騎士と魔女と御伽之話   作:十握剣

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本当に長い期間更新せず申し訳ありません!
今回も誤字脱字あるかもしれませんが、未来を明るくして生暖かい目で、現実から切り離してよく見てね!


第22話「騎士の兄の弟妹と金太郎」

 黒い意識の中、黒軋(くろきし)ガウェインは微睡みの中に居た。

あのコンテストを終え、竜宮乙姫も浦島太郎も、考えがまた一回り変わったかもしれない。そんな事を思いながら、ガウェインは重い瞼を開けようと、目を開けた。

 

 さぁ、朝日を拝めて目覚めよう。それがガウェインの日課なのだ。

 

 気持ち良い朝を迎えようと、目をゆっくりと開け、脳もゆっくりと覚醒しようとガウェインが目を開ければそこには、

 

「あふん、おはよん♪ “お兄ちゃん”」

 

 男が布団に入っていた。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「やっぱり朝一の散歩は何処も気持ちが良い、田舎を思い出す」

 

 そう男前に言っているのはなんとあの森野亮士(もりのりょうし)だった。早朝ともなればまだ誰も起きてないだろう、も思っていた亮士だったが、この『御伽花市』の街も誰かしらは起きていたりしていた。

 早朝出勤の勤労戦士(サラリーマン)や新聞配達人の姿が見える。だが亮士とて愛するオオカミさんこと、大神涼子(おおかみ・りょうこ)の為にも視線恐怖症を克服する為に実家から連れてきた猟犬のエリザベスとフランソワの白黒犬を連れて散歩をしていた亮士が、地区を一周くらい回り、ご近所さんに軽く挨拶をするくらいの訓練を終え、未だ元気に荒く呼吸している二匹を撫でながら犬小屋に戻そうと、叔母の村野夫婦の屋敷の庭に入れば、

 

 ガラガラーッッ! と窓が開く音がしたと思うと、

 

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁ!! 落ちる落ちる落ちるぅん?! 何コレ新手の愛情表現かッ? 新手の愛情表現なの!?」

 

「落ちろ」

 

「わー目が笑ってなーい!」

 

 ガウェインの部屋の窓から飛び出したのはこれまたガウェインにそっくりな少年がガウェインから落とされそうになっていた。

 

「ななななな何してるんスか!?」

 

 当然その行為に驚き、亮士は慌てていつもの口調で戻って先輩の殺人行為を止めようとする。するとガウェインも正気に戻り、

 

「悪かった、もっと朝早い時にやった方ご良かったな」

 

「朝6時よりっスか!?」

 

「朝4時」

 

「時間リアルっス!」

 

「じゃあ夜だな」

 

「ちょっと良いですかぁぁあ!? マジでいい加減オレ落ちるんですけどォ!?」

 

「ご近所にご迷惑かけるな」

 

「うなぁあああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!?? ずり落ちるゥウ! ベランダからずり落ちるぅぅううう」

 

 うるさい、と言いながらガウェインがその男を口を押さえ込みながら部屋に戻して窓をピシャリと閉めて事を終えた。

 ただ一人、何とも言えない表情のまま意味も分からない亮士はただ、ガウェインの部屋からまた男の悲鳴を聞きながら愛犬たちにエサをあたえた。

 

 どうやらこの喧騒には慣れたらしい亮士だった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「いやいやいやなになになに? 弟を殺して有名にでもなりたいんすか兄貴? こんな可愛い弟を」

 

「すまない、寝惚けていた」

 

 そう言ってガウェインは先ほどの行動を重く反省する。本当にご近隣の方々に迷惑を掛けてしまった。

 『まったく兄貴はまったく』と言いながら、質素な部屋作りになっているガウェインの部屋で横になるその少年。

 

「何しに来た、〝アグラ〟」

 

「えっ? 遊びだよお兄ちゃん。あっ、この読んでくれてんだこのライトノベル~♪ 嬉しいぜ~」

 

 アグラと呼ばれた少年は戸棚に綺麗に並んでいる中、ひとつだけ抜き取ってあったライトノベルに注目しながら、ガウェインに向き合う。

 容姿は完全にとは言わないが、ガウェインに異様に似ており、確かに兄弟と言えば納得すると思うのだが、ガウェインもベッドから出て、黒を強調とした部屋着のままアグラと対面し、

 

「お前は従弟だろう?」

 

「従弟だけど、弟だしょ? だしょだしょ?」

 

「・・・・・・・・」

 

「『・・・まぁ、そうだな。フッフッフ』ぐらい言ってよ・・・・寂しいよ!」

 

「お前今のオレの真似か? 似てないぞ」

 

「分かってるよ分かってますよ! え? そこツッコむの? 相変わらず天然で最高だぜ兄貴!」

 

「で、一体何しに来た」

 

「ぉふ・・・唐突にモドッタ 」

 

 従兄弟同士であったアグラは、まぁ良いか、と自己で納得して兄に話す。

 

「実は従兄(あに)に相談したく参りましたに候 」

 

「金か? この前貸したの返さないと貸さないぞ」

 

「えっ? まだ返してなかった?」

 

「お前マカには金を借りない方が良い、叔母さんに情報行くから」

 

「マジで!? え・・・マジで? ・・・・・・・ぇぇ~・・・何それマジ、ただ今日用事の頼み事に来ただけなのにスゲー嫌な情報もらった・・・マジョ姉マジかー」

 

 ダルンと床に俯せになって何もかも気怠(きだる)そうになったアグラはウネウネとくねりながら『オレ鬱だよー今から鬱だよー』とアクションし始める。ガウェインはそんなアグラに慣れているのか、朝から起きたばかりで空腹な腹を摩りながら、従弟の用事が何なのかを想像している。

 

「だる~だるダル~高一にもなって従姉に親に密告されてのにダルだるダル~」

 

「おー(・・・腹減ったな)」

 

「だるダル~、あ~お兄ちゃま、コンビニで買って来たパンあるから食ってエエよ~」

 

「良いのか?」

 

「だるダル~」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「だるダル~ 」

 

「・・・・・・・(もしゃもしゃ)」

 

「だるダル~(ダルもしゃもしゃ)」

 

 折角買って来て貰ったんだからと、ガウェインは自分のを食べながら従弟(おとうと)にもパンを食べさせてあげていた。兄が黙ってパンを口まで移動させて来たから弟もすかさず口を動かしてパンを咀嚼させていく。

 二人が簡単な朝食を済ませ、アグラは従姉のマジョーリカに報復を考えながら、従兄のガウェインと一緒に(こぼ)したパンのカスを拾いながら用を話す。

 

「ガレスに悪い虫がくっつきそうなんだ!」

 

「ベッドの下の方も見ろよ、掃除するのオレなのだから」

 

「あ、はい」

 

 暫し、二人は無言でパンクズを拾い、

 

「ちゃうわっ! 」

 

「15分か、頑張って我慢したな。偉いぞ、お前が15分も黙って行動するなんて」

 

「あのねオレ話したいのだって話す為に来たのだから話さないと進まないよ駄目だよねだって話進まないと用件終えないしガレスが悪い虫にくっつかれたままになっちゃうんだからマジ心休む暇も何もあったもんしゃねぇよマジで兄貴どうすんのコレ何なの一体何なのオレの心休ませない気か世界はとうとうオレの精神を病ませようと妹にまで魔の手が伸びちゃったのか? あ、なに? 神はまさか・・・ロリコンだったのか!? いや待て『ロリコン』が神なんじゃないのか? 幼女が神なんじゃないだろうかそうなんじゃないんだろーかきっとそうだそうなのかそうなんだよ! なんじゃそりゃ・・・世界も神も幼女だったんだァァァァァァァァ!?」

 

 瞬く間に言葉を吐き出すアグラだったが、内容が内容でありガウェインも少し驚く。別の意味でも、

 

「ガレス、に悪い虫だと?」

 

「そうだよ兄ぃ! マジ何なんだよアイツ小学生の体躯(からだ)じゃねぇよ中学生だよ畜生ふざけんなよマジだぞゴラァオレぁ小学生にでも本気出せる高校生だぞゴラァ熊みてぇな図体しやがって熊狩りして熊鍋にして食ってやろうか」

 

「アグラよ、先程から口が過激だし、何より兄はお前の将来が心配だ。取り敢えず。ダメ・ハンザイ」

 

「ハッハッ! 取り敢えずオレはもう我慢出来なくなったからさぁ、マジオレ今最高にキマっちゃってるからさァア~? マジなにすっか予測不可能? つうかマジ怒髪天?」

 

「許してくれアグラ、お前の言語能力を理解出来ないオレを許してくれ」

 

「ふぉうぅぉおお・・・もう、手が、手が震えてくらぁ・・・あの熊を退治しろよとォオレに囁いてくらぁ~ぁ」

 

「手で・・・」

 

「ギハヒヒヒヒ・・・イクぜ・・・オレはヤるぜ・・・ヤッちまうぜェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

 

 いい加減壊れた従弟(モノ)を叩いて直さなくてはと、ガヴェインが朝一の素晴らしい容赦(かんじょう)皆無の張り手をバシィィィィィィィィィィィィィィィィィィンン!!! と耳にも大変ダメージを与えるほどに思えてしまう程の音を張って、見舞わせて、見事にベッドに吸い込まれるが如くアグラはベッドの中でブラックアウトした。

 騒ぎに騒いでしまっているが、このおかし荘は比較的常識人が多いが、それは人並みということでガヴェインも含め、余りこういう喧騒には慣れている。だから皆は通常通りに働いてある。

 

 だから、と。ガヴェインは小学生の従妹であるガレスを純粋に心配の念が浮かんだ。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「おっ、やっと騒ぎがおさまったな」

 

 そう言ってニヤニヤと笑っているのは、この『おかし荘』を経営している主である村野雪女(むらの・ゆきめ)が氷を沢山に入れた透明に輝くサイダーを片手に朝食を食べ終えていた。普段ならまだ寝ている時間だったのだが、

 

「雪女、また本読んで徹夜したんだろ? 体に悪いって言っているだろう? どうして止めないかなぁ」

 

「どうしてだってぇ? そんなの分かってんだろう、す・・・・・・・」

 

「・・・“好き”だから、だろう? そりゃ口が酸っぱくなるくらい言ってるんだから覚えるさ。それでも僕は何回も言うけどね」

 

 広いダイニングにあるテーブルで食べていた雪女に、台所から現れたのは夫である村野若人(むらの・わかと)だった。相変わらず穏やかな口調と雰囲気でいたが、妻の雪女がかなりの本好きな為に困った様子で小言を言うが、本人は知らぬ顔だ。

 

 まったく、と言いながら若人が雪女の食べ終えた食器を片付けようと雪女に近付くと、

 

「このオカンめっ」

 

「おっと、雪女の行動パターンなんて知っているさ」

 

 そう言って膨れっ面になっていた雪女の軽い足蹴りを避け、華麗に食器をテーブルから片付ける若人が雪女にドヤ顔を漂わせて台所にへと戻っていった。若人の軽い牽制(けんせい)だろう。ドヤ顔されたくなかったら徹夜読書止めなさい、という若人の意思が雪女にも伝わるほどの行動力だったが、

 

「ふん・・・今日新しい本出るらしいからこりゃ徹夜で読むしかないな、うん」

 

 しまった、逆効果だったか。と台所までわざと聞こえるように言った雪女に、若人は皿を洗いながら微笑した。そして雪女も冷たくて美味いサイダーを飲みながら家の玄関に繋がる廊下側のドアに目を向けると、甥の亮士が呆れたように立ちながら見てた。

 

「また若人さんにちょっかい出したんスか?」

 

「ふん、ラブラブだったろ?」

 

「ラブラブっスか」

 

 なにやら亮士は慣れた感じで叔母の相手をしながら、リードを片付けていると、

 

ピンポーンっ!

 

 うん? と亮士は先程入ったばかりの玄関から鐘が鳴る音に反応する。だがここで直ぐに出る亮士では無い。『アレ、どうしよ、出ないとダメだよね?!』とかなり焦りと緊張で頭が真っ白になる亮士。

 見兼ねた叔母が、まったく情けない、と言わんばかりに固まった亮士の脇をすり抜け、来客が誰なのかを確認のために玄関のドアを開けると、

 

「あ、おはようございます。朝早く大変申し訳ありません。こちら、村野さんのお宅で間違いありませんでしょうか?」

 

「はい、そうですが・・・?」

 

 なんと玄関の先で待っていたのは、綺麗な金髪を肩までに切り揃えた外国人・・・というより半分は日系を感じさせる美少女だった。だからか、流暢に日本語を喋る辺り、かなり慣れていることが窺える。

 

「申し遅れました。(わたくし)おかし荘(ここ)に住んでおります兄、黒軋ガウェインの妹の〝ガヘリス〟と申します。失礼ながら念のため、これは偽名では無く本名です」

 

 

 そう言って何とも礼儀正しく頭を下げてきたので、思わず雪女も頭を下げるが、

 

「ガウェインの、妹だぁ?」

 

「正確には従兄妹(いとこ)なのですが・・・」

 

 そう言ってガヘリスと名乗った金髪美少女は苦笑いを浮かべ、手に持っていた高級そうな菓子袋を雪女に丁寧に差し出した。

 

「貴女が村野雪女さんで間違いありませんでしょうか?」

 

「あ、そうだった。私が村野雪女です」

 

「あぁやはりそうでしたか。兄から話を聞いていたが。まぁ、本当にお綺麗なお方だったのですぐに分かりませんでした。失礼ながら大変お若くお見えになられておりましたので、森野さんのお姉さんにしか見えていませんでした・・・。これは我が両親から村野さんにへとお贈りする品であります。本当ならば両親も挨拶に来る筈だったのですが何分多忙でして、失礼ながらガウェインの妹である(わたくし)が挨拶に参りました」

 

 見た目はカッチリ外国人なのに、かなり丁寧に礼節ある挨拶に日本人である雪女もたじろぐほどにガヘリスの言葉はどこまでも流暢だった。それに『お姉さん』発言に雪女は機嫌がすこぶる良くなり、温かくそのガヘリスを迎え入れようと笑顔で挨拶に答え、中に入って休んでいっては? と誘うも、

 

「大変嬉しい申し出なのですが、すみません。私の『弟』が先に兄に会いに行ったらしいので、先にそちらに向かわせてもらいたく・・・」

 

「あぁ、構わないけど・・・場所分かる?」

 

「大丈夫です。先ほど騒がしい声が聞こえました。・・・・・そして、朝から騒がしくして申し訳ありませんでした。こんなに騒ぐのなら先に(わたくし)が来ていれば良かったです」

 

「アッハッハッ! 良いって別に。元気でなによりだからな」

 

 まぁ、とガヘリスと名乗った金髪の美少女は雪女の豪快さに驚きと共に微笑を浮かべて一緒に笑った。気を良くした雪女がやっぱりまた休むよう誘うとするも、

 

「雪女。あんまりお客さまを困らせてはいけないよ。何かガウェインくんに用事がありそうな感じじゃないかな?」

 

 雪女の後ろからエプロン姿でやって来た若人にガヘリスはまた深々と礼儀ある挨拶をすれば、若人もまけず綺麗な挨拶をする。

 そのあと、若人にも色々と話をしてから、また挨拶をして兄・ガウェインの部屋に向かったガヘリス。

 

 村野夫妻から聞いた兄の部屋まで来ると、急に自分の服をチェックし始めるガヘリス。長い金髪はちゃんと癖毛も無く綺麗にしている、OK。

 顔もきちんと鏡などで確認し手入れもしたO・・・Kと行く前に手持ちの鏡でもう一度確認してヨシOK。

 服をもう一度確認して、今流行でそれであって派手さで押す風でもない控え目感バリバリでOK。

 ガヘリスは兄だというのに、まるで恋人の家に入る彼女みたいな行動に自分で可笑しいなと小さく笑った後、やっぱり久しぶりに会う敬愛する人となると緊張してくる心臓を落ち着かせるだけで数秒は停止している。

 

(あ、開けるぞ!)

 

 意を決してガウェインの部屋のドアを開けたガヘリスは、

 

「ひひひひひひ久しぶりに会いに来たよぉ! お兄ちゃん!」

 

「呼んだかい?」

 

 目の前に居たのは見知らぬ外国人だった。

 

「・・・・・うん?」

 

「うん?」

 

 呼吸すら止まってしまったガヘリスは深々と一瞬にしてやり終えてドアを即行で閉めた。

 

 あれ、間違えた? これ間違えた? と完全に混乱状態に陥っているガヘリスに、また新たな嫌な予感が体から感じた。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇえええ!!」

 

「うきゃぁぁぁぁぁ!??」

 

 叫び声と一緒に飛んできたのは家庭などで使える包丁だった。本当によく反応できたな、と自画自賛したい所だったが、今はそれどころではない。

 

「兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に兄様に近寄った近寄った近寄った近寄った近寄った近寄った近寄ったたたたたたたたたたた」

 

「いやぁあああああああああああ!!!!」

 

「待て! 待てだグレーテル! 俺の妹を亡き者にするつもりか!」

 

 ガヘリス目掛けて放った包丁を瞬時に抜き取り、それを横転して避けたガヘリスに向けて飛び掛かろうとしたブラウンの長髪をした少女を抑え込んだのは、ガヘリスの従兄にして敬愛する人、ガウェインだった。

 恐らく先ほどの悲鳴を聞いて飛んで出てきてくれたのだろう。助かった、とガヘリスは未だ仇を見るかのように『・・・殺す殺す殺す殺す殺す』と怨嗟のように連呼しているグレーテルに恐怖しながらもう一歩下がる。

 

「いやぁ。危なかったね」

 

 グレーテルに恐怖してる中、何やら優しげに手を差し伸べるのは、先ほど対面した美形の少年だった。少年と言っても、少しの言動しか見て聞いていないが、その雰囲気からしてとても大人らしい青年とも言えるくらいのある紳士然としたその人が手を差し伸ばしている。

 なんて優しい方なのだろう、とガヘリスも思わず笑みを返して手を伸ばすが、

 

「こぉぉぉぉぉぉぉぉのぉぉぉぉぉぉぉドロボゥゥゥゥゥクソ猫がぁぁああああああああああ!!!」

 

「きゃああああああああああああああああああッッッ!!!」

 

 またもグレーテルが狂暴化し始めた。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「いやぁ。さっきは大変だったね。本当にごめんよ」

 

「い・・・いえ・・・」

 

 大分静かになったガウェインの部屋に、現在5人がテーブルを囲っていた。

 

「なぁなぁ! さっきのをあえて名付けるなら『狂い暴れる我が妹(ワガマイ・バーサーカー)』と命名しよう! あ、コレ良くないスかね会長!」

 

「良くない・・・危うくガヘリスが勘違いであの世に行く所だった」

 

「どうもすみませんでした」

 

「「・・・・・」」

 

 この狂暴化して襲ったのはヘンゼルの妹であるグレーテルだったという。名前さえ聞いていればガヘリスも原因がこの兄関連なのだということぐらい分かるので、素直に謝り倒し、そしてガウェインも間に入って説明をしたのがつい先ほど。だが、余りにも信用無く執拗にガヘリスを睨んでいたグレーテルだったが、兄のヘンゼルが優しく微笑んでグレーテルに察せるよう説明をすれば、

 

『そうですか』

 

の言葉だけで通常に戻った。

 

 そして、普通に戻ったグレーテルは通常通り兄以外は余り感情を向けない顔に戻っていて、ガヘリスにも平然と、

 

「どうもすみませんでした」

 

「「「・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 ここまで平然とされたら襲われた側は言いたいことを拳に乗せて伝えたい衝動に動かされるが、静かにガウェインがガヘリスの拳を握ってきたので、怒りよりも羞恥に駆られてしまう。

 

「朝から騒がしいから、黒軋(くろきし)君に文句を伝えに来たんだけどね? 何やら面白いことになっていたからお邪魔してたところだったんだ」

 

 ニコニコと笑うヘンゼルにグレーテルはポォ、と頬を紅潮させる。もうアグラもガヘリスもこの兄妹をどんな相思相愛を示しているのか理解した。

 

「それで、休みの日にどうしたんだい?」

 

「いやいや、会長に話すほどにゃあこざいませんぞ?」

 

「あぁ、それとこのアグラ君は君の従兄弟だったみたいだね? いやぁ、似てるのは髪ぐらいじゃないのかな?」

 

「おっ、なんだ。話聞かない系かこの会長。それにオレを 『この』扱い? あれ、SSか? (スーパー)(サディスト)か?」

 

 ヘンゼルは予めガウェインから話を聞いていたので、そこまで説明することもなくアグラ達の用件を聞いた。因みなグレーテルは、大好きなヘンゼルの為に特性プリンをコンビニから買って戻ってきたらガヘリスが居た為に勘違いを起こし狂暴化を起こした。

 

「めちゃめちゃ身内話だったね。これは大変不躾なことをしたよ。ごめんよ」

 

「いや、大丈夫すよコレくらい」

 

「そうかい? まぁ黒軋君の“話”を聞かせて貰ったんだし。僕も一つ良いこと(・ ・ ・ ・)を教えてあげよう」

 

 ガウェインはそこで、なにか『裏』を感じる感覚に襲われる。この感覚は御伽銀行の頭取・桐木リストに、『魔女』の名を放つマジョーリカ。

 そして『円卓の騎士』から挙げるなら『毒舌変舌(どくぜつへんぜつ)のケイ』。

 そして御伽銀行を軽く総動員させるまで至らせた白馬王子を思い浮かばせる。

 

 つまり簡単なことで・・・“(はかりごと)”を感じさせる空気(もの)だったのだ。

 

 それは相手の弁舌を何を絡ませて味わい転がし、飲み込んでいる? 全て知謀を走らせるものの為だと、頭の切れや発想を得意としない、ガウェインが唯一誇れる“直感や本能”からきたもの。

 あの御伽学園の高等部生徒会の変人なマスク副会長からもたまに感じたりしていた。

 

 とにかく、ガウェインの予想は的中することになるのだった。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 とあるボクシングジムの前で、巨躯な少年と、まるで対比するかのように矮躯(わいく)で華やかさを感じさせる少女が立っていた。

 

「オオオオオオレ! こここここに、じゃなくて、こ、こここのジムに通ってたんだぜ! オレ!」

 

「・・・・・・・・・・(コクン)」

 

「だ、だから。ひ、姫の言う通り。なまけないで、ちゃんと来たぜ!」

 

「・・・怠ける、は・・・ なすべきことをしない。働かない、動かない・・・こと。だから、今日だけ来ても・・・意味はない」

 

「えぇぇぇ!? そんな! オレがちゃんと練習サボらないでジムに行ったら、その、デデデデ・・・デートに行ってくれるんじゃなかったのかよ!?」

 

 姫と呼ばれた少女は、ゴスロリ衣装を着こなし、まるで異国の姫様然としたその美少女に、巨躯の少年はこよなく『好きです』オーラを漂わせてその子と一緒にボクシングジムの前で喋り合っていた。

 

「実は叔父貴(おじき)に呼ばれて、誰かと試合(しあ)うことになってんだ! だから、ひひひ姫にはオレの勇姿を見て欲しくてよ!」

 

「・・・ボクシング? ほんとうにやるの?」

 

 どうやら、このゴスロリ美少女が気になっているのは練習不足に自信過剰なこの少年の()()()だった。

 

 普段小学校で、まるでボスだと言わんばかりに威張り散らしていたこの少年が、その小学校でいわゆる『高嶺の華』と呼ばれ、小学校で抜きん出て小学生には余る〝美貌〟を放つこの美少女・黒騎(くろき)ガレスがおかっぱ頭の大柄な少年・金太郎に忠言(ちゅうげん)する。

 

 実は、この『姫』と呼ばれているガレス。小学生以上の体躯を持つ金太郎でさえ低姿勢なのは、このガレスの『美しさ』が皆を、自然と言葉と唾を飲み込ませていたのだ。

 

 日本人特有の美しい漆黒の長髪が上品で優美な雰囲気を醸し出しているというのに、表情を一切変えない顔も何処か一般の少女から放たれることはない儚さが強力な魅力の一つで、男の意識を射殺している。

 そして同時に、小学生特有の守ってあげたくなる保護欲が更にまた魅力の一つ。だが、どこかその雰囲気から近付くことすら許されない優雅さで孤高孤立の華と化している。勿論小学生の男子生徒たちもガレスの美貌に目を奪われ、同性さえも嫉妬も出てこないほどに消失し、羨望と憧れの眼差しで見られている。

 

 ───が、それはやはり本人が望んでなどいなかった結末。

 

 まだこのガレスという子も、小学生なのだ。友達と遊んだり、お話をしたり、勉学を育みたいと思っている。だが、実際に話しかけてきてくれる子は同姓の女の子少数。男子生徒はガレスが話し掛けるだけで体を硬直して顔を紅潮させたまま無言で終わり、またある男子生徒はガレスが来るだけで逃げてしまう。それが恥ずかしさからくる行動でどう対応すればいいのか分からない男の子の意思逃避だとしても、ガレス本人は最早イジメを受けていると思っても仕方なかった。

 それも小学校全男子生徒(・ ・ ・ ・ ・)たちにだ。

 

 そんな時に、現れてくれたのが、この熊みたいな大きな体を持つ金太郎だった。

 小学校の全男子生徒のボスにして、中学生にも負けない力で支配している生意気な子供。だが、如何に子供ながらにして屈強な金太郎の前にしても、ガレスの美しさに力は無力となるほどに霧散していく。簡単には言えば生徒たちが手を出すことも無かったあの『高嶺の華』に、この金太郎、臆しながらも手を伸ばしたのだ。

 

ーーー『いいいいい、いっひょに、あああ遊びょうよ!』

 

 恐らくあの小学校の中で唯一の『力』と『勇気』を持った金太郎だったからこそ出せたであろうその言葉は、余りにも残念で無惨であった。言った本人でさえ赤から青のシフトチェンジしていく顔が分かった。

 だが、ガレスはそれが果てしなく嬉しくもあり、それが果てしなく可笑しくて、クラスの皆の前で笑ったのだ。それはもう美しい顔から涙が出るほど笑っていた。金太郎はまた青から赤に変色して低姿勢ながらも抗議しながらガレスと笑いながら一杯話をした。その金太郎の行動が皆の塞ぎ止めていた一線を無くしたのか、皆がガレスに話しかけてくるようになったのだった。

 

 この自分の力に心酔するほどの自己顕示欲の金太郎に、呆れながらも着いて来たガレスも自分に対して呆れ果てていた。

 

「・・・おぉぉし! いっちょ見てろよ姫! 俺の強さってのを見せ─────」

 

「・・・なくても良い」

 

「ぅへっ?」

 

「・・・人を殴って屈服させて支配欲に溺れて自己顕示欲にも溺れてそして尚その腕の強さを好きな女の子の前で見せ付けて惚れさせるという低能加減を見せなくて良いって言ったのよ」

 

「やめて! なんか半分以上意味分かんなくて怖かったのに更に何か知らないけどすげぇ心が痛い! なんだこりゃぁ!? うわぁ痛ぇよ、なんか・・・なんか気分も下がって、きたしよォ」

 

「低能ガンバ」

 

「・・・下がって、きたしよォ」

 

 容赦も何もない言葉(ジャブ)をストレートに受けた金太郎は人生初めてのネガティブ思考を体験しつつ、俯きながらジムにへと入っていった。

 

 ジムに入ると色々な人が練習しており、一際目立つリングには待ち構えていた金太郎の叔父である熊田が入ってきた人物に目を向けた。

 

「おぉぉー! やぁっと来たか、金太郎。今日お前が相手する大神涼子っていう奴なんだがヴアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッンンンン!!!!!?????」

 

 途中までリングに立っていた大神涼子という女性ボクサーと話していた為、振り向きながら話した熊田だったのだが、物凄い勢いで沈んだ金太郎の横に並んで歩いてきた姫様を見た瞬間、目が剥き出し驚いた熊田は、人間では不可能な神秘の跳躍でジムの窓ガラスを割って外までぶっ飛んでいった。

 

『うおおおおっ!?!?』

 

『なんだ爆発かぁ!?』

 

『おい涼子! おやっさんになにした!?』

 

『いやこっちが聞きてぇ!』

 

『うおぉっっ!! ジムから某ボクシングアニメの眼帯おやっさんが飛び出してきたー!! そしてなんか悶えててキモ怖ッ!!』

 

『『『外かっ!?』』』

 

 丁度ジムに通りかかった中学生が窓ガラスからぶっ飛んできた強面のおやっさんこと熊田さんに驚き急いで、慌てながらも確りと110番(何故か)にテレフォンしようとしていると、ゾロゾロとジムから屈強なマッスルマンが出てきて、その鍛え上げられた俊敏なフットワークで中学生を翻弄しながら取り押さえていた。

 

 窓ガラスを割って飛び出していった熊田だったが、奇跡的に怪我ひとつしておらず、事務員とジムに通っていたメンバーからしっかりと説教を受けて窓ガラス直して再び再開。

 

「おう涼子! おう涼子ォ!」

 

「なんすか、おやっさん」

 

「甥っ子が、甥っ子が彼女連れて来やがったァ!」

 

 バムンッ! とリングに拳を打ち付ける熊田。大神はなんで殴った? ぐらいしか分かっていないが、事の重大さは大神も分かった。

 

「お山の大将気取ってるところに、あんな可愛い娘まで一緒じゃもっと大変になりますね」

 

 大神は先程、ジムコーチしている熊田からある頼み事をされていた。甥っ子である金太郎を打ちのめしてくれと。

 熊田が初めて出来た甥っ子だったが為に可愛がり過ぎ、ガタイも良かった為に色々と仕込み過ぎ、今では周辺の小中学校のボスで、高飛車に自尊心がかなり出来上がってしまったという。そこで、今まで〝負け無し〟を自慢にしている金太郎を、女の身である大神涼子が打ち倒せば、自信を打ち砕けるだろう。負けを知り、己の未熟さを知るだろうと思い至った熊田の決断であった。

 だが、そこに更に小学生ではまず予想もしていなかった『彼女』。更には付け加えれば熊田さんや金太郎一家には程遠い〝優雅〟さが熊田を吃驚させている一因でもあった。

 最早すでにジム内で一番豪華で最良材質の最高級ソファーにジムメンバーが姫・ガレスを鎮座させ、最高の接待をしていた。

 

「へっ、オレは、オレは負けられねぇんだよォ!! 勝って、勝ってあの娘に告白するッ!!」

 

 そんな突然宣言をした金太郎。当然、

 

「「「なにぃぃぃーーーーーっっっ!!!」」」

 

 ジム内が声の音圧で揺れた。

 

「なに言ってんだマセガキっ!」

 

「止めろ止めとけ! 小学生で玉砕されんのも酷だ。そりゃあ酷過ぎるぜ!」

 

「ざけんなぁ! なんで、なんで彼女居ない=年齢の俺より先に彼女だとォ! ふざけんなぁぁぁぁあああああああああ!!!」

 

「きしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

「無理だって無理。高望みすんな。お前はその辺のクマプーのヌイグルミ買ってきてそれで満足してろ。つか熊田コーチに似るお前が彼女てwww」

 

「あーハイハイ。妄言乙(笑)」

 

「(笑´∀`)ヶラヶラ」

 

「「最後の三人出てこいや!!」」

 

 激しい文句が飛び交う中、大神は相変わらず騒がしいこのジムに失笑しながらもウォーミングアップをしている。子供相手に本気を無しにしても、今の(・ ・)金太郎は女の大神涼子を舐めては掛かる。最初こそ楽勝だろう、簡単に予想がつく。だが、

 

想いの強さ(・ ・ ・ ・ ・)、は馬鹿には出来ねぇな)

 

 一昔なら、大神も負けはしないだろうが、この今の金太郎に牙を向かれていただろう。

 だが大神は知った。『想い』という物がどれほどの力を発揮するのか。あの大神涼子(バカ)を好きだと宣言した森野亮士(バカ)を知ったのだ。

 

(たとえ、格上の相手だろうと、好きな奴の為の決死の一撃・・・もしそんなのがあれば、そりゃ相当キツいだろうな)

 

 思わずにやけてしまった顔を引き締めるかのようにパンパン! とグローブ同士を打ち付けて、感触を確かめる。

 

(・・・だがよ。おかっぱ頭の金太郎くん。お前には一度味わった方が良い。〝敗北〟の味を)

 

 その苦い味さえ覚えていれば、必死にそれを二度と味あわないよう努力する。努力して、馬鹿みたいに努力して力を手に入れろ。失う前に手に入れろ。

 

(それが、女である前に、まだ子供(ガキ)だった私が味わった『経験(もの)』だ)

 

 まだ子供であるが、この世(ウソ)を知った少女としての贈り物。

 

 グローブを嵌めた両者が対峙する。

 

 いつの間にかジム内も喧騒が止んで、大神と金太郎の試合に目が集まっていた。大神が不敵な笑みを浮かばせて、金太郎は煮え滾る意志を以て。

 

「じゃあ、始めだ」

 

 カーン! とゴングが鳴った。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 私立御伽学園は幼等部、小等部、中等部、高等部、大学すべてそろった巨大学園だ。だが、それらの敷地はそれぞれ独立している。と、言ってもそれぞれが御伽花市北の学園地区、幼等部から大学まで順に隣り合うようにして建っているので行き来には苦労しない。そういう訳もあり、ただいま黒軋(くろきし)ガウェインと、その従兄妹(いとこ)であるアグラとガヘリスが御伽学園高等部からちょっとだけ距離のある『御伽大学』の校門に立っていたのだ。

 用件は一つ。簡単なことで、人を待っているのだ。時間は早朝。霧が掛かっていたが徐々に晴れていき、朝露掛かった草木を眺めながら、三人は待っていた。

 

「あ、兄上。今日は私が作ったサンドイッチをお食べになって下さいまし! その、兄上の好きなハムチーズツナマヨですよ!」

 

「・・・なん、だと!?」

 

 ガウェインは手持ち無沙汰だったが為に、ガヘリスは長い金髪を揺らして、鞄から綺麗に包まれたサンドイッチを取り出してガウェインに手渡した。

 

「・・・ハムチーズ、これだけでサンドイッチとして好物であるのに対し、更にはツナマヨだと? なんという、諸行(しょぎょう)

 

「仏語が飛び出るほどですか? ま、まぁ、善行といえば、良いことをしました。あ・・・兄上の、お腹を満たすという善行を・・・」

 

「うわあぁ~オレも腹減ってたんだよねいただきパクッペロンッゴクンッごっそさん!」

 

 乙女な顔から一転して、無表情ながらショックを受けてプルプルと震えているガウェインにガヘリスはあっという間に双子のアグラに貴女(きじょ)から鬼女(きじょ)と化して、アグラの股間に容赦ない蹴りを喰らわせた。

 

「へぐうっ!?」

 

「毎度毎度貴様はなんだ?! 虫か? 虫なんだろ? 隙間から出てきて勝手に物食って兄上を悲しませるなぞ言語道断! 情状酌量の余地すら無い死刑罪だ!」

 

「はふぅんんんん!! ハッハッハッ・・・うっふっふぅぅぅうううう・・・ダメ、だたダ、メ、ダメメメ・・・ダメッ! ダメよダメッ! ハッハッハッ、ぁぁぁぁぁぁ」

 

 男性なら分かる地獄の苦しみも朝御飯と同じく味わっているアグラを余所に、まだ残っているサンドイッチをガウェインに至福そうに食べさせているガヘリスたちの前に、やっと待っていた人物がやって来ていた。

 その影が見えるな否や、猛スピードでダッシュしたかと思うと、ガウェインの背に思いっきり乗っかかる人物にガヘリスが声かける。

 

「お久しぶりですね。マカ姉上」

 

「お~う! おひさ~ダヨー! ヘイリスちゃん!」

 

 ガウェインの長身な背中に乗ったまま挨拶してきたのは、ガウェインと同じく御伽銀行に所属している通称『魔女さん』こと、マジョーリカ・ル・フェイだった。綺麗な金髪が地につくほど長いのが幼い頃より変わってないことにガヘリスは嬉しくもあり、嫉妬心も浮き出てきた。因みに『ヘイリス』とは名前の『ガヘリス』が余りに女の子らしくない! と自分より従姉であるマジョーリカが騒ぎだし、ガウェインの『ガーくん』と同じように愛称(ニックネーム )を付けられたものだ。

 

「アレェ? なんでアグーは地に伏してるヨー? おもしろいヨーwww」

 

「■■■■■■■■■ッッッ!!!」

 

「バサカ声だヨー(笑)」

 

 ガウェインはマジョーリカを落ちないよう器用に手を回して、優しく捕まえて地に下ろす。そして『アグー』もマージョリカから付けられたアグラの愛称だ。

 

「いやぁー疲れたヨー。大学の研究室に呼ばれたかと思うとぉ急に教授(プロフェッサー)に《3囚人問題》の解法議論したヨー」

 

「《3囚人問題》?」

 

「確率論の問題だヨー。ベルトランの箱のパラドクスを下敷きにした問題だネー。問題自体は簡単なように見えるものノー、確率計算の結果が人間の直感と全く異なるためニー、これまで多くの研究がなされているヨー・・・・特に日本の心理学分野において盛んに研究され、非常に多くの著書、論説、学会発表がある、だヨー」

 

 さっそくアグラが興味を無くし、今日の授業の面倒臭さに欠伸をしながら思い耽り、ガヘリスは従姉の言葉をなんとなく理解しようと少しだけ聞き入れようとしているが、まったく理解できないでいた。

 ガウェインも然り、マジョーリカが夢中で喋っている中、ヒョイッと軽くまた肩に抱えると、『行くぞ』と告げて歩き始めていた。

 

「ぶーぶー! 話をスルーされたヨー。アグーもなんだヨー! 少しは分かれヨー!」

 

「無茶言う、ネーチャンだ」

 

 御伽大学から高等部まで数分足らずに着ける距離だが、それは数分は掛かるということ。

 ガウェインは無遅刻を狙うべく高等部へと向かう。

 担がれたマジョーリカは後ろから追従するように歩くアグラに長身であるガウェインの肩から見下ろして不満を告げていたが、アグラは大学レベルの勉強なんて分かって無いし、したいとも思ってなかっなので従姉のマジョーリカを正面にちょっかいを出しながら歩いていけば、高等部の校門までやって来ていた。

 

 遠くからでは分からなかったが、入り口に立っている人物に目を向けた。

 

「誰かと言い争ってる感じですね」

 

 ガヘリスがそんな事を告げる前に、ガウェインの耳にも聞こえるくらい何やら言い争ってる二人の姿があった。

 片方は見知った人物で、この御伽学園高等部の風紀委員の委員長にして《生徒会》の会計にも兼任している三年生の吉備津(きびつ)桃子(ももこ)の姿と、一人の男子生徒だった。だが、この男子生徒も改造制服を着ており、何処か和服をイメージされた改造制服だった。

 会話が聞こえてくる。

 

「どうして何回も言っているのに来ない!?」

 

「・・・・だから、それも何回も言っているわ。そして何回聞いても同じ答え。・・・・もうやらない(・ ・ ・ ・ ・ ・)と決めたの私は」

 

「・・・・ッッ!!」

 

 そこでアグラとガヘリスは思わず『あっ』などと声を思わず出してしまったくらい驚いた行動が起きていたのだ。

 目の前に居るあの吉備津桃子という先輩は、この(・・)御伽学園高等部の『風紀委員会』の長であり、その意味は風紀を乱す者を取り締まるほどの実力を持っているということ。

 乱れた原因追求やその対処法。その場での一番の最良となる判断と決断力、力だけでなく言葉による解決の方が多々あるだろうが、それら全てを兼ね備えた者こそが風紀委員長となったあの吉備津桃子に、このマンモス校の中に(おい)て何か因縁付けられる以外ならば絶対に敵に回したくないと言わしめるほどの人物、それが吉備津桃子の想像(イメージ)の一つだろう。

 だが、別の濃い理由により、その確固とした風紀委員長としての厳ついイメージを隠しているのを知っているのは三年生の少数だけだろう。

 そんはアグラとガヘリスは、実は大神や亮士たちと同じ高等部一年生であった為に、三年生である吉備津桃子は風紀委員長として朝の挨拶を元気にしてくれるグラマラスな先輩や《生徒会》の会計という二つの大きな役職に付いている人だと認識(イメージ)があった。

 

 そんな、色々な噂ある先輩であるが、男を実力で屈伏させるほどの腕前がある桃子が、その男子生徒に迫られ、後退りしていた場面だった。

 

「あの吉備津先輩が、後退り?」

 

「・・・・・・」

 

 アグラは驚き、ガヘリスは何か考えながらその光景を見ていた。

 ガウェインはマジョーリカを下ろし、さっそく止めに入ろうとしたが、マジョーリカが腰に抱きついて止められた。

 

「待ってヨー、ガーくん今回は助けは要らないかもだヨー」

 

「・・・どういう事だ」

 

「朝から浅はかな行動は慎むということだヨー・・・おい、アグー? 調子こいて(苦笑)してんじゃねぇヨー」

 

 アグラはびくっ、とマジョーリカに怯えていたが、ガウェインはずっと桃子と男子生徒をよく観察しようとしていた。

 

(ム・・・?)

 

 そこであることに気付いたガウェインは、マジョーリカが大変珍しくガウェインを止めた理由が分かったのだ。

 

(もしかして、彼は・・・)

 

 すると、また男子生徒が一方的に桃子に言いたいこと言ったあと、とても苦しそうな、そして悲しげな顔で御伽学園高等部の校門を潜っていった。

 アグラやガヘリスが当然気まずそうにして、如何にあの校門を潜るかを思考を巡らせていると、空気を読むことに関しては人の数倍疎い騎士男と魔女が勇み足で吉備津桃子の元へ向かっていた。

 唖然としながらも、アグラとガヘリスは後をついて行く。

 

 ガウェインとマジョーリカに気付いた桃子は、暗そうな顔から一転、明るいいつもの顔に戻して挨拶してくれる。

 

「あら、おはよう。珍しいわね、魔女ちゃんも一緒だなんて♡ さっそくだけど抱き付いていいかしら?」

 

「本当に突然ですね」

 

 マジョーリカは笑顔ながらやんわりとガウェインの背後に回り隠れるようにくっついている。もう見た目が妹だ。

 そんな愛くるしいマジョーリカの行動に桃子は『最高よんっ!!』と悶えるが、アグラたちでさえ分かってしまうほど動きにキレが無かった。

 今はそっとするべきだろう。そう思ったアグラやガヘリスはきちんと朝の挨拶をして、横を通り過ぎようとするが、

 

「今のは誰だヨー。〝コレ〟かヨー」(ニヤニヤ)

 

 そう言ってマジョーリカが小指を立ててニヤニヤ顔で桃子にそう聞いた。

 

(オイイイイッッ!?)

 

(そっとしときましょうよお姉ちゃんッッ!!)

 

 ぐわぁお! と身をねじるようにして振り向き、空気読むこと知らない魔女さんを弟妹たちが支え捕まえる(ホールド)。だがもう一人空気を読むのではなく力強く吸い込んで、言葉を吐き出す者が居た。

 

「今の男子生徒、吉備津先輩の顔立ちが似ていました。もしかして、ご姉弟(きょうだい)なのでは?」

 

 マジョーリカにはアグラがホールドし、ガヘリスが長身なガウェインのお腹に突っ込む。もうこれ以上プライベートをガン無視してガシガシ突き進む二人を身内が必死に阻止しようとするが、桃子がそんな兄姉を止めようとしてる弟妹たちがどう映ったのか、

 

「朝から兄弟姉妹仲が良いのねん」

 

 仲睦まじく見えたらしい。

 結果オーライとして見るしかない。アグラとガヘリスは『アハハハ』と渇いた笑いで応える。

 そして、桃子は聞き取れるか否か分からないほど小さな声で『羨ましい』と呟いていた。

 それを見ていたガウェインだったが、桃子はすぐに明るくなり、ガウェインたちを見送ってくれた。風紀委員は朝からの挨拶運動をするのだろう。生徒会と風紀委員の仕事をこなす桃子先輩には尊敬の念が浮かぶが、やはり気になったガウェイン。

 それを感じ取ったマジョーリカがまたガウェインの背中にへとダイブして抱き付く。

 金色に輝く綺麗な長髪がガウェインの首から垂れると、ガクンッ! と膝を砕け、バランスを崩して転びそうになるガウェイン。やはりマジョーリカの綺麗過ぎる長髪にガウェインは意識がぼやけてしまう。

 

「(ガーくん? 沢山の考え事は体や脳に負担が多少なり掛かるんだよ? 今は私の実験に付き合いなさい?)」

 

「ゴホッコホォッ!?」

 

 金髪をちらつかせながらの素の状態の口調、そして耳元での発言で、流石の鉄仮面の表情(カオ)が崩れた。

 

 やはり、この魔女は騎士(オレ)(たぶら)かすことに長けていた。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「騎士先輩助けてくれ!」

 

「なんだ、喧嘩か?」

 

 放課後、豪華絢爛な御伽銀行地下本店にて、急いで入ってきた〝オオカミさん〟の通称持つ高等部一年の大神涼子が慌てた様子で入ってきた。だが、その聞いた相手・ガウェインは暇をしていた頭取・桐木リストと将棋を指していた。

 そして大神が入ってきた瞬間、久しぶりに頭取がハキハキとした声で、

 

「やあ、大神君! 君、若いツバメを集団で飼ってるんだって?」

 

「・・・喧嘩では無く燕を? なんだ、燕を飼うのか涼子は?」

 

 いや違うよ黒軋君、あのね。と説明しようとする頭取に大神はすぐに背後に回って口に手を当てついでにアイアンクローして止める。

 

「騎士先輩助けてくれ!」

 

「なんだ、燕か?」

 

「むぐごむぎゅ?!」

 

 さっきとのやり取りをもう一度やってから、ツバメでは無いことを赤面しながら説明する大神。その間もギギギギ、と顔面絞める音が地下店内に響かせるが、ガウェインはなに食わぬ鉄仮面(むひょうじょう)のまま話を聞くことにした。

 

 後から来た赤井林檎と森野亮士を含めて、改めてさきほど聞いた話を確かめる。

 

「なるほどね~。それはそれは楽しいことになったね~?」

 

 ギンッ、と睨む大神から隠れるように盾のようにガウェインの背後に隠れながら顔を摩る頭取。

 

「はぁ~。・・・・・まさか涼子ちゃんが通っていたボクシングジムの熊田おやっさんの甥・熊田金太郎くんが同世代で敵う者が居なく、お山の大将を気取ってる金太郎くんを女の子である涼子ちゃんが勝つことで、天狗の鼻をへし折ってくれと頼まれ、見事にその鼻をへし折った涼子ちゃんは泣きじゃくる金太郎くんにまた見事な殺し文句的な励ましかたをして、その『侠気(きょうき)』に惚れられたと、そういうことですのね」

 

「わー長い説明ありがとう赤井君?」

 

「・・・その結果に、朝校門で男子小学生たちに整列されながら挨拶された、と」

 

「しししししかも、おおおお男にしてもらったとか言ってたっスよ?!」

 

 ガウェインたちが通う早朝の後、つまりよく学生たちが通学する時間帯にてそのような出来事が起きていたらしい。

 しかも、沢山通学する学生たちに見られながら勘違いワードの連発をされた挙げ句、今の御伽学園高等部では『大神涼子はショタ好き』の噂が面白いように広がっているらしい。

 そういえば朝から騒がしかったな、と今更ながら原因が分かったガウェイン。

 

「大変だね大神君も、まぁ後は大変だけどがんば──────」

 

「頭取、何を他人事のように言ってるのです?」

 

「アリスちゃん? いやーねぇ、だってめんど───」

 

「・・・・・頭取?」

 

 やる気なさそうにしている頭取に、秘書然としたクールビューティ桐木アリスが眼鏡を光らせて眼光が貫く。

 

「手伝いますよね? 頭取?」

 

 凄みを効かせて睨む、のではなく、諭すように再度問うアリス。だが、それだけで別の意味も悟った頭取はすぐに態度を改める。

 

「そーね? 流石にこのままだと大神君が使い物ひならないし、どうにかしないといけないね? 何より大神君は大切な仲間だしね?」

 

 流されるままに意見を変える頭取に凄い小者臭が漂っているが、その良い台詞もとってつけた感が溢れていて何も心を奮いも揺るがすこともない。

 

「でもね、どーしたものかな? 真実を流すことで噂を駆逐するのでも良いけど、元を絶たない限り再燃しちゃうよね?」

 

 なるほど、とりんごがその頭取の言葉に納得する。着実な方法であるが、そんなやり方をしていては時間が掛かってしまうし、本元の金太郎は御伽学園小等部を巻き込んで噂が真実にへと変わるという恐ろしいことになるかもしれない。それでは遅すぎる。

 

(・・・『嘘から出た(まこと)』となる可能性があるのか・・・)

 

 そのことに危惧したりんごは大神がこれ以上ショタコン女番長と呼ばれることを予想した。それは余りにも、悲惨だ。

 

「とりあえず、あの金太郎さんをどうにかしないといけないってことですのね?」

 

「そういうこ───」

 

 プルルルルル

 

 頭取の机の上の電話が鳴る。通知は内線で、御伽銀行地上支店からだった。

 

「あ、はいはい?」

 

『あの、おつうですけど』

 

「ああ、鶴ヶ谷(つるがや)君どうしたの? 何かあった?」

 

『はい、お客様がいらしてまして』

 

「えっ、そうなの? ちょっと待ってね? こちらでも確認するから」

 

 そう言ってパソコンのキーボードをでいくつか操作したあと、液晶画面に映し出されたのはやはりと言うか、あの金太郎だった。

 

「でかいな」

 

「騎士先輩ほどじゃないですが、そうっスね。本当に小学生なのかと思わせる体格っス」

 

 確かに中学生と言われても何も疑問に思われないほど大きな体だった。

 とにかく、なんだか任侠街道まっしぐらな金太郎少年が、わざわざこの御伽学園高等部の御伽学園学生相互(そうご)扶助(ふじょ)協会、通所『御伽銀行』の地上支店まで足を運んだのは凄い行動力だと思った。今も恐れも無しに地上支店の扉にたのもーって感じで叩いている。

 

『それでどうしましょう』

 

「・・・・・・本当にどうしようか? ちなみに彼がここまで来れたのはいろいろな所で聞き込みしたからだろうね? どんな聞き方したのか分からないけど、たまたま噂に尾ひれがついちゃっただろうね?」

 

「・・・・・・最悪だ」

 

 大神はさらにブルーな気持ちに、

 

「あと、あそこに突っ立たせておくのも問題だと思いますの」

 

「・・・・・・あそこ、目立つっスしね」

 

 以前あそこで視線に晒されて暴走しかけた亮士だけあって、その言葉には実感がこもっている。ただ今回の場合はダメージを受けるのは大神。ステータス異常で毎秒SP(精神ポイント)がガリガリ削って減っている。

 

「とういうわけだから、入れちゃってちょうだい? こっちもすぐに行くから?」

 

『かしこまりました』

 

 カチャ、と受話器を起き頭取は苦笑しながら大神を見る。

 

「んー、まぁ、どうにか言い含めて、もう来ないように言うしかないね? ・・・まぁ、がんばって?」

 

「・・・・・・」

 

「それさえしてくれれば、噂の方はこっちでなんとかするから、まあ、事実を噂として流して、それが行き渡った頃に何か興味を引くような別の新しい噂を流して、大神君の噂を忘れてもらうって感じかな?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」

 

 大神はヨロヨロと立ち上がる。

 

「どうにかもう来ないように説得するよ」

 

 しかし、その背には覇気はなくヒロインにあるまじき哀愁が漂っていた。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 そしてあの後、金太郎の相手を大神たち一年生が相手し、それを眺める二年、三年のメンバーたちだったのだが、ガウェインの携帯に電話が鳴り響いたのは丁度〝白馬王子〟の拉致事件の経緯を少し暈しながら話す頭取が現れた頃だった。

 亮士のヘタレ加減を払拭するために話しているらしいが、とても金太郎には現実に湧かない話だったらしい。

 そんな途中に電話が掛けてきた相手は、いつかの市街地で成敗した『鬼ヶ島高校』の生徒の一人からだった。

 いや、・・・・生徒と部類するには姿形が凄いので生徒と呼ぶには抵抗があるのだが、(れっき)とした生徒の者からの電話だった。

 電話を取るガウェインに他のメンバーは自然と眺める形となる。いやだってガウェインが離れることもなく無骨に携帯を取ったので必然的にそうなった。

 

『あふぅぅぅぅん♡ お久し振りね! 元気にしてたかしら、ガウェインちゃん♡』

 

 ブチッ

 

「ちょ、あれ? ガ、ガウェインさま? 今の電話は・・・・?」

 

「気にしなくていい」

 

 それだけを呟いた瞬間、またも音が鳴る。

 

「もしも・・・・・」

 

『ちょっとぉん!! もぉヒドイじゃないガウェインちゃん♡ ていうかこらからガウちゃんと呼ばせてもわらうわよ? もぉー名前長すぎぃ!』

 

「ゴホゴホッ」

 

『ちょっとォ! なに(せき)吐いてんのよん!』

 

 ガウェインから聞こえてくるのはかなり野太い声だった。それだけで男の声だと分かるのだが、ここまで女口調で話されると逆に清々しい。咳が出たのはたんに驚いただけだった。

 隣から心配そうに見ている鶴ヶ谷からの視線から逃れ、その通話相手に集中する。

 

「・・・・鬼ヶ島高校の名高い〝貴方〟がどうしたのですか?」

 

『あん! ちょっとん! 敬語なのん!? 敬語使ってアタシとの距離を置こうとしてるのね!? ダメよ! そんなの絶対に許さないんだから!』

 

「・・・話を進めましょう。何か用件があったから電話をかけてきたのですよね。それは一体なんなのか、説明をお願いします」

 

『うふ、そうね。敬語云々はまた会った時にでも話しましょう♡ 今回電話させてもらったのはガウちゃんに『お願い』があったからなのよ♡』

 

「・・・?・・・内容を聞かない限り判断しかねますが、どういった『お願い』でしょうか」

 

『簡潔に言うわね♪ ・・・・近頃、鬼ヶ島高校(こちら)で一部の生徒が利用された事が発覚してね、御伽学園の(・ ・ ・ ・ ・)生徒に(・ ・ ・)騙されたと、証言しちゃったのよね~』

 

 内容はそれだけで十分に理解したガウェインだった。今現在、金太郎と大神の件で頭取が仲裁役として出す条件内容なども同時に聞いていたガウェインだったから分かったのかもしれなかった。

 

「白馬王子先輩の件、ですね」

 

『そうよん。その白馬王子が御伽銀行(あなたたち)にコテンパンにされ、挙げ句その経緯を細かに書いた資料がばらまけられて大変大変! そしてなーに? その鬼校生徒が一人の女の子にボコッボコにされ、そして『黒騎士』も出張るという話も出てきたじゃない? そしたらもうアタシたち(・ ・ ・ ・ ・)も出るに出ないとってなんちゃってね?』

 

 その言葉に、ガウェインは盛大に溜め息を吐く。そんな溜め息をマイクこ越しに聞いた相手も苦笑した笑い声が聞こえた。

 

「・・・・・つかぬことをお聞きします。・・・貴方は今御伽花市に来てるのですか? 確か前添付されてたメールでは北海道で蟹食べてる写真を見ましたが、帰って来てないですよね?」

 

『うふふふ、残念よねぇ。・・・帰って来てるわ。今も御伽花市のショッピングセンターから電話させてもらってるの♡ 久しぶりに帰って来てたら知ってたお店が何件も潰れてて泣きそうになったわよ! あそこの中華そば屋好きだったのに残念で堪らないわ!!』

 

 ガウェインは無表情ながら、この人は本当に自由なんだなと小さく微笑する。

 

「はぁ~・・・あぁ、いいえ、オレも貴方が帰って来てくれてて嬉しいです。もっとも一番良かったのは貴方が卒業生だったら尚嬉しかったのですが・・・・・」

 

『うふふふ。そうねぇ、でもアタシ残念ながらまだ一年残ってるのよ♡ だから『避けられない』わね。こればっかりは・・・・・・』

 

 暫しの互いの無言。そして、

 

「今度貴方が知ってたラーメン屋教えておきます。潰れたのは店だけですよ。まだあの味は消えてません」

 

『あら! そうなの♡ それは本当に嬉しいわ♡ 次に会うのが楽しみだわ。それじゃ、また連絡するわね♪』

 

「はい、それでは」

 

 ピッ、と通話ボタンを切ると、地上支店に居たメンバーが戻ってきていた。恐らくある程度の話は着いたのだろう。

 懐かしい声と記憶を呼び覚ましていると、鶴ヶ谷が心配そうにチラリとガウェインの顔を覗き込む。

 

「ガウェインさま。その、今の電話は・・・・」

 

「・・・そうだな」

 

 綺麗な瞳を向けてくるメイドさんに、騎士は心配させまいと正直な答えを遠回しに伝えることだけにしておいた。

 

 大神たちにボコッボコにされた鬼ヶ島高校の不良たち。ソイツらが仕返しに大神の前に現れると告げた頭取は、目先の問題・金太郎少年のを纏めて解決させる一石二鳥を成す為に、計画を練るのであった。

 




感想・コメントお待ちしてます。


そして、後書きで個人的な事喋っておきます………


とうとう『オオカミさんシリーズ』の作者・沖田雅先生の反応が帰ってきましたね!
新たな小説と共に(๑¯ω¯๑)
『妖怪青春白書!~雪雄くんと薫子さん~』早速読みました。そして後書きにも書いてありましたが『オオカミさん後日談』も忘れてなかったらしいですね!

もうテンション上がってヤバかったです(((^^;)
そしてその新作『妖怪青春白書』も読破しましたが、ニヤニヤが止まらない! ニヤニヤが止まりませんでしたマジで!!

内容喋ったらネタバレなので言えませんが、オオカミシリーズを知っている方が読むとニヤニヤが出てしまうのではないか、と(。-∀-)ニヒ♪

沖田雅生きてて本当に良かったです(笑)
あの小説の書き方も独自性があって、自分的には懐かしさを感じてました(笑)
『オオカミシリーズ』読んでた時自分は高校生だったので本当に懐かしく思います╭( ・ㅂ・)و

それでは、超個人的な後書きでした( ;∀;)

すみません(m´・ω・`)m


2014 / 10 / 23 改善

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