から、可愛らしい女性の声が流れ出していた。
『それでですね、大路先輩どこにいらっしゃるか知りませんか?』
えっえっえっ? と頭取と大神たちの間を亮士は視線が往復する。
「ま、こういうことですの。頭取は変装が趣味で、変装してはここをアリス先輩に任せては遊びに行くんですの。そこにある、携帯電話の数だけ変装のレパートリーがあるということですのね。聞いての通り声帯模写も見事で、男に化けたり女に化けたり。まあ、怪人二十面相の廉価版ですね。一応男らしいんですけど、本当かどうか微妙に疑わしくなってきますのよ」
「確かにな、ありゃあ女にしか見えねーな」
女性した頭取を脳裏に思い浮かべ、うんうんとうなずく大神。
頭取が部長である二宮夏美さんと話が終わったらしく、頭取が携帯電話を置く。
「どうやら、困ったことにもう出発したらしいです」
「頭取、声と口調女のままです」
「あっごほんあーあーあー。うん、これでいいかな? かな?」
アリスに注意され、いつものしまりのない顔と声に戻る頭取。
「えーっと今は五時二十分か、大路君もやっぱり悩んでたんだねぇ、こんなぎりぎりな時間に退部届けを出しに行くなんて、もう十分しか時間がないよ? でも、これは逆にチャンスかもしれないね? テニスコートから体育会室までは距離は結構あるからね? 松葉杖をついているはずだから、歩く速度は遅いと思うし急げば間に合うかもしれない? だから、どうにか邪魔をして五時までに到着できないようにすれば大丈夫かもね?」
そんなことをまるで人事のように言う頭取。アリスは机の上のマイクを手に取ると上の支店に向けて話し始めた。
「鶴ヶ谷さん、黒軋さん、緊急事態です。どうやら、大路さんは退部届けを持って体育会室に向かったもようです。十五分ほど前のことですから、この学校の広さ、松葉杖であることを考慮したとしてももう体育棟に到着しているかもしれません。しかし、ここは体育棟の隣です。急げば間に合うかもしれません」
その放送にガウェインは一瞬ビクンッと驚きながら音源を捜して回るように首をフリフリとボロッちい部屋を見渡し、灰原はというと、
『そ、そんな!!』
焦りの混じり合わせた叫び声が響いた。あまりの急展開にパニックになる灰原。
『ど、どうしましょう!』
『時間がないので、急いで無理矢理にでも止めるしかありません。退部届けを出してしまえば終わりですから』
『でもいったいどうしたら?』
『こうなったら、小細工なしです。灰原さまの思いの丈をそのままにぶつけるしかないと思います!』
『・・・・・・はい!!』
あたふたとしていた灰原だが、その言葉に覚悟を決め頷いた。ガウェインは心配そうな顔をしながら鶴ヶ谷と灰原を交互に見た。
(上手くいけば良いのだが・・・・・・)
と、熱血青春ドラマ風に二人が走り出そうとしている中ガウェインがそう思っていると、闖入者(ちんにゅうしゃ)が現れた。
『話は全部聞かせてもらったヨー。すべてこの魔女っ娘マジョーリカにお任せヨー』
『・・・波乱の予感がする』
現れたのは正統派魔女ルックの少女、とんがり帽子に丈が伸びすぎてローブのようになった真っ黒なブレザー。いやどちらかといえばローブというよりは科学者の着るような白衣に近い。しかし色が黒なので白衣ならぬ黒衣といった所だ。とんがり帽子から漏れるのはガウェインが一目見るだけで興奮してしまいそうなサラサラストレートの金髪、ぐるぐる牛乳瓶底眼鏡。ともかく現れたのは魔女だった。
『まずこれ履くヨー』
マジョーリカは奇妙な効果音と共に取り出したのは、微妙に厚底の運動靴。
『えっえっ』
『いいから履くヨー!』
『は、はい』
その剣幕に思わず頷き履いてしまう灰原。
『よし、それじゃ行くヨー!』
そしてマジョーリカは鶴ヶ谷て灰原を引き連れて外に出ていく、その後を心配半分渋々半分のガウェインが重い足取りで付いて行った。
疾風のようにやってきて疾風のように去っていった魔女について亮士は聞いた。
「えっと、あの人は・・・・・・」
「二年の魔女君だよ? 本名はマジョーリカ・ル・フェイ。黒軋君以外のみんな魔女さんと呼んでるけどね? うちの備品担当って所かな? あの、大神君のねこねこナックルも彼女作だよ?」
「あ、あれですか!?」
「工房の方で一部始終見ていたようだね? ・・・・・・・・・・とりあえず僕らも外に出ようか? なーんか大事になりそうな気がするしね?」
「賢明です」
困った顔でそう言う頭取に、今日初めてアリスは心底からの肯定の意を示した。
五人が外に出ると噂の魔女さんが何やら大仰な物を体育棟に向けて構えていた。それは大砲のような外見だったが、・・・・・・・・・・なぜか先にカボチャが付いていた。
「えっと黒軋君? あれはいったいなんなのかな?」
皆を代表して頭取がマジョーリカの後ろで見守っていたガウェインに聞く。
「なんでもワゴンオブパンプキン一号らしいですよ。あれを打ち込んだら先端のカボチャが割れて引っかかるみたいです」
確かによく見るとマジョーリカの足下にはロープがとぐろを巻いている。
なるほど、あれを撃つとこのロープを伴っていくのか。亮士はマジョーリカが何をしようとしているのか理解した。思わずツッコミを入れる。
「いやそれまずいっスよ!?」
「なんでヨー?」
不満そうなマジョーリカ。マジョーリカの狙いは体育棟の四階一番左の窓、その窓の向こうには体育会室がある。
「窓閉まってるじゃないっスか!」
「派手でいいヨー。ガラス破りはアクションの基本ヨー」
「いや、下手すれば怪我人が出るっスよっ!! 下手したら死人が出ますよ!!」
「んーわかったヨー、死んだら流石に直せないヨー」
ガラスをぶち破るという派手さが相当捨てがたかったが、流石に怪我人はまずいと渋々承諾してマジョーリカは狙いを変えた。マジョーリカは右端に近い場所の開いた窓を狙い、ワゴンオブパンプキン一号を撃った。
ポシュウッとそんな音とともに二本のロープを伴ったカボチャが空を飛ぶ。
「なんてシュールな光景なのだろう」
「まったくですの」
視線をカボチャから離さないでガウェインがそう言うと、林檎も同意していた。
カボチャは狙い違わず窓の中に吸い込まれて行った。マジョーリカはロープを何度か引っ張り、ちゃんと引っかかったことを確認。
「うまくいったヨー。というわけで、かかりちゃんこっち来るヨー」
「えっ、でも、早く上がらないと」
カボチャに心奪われていた灰原。正気に戻って早く上に上がりたい旨を伝える。というか、自分の運命を悟ったのかいやいやと無意識に首を振っている。しかし、マジョーリカは人の話を聞かないとか通知票に書かれるタイプらしく。
「いいかラいいかラー」
そう言って何かベルトを灰原にはめ、もう片方のロープをこの場にいる皆に渡した。
「あのっ、そのっ、階段上がった方が早いんじゃ・・・・・」
さしてそう言う灰原を無視して・・・・・・
「引っ張るヨー」
と叫んだ。
どうやらあのカボチャの根本には滑車が付いているらしく、それに繋がるロープの片方はみんなの下に、そしてもう片方は灰原の腰のベルトに。
本当にいいのか?
そんな視線がこの場で最上位の責任者、頭取に集まるが、せの頭取はマジョーリカ押さえ付け役であるガウェインに顔を向けた。
「いいのかな?」
「・・・ふぅ、しょうがないとは言え、これは危ない。こういう時は俺に任せてください」
と言ってガウェインはマジョーリカに近付く。
「(これは危ないから俺に任せてはくれないか?)」
ガウェインは小声でマジョーリカの耳元でそう呟くと、
「ふ、ふにゃあっ!? いいい良いヨー! うんそれでOKヨー!!」
マジョーリカは赤面になり、バタバタとガウェインから離れて呟かれた耳元を触る。耳まで赤くなっていた。
「分かってくれたか、ありがとう」
ガウェインがそれだけ言うと灰原と向き合った。
「で、どうするんだい?」
「ちゃんとマカの道具は使いますよ、使わせてもらいます」
そう言ってガウェインは灰原が履いていた微妙に厚底の運動靴に履き替えた。
もちろん灰原は普通に履いてきた靴になっている。
そして、灰原がはめていたベルトとガウェインもはめたベルトを結合させた。
体勢はと言うと、灰原を背負ったガウェイン。となっている。
「ま、まさかガウェインさん」
「そのまさかをやるんだぜ、この先輩は」
亮士はガウェインがやろうとしている事に半分信じられなさそうに見ていると、横で尊敬の眼差しで見ている大神が居た。
「・・・・・・掴まっててくれよ」
「あ、あの〜、一体何を」
ガウェインはしっかりと固定しているベルトを何回も確認した後に、走る構えを取り、そして、
「はッ!」
爆走。
かなり踏ん張りの聞いたスタートに一瞬でガウェインは走っていた・・・・・・・・・・ロープを上を。
「うきゃぁぁぁぁぁぁーーー!!!」
灰原を落ちさせないような絶妙なバランスを保ちながら上手い具合にロープを上を走る、走る、走る。
その運動神経とバランス感覚は正に神業。
そしてあっという間に四階へと進入した。プロ過ぎる入り方だった。
「いやー凄いね?」
「凄いねってレベルじゃねーぞ? あれ絶対どっかでレスキュー活動してたって」
「まぁ騎士先輩ならあり得ない話では無いですの」
「いや! 普通に人間技じゃないっスよ!?」
人体、というかガウェインの身体能力に神秘的“なにか”を目撃した御伽銀行の皆さん。亮士はガウェインの凄さに異常なまでに驚いていた。
「ファイトです灰原さまー! ガウェインさまもー♪」
恩返しのサポートができた鶴ヶ谷は、とても達成感に満ちた顔をしていた。
体育会室の扉に手を掛けた大路を発見したガウェイン。すぐにベルトから灰原を外し促した。
灰原はまだバクバクする心臓を落ち着かせながらも大路へと走り出す。
「先輩! 待って下さい! 今、やめたら先輩は絶対後悔・・・・」
大路に向かって叫ぶ灰原。しかし大路はそれに気づかず無情も扉は開き大路は松葉杖を進め・・・・。
「・・・・・間に合わないか・・・・・」
ガウェインがそう呟く、が、いきなりガウェインが履いていた靴の厚底部分が分離し・・・・・中からタイヤが出てきた。靴がいきなりインラインスケートに変形してしまった。
「・・・・・・はっ?」
ガウェインはいきなりインラインスケートに変形した靴をまたもや巧みに乗りこなす、がシュボッと靴が巧みに抜けた。
またもガウェインは愕然としながら飛ばしていく靴の方向を見る。
その靴は上手い具合にロボット飛行機みたく分離し、必死に走っていた灰原の靴と『合体』した。
「へっ、あっ、きゃーきゃーきゃー!」
いきなり靴がインラインスケートに変わった為にあたふたとしていたが、両手をわたわたさせながらどうにかバランスをとる。
ガウェインは耳に無線機のような小さなものから伸びたイヤホンを付け、御伽銀行の会話を聞く。(マジョーリカがガウェインの為に作った作品の一つ)。
『こっ、これは?』
恐らく亮士がモニターを見ながら言ったのだろうとガウェインは推測する。
『名付けて、《大好きなあなたの下へとまっしぐラー! ガラスの靴一号》でース!』
『なんてことするんっスか!?』
『なんでヨーあれなら十分間に合うヨー?』
『いや、確かに速くなりましたっスけど、、どうやってあれを止める気っスか! あの様子見ると、どう考えてもかかりさんはインラインスケート初めてっスよ?』
マカか。
ガウェインはそれだけ聞き取っていると、前方で手を振り回したまま滑り続けている灰原を見た。もう大路の目の前だ、持ち前の運動神経を発揮しているのか転びはしていないが、それも時間の問題だろう。
(別に止めに入っても良いんだが・・・・・行くか)
ガウェインが靴が無くなった状態で灰原を止めに入ろうとしたが、
〔尾前(おまえ)はガィリンでは内(ない)か〕
突然と現れた人物によってガウェインはその場に立ち止まった。
〔戸々(ここ)で無二(なに)をしていルのだ〕
現れたのは白い前髪で目を隠し、口を隠している白いマフラー。服装は一つに纏まってなく、ジャージの上にブレザーを着てズボンの上に半ズボンを履いているのだ。何故か下駄も履いている男だった。
〔追(お)いガィリン、木(き)いていルのカ?〕
「・・・・そこを退くんだ」
何故かガウェインは不機嫌そうになりながら男に言う。だが男は怒りを表した感じで独自な喋り方で言う。
〔そう尾枯(おこ)るな、まあ魔(ま)て、そう乙小(おこ)るな〕
「・・・退け、『ケイ』よ」
ケイと呼ばれた男は怒った感じから悲しんだ感じになった。
〔他紙(たし)かに折(おれ)は『ケイ』だが、『ケイ』じゃ名井(ない)〕
「また訳の分からない事を・・・」
〔また和気(わけ)の若羅(わから)ない湖都(こと)を蛇斗(だと)? 飯矢(いいや)、血牙(ちが)うな、汚俟絵(おまえ)が侘毛(わけ)が和火(わか)らんのだ〕
「・・・・・・」
と、『ケイ』という人物と相手をしていると、いつの間にかやら灰原の姿が居なくなっており、その変わり大路が倒れていた。
(い、いつの間にか、大変な事に)
ガウェインは倒れている大路に駆け寄ろうとするが、
〔折(おれ)の葉梨(はなし)を器(き)け〕
またケイに邪魔される。
「くっ・・・・・・はぁ、何だケイ、俺に言いたい事があるなら言って良いぞ?」
キレてしまってもおかしくないのにガウェインはきちんとケイと向き合い、話し合いに望む。ケイもガウェインの対応に驚いたのか反応が無い。しばらくするとケイが動き出した。
〔・・・・・・緒麻衣(おまえ)は、五(いつ)もそうダな〕
それだけを告げて、いつの間にか姿を消していた。
ガウェインはいつもの事らしく、反応せずに大路の下へと向かったのであった。
※
「よぅ〜、『ケイ』じゃねーか」
ブツブツと何か独り言を呟きながら歩いているケイに金髪頭の青年が話し掛けて来た。
〔央前(おまえ)は・・・・・・・・・・タンメン〕
「違ぇぇよ!? トリスタンだ、トリスタン!」
トリスタンと名乗った青年は親指を自分に指して必死そうにそう言った。
「本名は弾(タン)ですけどね」
そして隣からオレンジ色の髪をストレートロングにしている少女もやってきた。
「貴方も『円卓の騎士』の一人なら、ちゃんと身なりくらいしたらどうです」
〔歩雨(ほう)、凶(きょう)はルルカンも射(い)るのか?〕
「・・・・・萌仁香・ルーカンなのだけれど、気にしている私って・・・・・KYなのかしら!?」
〔刑猥(けーわい)? 南(なん)だその已診(いみ)が稚(わか)らん事刃(ことば)は?〕
「だぁぁ! 二人供黙れって、何か聞いてる俺が苛ついてくるぞ!?」
その後トリスタンはルーカンとケイを相手に一時間費やす。
そして互いに落ち着いた時にはトリスタンはかなり疲労している顔だった。
「それで、ガウェインはどうでしたか?」
ルーカンはケイに聞いた。
〔銅(どう)も攻(こう)も奈(な)いさ、アいツは不痛(ふつう)じゃ娜(な)い〕
お前が言えた義理か、とルーカンは横目にケイの話を聞く。
〔折(おれ)のコの車辺(しゃべ)り堅(かた)に南(なん)の伊良(いら)つきヲ店(みせ)んかった。折はこノ能(チカラ)で怨啅(えんたく)の愧死(きし)に癈(はい)れたんだ。ソレ奈幅(なの)にアいツは・・・・・〕
ケイはそれだけ言うと、また独り言を呟きながら二人から離れて行った。
「・・・あれも『円卓の騎士』の一人なのね」
「荒(すさ)んだ目で見るんじゃねーよ。ケイだってなりたくなったんじゃねえんだ・・・・・・あぁでもしてないと精神が崩壊する」
「確かケイの家族は、外国で・・・・・」
そこでルーカンはそこから言わなかった、いや、“言えなかった”。
「・・・・・・お前(め)ぇさぁ、ワザとやってんのか」
一瞬にして出来た仕込み槍をトリスタンはルーカンの喉元に矛を突きつかせた。
「・・・・・別に私はこういう展開も嫌いじゃないわ。だって『円卓の騎士』たちってさ、劣等品なんでしょ? その劣等品同士が“殺り合った”らどうなるか・・・・・気にならない?」
そしてルーカンも、何の恐れも無く喋り続ける。トリスタンはすぐに仕込み槍を下ろした。
「オッケィ、オッケィ。一回お互いにクールダウンしないか、じゃねぇとさ・・・・・・・・・・本気(マジ)になっちまう」
ズガッン! と仕込み槍が近くにあった壁を貫いた。
「ふふふふふ、そうね。それもまた、魅力的♪」
そしてルーカンは妖艶に笑う。
「でも死合(デート)はまた誘って、だって私の玩具が無いんだもん」
ルーカンもそれだけ言うと、トリスタンの前から消えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・また抑えられなかった、また『興奮』してやがる」
トリスタンは今の失態にショックする。何てことをしたのだろうかと。
「・・・萌仁香も興奮してたな、口調が異様に変だった」
トリスタンは仕込み槍を仕舞い、校舎の方へと向かって行ったのであった。
騎士たちは狂っている
故に強かった
それが御伽に溺れた
騎士たちの『末路』
魔神はそれを、悲しんだ