騎士と魔女と御伽之話   作:十握剣

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なんとまさかの王子さまside!
見ていってーよってってー!

凄いのあるよーい!


まさかのオリジナルキャラが出てます!


第19話「白馬の王子さまと奏でる間奏曲」

『白馬家』

 

 

この家名を聞けば御伽花市に住んで居られる住民たちは『あぁ、あの家の・・・』などと呟き、詠嘆の声を漏らすだろう。

 

荒神財閥という大手企業が手を加えている市街地で、『荒神』以外にも名門中の名門の名家が御伽花市に多々住み渡っていたのだ。

 

その氷山の一角が『白馬家』である。

 

 

 

 

 

「随分と・・・・削ぎ落としたようだのう・・・・王子や」

 

 

 

 

 

そう呟いた場所は、宮殿と思わせるような建物の中。

 

映画などで使われていそうなセットの一画が今正に目の前に広がっている。

 

その宮殿に模してある(・・・・・)ある紅いカーペットが敷かれた豪奢な階段に、一人の老人が杖を支えに立っていた。

 

白みが掛かり、だが少し金髪だった事を残すように黄色い髪がちらほらと見える髪。

歳相応の垂れた肌に、曲がった腰。

 

だがそれが揃った所で、この老人には何処か『他者を寄せ付けぬ雰囲気(オーラ)』が纏っていた。

 

頑として相手を舐めさせず、獅子の如く相手を怯ませるような眼力が今、その老人から放たれていたのだ。

 

白馬汪馬(はくば・おうま)

 

 

それがこの老傑(ろうけつ)の名だった。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・(だんま)りかのう、あの(さと)い王子がが随分と愚鈍な対応方を覚えたものだ」

 

「・・・お祖父(じい)様、僕は・・・・・」

 

カンッ!!!!

 

白馬家の老傑たる汪馬は手にしていた杖を重く、そして揺るぎない力で床を突いた。

 

突いたことによるその鳴動が王子に、白馬王子(はくば・おうじ)の耳に届いた時にはもう言葉は掻き消された。

 

それはまるで“発言することを許さない”ように。

 

「王子や、この汪馬はお前に『過去のことを申せ』と言ったか?」

 

汪馬は仇でも見るようなその眼力で自らの孫を見る。

王子は立っていた足が勝手に跪(ひざまず)きそうになりながらも意識を保たせて直した。

それ程までにこの老傑は勇ましさと恐ろしさを放っていたのだ。

 

「い、いいえ・・・・・」

 

「ならば申せ、お前の悔恨など訊きとう無い」

 

祖父と孫の関係でここまで突け離すことがあるだろうか、そんな事を聯想させる言葉だった。

 

王子は身を削る思いで開口する。

 

「僕は、僕が仕出かした罪を贖罪する為に髪を切りました」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「でもそれだけでの事で罪を消した訳じゃありません。僕はこれからも罪を償いでいこうと・・・・─────」

 

「もう・・・・・良い」

 

揺るがないように、虚言ではないように、妄言でもないように王子は心を込めた言葉を祖父・汪馬に送る。だが結果は、

 

「もう・・・良い、王子」

 

祖父から出た言葉はそれだけだった。

 

一体何が良いのですか?

 

もう良いって、一体何がですか?

 

王子が追うような言葉を漏らそうとするが、

 

「開くな駄馬がッッ!!」

 

絶句。

 

 

“駄馬(だば)”

 

それは一般的にも褒められるような言葉でも、況(ま)してや【家族】に向けて放つ言葉じゃなかった。

 

そして、『白馬家』にとってそれは罵詈雑言によって罵(ののし)られる雨よりも、深く抉り突き刺さる一言(・・)なのだ。

 

役に立たない馬、下等な馬、覚えが悪く言うことを聞かない馬。

 

下手すれば乗馬を楽しみ、馬を愛する者にとって最大の悪口になるであろうその言葉に王子は、声が出なくなった。

 

心臓が早くなった。

 

鼓動だろうか、何を言われたのか理解出来ない程に脈拍が激しくなる。

 

 

「お、祖父、様・・・・?」

 

王子は階段の上で見下ろす汪馬に視線を向ければ、もう汪馬は王子を“見ていなかった”。

 

「罪を消していない、だと? 贖罪をしたいだと? よくぞこの汪馬の前で吐けたものだな王子」

 

「お、じい、」

 

「黙れと言った筈だ、訊く耳など無い。今更になって罪を償いたいとは、甚だしいにも程がある」

 

王子に背を向けた汪馬の背に、言葉を吐く気負いさえ殺(そ)がれた。

 

だが王子は、その後にきた言葉で更に抉られた。

 

「王子、お前が“築いた人脈のお陰で狼を狩る”のでは無かったのか?」

 

ガバッと王子は王子を見る。

 

相変わらず背を向けていたが、おもむろに怒りが動く。

 

「確かにのう、『人脈は力だ』と垂れよっただけはある。鬼ヶ島の孺子(こぞう)を巧く利用した。だが、やはり甘いだけの利用だった。利用するならとことん利用しろ! 中途半端な利用など愚鈍がすることだ!」

 

王子は大神涼子という少女を手に入れる為に赤井林檎(あかい・りんご)に陳腐な作戦だと言われたが、中々な作戦だったとも言えたものだった。

 

「・・・・そんな愚策を仕出かした駄馬が、あの荒神(・・)に頭(こうべ)を下げおって・・・この白馬家の恥さらしがッッ!!」

 

罵詈(ばり)が王子に劈(つんざ)く、だが王子は学園では見せぬ憂慮の顔になりながら祖父の言葉を受ける。

 

御伽学園の理事長でもある『荒神洋燈(あらがみ・ランプ)』と、御伽花市に少なからず影響を持つ権力者である『白馬汪馬(はくば・おうま)』は昔からの険悪の仲だ。

 

そもそもこの御伽花市という市街地さえも『荒神』が関わっているのだ。実質この御伽花市を牛耳っているのは荒神洋燈のただ一人。

 

それを快く思わない者の一人が白馬汪馬だ。

荒神財閥という突発的な経済力がこの日本(くに)の経済界に少なからず影響を及ぼす。そんな荒神が治める街に何故住み着いているのかと言えば、地元民だという簡単な理由だった。

 

だから、地元民だからこそ荒神が許せなかったのかもしれない。

 

あらゆる施設を建設させ、自然を焦土にしたあの荒神洋燈(おとこ)が単純に許せなかったのか、家族であり昔から一緒に居た王子でさえその真実は分からないでいた。

 

分からないでいたからこそ、理解しようと王子も努力してきたのだ。

どれだけ罵倒されようと、どれだけ駄馬扱いを受けようと、王子は高みの為に日々ひたすら努力を勤しんでこれたのだ。

王子の努力の理由の一つが【祖父の考えの理解】だった。

だが、王子にも耐えられないものがあった。

ある意味、王子の趣味の悪さなどはこれに教唆(きょうそ)されたのかもしれない。

 

 

耐えられないもの、それが、

 

「ふん・・・・これもあの“雑種の血”のせいかのう?」

 

「・・・・・─────ッッッ!!!?」

 

ドッッンン!! と王子の中で何かが爆発する。

 

「“雑種の血”・・・・・です、って・・・・?」

 

「何だ? それとも“薄汚れた血”と解りやすいよう言い換えれば良いかのう?」

 

「止めろっっ!!!!」

 

さっきまで身を震わす程にあの老傑の悍(おず)しに当てられていた王子の姿は無く、ただ怒りだけに身を震わせた。

 

「母の侮蔑(ぶべつ)は許さない!!」

 

耐えられない理由、それは汪馬が王子の母、つまりは娘の罵りだった。

そして汪馬の発言から、自らの娘ならば高貴な血統等と言うだろう、だがはっきりと汪馬は言ったのだ“雑種の血”と。

 

孫の食付きに汪馬はやっと振り向いた。

 

老傑、それはあの豪傑(ごうけつ)な文武を兼ね備えた者が老いただけの者に付けられた称(しょう)だ。

 

その老傑の眼力が王子を捉える。

 

「ほぅ・・・・止めろと、嘶(いなな)くか?」

 

まるで『ならばどうする?』と挑戦的な眼差しで王子に送る。

王子が出した答えは糾弾を浴びせることでも無い。

 

ただ黙然と祖父を視る。

 

眼(まなこ)に秘める思いを伝えるかのように、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

互いを視る、否、睨み合う(・・・・)。

 

 

 

 

長い時が過ぎるように、黙然と互いを睨み合う二人は、直ぐに持ち直した。

 

 

 

 

老傑たる白馬汪馬は王子を一瞥し、

 

「ならば、“雑種の血”では無いのならば証明すれば良かろう。この汪馬の耳に、目に、口で吐かせろ。お前が“雑種の血”では無いと・・・・」

 

耳に、つまりは聞かせろとこの老傑は言った。

 

目に、つまりは見せてみろとこの老人は言った。

 

口に、つまりは言わせてみろとこの老馬は嘶(い)ったのだ。

 

「言わせてみせますよ、暈(ぼか)すこと無い潔白な真実で、お祖父様を嘶かせてもらいます!!」

 

王子も最大の意思を込めた眼差しを祖父に送れば、それを正面から受けるように汪馬は『聞いたぞ、確かに』と呟いてその場から居なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

居なくなった祖父に安心か、それとも怒りか、何物でもないその不慣れな感情に王子はその場構わず床に座る。

 

座り、そして数分経った後に頭を触る。

 

「・・・・・削ぎ落とした、か。いいえお祖父様、落としきれてませんよ」

 

それを呟いた王子は、端麗な顔付きに、憤りと悲しみが沸き上がる。

 

(大神涼子、あの娘がいけないんだ、あんな、あんな娘が居たから)

 

心の内だけでも零す、零したくてしょうがない。零さないと破裂する。

 

だけどそれは許されない。

 

反吐(ヘド)が出るような行為を行なったのだから。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

王子は立ち上がり、ある場所にへと向かった。

 

 

 

 

 

 

白馬家は数ある屋敷のいずれかもまるで中世ヨーロッパに聳(そび)える城と思わせる建物だ。学園都市として御伽花市を築き上げた荒神洋燈さえ、このような建物は建設しなかったのだが汪馬が挑発するように建てたのだ。

 

そんな大きなお城から出てきたのはこの家主の家族にして跡取りたる白馬王子だった。

 

その王子の後から従うかのように、いつの間にか歩いていた『円卓の騎士』パーシヴァルとモルドレットだった。

 

「王子・・・・行く所があるのか?」

 

そう声を掛けてきたのは紫色の髪が目立つ男、パーシヴァルだった。

 

「・・・あぁ、ちょっとね」

 

そう呟いた王子に桃色をした髪をサイドポニーにしてある少女、モルドレットが心配そうな表情をしていた。

それを見た王子は、今までその小さな背中で守ってきた勤労騎士の頭に掌を乗せる。

 

「大丈夫だよ、モルドレット。・・・あぁ、済まないパーシヴァル、群馬(ぐんま)に車の手配を頼むよ」

 

微笑んだ王子に、どこか陰りがあるのを気付くモルドレットだったが、王子はそれを気にせずにパーシヴァルに車の手配をすることを告げる。

 

モルドレットは頭に乗せられた掌から暖かさを感じられた。

 

その掌に、モルドレットの掌を合わせる。

 

「・・・?・・・モルドレット?」

 

「・・・大丈夫」

 

「えっ」

 

「・・・王子は、一人じゃないよ」

 

そんなモルドレットに王子は唖然としてしまう。急に言い出したことだったから、とかでは無く。あの何事にも余り興味を示さなかったモルドレットがそんな事を言ったので王子は困惑した。

 

だがそんなモルドレットの言葉に、王子は嘘偽りの無い、本当の笑顔で、

 

「まるで漫画みたいな決め言葉じゃないか」

 

「・・・・・たしかに」

 

「でも・・・・・」

 

「う・・・ん?」

 

「何処か、スッキリしたよ」

 

そう言って王子は昔からモルドレットにやっていた【遊び】をする。

 

撫でていた掌をモルドレットの小さく小柄の顔まで移動して、そして顔のパーツの一つである鼻を摘まむ。柔らかくてプニプニしているモルドレットの鼻を摘まんだ王子は、思わず昔のように可笑しくてしょうがなくなる。

 

ほら、そろそろだ。

 

王子は暫し固まって、というより余り反応を示さないモルドレットが反応するタイミングを見計らい、鼻から手を離す。

 

「ぷひゃ・・・・」

 

口から息をすれば良いものを、モルドレットは正直に鼻を摘まんだと同時に口も閉じるのだ。そうなっては息が出来ないのが原理なんだが、それを一寸忘れてしまうのがモルドレットだ。

モルドレットは鼻を離された際に一気に息を吸い上げる。

 

可愛い顔で必死に息を吸うモルドレットに王子は笑みを浮かばせてしまう。

 

そして王子は群馬という昔から王子専用の送り向かい役をしている運転手に行き先を伝え、白馬家を表しているのか白い高級車に乗り込む。

 

「ありがとう二人、また」

 

礼を言った王子が車の発進と共に笑顔を浮かばせていた。

 

 

もう行ってしまったそんな王子に、驚きの顔をしているパーシヴァルがモルドレットに問い掛けるが、

 

「王子が戻るよ、元の優しい王子に」

 

『殺人衝動』を持つ騎士パーシヴァルは首を傾げ、『破壊衝動』を持つ騎士モルドレットは首を頷く。

 

 

 

優しい、白馬の王子様に。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

王子が向かった場所、それは御伽花市にある大きな病院【寓和(ぐうわ)中央総合病院】だった。

 

病院の受付の人とはもう顔見知りだ。

 

「いらっしゃい、相変わらずイケメンね。王子くん」

 

「・・・?・・・よく分かりましたね。髪を切ったのに」

 

「分かるわよ~。イケメンなんだから♪」

 

イケメン押しをしてくるこの受付の女性とは結構な古い関係である。それは、

 

「白馬さん、病室で暇してると思うから。行ってあげて」

 

「・・・・はい」

 

白馬王子の母が、この寓和中央総合病院に入院しているからだった。

 

 

 

 

見慣れた病棟、見慣れた廊下、そして、

 

「会いに来たよ、母さん」

 

見慣れた病室の背景だった。

 

変わる事ない病室。

それはつまり“治る兆しが無い”ことを示していた。

 

王子がなるべく元気な声を出して中に入れば、そこにはとても綺麗な女性がベッドの上で文庫本を読んでいた。

その出で立ちはとても絵になる程に綺麗だった、清らかでお淑やか、そしてどこか安心させてくれそうな優しい眼差し。あの祖父とは大違いな眼差しだった。

 

そして、もしこの場に御伽銀行のメンバーが居れば一番に驚いたであろう女性だった。

 

何より一年生メンバー、大神と亮士、そしてりんごは大声を張り上げる程に驚くだろうその女性に。

 

 

「あぁ、元気にしてたか? 子馬の王子」

 

さっきまであったお淑やかは何処へやら。

 

他者を余り寄せ付けぬ凛々しい目で清らかさが薄まった顔で王子を迎えた母親は、茶色い長髪が似合う、大神涼子(・・・・)と瓜二つの母、白馬愛馬(はくば・まなま)だった。




オリジナルキャラ

名前/白馬 汪馬
読み/はくば おうま
趣味/乗馬
特技/眼力で相手を怯ませる

白馬家の当主にして荒神財閥の対抗戦力的な存在。当初は『王馬』にしようとしたのだが、王さまの馬みたいで一番じゃないみたいな? だから汪汪(おうおう)しいの汪から汪馬になりました。汪汪とは心を広い様という意ですね(´Д`)

名前/鞍馬口 群馬
読み/くらまぐち ぐんま
趣味/王子坊っちゃんの世話
特技/大型特殊自動車の運転

幼少時から王子の送り向かいの運転士を務めている。安全運転を心掛けている老運転士。汪馬と王子の相談役でもあり、パーシヴァルとモルドレットとも仲が良い(^o^)

名前/白馬 愛馬
読み/はくば まなま
趣味/散歩(王子と♪)
特技/息子の為に物作り

白馬家に嫁いだヨメさんι(`ロ´)ノ
まさかの大神さんと瓜二つ!!
息子を愛する普通たる母親なのだが……?


↑のなんか次回に乞うご期待的な感じで良いッスね(>ω<)/


ではでは、兎と亀の争いが始まる間(はざま)で起きた白馬王子編、始まります。

二話で終わりそう

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