御伽学園高等部二年生となった、この物語の主人公である黒軋(くろきし)ガウェインは今現在、漆黒の大型二輪自動車、つまり簡単に言えば大型のバイクにまたがりながらある場所へと向かっていた。
因みに今のガウェインの姿は黒いライダースーツに身に纏っているのだが、そのライダースーツはとにかく特別製に作られており、まるて西洋の鎧甲冑を思わせる、鎧姿だった。
ヘルメットが騎士の
この恰好にはちゃんとした理由があるのだが、それはまたの機会にて。
「・・・・・・・・・」
ブルン! とバイク特有の爆音を鳴らし・・・・・とはいかず、爆音対策をしているらしく静かなエンジン音を鳴らしながら疾走している。
漆黒のバイクだけでも目立つと言うのに、更に目立つ恰好をしているガウェインはまったく気にしないで疾走。
そして行き着いた場所はと言うと、御伽学園内にあるとあるボロいプレハブ小屋、そのプレハブ小屋付近までやって来たガウェインは、大型のバイクを巧みに操り、影にバイクを置いた。
「・・・・・頭取も人を使うな、わざわざコンビニまで菓子を買わせに行かせるとは」
愛用のバイクから降り、
御伽学園は制服が何種類か用意されていて、且つ条件付きで改造が許されているのでそれらは少しずつ形が変わっている。
許されているというよりは、ぶっちゃけ生徒数が多すぎるので、顔だけではなく服装でも区別できるようにと黙認されているらしい。
黙認される条件は、校章が見える部分についていて御伽学園の学生だと一目で分かること、過度な露出や危険な装飾を取り付けないこと、公式行事用にノーマルな制服を一着用意すること。
常識を逸脱するなということだが、その常識が個人の良識に任されているため、ものすごいことになってたりする。
特にガウェインの恰好は確かに校章が見えてはいるのだが、まるでどこかの悪の組織にでも所属していそうな黒衣のコート姿だった。騎士に見えるか、と問われたらすぐには答えられないだろう。
ガウェインはバイクの後部にある荷物などが入れる所からコンビニ袋を取り出した。
そのままプレハブ小屋に入ろうとすると、
ガラガラー。
「あら、お帰りなさいですの、騎士先輩」
と、先に扉を開いて現れたのはガウェインの御伽学園高等部一年生の、つまりガウェインの後輩である小さな可愛いらしい赤髪の女の子が立っていた。
「
「はいですの、これからちょ〜っと仕事がありまして、ストーキングしているとある男性を退治しに行く所ですの」
その言葉を聞いたガウェインは少し目を細める。
因みに騎士先輩とは、
「荒事や運送係は俺じゃなかったのか」
「騎士先輩は恰好とかがこの御伽学園や御伽花市で有名ですから無理ですの、それに騎士先輩には『黒騎士』の二つ名が持ってあるので・・・やっぱり無理ですの」
「そういうこった、わりぃな、騎士先輩」
そして、赤髪の女の子の後ろからまるでスケ番のような恰好をした女の子が出て来た。
紺のセーラー服タイプの制服で、スカートが長く、動きやすいように左右にスリットが入っている。
その為に時折見える足が艶かしい。
「涼子か、御伽銀行の『赤頭巾』と『おおかみ』が出ると言うなれば、俺は不要だな」
ガウェインの目の前にいる二人の女の子たちは、ガウェインが所属する組織『御伽学園学生相互扶助協会』という非営利組織の仲間である後輩だ。
スケ番のような恰好をしているのが
知る人は知っているが、知らない人はまったく知らない二人組である。
ガウェインは買って来た菓子をオオカミさんとりんごさんにあげた。
「怪我はするなよ、危なくなった必ず連絡を寄越せ」
ガウェインは力強い眼差しで二人に言うと、二人も力強く頷く。
「危なくなった頼むよ、騎士先輩」
「頼りにしてるですの、騎士先輩♪」
オオカミさんとりんごさんはそう言って歩いて行った。
ガウェインは二人を見届けた後にプレハブ小屋に入る。
そこには汚いソファーやボロボロの椅子。ガウェインはそのままキッチンの中へと向かう。
キッチンにはくすんだステンレスの流しに錆びたコンロ、大きいがボロの食器棚。ガウェインは食器棚に触れ、大きな食器棚を片手で開けるとそこには地下へと続く階段があった。
誰かが秘密基地みたい、とか言ってきそうな雰囲気だ。
ガウェインはそのまま地下へと降りて行った。
そしてとある大きな部屋の扉を開けると、
「いやー、やっぱり早いね? バイクは?」
「頭取、菓子です」
ガウェインが入った部屋には、地下とは思えないほど広い空間の部屋で、部屋の左は壁一面本棚でさまざまな本や資料などが所狭しと並び、右側には大画面液晶テレビやDVDプレイヤー、ゲーム機に巨大なスピーカーとどこのお金持ちの部屋かといういたれり尽くせりっぷりの部屋で。正面に見えるのは社長室にでもありそうな大きな机と革張りの椅子。机の上には液晶モニター。その後ろの壁には大きな書の掛け軸があり、そこには達筆で『あなたより大切な物はないこともない』と微妙な文が書かれていたら、足元にはふかふかの絨毯。部屋の中心には正方形のテーブルが置いてあり、その三辺には座り心地の良さそうな高級ソファーが置いてある。
「お帰りなさいませ、ガウェインさま」
「ム・・・、おつうか」
おつうと呼ばれたメイドの恰好(?)をした女性はガウェインににっこり微笑んでお辞儀を一つしてきた。
ガウェインは買ってきた菓子をおつうに渡す。
「補充だ」
「はい♪」
菓子を受け取ったおつうはそのまま地下本店にあるキッチンへと向かって行った。
このメイド服に身に包んだ少女は鶴ヶ谷おつうと言って、ガウェインと同学年であり、同じクラスである。
「さっき涼子たちと会ったのですが、依頼内容はなんなんですか?」
ガウェインは高級ソファーに座ってどんな依頼の話なのか訪ねる。
「別れた彼氏が未練がましく、何十回もストーキングするらしく、そのストーカーを退治しに大神さんたちを行かせました」
答えてくれたのは御伽学園高等部三年、御伽銀行の副頭取である桐木アリスであった。まんま秘書のような恰好をしていて絶対零度の切れ目を持つクールビューティーの女性だ。
「ストーカー・・・・・危なくないのでしょうか」
「まあ、大神くんが居るから大丈夫だと思うよ?」
そして、この御伽銀行の『頭取』、つまり責任者を務めているのが、マイナスもプラスもなく、目立たない容姿をしていて、髪の毛は短く切り揃えられている。服装はなぜか燕尾服であり、白いタイがまぶしく見え、黒いベストを身に付けているため体型はよく良く分からない、だが机の上で組んだ手は男とは思えないほど白くほっそりとしている。その細面からもやしっ子という言葉がしっくり来そうなのが桐木リストという少年だった。
何故、アリスと同じ苗字だと言うとリストとはいとこ同士だかららしい。
「・・・・・頭取のその曖昧で断言しない口調は相も変わらずですね」
ガウェインはチラーと頭取を見てみるが、顔をゆっくりと逸らす。
「何かあったら連絡を、と伝えておりますから、黒軋(くろきし)さんは何時でも行けるように準備をお願いします」
「最初から出来てますよ」
ガウェインは立ち上がり、扉へと向かった。
「では、ご苦労様です。無事大神さんたちが依頼達成したら、後ほど教えてあげます」
アリスがそう言うと、ガウェインは片手を軽く上げパタパタしながら出て行った。
広い部屋に二人きりとなった頭取とアリス、だが二人共静かに出て行った二年生後輩について話す。
「うん、一年の頃よりは大分愛想良くなったんじゃないのかな?」
「そうですね、まだ少し感情の無さを感じさせますが・・・・・」
「そうだね〜? まぁあとは魔女くんにでも任せようか?」
「・・・・・・・・・」
「あ、あれれ? きゅ・・・急にどうしたのかな、アリスくん?」
「こんな時でも人任せとは、さすがは“駄目人間”を名乗るだけあるな、と思いまして」
「え? あれ? 僕そんな自虐的な名乗った憶えが無いんだけどな〜? あと『駄目人間』と言う言葉に妙に強調してなかったかい?」
「現実且つ、事実且つ、真実を述べたまでなのですが、何か?」
「ア、アハハハ?・・・・・」
部屋には頭取の苦く乾いた笑い、苦笑いが音響していた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
コンコン
「入るぞ、マカ」
「良いヨー」
ガウェインは部屋から出ると、すぐ近くにあった部屋にノックをして入る。
そこには大きな本棚に数々のオカルト的な本が並べられており、部屋の真ん中には大きな鍋のような物が置かれていた。鍋の中の色が紫色になってグツグツと何か煮込んでいた。
他にも黒魔術に用いる陣や魔術の参考書やら、何やら怪しい物が盛り沢山集合していた。
ガウェインがそう思ったのは物の一分、その一分後には侵入者を撃退する為の迎撃用トラップが発動した。
シュン!
「・・・・・矢?」
ガウェインは駆けてくる矢を素手で掴む。だが、その矢の鋒(さき)には袋のような物があり、それが破裂する。
「コショウか」
袋の中には小数のコショウの粉が入っており、ガウェインの顔面にぶちまかれようとした。
だがガウェインは軽く数歩下がり、それを回避した。
だが、
カチッ
(ん・・・・・?)
「掛かったヨー!」
ガウェインは何かのスイッチのようなものを踏むと、上から十数個の鉄球が降ってきた。
だがガウェインはまた表情を変えずに鉄球を素手で払う。
ガガガガ!
鉄球は床へと落ちて、見事な重さで床を凹ませる。
重力に従って地に落ちてくる鉄球をガウェインはまたも難なくキャッチして、横に落としていっていたのだが、一向に止まる気配を感じない。
この落下しまくってくる鉄球から逃れる為にガウェインは巧妙な足捌きでその落下地帯から見事脱出し、そのオカルトオーラが包み込む部屋で構えていた『魔女』の眼前まで迫ってみた。
「ヨヨヨー!?」
『魔女』は思いもよらなかった展開に反応出来ず、固まっていると、
ピシッ!
ガウェインは小さくあたふたしている金髪長髪の『魔女』の額にデコピンを見事必中させる。
「大変な仕掛けご苦労だったな、マカ」
ガウェインはそのまま『魔女』の髪に手が移動し、それをなぞるようにして綺麗な金髪を持ち上げたら、そのままパチンッ! と音が鳴る。『魔女』が両の手でガウェインの顔面に押し当てていた。
『魔女』は正直驚いた、あんなにも離れていたし、
「マカの悪戯も段々と上がっているように思うのだが?」
「実験の為だヨー♪」
とニカッと笑って来る小さな『魔女』。
御伽学園高等部二年生であり、ガウェインと同じクラスでもある。服装は黒衣のブレザー(丈が長すぎてローブのようになっている)と三角帽子、簡単に魔女が被るようなトンガリ帽子を被り、牛乳瓶底ぐるぐる眼鏡と正統派魔女ルックの姿だ。
髪はストレートの金髪で地に付くほど長い。
外国人の風貌だが日本人であり、その事で昔ちょっとした事件があったが、それはまたのお話。
通称『魔女さん』と言われている、この少女、マジョーリカ・ル・フェイは長い帽子を直しながら、ガウェインの胸板に悔しパンチを連続しているが、ポカポカという擬音が聞こえてくる。
「・・・・・俺の前までそんな喋り方なのか
?」
笑っているマジョーリカにガウェインは微笑み返しながら聞く。
「ならまずそっちから普通にしろヨー、・・・そんな言い方じゃなかったよね?」
マジョーリカはグルグル眼鏡を少し下げて、眼鏡の脇から綺麗な瞳をガウェインに向けて素の言い方になりながら呟く。
「ごめん、祖父から色々なこと叩き教えられたら、こんな変な言い方になったんだよ」
ガウェインも素の状態、というより楽な話し方でマジョーリカと向き合う。
すると、
ガシッ
マジョーリカはガウェインにいきなり抱き付いた。
だがガウェインの身長は御伽銀行の中で一番長身であるからして、マジョーリカは丁度ガウェインの胸板に顔が当たり、埋もれている感じになった。
見た目は、優しいお兄さんに抱き付いている甘えん坊な妹を連想させる。
「・・・さっきはごめんね、迎撃用トラップを仕掛けないと、その、ガ・・・ガーくんと安心して話せないから・・・・」
「・・・(イジイジ)」
「あぁ〜♪ やっぱりガーくんの懐は安心するなぁ♪ ふむゅふみゅ〜♪」
「・・・(さわさわ)」
「・・・髪フェチにも大概だよガーくん、無言で私の髪をなぞったり、見つめたりしないでよー」
マジョーリカはずっとガウェインの胸に顔をむふむふさせていたのだが、肝心のガウェインは綺麗で長いマジョーリカの金髪を弄っていた。
「・・・綺麗だ」
「・・・ん?」
「綺麗だよ、マカ」
「・・・うん」
マジョーリカとガウェインは互いに顔を向き合わせる。ガウェインは真剣な顔でマジョーリカに言う。
マジョーリカも真剣な顔をしているが、互いに違う所を見ていた。
(たぶん髪だ)
「この輝く
やっぱり、といった感じにマジョーリカは片手でガウェインの隠れている片方の髪を上げて、左目を診る。
「・・・痛くない? ガーくん?」
「・・・・ん、あぁ。痛感覚の反応は無しだ」
こんどはちゃんと反応してマジョーリカの問いに答える。
「そういう時は『痛くないよ』でしょ、まるで自分の身体じゃなくて、他人の身体を診ている感じだよ?」
「痛くないよ」
マジョーリカはぷく〜と可愛いらしく頬を膨らませてガウェインの言い方を直させると、ガウェインは正直に直して言い返す。
それを聞いたマジョーリカは満面な笑顔でガウェインに再び抱き付いて呟いた。
───そうだよ────
ガウェインとマジョーリカはマジョーリカの工房、ガウェイン曰く《魔女さん工房》と名付けたらしい。
その工房の中でガウェインとマジョーリカは椅子に座りながら話をしていた。
「また何か造ってるのか」
「そうだよ♪ ちょーっと電気回路が繋がらなくて困ってるんだけどね」
カチャカチャと器用に作業をするマジョーリカを眺めるガウェイン。それがガウェインの日課になっていた。
クラスでも一緒だと言うのにガウェインはマジョーリカを安心しきったような目で見つめていた。
この学園に来て、ガウェインは少しずつだが変わっていった。
常識的な知識は祖父やマジョーリカ、友達に教えてもらったり、感情も一部分ずつ回復していっている。だが完全では無い、『歓喜』『恐怖』『怒』『悲しみ』と限りがあった。
だがガウェインは感じていた。
マジョーリカのお陰で俺は死なず、生き、
「マカ」
「ん〜?」
「ありがとう」
ガウェインはマジョーリカをまっすぐ見て、そう言った。
マジョーリカは「何が?」といった感じにポカンとしていたが、ガウェインの顔を見てマジョーリカは微笑みを浮かばせ、
「どう致しまして♪」
ガウェインの頭を撫でていた。
騎士が魔女に救われたお話。
2013/10/05 改善んんんんんん!!!