騎士と魔女と御伽之話   作:十握剣

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第18話「兎と亀の時ならぬ争い」

『『争いからは何も生まない』・・・・・そう断言出来るかな? 断言出来ると言うのなら、戯言では無いと言い切ることができるなら! ましてや哲言や世迷い言などでも無いと大きな口を開けて発言出来ると言うのなら・・・・是非、このマスクでナイスな《仮面副会長》の前に出てきて欲しい!』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『否ッッ! 戦争とは確かに憎悪嫌悪を生むシステムに等しい、だが、その戦争で醜くも人という愚直な生き物は新たな“モノ”を見出すものさ!』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『だがね、愚図愚図な争い程醜いものは無い』

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

『争いを長引かせれば、引き摺ることも長くなる。まったく愚直な生き物だね、人間様は』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『でも・・・愚直だからこそ人間は愚者(バカモノ)になれる』

 

「・・・・・・・・・・」

 

『皆がバカになっちゃえば、バカなことやってバカ騒ぎしてれば良い。そうすれば争いなんて無くなる筈さ・・・』

 

 

「・・・・・いい加減無視されてるって自覚持って下さい副会長」

 

開始からずっと語り口を振る舞っていたのは、この御伽学園高等部の『生徒会』に所属し、副会長位に着いている奇抜な格好姿のマスクマンだった。

 

姿は前回と変らずの目無し口無し鼻無しの『無』を象徴しているような漆黒の仮面。

 

身を包む程に広く靡(なび)いている黒いマント。

 

改造学生服には程遠い西洋に模したような服。

 

とにかく子供には受けそうな格好だ、特に日曜の朝とかに。

 

そんな奇抜な格好を恥ずかし気無く着こなし、しかも芝居染みた発言ばかりしているこの副会長には、いつの間にか昼休憩にやってきて話し掛けられ、一時間くらい語られていた黒軋(くろきし)ガウェインはうんざり“したような”表情を作った。

 

『いやぁ~やっと喋ったねガウェイン! わざわざ二年生の教室に来たのというのに、君はずっっと本に夢中だねぇ~! 何読んでるの見せてみッ!』

 

「くっ!」

 

ガバッと子供のように相手の物を奪う動作をやる副会長に、ガウェインは顔は無表情なのに目が面倒くさっ! と言わんばかりに光が伏せていた。

 

と、そこに、

 

「ぬぉおぉオ!? そのガウェインとじゃれつく立ち位置はオレのハズだぁああああああああああ!!!!」

 

『おぉう!? トリスタンか!?』

 

(また面倒なのが・・・・・)

 

ガウェインが居る教室に入るまで、至極普通な状態だったトリスタンだったのだが、ガウェインとじゃれあう副会長に目が入った瞬間、何を焦ったのか全くもってガウェインは知らなかったが、急いで間に入ってきた。

 

 

ガウェインは人が良いからなのか、はたまたただ介入・関心・関係を築きたくなかったのかまた副会長とトリスタンのやり取りを片手にある文庫本を読みつつ、静観していた。

 

そうしていると、御伽学園二年生棟廊下から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 

だがガウェインは野次馬に身を焦がす程今は動きたくなかった。動けば目の前で面倒な奴らが面倒な事を言いながら面倒な動作で迫り来ることを予知したから。

だから、再び双眸が文庫本に羅列された文字に意識が集中し、面倒な奴らが面倒な展開になりかけたのだが、生徒会に所属し、ガウェインやトリスタンと同じ『円卓の騎士』メンバーでもある白髪長髪の美少女、フェイル・サーベル・ド・ランスロットに介入され、二人に模造剣で正義の鉄槌を食らわせ、平和的に終止符を討った騎士にガウェインは感謝を念を送る。

 

感謝されたフェイルは小さくも可愛らしく『ふんっ/////』と鼻で返答する。

 

そして、ガウェインはいつも通りに放課後まで授業を受けて、いつも通りに御伽銀行の地下本店に来てみれば、

 

「アリスさま、噂の方はどうっていますでしょうか?」

 

「はい、宇佐見さんエンコー疑惑の認知率が50%を超えました。しかし、敵もさるもの乙姫さんヤリマン疑惑の認知率が50%に迫る勢いです

 

「これはやるね? じゃあ、僕は久しぶりに噂好きのよっちゃんにでも変装して噂を振り撒いてこようかな? 腕が鳴るねー?」

 

「なんですの? 黒板に誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)の落書き? 上履きずたずた? 精神攻撃できましたのね。ちっ、やられましたの。ではこちらは、ノートに落書きでいきましょうですの。あと、画鋲、不幸の手紙、偽のラブレターを筆跡を変えてダース単位で送ることにしましょう。ああ、魔女先輩、コラージュの進行具合はどうですの?」

 

「ちょうどできたヨー、我ながらイイ出来ヨー、夜のおかずにピッタリヨー」

 

「皆さん、お飲み物を用意しました。一息入れませんか?」

 

(何だこれ)

 

今のガウェインの気持ちはそれしか無かった。

 

皆が忙しい中、立ち尽くすガウェインに近寄って来たのは一年生メンバーの大神と亮士だった。

 

「騎士先輩、今ちょっと凄いことになってきた」

 

「・・・・両陣営ともに自分を高めずに、相手を引き摺り下ろそうとしているこの状況がこわいっス」

 

「一体何事だ、これは」

 

ガウェインが今一番に聞きたいことを後輩に聞く、詳しく大神と亮士が話そうとするが、

 

「ゆっくりと話すのであれば、上で話した方が宜しいのでは?」

 

各々に小休憩の為に置かれたお茶に目が入ったガウェイン、メイドな同級生、鶴ヶ谷おつうが差し出したことを理解するが、以前と何か変わったのか? と問かれれば、ガウェインが首を傾げてしまうかもしれない。

 

だが、ガウェインは今目の前でニコニコと微笑みながら、どこかスッキリしている鶴ヶ谷の表情を見て、やはり何処か変わったのだろうと勝手に自己解釈をする。

 

そして、地下では何やら怪しい作業をする忙しい仲間たちに変わって、御伽銀行地上支店という名のボロいプレハブ小屋に四人が椅子に座りお茶を啜る。

 

「おつう、体の方は問題無いか?」

 

ガウェインは片手でしっかりと湯飲みを掴みながら鶴ヶ谷に聞く、すると鶴ヶ谷は嬉しそうな顔でガウェインに向き合うと、

 

「はい、先日は本当にありがとうございました」

 

満面な笑顔でそう言ってきた鶴ヶ谷にガウェインは『そうか』と答え再びお茶を喉に通す。

 

「おつう先輩が元気になって良かったっス!」

 

「ああ、本当にな」

 

大神と亮士が笑みを浮かばせて鶴ヶ谷の万全な体調に安堵の息を吐いていた。

 

ではそろそろ、とガウェインは湯飲みを机に置き、対面に座っている大神と亮士に聞く。

 

「宇佐見と乙姫は元同級生だったのか」

 

「いじめっ子といじめられっ子だったみたいっス」

 

「そんでその宇佐美っつう先輩が乙姫があんなに綺麗になったもんだから面白くない、だからケンカ勃発、そこに御伽銀行便乗と」

 

「乙姫さまからも依頼がありましたので」

 

話の内容からすると、竜宮乙姫が小学校を通っていた際に、容姿と行動、性格が転じてしまったのか渾名を『亀子』と呼ばれいじめられていたらしい。

 

だがそのいじめっ子の宇佐見美々(うさみ・みみ)は、美人でお淑(しと)やかで気だてが良くて頭も良くてスタイルも良くてお金持ちで全身全霊で愛してくれて床上手の竜宮乙姫が大変気に入らないらしく、やはり突っ掛かってきた宇佐見。

 

二人は青筋浮かべたままひとしきり笑い合ったあと、二人は挨拶をして別れたらしい。

 

「昼間か、確かに廊下で何か騒いでいたが・・・・・」

 

「ふふふ、ガウェインさまは確かまた“あのお二方”とお話をしていましたね」

 

「・・・・あぁ」

 

「・・・?・・・“あのお二方”?」

 

大神が疑問に思って聞き返してみると、ガウェインは少し疲れたような顔になり、代わりに鶴ヶ谷が教えてくれる。

 

「トリスタンさまと副会長さまです」

 

「あぁ、この前廊下でフェイル先輩に怒られてた先輩たちっスね」

 

妙な覚えかたをしていた亮士にガウェインは苦笑のような表情を浮かばせた。

 

「そのお二方のせいで見には行けなかったが、そうか、そんな事になっていたんだな」

 

ガウェインはお茶を再び飲む。

飲む時に少し湯飲みと首を傾けないといけないので視線が一瞬机から離れるのだが、その一瞬の間にさっきまで無かった和菓子が綺麗に揃えて机に置かれてあった。

恐らくメイドパワーを発揮させた鶴ヶ谷が用意したらしいが、速業過ぎる。

 

何処かの大会にでも出場できるのではないか、とガウェインが思っていれば、相変わらずな速業を繰り出した鶴ヶ谷に何か対応が出来たのか大神が何食わぬ顔で和菓子に手が伸びたまま口を開く。

 

「そんで乙姫は、宇佐見の性格が褒められたモノじゃなく、自身の容姿に驕り、容姿のみで他人を判断し容姿の劣る者は見下す、そんな自分の手を汚さず人を使って他人を貶(おとし)める宇佐見に負けたくない・・・この饅頭茶色過ぎねえか?」

 

「いやそれが本来の饅頭の色っスよ・・・・・乙姫さんは宇佐見先輩がある意味、過去の象徴と言ってたっス」

 

「今の乙姫さまは『亀子』では無く、浦島さまに相応しいと自負できるほどに成長したと仰っていました」

 

和菓子に手にして大神がふと思ったことを口にしてみれば亮士がちゃんと答え、大神に続くように話の内容を話す。鶴ヶ谷は無くなったお茶を淹れる為に急須を両手で持ち、各々に淹れる。

 

「・・・・まさか、“貸し”を作ったのか?」

 

「あ、いえ“菓子(かし)”は流石に作るのに手間を掛けてしまいますから、街の方の御伽花モールで和菓子と洋菓子をそれぞれ購入を──────」

 

「あ、いや違う。お菓子の方の菓子じゃなく、借りる方の“貸し”だ。おつうよ、ダジャレじゃないぞ? 涼子も亮士も頑張って笑おうとするな」

 

横で急須を微睡(まどろ)み無くお茶を淹れていた鶴ヶ谷に反応され、まさか鶴ヶ谷がそんな返しをしてくるとは思って居なかったらしくガウェインは思わず狼狽。

 

御伽銀行に貸しを作ったのは流石に驚いたガウェイン。

 

この御伽銀行の、御伽学園学生相互扶助協会の貸しについては働いている行員が一番良く分かる筈だ。

 

 

 

 

《御伽学園学生相互扶助協会は慈善事業な団体では無い》

 

慈善事業ならば決して見返りを求めない聖者様になるだろうが、銀行の名を持つのだから聖者になる筈がない。

 

ちゃんとした対価が必要なのだ。

 

ガウェインが所属する御伽学園学生相互扶助協会は、その業務形態が故に《御伽銀行》という通称を持っている。

 

改めて説明するなら、御伽銀行の活動内容は、困っている人間に力を“貸し”を作り、御伽銀行並びに御伽銀行への依頼者が助けを必要としたときは“貸し”の徴収の名目で以前助けた者に助力を願う。貸しを貯め情報を蓄積し、必要なときに必要な人にそれを貸し出すことで助け合いを仲介斡旋(ちゅうかいあっせん)し、学生が学園生活をなんの愁(うれ)いもなく送れるよう手助けする組織。

 

それが《御伽銀行》なのだ。

 

御伽銀行は御伽学園創立者、荒神洋燈(あらがみ・らんぷ)の小飼いで、この御伽学園を愉快で楽しく混沌とした世界にするために貯めた貸しを使って暗躍する組織でもある。

 

御伽学園学生相互扶助協会の初代・頭取はその御伽銀行の威名(いめい)を掌を転がすように、御伽銀行という名を威風堂々と馳せさせたらしい。

 

貸し借りというシステムが【最悪】なことに大変得意だったのか、初代頭取は荒神洋燈に大変気に入られ、今現在は荒神財閥で働いているらしい。

 

 

「それで引き受けたのか」

 

饅頭を二人で食べ、甘味に合うお茶の啜りながらコクリと頷く。

 

基本的に請け負った者が依頼を解決することなっているため、乙姫たちと同学年である一年生メンバーの大神と亮士、そしてりんごが請け負ったらしい。

 

だがあの様子からして、

 

「事態が大きくなったら他学年のメンバーも力を貸すと聞いているが」

 

地下で見た頭取やアリス、マジョーリカが奮闘していた姿にガウェインは溜め息を吐く。

 

「あの強力体勢を見ると、宇佐見に勝つ何かがあるらしいな」

 

そうガウェインが言うと、

 

「はぁ~、何か今度のミス御伽学園コンテストという催しがあるじゃないですか?」

 

「まさか」

 

「そのまさかみたいですよ、ミスコンで宇佐見に勝つ、それが今回の依頼みたいで」

 

 

基本的に学期ごとに行われるミスコンが一学期も半ばというこんな中途半端な時期に行われることになったのは・・・・

 

 

「この中途半端な時期になった原因っていのは───」

 

 

 

バァンッ!

 

 

「この僕のせいさッ!」

 

お茶をしていた四人が居るプレハブ小屋に、突如ドアを勢い良く開き入ってきたのは、

 

「「白馬王子ッ!?」」

 

そう、入ってきたのは以前大神を誘拐しようと試み、失敗に終わった白馬王子だった。

 

だが、白馬王子なのは王子だったのだが、

 

「だ、誰だ?」

 

そうなのだ、今の王子は誰がどう見ようと、

 

「・・・・そうだよ、僕は白馬王子だ!」

 

世間一般的に野球部やらが主に進んで散髪してもらう“スポーツ刈り”。

いやそれ以上なのか数ミリ単位の坊主頭になっている白馬王子が恥ずかし気も無く仁王立ちしていた。

 

自分は王子だ! とそう言った坊主頭の好青年は真面目な顔になって大神や亮士、そしてガウェインや鶴ヶ谷たちが座っている前まで来れば、ザッと腰を下ろし、頭を床に付ける勢いで土下座する王子。

 

「大神さん、それに森野亮士くん・・・・・本当に、本当に済まなかった!!」

 

いきなり過ぎる白馬王子の行動に大神と亮士が唖然としている中、ガウェインが反応する。

 

「頭取やアリス先輩、そして特にりんごが流した王子の恥ずかしい写真、悪行をばらまき、拉致事件も含め“裏”に繋がる事も全て御伽学園に垂れ流しにされても尚、学園を辞めなかった白馬王子が一体どうしたんだ?」

 

土下座をしているのだからどんな意味を示しているのか誰でも分かる行為だったのだが、やはり突然過ぎる登場と行動で頭の整理が追いつかない後輩と同級生の為にガウェインが説明染みた言い方をすると、王子は土下座をしたまま口を開く。

 

「僕が仕出かしてしまった罪の贖罪を改めて御伽銀行に申し立てしようと・・・・・ここに来た」

 

未だに口を開き唖然としている被害者の大神涼子に王子は決して面(おもて)を上げず、侘びる姿勢を崩さない。

 

「御伽銀行に・・・・いや、大神くんに贖罪したい」

 

そう言って土下座の姿勢を貫く王子に、ガウェインに視線を向けられてやっと意識を取り戻した大神がやっと声を出す。

 

「やり過ぎだろッッ!?」

 

「いいや、そんなことは決して無いよ」

 

「いやでも、おまっ・・・頭が」

 

まさか真正面からこんな方法を現代でやってくるとは思わなかった大神だったが、やられた本人より大神を大切に想う亮士やりんごからすればまだ軽い許しの乞いだろう。

 

だが大神は基本は“優しい少女”なのだ。

 

過去の事もあり今はこんなだが、きちんと反省の意思と覚悟を持ち、隠蔽一つもしないで謝りにきた王子と、学園から受ける邪険な眼差しを真正面から受けても尚学園に居続ける王子にもう正直大神は許すも何も、逆に同情してしまうという結果になっていたのだ。

 

「・・・・ミスター御伽学園コンテストのランキング堂々一位の白馬王子が、坊主刈り・・・・か」

 

どれほどの覚悟だったのだろうか。

 

マンモス校とも言える御伽学園で男子ランキングの一位の男が、ボクシング部高校チャンピオンの男が、自分のプライドを何より重んじてきた男が丸坊主にしてきた。

 

そして土下座までしている。

 

りんごからすればまだ序の口とまでいかない位に怒っていると思うが、この覚悟は相当な物だと、勝手に一人の人間としても、一人の男としてもガウェインは思ってしまった。

 

「赦して貰えるとは思っていないよ・・・・・これは僕の勝手な自己満足、そして君に返したい贖罪だ」

 

赦して貰おうなどと忸怩(じくじ)たる思いで言ってはいない。そんな面持ちで王子は土下座から立ち上がり、

 

「君の許可無く土下座を解いた事に謝る、すみません。だが何時までも君の前でやっていては不愉快になるだろうし、御伽銀行の邪魔になるだろう・・・・」

 

最後にまた深く頭を下げ、謝罪していった白馬王子は御伽銀行地上支店から出て行った。

 

そして数秒、

 

「・・・何だったんだ、今の」

 

「・・・・・謝りにきたんス」

 

「いやそれは分かる、分かるが・・・・・」

 

「涼子は・・・・・」

 

大神が軽い混乱のまま亮士に聞けば、亮士も混乱したままでありのままの事を告げる。

 

二人がまだ混乱しているままだった為にガウェインは湯飲みに入っている緑茶を眺めながら仲介者よろしく言葉を吐く。

 

「涼子は今、白馬王子が呵責(かしゃく)に・・・・・責め苦しむことを望んでるか?」

 

勿論、返ってくる返事はガウェインは知っている。

 

NOだろう。

 

だがガウェインはまだ続けるように紡ぐ。

 

「お前は望んでいないだろうが、悔恨(かいこん)に打ち据えている者もいる。」

 

拉致されそうになったのだ、被害者は批難する資格があるだろう。

 

「宇佐見の話もそうだが、“やる側”と“やられる側”・・・白馬王子と大神涼子、宇佐見美々と竜宮乙姫────」

 

そして、ガウェインからすれば“両親”と“子供(ガウェイン)”だ。

 

「許すか許すまいかは、やはり被害者が決めるしか無い。そして決めても尚、憂慮する者も居るだろう」

 

「憂慮・・・・心を痛み嘆くことですね」

 

鶴ヶ谷は真面目な顔をしてガウェインの話に聞き入っていた。

もしかしたら、鶴ヶ谷はその憂慮する者を知ったのかもしれない。

 

ガウェインも先ほど知ったのだ。その“憂慮する者”を。

 

「罪を知って、後悔するって事っスか?」

 

静かに、そして僅かに頷くガウェイン。

断言する事は出来ないが、そうなんじゃないか、と顎先だけて示す。

 

「涼子も乙姫も許すか否か、それは本人次第であり、やった側である白馬王子や宇佐見美々が後先に憂慮するのか否かは、やはり本人次第」

 

大神は拉致され掛けた時に、一度は殴ったのだ。それだけで本のちょっとだけ満足したのだから許すかは否か大神が決める。

乙姫はやはりあの自分の容姿を驕り、己の手を汚さず他人を使役し貶めるあの性格が改善されるまでは許さない、と断言しているしやはり本人が決めている。

 

そこでガウェインは一人立ち上がり、

 

「つまりも何も、在々所々(あっちこっち)も、後先にも、“本人”が結局決めると言うことを伝えたかっただけだ、こんな面倒な言い方になってしまったが・・・・」

 

長身なガウェインは湯飲みに注がれた緑茶を飲み干し、御伽銀行地上支店から出ていこうとしていた。

 

「何処に行かれるのですか?」

 

鶴ヶ谷がガウェインが飲み干した湯飲みをお盆に乗せながら行き先を尋ねる。

 

ガウェインは黒い髪と制服であろう黒コートを見事にマッチさせた出で立ちでプレハブ小屋の少々壊れてるドアを開きながら答える。

 

「白馬王子が気になる、それにお互いに妨害工作を勤しんでいる人たちにとって俺たちはあまり必要としないと思う・・・・から困ってる者が居ないかパトロールしてくる」

 

他にもきっとやりようがあると思うのだが、この黒軋ガウェインは『それは悪のやることだ! 正々堂々切磋琢磨し、己が実力で勝ちにいくべきだ!』と言おうものならきっとやる事は決まってる。

 

だが生憎とそこまではガウェインも関わろうとは思わなかった、それにそんな言葉を吐ける者など人間の『愚』を知らぬ若者の戯言に決まっている。

 

ガウェインは幼少の頃から人間という生き物は、愚かしく、醜悪で醜態、穢らわしいにも程がある生き物だと“理解させられたのだ”。

 

 

人は醜さを見たが故に麗しさを求める。

 

 

『普通』なら汚い所に居たいとは思わないだろう。

 

掃除せず虫という虫が蠢き悪臭好む生き物が犇(ひし)めくゴミ置場で寝ろ、と言われて寝る奴が居るだろうか?

 

好んで寝る者はきっと少ないだろう。

 

 

ガウェインは何処まで行っても、結局はやはり汚くなりたくないだろう自分も含め、人の子らは“堕ちきれない”だろう。

 

綺麗好きが良いのだ、結局。

 

 

だからガウェインは汚くなってはいるが醜くはならないだろう御伽銀行メンバーのやりように何も言わない。

 

でもせめて困ってる者の助ける、という綺麗好きなことをする許可が欲しい。

 

誰に許可を?

 

頭取に?

 

違う。

 

結局“ソレ”も逃げだ。

 

自分だけ逃げてるだろ? 許可を許した者に責任を擦り付けたいだけだろ? と言われればそうなるだろうが、はっきり言ってあれは頭取たちが始めたことだとガウェインは推測し、今御伽銀行地上支店の前に広がる場所で立っていた。

 

後ろを振り返る。

 

「・・・・・・・・・・」

 

見事に大神、亮士、鶴ヶ谷と三人が一緒にガウェインの後ろに構えていた。

 

構えていた、となっているが実際は立っているだけ、だが何故立っている?

 

答えは簡単だ。

 

 

「ついてくるのか?」

 

コクリと三者共に頷かれてしまったガウェイン。

 

「・・・・・・・・・・」

 

溜め息を吐く事もなく、喜怒哀楽のどの顔にあてはまらない無なる顔のままガウェインは黙然のままで数分。

 

ガウェインはスッと前に歩み出す。

 

すると大神たちもやはり歩を進む。

 

(まぁ・・・・・良いか)

 

ガウェインは数分黙ってままでいたのは、一人であの白馬王子と、王子近衛騎士である狂いに喜色を彩る《パーシヴァル》と破壊っ娘《モルドレット》に会いに行こうとしたからだった。

 

絶対に危険だから連れていけないと思っていたのだが、あの白馬王子からして恐らく自制は出来るであろう、恐らく自制が利くだろうと願いたい騎士二人に思いを馳せて。

 

「王子の所に、行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

騎士は『仲間』と共に歩を進む。

 

異質な『仲間』なのに、馴染み深い。

 

私は強いと嘘の皮を被る優しい異質な狼少女と、

 

狼少女を恋い焦がれ、心配する異質な猟師。

 

そしてその騎士と狼と猟師を優しい温もりの風を扇ぐ白翼の異質(メイド)な鶴。

 

騎士は異質でありながら頼もしい『仲間』と共に、

 

贖罪求む王子の元に向かう。

 

譬(たと)え狂った騎士が居ようと、

 

譬え壊れた騎士が居ようと、

 

やはり歩みは止めない。


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