騎士と魔女と御伽之話   作:十握剣

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一気に投稿、一気に展開変わり


第2環「おかし荘」

ガウェインとマジョーリカと出逢ったあの日、ガウェインはフェイ家一家に身を預ける形になった。

 

ガウェインの両親は最初は断固のように断っていたのだが、子供虐待の話や裁判などの話を持ち上げてみれば簡単にガウェインに関する荷物や親権書類などの類いをマジョーリカの両親に預け、姿を消した。

それほど自分の息子に関心を持っていなかったのだ。

 

ガウェインにとってそれはどうでも良かった、あのままだったら絶対に殺されていたのだから。

 

 

だがガウェインは己の姓だけはそのまま『黒軋』で名乗っていた。

公の場ではガウェイン・ル・フェイと名乗っているが黒軋の名だけは捨てなかった。

マジョーリカの両親もそれは黙認してくれていた。

 

 

 

そしてガウェインはマジョーリカの義理の兄としてフェイ家の位置ついていた。

 

マジョーリカの両親はとてもガウェインのことを愛(いつく)しみ、久しい暖かい抱擁(ほうよう)で義理の息子を愛撫(あいぶ)してくれた。息子が出来たと逆に喜んでくれていた。

ガウェインにとって初めての体験ばかりだった。歳相応に泣けば良かった、と後から思ったらしい。

 

そして何より、マジョーリカとガウェインはとても仲が良くなっていった。

 

「マジョーリカって名前、長いよ」

 

「そしたらガウェインっていう名前だってそうじゃない?」

 

ある日ガウェインとマジョーリカは互いの名前が長いことに話していた、そこでガウェインは一つ考えた。

 

「マジョーリカは長いから、最初の字と最後の字で『マカ』はどう? 女の子らしくて可愛い名だよ」

 

ガウェインはとても恥ずかしい事を言っているのだが恥じることは無く、相変わらず無表情のままマジョーリカに言う。

 

「マカ・・・・・か。な、なんか照れるね////」

 

マジョーリカは頬を赤くして照れていた。そしてマジョーリカもガウェインの名を考え、そして、

 

「ガウェインだから、『ガーくん』はどう♪ とってもカッコ良いよ!」

 

マジョーリカは身体を乗り出して言って来た。

 

「ガ、ガーくん?」

 

「そう、ガーくん♪」

 

「・・・・・・・・」

 

「ムフフフ♪」

 

二人は数分見つめ合う、というよりガウェインが放心している。

 

なんていう名前を付けるんだと、ガウェインは心の中で恥ずかしがっていた。

 

「・・・・他には?」

 

「え〜、他に? うーん、ガーくん以外はもう無いかな」

 

マジョーリカは満面な笑顔でそう言って来た。

マジョーリカの家に住むようになったガウェインは一つだけ分かることがあった。

最初に会った時からそうだがガウェインはマジョーリカのこの満面な笑顔がとても弱かった、つまりとても、いや、無茶苦茶可愛いらしくて直視出来ないことが分かった。

 

だがこれからは義理とは言え、兄妹となったのだ。こんな感情を持ってはいけないと思うのが当たり前だ〝と思った〟。何分ガウェインは感情が所々が欠けている為に別にそんな風に思っていたり、思っていなかったりしていた。

 

そして次の日からガウェインはマジョーリカに『ガーくん』と呼ばれるようになったのは言うまでも無かった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

長い年月が立ち、ガウェインはとうとう高校生となる歳となった。

 

ガウェインが引き取られたのは小学生六年の頃であり、三年はフェイ家でお世話になっていた。

 

だがガウェインもずっとお世話になるのは心苦しいと思い、一人暮らしをする事を決意した。

フェイ家に来てからはまともな食事にまともな教育、まともな生活を送って来たガウェインは一般常識や教養を身に付けた。

なので一人暮らしくらい出来ると判断したガウェインはさっそくフェイ夫妻に相談した。最初は駄目だ、と頑なに言われ続けて来たがガウェインもいつまでも世話になるのはとても辛いと答えた所、フェイ夫妻も折れ、許可が下った。

 

 

 

 

 

「・・・・ここが『おかし荘』か」

 

ガウェインがやって来たのは御伽花市(おとぎばなし)という街だ。

 

御伽花市には五つの地域に分けられており、学校関係の施設がある北区、様々な店が集まっている御伽花市の中心である中央区、東区は寮や学生マンションなどの学生たちの住まいが多く、南には一般住宅の建ち並ぶ住宅街、西区が工場などが建ち並ぶ工業地区となっている。

街の歴史はそれなりに古いが発展してきたのは凄く最近なので、新しい街ならではの区分けが行われているのだ。

 

そしてガウェインが今目の前に建っているのが南区と東区の境にある『おかし荘』である。

そこには庭付きの比較的大きな家が建っており、表札には『村野』と書かれてある。

その家はそれほど豪奢(ごうしゃ)で成金的な建物ではないが、それでも金がたらふくあるな、と感じさせるほどに大きく、それに比例して庭も広かった。

 

「・・・・広い」

 

ガウェインは庭をジィーと見つめて答えた。

 

するとその大きな家から誰かが外に出て来て、ガウェインに近付いて来た。

 

「よう、お前が黒軋(くろきし)っていう奴か? ・・・ってうわッ! その黒バイクお前のか!」

 

出てきたのは長身でぼさぼさに伸びた髪を無造作に後ろで縛った化粧っ気のない眼鏡の女性だった。

 

「・・・・今日からお世話になる黒軋ガウェインと申します、どうぞヨロシクお願いします」

 

「おう、現代の若者の癖に異様に礼儀が良いんだな」

 

「祖父から貰った本にありました、《騎士道》の一つ『礼儀正しさ』と、そして日本にもある《武士道》の徳目“礼”『尊と卑を分別し謙虚にて上を敬い下を侮らない心』それを実行したままです」

 

ガウェインが真剣にそう言うと眼鏡の女性はポカンとしていると、次の瞬間大口を開けて笑いだした。

 

「アッハッハッハ! 良い! 気に入ったね、ちょっと堅いかもしれないが、まぁそれは後々治ってくだろ」

 

女性はガウェインに近付き肩にパンパンと何度も叩いた。

 

元気な人だ。

 

ガウェインの第一印象だった。

 

「私の名前は村野雪女(むらのゆきめ)、このおかし荘の宿主って所だ」

 

雪女と名乗った女性は家の隣にある二階建ての全八戸ほどの部屋数のアパート風の建物を指差した。

 

「・・・・(アパート)」

 

ガウェインはそんな風に思っていると、まるで心を読まれたように雪女は言ってきた。

 

「まぁ建物的にはアパートだな、だがこれはれっきとした下宿なんだ」

 

にっと笑った雪女はある所に指を指した。

 

「・・・・あのアパートと住宅は渡り廊下で繋がっているんですか?」

 

「おう、そうだ。部屋には小さなユニットバスはついているんだが、本邸の方が大きな風呂があるんでほとんどの住人がそこ使ってるな。あと、飯もついてくる。朝と夜はみんなで食べるぞ」

 

「・・・確かにアパートというより下宿ですね。・・・・それで名前はおかし荘?」

 

建物にかかっている看板を目を細めて読むガウェイン。

 

「ハハハハ、こいつはお菓子と、おもしろそうっていう意味の「おかしそう」が、掛かってるんだよ」

 

そうなんですか、とガウェインはおかし荘を見上げながら答える。

 

「八つ部屋があるんだが、ほとんどが空いてる。だか好きな部屋使って良いぞ」

 

雪女はそう言って家に入ろうとしたが、戸の前ピタッと止まり、ガウェインに聞く。

 

「・・・・ずっと気になっていたんだが、その黒バイクはお前のか?」

 

雪女はガウェインが横でずっと支えていた大型のバイクに指差して聞いた。

 

「俺のです、名前はGALL-10でちゃんと免許も持ってます」

 

「ほ〜、コイツは良い買い出し係を手に・・・・ゴホゴホっ、いいや、何でも無い。邪魔にならない所に置いとけよ。あと昼飯がもうすぐだ、荷物運んだら食べに来い」

 

いやぁ、本当に便利な奴が来たぞ、と凄く嬉しそうに雪女は家の中へと入って行った。

 

「・・・・使われるな、俺は」

 

そう言ってガウェインは黒い大型のバイクGALL-10をおかし荘の隣に持って行く。

 

バイクは中学生の頃に免許皆伝した、高校生になるし一人暮らしで色々と使うと思い、通う高校を調べのバイク通学OKを知り、バイクを“貰った”。

 

どこから貰ったかはいずれ話そう。

 

 

「ここなら邪魔じゃ無いかな」

 

ガウェインはバイクをおかし荘の影の所に置いて、バイクに乗せてあった荷物を片手で担いでどの部屋にしようか迷っていた。

すると、ある部屋から白くて長い髪に黒縁(くろぶち)眼鏡をかけた暗い雰囲気をまとった少女が出て来た。

 

ガウェインはその少女に挨拶をした。

 

「今日引っ越して来た黒軋ガウェインと申します、ヨロシクお願いします」

 

ガウェインがそう言うと少女はビクッと驚いて逃げて行ってしまった。

 

「いきなり過ぎた、マカから色々と教わったのだが・・・・」

 

ガウェインは一人でそう思いながら空いてる部屋に入り荷物などを置いた。

 

「今日からここが、俺の家か・・・・良い部屋だ」

 

 

昔にろくでもない親に押し付けられていた部屋より数倍、数億倍良かった。

 

 

「・・・・変わっていこう」

 

ガウェインは一人部屋で誓った。

 

ここから変わっていこうと。

 

 

 

 

ガウェインは、誓った。

 


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