ガウェインは夜の御伽花市を愛用二輪車“GALL-10”で巡回中であった。
だが、ガウェイン一人だけでは無く、もう一人隣で騒いでいた。
「うひゃぁー♪ はやいヨー♪」
そう、マジョーリカ・ル・フェイと一緒に巡回(ツーリング)しているのだ。
「ヘルメットちゃんと被れよ」
ガウェインはかなり早い速度で移動しているのだが、軽い感じでマジョーリカのヘルメットを片手で、ポンッと叩く。
そう、今のガウェインの二輪車にはサイドカーを付けてあり、取り付けるには十分過ぎるサイドカーだった、だがガウェインはそこを不安にさせないべく、早い速度を保ちながらして安全運転を遂行しているガウェインには称賛に値する。
「今夜のGALL-10は走りが良いな、ステアの拳動もエンジンの響きも心地良いし、道路のコンディションも丁寧だ。思わず速度(スピード)を出してしまう程に刈りたたされる!」
そして若干、二輪車が調子よく走る為にテンションが少し上がっているガウェイン。
「・・・・荒神財閥が加わっている新型二輪車、超電動リニア二輪も気になるヨー」
そして隣で少しガウェインのテンションに驚いていたなからも律儀に話に加わるマジョーリカだったが、ガウェインが好きそうな話題を振り掛けてみると、顔は無表情だが、ガウェインは目をかなり喜びを表しながらマジョーリカとバイクについて話に花を咲かせていた。
※
「ふぅ・・・・夜の外は寒いだろ、マカ。何か暖かい物を買って来るよ。何が良い?」
御伽花市をある程度巡回したガウェインとマジョーリカは、コンビニの近くで休んでいた。マジョーリカの恰好は、いつもの学生服に大きなローブを着、牛乳瓶底型の眼鏡を掛けてちょこんと座っていた。
ガウェインの恰好も変わらない、黒いコートの上に、ヘルメットと言う名の兜、そして甲冑(ライダースーツ)を着ていた。
「ん〜、それじゃ私は冷たい炭酸水と、アイスが欲しいヨー」
「却下だ、聞いてるだけで身を寒慄(かんりつ)する。まぁ・・・・俺が適当に買っておく、マカの好物は熟知しているつもりだからな」
ガウェインは兜(ヘルメット)を被りながらは流石にコンビニに入れないので取り、スタスタとコンビニに入って行った。
(ふふふ、『マカの好物は熟知しているつもりだから』・・・・か)
マジョーリカは頬を赤くさせながらサイドカーで待っていた。
※注意、高校生が大型二輪車と大型特殊二輪車、つまりサイドカーを付けたバイクは乗れませんよ☆★
知ってますって? アハハハ! じゃあ大丈夫だァ!!
「警邏(パトロール)・・・・か」
ガウェインたちは最近妙にチラつく鬼ヶ島高校生が御伽学園(ウチ)にちょっかい出しをしてこないかを見回る仕事を受け持ったのだ。
もしかしたら『荒事』になるかもしれないからだ。
そして、ガウェインはコンビニの中から外に居る奴らを発見させる。
(アイツらは・・・鬼ヶ島高校の奴ら・・・か)
外に居たのは、数人の学生で、結構な人数で集まっており、駐車場を我が物顔で座っていた。
「・・・すみません」
ガウェインは店員に聞く。
「は、はい」
レジに居た女性の店員が反応する。若干ガウェインの恰好を見て驚いていたが、無視。
「あそこで集まっている学生はいつもああやっているのですか」
ガウェインは親指を外に向けたまま、質問する。
「あぁ、はい。ここ最近なのですが、良く駐車場で集まるようになってはああやって駐車の邪魔しているんです・・・・・」
女性の店員は溜め息を吐きながら言う。
するとガウェインは顔色変えずにこう答えた。
──俺が、なんとかします。
※
「きゃははは! でアイツがよ〜森村の財布盗んだのバレてやがんのォ!」
「マジで!? アイツばかじゃねェの!?」
会話に花を咲かしている学生たちなのだが、如何せん場所や時間帯が悪い。
そんな少年たちを叱る大人たちは居なかった。
だが、一人の少年が注意しにやってきた。
「・・・・・・お前ら、邪魔だぞ」
「あァん!?」
鬼ヶ島高校生の少年たちは注意しにやって来た相手を見てみると、
「・・・・・・何?」
「んなっ! お前は『黒騎士』!?」
鬼ヶ島高校の学生たちはガウェインを見た瞬間にさっきまでの去勢が無くなっていた。
「なっ、なんてたって此処に黒騎士が居やがるんだよ!」
「お、俺が知る訳無ぇだろぅが!」
「俺達だって分かんねえよ!」
鬼ヶ島高校の各々たちは、互いに今の状況を理解しようとしていたが、その場に居た一人の学生が、
「オイオイ、何ビビってんだよ。御伽学園の奴だろコイツ、なら・・・・」
ガウェインに近寄りながら、馬鹿にしたような顔でガウェインの胸ぐらを掴む。
「オウオ〜ウ、坊っちゃまが何の用だ! あァン!」
かなり威勢良く言って来た鬼ヶ島高校の学生の男、ソイツは決まったぜ、と言わんばかりに決め顔をしていると、かなり焦った声が男に浴びさせる。
「ば、馬鹿野郎ッッッ!! 黒騎士(そいつ)に手を出すな! “死ぬ”ぞ!?」
焦った声で言って来たのは、この集まりで頭と思わせる大柄な男は、手を出した男を止めようとしたが、
「遅い」
打撃。
たったそれだけだった。
「───ッ!!?」
ガウェインの胸ぐらを掴んでいた男は生まれて初めて脳が揺さぶられる感覚に襲われていた。
ガウェインが行ったのは簡単な一動作だけ。
ただ『殴った』だけだ。
たったそれだけで男は意識が飛んでしまう程の衝撃に襲われ、数本の歯が折れて口から血が流血していた。
「・・・しまった、血を流させてしまったな。済まない。医者に行くか」
そしてガウェインは無表情のまま、殴った相手が流血しているのに気付き病院まで送ると言ってきたのだが、
「ひ、ヒィィ!!?」
「は、初めて人が人を殴り飛ばした所を見たかもしれねぇ・・・・・!」
「化物・・・化物だッ!」
他の学生たちは一目散に逃げており、残りの鬼ヶ島高校の学生たちは気絶して、パクパクさせている男を拾って、撤退していった。
駐車場に残った血痕が物凄く嫌な感じになっていた。
(面倒事は全部、あのエロ魔神にでも押し付けよう・・・・・うん、それだ)
ガウェインはそう思いながら、買ってある暖かい食べ物や飲み物をマジョーリカの下へと持って行こうとした。
※
「はぁはぁ・・・な、何なんですかアイツ! 何であんな破壊力抜群なパンチを持ってるんスか!」
「俺が知るかよ! とにかくこのバカを病院に連れてくぞ!」
鬼ヶ島高校の学生たちは散り散りになり、その日は解散となって怪我をした男を病院に送り届ける為に走っている鬼ヶ島高生の佐林(さはやし)と高山(たかやま)が居た。
「あぁ! でも、こんな暴力を働くアイツに訴えれば・・・・・」
そして佐林と呼ばれている男は担がれている男の後頭部を押さえながら高山に聞く。
「あぁ止めとけ、黒騎士(アイツ)を訴えたいのなら、パトカーを30車くらい準備しないと無理だ」
高山は気絶している男の両足を担ぎながら走っていた。
「この殴られた馬鹿は生粋の馬鹿だし、アイツと会うのは初めてだったから喧嘩を売ったが、圧倒的だったろ? 無知な奴ほど酷いものは無いな」
佐林はガウェインのパンチを思い出し、身震いをする。
「アイツ『戦才(せんさい)』なんだよ、戦いの天才、つまり喧嘩がかなり強いんだ。もうアイツと喧嘩をしていると圧倒的過ぎて逆に清々しくなっちまうくらいに強いんだ」
厨二病みたいッスね・・・、と佐林が呟くと同時に病院が見えて来たので、高山はペースダウンしてしっかりと佐林に教える。決して喧嘩を売ってはいけない相手を、
「良いか佐林、良く聞けよ。御伽学園には『騎士』という称号を持っている人物が数人居る、その騎士と呼ばれている人物は一人一人が桁外れた戦闘力を所持しており、喧嘩を売れば最後、ボコボコにされてお仕舞いだ」
病院に着いた高山と佐林は気絶した同校の学生を、ぽいっと投げて、話の続きをする。
「絶ッッッ対に喧嘩を売るなよ!! 巻き添え喰うのはまっぴらだからな!」
「し、しません! 絶対に喧嘩を売ったりしましぇん! つか怖いッス!!」
高山と佐林は互いに見つめ合い、そして無惨に投げ捨てられた気絶男を見て、
「「よしッ!」」
二人とも全力疾駆でその場から散って何処かに行ったのであった。
※
「さっきは大変だったみたいだヨー」
「アイツらも懲りずによくやるよ」
ガウェインはマジョーリカに買ってきたホットのカフェオレとコンビニ限定肉汁たっぷり肉まんを渡し、ガウェインはコーヒーを飲んだ後に、また巡回の為にバイクを走らせていたのだ。
すると、バイクを走らせていたガウェインの懐から携帯の着信音が鳴った。
ガウェインは道路の邪魔にならない所で一時停止し、携帯を取る。
「もしもし」
『あっ、こんばんわですの騎士先輩』
電話の相手は同じ御伽銀行に勤めいる、後輩の赤井林檎(あかいりんご)からだった。
「どうした、何かあったのか」
ガウェインがそう言うと林檎は焦りながら内容を言う。
『はいですの! さっき涼子ちゃんから電話があったんですの、この前涼子ちゃんと私が受け持った依頼でお灸を添えてあげた愛の戦士(ストーカー)がどうやら逆恨みで涼子ちゃんを襲ってるらしくて・・・・・』
「復讐か」
ガウェインは静かに呟く、そして林檎も聞こえたらしく電話越しで「そうですの!」と認める。
「分かった、林檎の寮は近いから今すぐ迎えに行く」
『すみません、お願いしますですの! 私もすぐに外に出て待ってるですの!』
林檎がそれだけ言うと、ブツンと通話を終了させた。
「・・・マカ」
「内容は分かったヨー。武器は揃ってるヨー♪」
マジョーリカはブカブカのブレザーから色々な発明品を取り出し、不気味な笑い声を出しながらガウェインにさっさと発進しろ的な目線で居るとガウェインも頷き、そして、ブォォォォン! とエンジンを吹き鳴らし、林檎の寮へと向かっていった。
※
その頃、オオカミさんこと大神涼子(おおかみ・りょうこ)は、通っているボクシングジムの帰りに何故か一緒に帰ることになった白馬王子(はくば・おうじ)と現在、愛の戦士(ストーカー)に逆恨みで襲われている所だった。
大神と白馬の前には数人の男たちが立ちふさがっており、相手が女だからと油断していたお陰で何人かは道路で踞(うずくま)っており、そしてその中の一人、頬に大きなガーゼを当てた男、愛の戦士は焦っていた。
こんなハズじゃなかった。
そう、こんなハズでは無かったのだ。
相手は女だから大人数で押せば何とかなると考えていた愛の戦士、最初は余裕をかましていたのだが、今の状態につれ、そんな余裕は消えていた。
そして、数人居た男の一人が鉄パイプを振り回し、大神の頭上へと振り下げていた。
「くっ」
前いた連中だけでなく、後ろにも奴らが居たらしく、伏兵となり大神を襲ったのだ。白馬は他の男を相手にしている為にこちらにこれない。
大神は覚悟を決め、最悪攻撃を受けても意識を保とうと歯を食いしばる。
だが、次の瞬間・・・・・。
ゴスッ!
そんな鈍い男が辺りに響いた。
大神はいつまで経っても頭上から振りかかる衝撃がこないのを不思議に思ったが、その隙に目の前の男を地に沈め振り返る。そこで見たのは倒れている一人の少年だった。
※
ガウェインはすぐに林檎を拾い、大神が襲われている現場にへと向かっていた。
「は、早いですのーッ!」
そして林檎はサイドカーにマジョーリカが居る訳で結果的にガウェインの後ろに乗る結果になったのだが、もの凄い速さでバイクを飛ばすガウェインに声を掛ける。
車では無いので勿論シートベルトなんてものは存在せず、己の腕力だけで突き離されないようにガウェインの背中に抱き着いていた。
余裕があれば林檎特有の腹黒い何かをしてくるかと思えば、そんな余裕は無かったらしい。林檎は力一杯にガウェインにしがみついていた。
「速いか? 一応、時速ギリギリで走っているんだが」
「きゃあ〜〜〜〜〜!」
ガウェインは前を向きながら喋っているのだが、風がびゅんびゅんと風きってるので声が聞こえていなかった。
物凄い速さで現場周辺に着いたガウェインはスピードを緩やかにし、大神を探していた。
因みに林檎はかなり脱力しながらガウェインの背中に寄り掛かっていたりする。
「・・・ん? あそこに居るのは涼子たちではないか?」
「あっ、本当だ、居るヨー」
「マ・・・マジですの?」
ガウェインは器用にバイクを捻りさせながら大神たちと倒れている男たちを発見した。
「あれは、亮士か? 何であそこに・・・」
ガウェインがそう言っていると、いつの間にか被っていたヘルメットを置き、降りていた林檎は大神の傍へと駆け寄っていた。
「・・・・・・いい雰囲気ですのね」
「うわっ、りんごいつの間に!」
「今さっきですの」
林檎は若干真実を曲げたこと言ったがあながち間違えでは無かったのでスルー。
走ってきた訳では無いのに、息は荒く、嫌な汗で髪の毛もおでこに張り付いている。
速いのは速かったのだが、変わりに死ぬ思いをしたので元気ではなかった。
だが大神は林檎の様子を見て、そんなに心配してくれたのかという嬉しい気持を隠しつつ、照れ隠しに憎まれ口を叩く。
「ずいぶんと、お早いお着きだな」
「・・・・・寮まで近いですし、何より騎士先輩のバイクで来たので、ちょ・・・・超特急で、来ましたのよ?」
林檎は頑張っていたが、足ががくがくと震え始めてきて、その場でペタンと座り込んでしまった。
「それはさておいて、何故ここに亮士と、白馬先輩が居るんだ、理由を求める」
林檎の後ろから大型二輪車サイドカー付きを引っ張り歩いて来たガウェインはすぐに亮士や白馬に質問した。大神はガウェインの姿を見て驚いていたがスルー。
「君は確か、高等部二年の─────」
「黒軋ガウェイン(くろきし・ガウェイン)と申します」
白馬もガウェインの姿を見て驚きながらも、ちゃんと対応する。
「騎士先輩、理由はオレが話します」
改造したガウェインの黒色の西洋甲冑(ライダースーツ)に驚きながらも、大神はガウェインに説明した。
「・・・・・・分かった。白馬先輩、涼子を助けていただきありがとうございます」
「いやいや、どういたしまして」
「これは御伽銀行の借りといたしますので、何か俺たちの助力が必要なときは、おっしゃって下さい」
「そんなことはしなくても構わないよ。こっちが勝手にしたことだしね」
ガウェインは大神から話を聞いて、白馬に大きな借りを作ったことにお礼を言う。会話に復活した林檎も入ってきた。
「貸しは貸し、借り借りですの。私ども御伽学園学生相互扶助協会ですのよ? 一方的に借りを作るのは私どもの沽券(こけん)に、はては存在理由にまで関わりますの」
それを聞いた白馬は仕方なく引く。
「分かったよ、じゃあ何かあったら頼むとするよ」
「はいですの。・・・・・と、これから警察呼びますの。白馬先輩はどうしますの? 警察には私どものOBがいますので、そうそう悪いことにはならないと思いますけど、面倒には違いありませんの」
「そうだね、お暇(いとま)させていただこうかな」
そう言って帰り支度を始める白馬に大神たちは頭を下げる。
「では、ありがとうございました」
「ありがとうございましたの」
「・・・助かりました」
「どうもっス」
「いやいや、それじゃおやすみ」
白馬は王子様スマイルできらーんと歯を光らせ、手を振りながら去っていく。林檎は笑顔で白馬が見えなくなるまで手を振り・・・・・見えなくなった所で笑顔を消した。
「・・・・・仕方ないとはいえ」
「ええ、まずい方に借りを作ったかもしれませんの」
「そうか? 確かに体育会に借りを作ったのはまずいかもしれないが」
「体育会というよりは白馬先輩に借りを作ったのがまずいんですのよ」
「確かになんとなく気に入らないけどな。でもそこまで気にすることか?」
大神がそう言っているとガウェインが口を開き静かに言う。
「白馬王子という男は、たらしという話だぞ」
「・・・・・それがなんの関係があるんですか?」
ガウェインの無表情顔を少しだけ深刻そうな表情に変えて言う。
「白馬王子という男は、今日のことで涼子のいいところに気がついてしまったかもしれない。もしかして、もしかすると────」
「はっ! まさか、今日の貸しを使って涼子ちゃんにあんなことやそんなことまでっ!!」
林檎は目をクワッと限界まで見開く。
それを聞いた亮士は、
「そっ、それはまずいっス」
亮士が慌ててそう言った。だが、大神はどこ吹く風。
「オレを口説こうなんて物好きはそうそういねぇだろ」
「物好き一号として意見はどうですの?」
林檎は亮士に振る。
「お、大神さんは、とても魅力的っス!」
と三人が仲良く話している中、ガウェインは安心して見守っていた。
無事で良かった。
ガウェインそれだけ思って、警察が来るまで後輩たちと一緒に居た。
因みにマジョーリカはと言うと、色々とブレザーの中に発明品を入れ過ぎたせいでサイドカーから出られない状態になっていたのを知ったのは、数分後だった。
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そして作者はバイク知識皆無でーす!