騎士と魔女と御伽之話   作:十握剣

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おおかみさんとおむすびころりん対決! ドラマCD購入しました!
声優陣のおまけは本当に笑ってしまうほど仲良しな感じをしていましたね♪

やっぱ人気が無いと二期も始まる訳もありませんよね、二期見たいです(;_;)

電撃文庫でアニメとと言えばSAOこと『ソードアートオンライン』が2クールに突入みたいですねぇ、人気なんですかね? そしてもうすぐ電撃文庫の発売日が近づいてきました! 自分は禁書目録は絶対購入間違い無しなのですが、今個人的に『はたらく魔王さま』が面白いので是非読んでみるのも良いかもしれません(^_^)

勝手な前書きでした!


第16話「次・騎士とメイド」

トリスタンこと取須弾(とりす・たん)に色々と騒がれ、あんな馬鹿な先輩も居たんだな。と勝手に思っていた大神涼子はいつも通りに教室で赤井林檎と話をしていた。

 

トリスタン先輩がガウェイン、騎士先輩に構ってくれなかったから。の理由も凄かったがガウェインの対応も案外ぞんざいだったな、とりんごと話に花を咲かしていると、

 

「おはようっス」

 

「おう」

 

教室に現れた亮士に大神はいつも通りの挨拶を返す。亮士が奇妙な顔で悩んでいる素振りをしていた。

 

「何かあったんですの?」

 

りんごは珍しく悩んでいる、いや結構色々悩んでいる亮士に好奇心四割、なんかおもしろそうな展開ですの四割、と優しさ一割五分、心配五分のその言葉。その酷い割合に気付かぬ亮士は悩み、というより疑問を二人に聞いた。

 

「あのっスね・・・・・今日の朝食の時、メイドさんが料理を運んで来たんスよ」

 

なんだその男の夢・・・・・もとい、たわごとをほざき始めた亮士にりんごと大神は少し痛い目で亮士を見た。

視線恐怖症である亮士はすぐこれに気付き、あたふたとしはじめる、そして自分の言葉が足りないのにも気付き、弁解する。

 

「ち、違うっスよ! これマジ話なんス!」

 

「・・・・・ヘタレだと思っていたが、

とうとう妄想と現実を混同しちまったのか」

 

大神はなんてこったいと天井を仰ぐ。

 

「いやだから本当なんっスよ!」

 

「涼子ちゃん、こうなったら涼子が森野君に三次元のすばらしさを教えてあげないといけませんの! 責任重大ですのよ!?」

 

「って、なんでオレが出てくるんだよ!」

 

「・・・・・みなまで言わせる気ですの?」

 

「なっ! お前は絶対に何か勘違いしてんぞ!!」

 

「あのー、話進みますっスけど、良いスか?」

 

「むむ・・・森野君が話を促すなんて、・・・分かりました、話を進めて下さいですの(これは結構重大でおもしろそうですの、クスクス)」

 

りんごが内心クスクスと黒い微笑みをしているにも関わらず、分からないまま話を進める亮士。

 

 

 

 

「はい、それがっスね・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「えっ、メイド付き騎士さまってトコ?」

 

「・・・なんかいきなりぶっ飛んだな」

 

場所が変わり御伽学園高等部二年のガウェインが在籍している二年教室に個性豊かな生徒たちが彩っている中、黒一色に統一している生徒、黒軋ガウェインが同じクラスにして『円卓の騎士』の仲間でもあるトリスタンと話をしていたのだ。

 

ガウェインの斜め横には主に仕えるメイドの如く鶴ヶ谷おつうが立っていた。

 

「ガウェインさまには女の命とも言える顔を守って下さったご恩があります、この恩を返す為、この鶴ヶ谷おつう。全身全霊全てを捧げ尽くさせ、返させて頂きます!」

 

「めっちゃ力強く言っちゃってますこのメイドさんに、この黒い騎士さまはどのよーな心境で居られますか?」

 

トリスタンは『なんだこのエロゲの主人公属性野郎はあぁん?』と睨みながらガウェインに聞くと、なんとも言えない表情で溜め息を漏らした。

 

「今の心境は知られたくない人に知られてたらどうしよう、という感じだ。特に“あの人”には知られたくない」

 

ガウェインはグッと机に置いた両手を握りしめながら青い顔になる、無表情のまま。

 

「おつうちゃんの趣味は相変わらず凄いよな、『恩返し』が趣味だなんて」

 

トリスタンは前もって作ってあったのか、自分の机から折紙で折った紙飛行機を手に持って俯せになったガウェインの頭に突っつく。

 

 

昨夜は流石のガウェインも驚いた。

鶴ヶ谷の性格も知っているし、『恩返し』の義理堅さも理解していた、だが行動力が尋常じゃない程速いのに驚いたのだ。

 

 

 

 

◇ガウェインの回想◆

 

 

 

 

まさか部屋の中に居るとは・・・・・

 

ガウェインは風呂上がり、髪をタオルで乾かしながら廊下を歩いていた。どうするか考えながら自室の扉を開き・・・・・

 

「ふつつか者ですがどうぞよろしくお願いいたします」

 

布団の上で三つ指ついてそんなことを言うメイドに騎士は、

 

「泊まるのか・・・・・?」

 

恐らく亮士だったら間違いなくヘタレモードになっていたであろう今の状況で、この騎士さんは真顔で結構重要なことを鶴ヶ谷に質問した。

 

「ご主人様の側に控えるのはメイドとして当然でありましょう。しかし、ここは一部屋しかありませんので、隣で眠る不作法をお許しください」

 

答えは肯定。と判断したガウェインはまだ湿っている髪を中途半端にして真っ直ぐに鶴ヶ谷の正面に正座で座った。

 

「おつう、男と女が一つ部屋の中で一緒に寝るなどと、そんな軽率な事を口走ってらいけない」

 

鶴ヶ谷はガウェインの言った言葉に反応した。

 

「『軽率』・・・・・?」

 

「ん・・・・・」

 

「わたくしは『軽率』等と簡単な言葉で言い表すような行為はおこなっておりません」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「この『恩返し』は、わたくしにとってッ───ッ!」

 

そこでガウェインは掌を鶴ヶ谷の目前に浮かせて静止させた。

 

──言わなくて良い・・・

 

 

ガウェインがそう言ったように鶴ヶ谷が感じとった。

 

 

掌を戻すとガウェインは綺麗に敷いてくれた布団の上でピシッと背筋を伸ばし、日本男児として恥じない綺麗な正座になって口を開く。

 

「俺を信用してくれてる、と自意識過剰に思うことにする」

 

そう言ってガウェインは横になった。

 

「夜も遅い、そろそろ休もう」

 

そんなガウェインに鶴ヶ谷は少し困惑しなからもメイドパワーを発動させる。

 

「ふふ、なんでしたら子守歌などを聞かせてあげましょうか?」

 

“子守歌”のワードに反応するガウェイン。

 

(子守歌、か・・・・・マカから聞いたあの初めての子守歌は・・・・・)

 

身も心も痛み軋んだガウェインを優しく包み混んでくれた。

 

優しく頭を胸に寄せてくれたマカの温もりを思い出していた。両親から殺人未遂に届く位置までに痛め傷つけられたガウェインはマカの温もりや優しさが本当に天国のように優しい世界だった。

 

そんな事を思いながらガウェインは少し嬉しそうな声色で、

 

「・・・そうだな、おつうの子守歌を、聞いてみたい」

 

鶴ヶ谷は優しく、そして温かい子守歌を聞かせて貰った。

 

 

 

◆ガウェイン回想終わり◇

 

 

 

ガウェインは一人昨夜のことを思い出していると、がらがらがらー! と教室のドアが開く音がした。その方向に目を向けるとそこには、

 

『いやぁあー、聞いたよトリスタンくん!! 今ガウェイン〝面白(たいへん)そう〟なんだってねー♪』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

一番知られたくない人物(あのひと)が入ってきた。

 

「ぉお・・・相変わらず変な格好ですね『副会長』♪」

 

ズイズイと問答無用に入ってきたのはこの御伽学園高等部の生徒会『副会長』だ。何より大抵生徒たちはこの人を『マスク副会長』と呼んでいる。理由は至極簡単で、全身を包む長いマントに桐木リストとまた違う上級そうに見える燕尾服、そして顔には目も鼻も無ければ口も無い仮面(マスク)を被っていた。

 

『ありがとう、トリスタンくん』

 

肩に手を置かれ、もう片方の手でトリスタンと握手するマスクな副会長。トリスタンも『え、あ、ど、どうも』と返され困惑していた。

 

『こんな奇抜な学園の中でガウェインくん程楽しい生徒が面白(たいへん)そうだと言うんだ! ここで立ち上がらなければどこで立ち上がる言うんだそうだとも! この生徒会『副会長』の名が(すた)ると言うものだよガウェインくん!!』

 

「そんな力強く言われても困ります、あとまた仮面変えたんですか? それと奇抜の塊である副会長が言うと言葉の重み+説得力がありますね」

 

副会長はバッとマントを翻す。その翻したマントに思いっきり巻き添えを食らったトリスタンはマントに絡まり上半身が隠れた。

 

『仮面は〝ケイ〟に上げたよ、ふふふ。あの子も“仮面の良さ”が分かってきてるようだね。仮面カッコいい・・・・・そうは思わ─────』

 

「思いません」

 

ふっ、いけずな子だな。と演劇でもやってそうな動きでそう言う副会長。モゾモゾと絡まっているトリスタンは変な生き物みたいに動いている。

 

『そんな事よりガウェインくん!』

 

「くっ」

 

バンッとガウェインに詰め寄る副会長、顔が無い仮面をグイグイと押し寄せられ、妙に気迫が押してきた。

 

『メイドを召し仕えたという噂は本当かい?』

 

「嘘偽りだ」

 

ガウェインがそう言うがキョロっと斜め横を見てみる副会長、そこには初めてみた副会長の姿に困惑しているメイドな鶴ヶ谷。

 

『ほぉ~ぉ』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くっ・・・・・」

 

顔が見えない分どんな表情しているのか分からないが、声色だけでガウェインの脳に刺激する。

 

『ま、“頑張れ”よ。はいコレ、仮面上げるから頑張りなさい。仮面ライダーシリーズなら大丈夫でしょ? あっ、O○O(オ○ズ)が良かったかい? ・・・・・ってOに○やっても意味無いか、ぷっ』

 

 

 

シーン

 

 

 

ただの静けさがクラスを漂わせる。

それもその筈で、あんなコスプレとしか言えない改造制服を着て、そしてこの学園の手本となるべく生徒会の『副会長』を任されている人物。とまずこのダブルトッピングされたフレーズだけで大抵の生徒は興味を奪われる。だがそれだけで終わらせないこの副会長はこれまた仮面ライダーを見てる人しか分からないような意味不明な笑えない冗談をぶちかましたのだ。

 

女子からすれば異常としか見れないだろう。

 

だが当の副会長はその静かさを感じとるように両手を広げ、

 

『嗚呼・・・・・良い感じに静けたなぁ~。この静けさが僕の心を良いチョイス具合に抉(えぐ)っているよ。まるで仮面の飾りが落ちた時、弾け飛んだ感じだ、おぉお感じる、静けてる』

 

何でもかんでも仮面ワード出してくるし『~みたいな感じ』と常人には感じ取れない『感じ』を勝手に感じ取っているこのマスクな副会長にはそろそろご退場してもらおう。

 

 

ガウェインは立ち上がり副会長の仮面の端(頭上の横ら辺、だから髪みたいな所)を掴んで廊下に出した、マントに絡まれたトリスタンはずるずると引き摺られながら『モゴメゴーッッ!!!?』と叫んで副会長と一緒に外に出した。

 

 

廊下から『君がうるさくしたからガウェインに吊るし出されてしまったよ!』と副会長がバシバシとマントに絡まれたトリスタンを叩き、やっとこさ脱出したトリスタンが『うるせぇぇぇぇ! こっちは巻き添えだ!』だ返す。

ぎゃーぎゃーと廊下で騒いでいる奇人と変人。

 

この御伽学園ではこれが日常なのかもしれない。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「騎士先輩の部屋におつう先輩が同居中!?」

 

所変わって大神たちが居る教室。そこで亮士からとても気になる話を聞いたのだ。

りんごなんかは目を光らせている。大神も少し興味があるらしく亮士の言葉に耳を傾ける。

 

「ガウェインさん本人から聞いたんで本当だと思うっス」

 

「今日放課後すぐに騎士先輩の元に行きましょうですの!」

 

「決断早ぇな!?」

 

好奇心五割に絶対になんか面白そうですの五割の分割になった考えを持ってしまったりんごはバンッ! と大神の机を叩きつけながら生き生きとした瞳で提案、では無く決断した。

 

「えー、こほんこほん、これは興味本意で騎士先輩の所に行くんじゃないですの。これは同じ御伽銀行の仲間として困ってらっしゃる騎士先輩を助けるべく、その件の話を包み隠さず聞いてみる、という考えあっての行動ですの!」

 

「まだ別に困ってるかどうかは分からねえけどな・・・」

 

「ガウェインさん相ッッ変わらず普通でしたっスよ?」

 

「先輩が困っていたら後輩が助ける・・・・・これって『助け合い』になっていくんですの・・・・・。今まで先輩は後輩が困っていたら助けてくれませんでしたか? いいえ! 先輩は躊躇無く助けてきてくれましたの! その恩を! ましてや社会にへと繋がる一歩に変わるかもしれませんの!」

 

キラキラと何か奇妙な浮遊物を撒き散らしながら素敵笑顔で言うりんご。

この笑顔を見れば誰でも面白本意だと分かるだろう。

という訳で、オオカミさんと赤頭巾ちゃん、そして森の猟師くんは鶴に恩返しされている騎士さんの元に行く事になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、早速騎士先輩の所に行きましょーですの」

 

「は、張り切ってるっスね!」

 

「本当にりんごはこういう事に関して好きだな」

 

三人は二年生が居るフロアの廊下でそんな事を言いながらガウェインと鶴ヶ谷、そして魔女さんことマジョーリカが在籍している教室に向かっていた。他の生徒を横切れば『オオカミさんと赤頭巾ちゃん』と有名な二人組が歩いているので普通ならば目を持っていかれる、のだが。

 

「なんか普通ですわね」

 

「あぁ」

 

そうなのだ、何故か大神とりんごに注目ともいかないが、多少は目が奪われる興味となる筈だ。だが実際今の状態は『あぁ、一年生だ、珍しい』と普通の視線だった。なので横切る二年生はただ一目見て終わりだ。

まるで“慣れて”いるかのような優しい眼差しだった。逆にそれが居心地が悪い。

 

そして廊下を歩いていると、そこには奇妙な光景が広がっていた。

 

「違う! 違わないが待ってくれマカ!!」

 

「ハッハッハ、・・・・・何がだヨー・・・」

 

「うぉぉおおおお、火ぃぃっ火!! 火吹いてるそのバズーカ!」

 

「ちょ、ちょっとこっち来ないでよダメン・トリスタン!」

 

「何その不名誉過ぎの二つ名!?」

 

『アァーハッハッハッハッハ!!!!! 何やらお祭り騒ぎのようだねヒャッハー!!♪♪♪』

 

「クソッ! また面倒なのが来たッッ!!」

 

「紅茶はいかがでしょうか?」

 

「これ主に貴女のせいなんですよメイドォォッッ!!」

 

黒い騎士に向かって魔法の杖(バズーカ)を振りかざす魔女、そしてその破壊の杖(バズーカ)の餌食となる悲哀の騎士が橙色長髪の騎士に嫌がれ、この騒ぎを嗅ぎ付けた仮面の副会長が交ざる、その中には落ち着いたメイドが紅茶を運んでいる。

 

もう、何が何やらである。

 

「・・・・・・・・・・」

 

流石のりんごも困り果てた顔になって、関わるのが嫌になってきていた。

 

「何ですかこの騒ぎはぁぁー!!」

 

「フェイル先輩ですの」

 

白い光を輝かせるように長い白髪を靡かせながら仲裁する生徒会役員のフェイル。彼女の役職上では騒いでいるあの中に上司も交じっているのだが、関係無く愛用のサーベルを振りかざす。

 

「危ない! 生徒会員が普通に刃物を振り回すのがあるかい!」

 

「そうよバカフェイル!」

 

「取須弾(トリスタン)に萌仁香(モニカ)・ルーカンか。黙れ」

 

主にルーカンは巻き込まれた方なのにサーベルの鋒を向けられて黙れの命令。この扱いは不当過ぎる。でもサーベルあるから逆らえないのよね、ルーカンは笑顔になりながら廊下に正座をし。トリスタンとルーカンは黙るしかなかった。

 

「コソコソ(ね、何さっきのダメン・トリスタンって? 超聞きたい)」

 

「ちょ、今話す所じゃないでしょバカ」

 

「コソコソ(いやいやいやいや、超気になって駄目なんだよマジで、教えて!)」

 

「はぁ~・・・・えとっ、ダメなイケメンで『ダメン』だよ」

 

「チキショー!! 何か他にもちゃんと理由とかあんだろうなぁ~とか淡い希望を乗せて聞いてみれば泡となって消えたよキチショー!! 淡(あわ)いだけに泡(あわ)ばぁッッッ!?」

 

ゴツンと本物まで行かない模造刀もとい模造剣の峰に叩かれたトリスタンは舌を噛むような勢いで冷たい廊下に打ち付けられた。

ルーカンはガタガタッと震えながら再び沈黙。

 

危ない廊下に居る一年の大神とりんご、亮士は唖然としながら見ていると次にフェイルはガウェイン、マジョーリカ、鶴ヶ谷に口頭で注意。そして最後はコスプレ紛いの服装と仮面の副会長をフェイルは見る。

 

『いや駄目だねフェイルくん、生徒の模範となる生徒会が刃物を振り回すなんて! 本当に駄目な娘だッ──ぐふっ!?』

 

ドスッ! と副会長をサーベルの柄尻で鳩尾を叩き込めば軽く気絶した。そしてヒョイッと肩に抱き抱え、そして『それじゃ』と手を上げて消えた。

 

騒がしいと思えばすぐ解決してはちゃっちゃと消えていった。

残ったのはマジョーリカにバズーカの砲口をグイグイと押し付けられているガウェインと、そのガウェインの一歩下がった後ろにはメイドの鶴ヶ谷が立っており、未だに冷たい廊下に項垂れているトリスタン。もういい加減一人でもキレそうになっているルーカンも侘しそうになりながら教室に戻っていっていた。

 

 

取り敢えず。

 

 

 

「帰りましょうですの」

 

 

 

 

 

 

 

何故あのような騒ぎになっていたかと言うと、遅れて登校してきたマジョーリカはガウェインにびったりと付き従う鶴ヶ谷に疑問に思い、ガウェインと鶴ヶ谷の二人に聞いてみたのだ。するとガウェインは恥ずかしい台詞を言いながら鶴ヶ谷を助けた事を包み隠さずマジョーリカに伝えれば、最初こそ普通の対応だったのだが、授業を終えればガウェインの側に居て『お飲み物はいかがでしょうか?』やら『次は体育の時間です、お召し物を変えましょう』とガウェインの服を脱がせようとする鶴ヶ谷やガウェインの光景を見たマジョーリカは段々と苛々ボルテージが上がっていき、あのような結果となったのだ。

因みに体育の時の対応は、男子の着替える部屋まで付いて来てしまった鶴ヶ谷に『自分の事は自分でやる』と決めているガウェインは鶴ヶ谷の攻めを受け流し、逆に反撃と言わんばかりに鶴ヶ谷を女子たちが着替えている教室まで〝お姫様抱っこ〟をして戻したのだ。

勿論、女子が着替える前に返した。

 

 

 

そして現在、二年生のガウェインとマジョーリカの二人、一年生の大神とりんご、亮士の三人、合わせて五人はガウェインと亮士が住んでいる家にへの道を歩いていた。

学生の御伽花市内での移動はもっぱら徒歩か自転車かバスだ。場所によってはかなり歩くことになるが、学生はそんな時間も楽しむので問題なし。そんな正しい学生の下校風景を演出しつつ・・・・いやしていないかもしれない。

 

「魔女先輩。帰る時くらいその魔法の杖しまいしょうよ」

 

「嫌だヨー、この魔法の杖を押し付けていないと落ち着かないヨー」

 

「こっちも落ち着かないですわ」

 

歩くガウェインの広い背中に魔法の杖とあるが実質バズーカを押し付けているので全然落ち着いて会話もままならない。本物では無いだろう、と確信出来ないがかなり危なっかしい状態なのは変わりない。

 

「・・・・因みにマカ、その魔法の杖は何の魔法が使えるんだ?」

 

背中をバズーカで押して歩くマジョーリカにガウェインは思った事を口にする。

 

「んー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・使えば、分かるヨ?」

 

「やめておこう」

 

マジョーリカの語尾が短くなった事でガウェインは久々に真剣(マジ)に少し怒っていることに気付き、完全拒否することにした。

 

まぁ、絶対とは言わないが『破壊系魔法』だというのはあの|魔法の杖(バズーカ)を見れば分かるだろう。

 

「簡単に言うならヨー、アニメとかの魔法少女が使えるような魔法が使えるヨー?」

 

「・・・・・魔“砲”少女、か・・・・・」

 

「そうそう♪ 魔法少女ヨー☆」

 

(((絶対に危ない魔法だ!!!)))

 

案外攻撃的な魔法しか使わない魔法少女しか思い出せないガウェインは少しばかり冷や汗を流しながらも、この後の早めに帰宅した鶴ヶ谷とマジョーリカの事しか頭に無かった。

 

「そう言えばアニメも魔法少女というフレーズが多くなったような気がするですの」

 

「まぁ確かにな、だが魔法にも色々な魔法がある。破壊だけじゃなく再生、創造、戦闘だけの魔法なんてどこに・・・・も───」

 

「涼子ちゃん、まるで魔法を知っているかのような口振りですの」

 

まるでどこぞの『とある十字凄教の女教皇』が魔術を語るかのように大神が喋った後、自分でも『何言ってんだ/////』と恥ずかしそうにしている大神にりんごはニコニコと笑顔で見ていた。亮士も訳は分からなかったが大神の語り具合に嵌まったのか『物静かに語る涼子さんも、良いっス!』と頬を赤くしていた。

 

帰るだけでも苦労するガウェインがやっと亮士と同じ下宿先である《おかし荘》に到着した。

 

相変わらず庭付きの比較的大きな家にガウェインは詠嘆(えいたん)するように眺めた。

 

「・・・・広いな」

 

大神が思わず声を漏らす。

 

「ええ、下宿をやってるんスよね。だからおれ以外にも住人はいるんスよ」

 

「その住人に騎士先輩も含まれているんですのね?」

 

「そうっスよ」

 

「最初は下宿なのか? アパートなんじゃないのか? と俺は少し考えたな」

 

ガウェインがあそこ、と二階建ての住宅のすぐ横に接近した。全八戸ほどの部屋数のアパート風の建物を指差した。

 

「そうなんスよ、建物的にはアパートなんスけど、どうにも下宿といった方がしっくり来るんスよ」

 

ほら、と亮士が指をさした所を見ると、そのアパートと住宅は渡り廊下で繋がっていた。

 

「部屋には小さなユニットバスはついてるんスけど、本邸の方に大きな風呂があるんでほとんどの住人がそこを使ってるんスよ」

 

「そしてご飯もついてくる。朝と夜はみんなで食べ、お弁当も頼めば作ってもらえる」

 

若人さんには本当に助けて貰ってばかりだな、とガウェインは頭の中で思いながら亮士の説明に付け足しをする。

 

「へぇ、そりゃ確かにアパートってより下宿だな。・・・・・・それで名前は・・・・・おかし荘?」

 

大神が建物にかかっている看板を目を細めて読む。

 

「おかしそうですの?」

 

「お菓子と、おもしろそうって意味の「おかしそう」が、かかってるらしいっスよ」

 

「ふーん」

 

「八つ部屋はあるんスけど、今埋まってるのは五部屋っスかね、おれやガウェイン先輩を入れて」

 

それを聞いたりんごは疑問を口にする。

 

「それで商売になってるんですの?」

 

「はっきり言って下宿は道楽なんスよね。食事付きなのに値段は安くてほとんど採算度外視、借りる側としては暮らしやすくてとてもいいんスけどね。あと、叔母さんの気に入った人じゃないと入居認めないんスよ。だから入居者が少ないんすよ」

 

「・・・・そんなんで暮らしていけますの? というか、それ以外に収入があるんですのね? こんなに立派な家を建てれるほど」

 

「叔母さん・・・・雪女さんがそこそこ売れてる小説家してて」

 

「なるほど、だから暮らしていけるんですのね。でもなんでそんな道楽を・・・・」

 

「なんでも、若いエキスを吸い取っていると創作意欲がわくとか何とか言ってたっス。あとネタにもなるとか。だからおかし荘なんスよ。雪女さんがただおもしろそうだからという理由で作られたという」

 

とここまで亮士が説明をして、りんごがとある興味あるワードを亮士に聞くと同時に未だ背中に魔法の杖を押し付けているマジョーリカがガウェインに聞く。

 

「ここに住んでいたのかヨー」

 

「ん・・・? 確か話した筈だが」

 

「・・・フェッフェッ・・・!」

 

(なぜ笑う!?)

 

何やら黒い何か思い出したかのように笑いだすマジョーリカ。良い魔女と悪い魔女とおとぎ話などで出てくるが、今のマジョーリカなら恐らくは後者の方の魔女だろう。

大神たちも亮士から聞いた重要な単語に驚いては、またりんごと大神の漫才のようなやり取りをしていた。

どうやら大神は隠していた少女小説が大好きな事をりんごにバレて、またりんごにからかわれる。

りんごの巧妙な口撃(こうげき)と亮士の率直な口撃により大神はついに観念したようにやけくそ気味に大声でカミングアウトしていた。

そんな大神を散々からかって気が満足したのか至福の表情になっているりんご。

 

それを見計らってからガウェインは『中に入るか』と四人に促した。

 

「先輩方も助けてくれても良かったじゃありませんか~」

 

「仲睦まじく、良い光景だった」

 

「涼子可愛いヨー♪」

 

「ぐぐぐっ・・・・・」

 

 

先輩二人は本当に悪気無くそう思って言ったから大神も何も言えないし、騎士先輩は荒事の仕事で何回も助けてくれたし、魔女先輩も「ねこねこナックル」を作って貰った、実質大神はこの二人に何も言えないのだ。

 

まぁ、そんな感じでりんごと大神の漫才を交えつつ、ガウェインたちが門を開き敷地内に入ると、二匹の犬が大神に飛び付いてきた。

「おお! エリザベス! フランソワ!」

 

その二匹と嬉しそうに抱き合う大神。いつも突っ張った空気を全く感じさせない嬉しそうな顔で犬たちを撫でる大神。犬たちもわふわふと嬉しそうだ。

 

亮士がそれをうらやましそうに指をくわえて見ている。やっぱり亮士は犬に完敗。

嬉しそうに笑いながら犬に構う大神を見ているガウェインとマジョーリカ。ガウェインは少しでも“本物の大神涼子”の姿を微笑ましく見ていた、口を少し曲げた小さな笑みだったが。

 

そこでマジョーリカがガウェイン以外に聞こえないような、もしかしたらガウェインも聞き取れなさそうな程小さな声で、

 

「・・・・やっぱりそっちの涼子の方が、可愛いよ」

 

優しく、そしてガウェインに何回も見せてくれたあの優しい笑顔で大神を見ながら囁いていた。

さながら『不器用な妹を優しく遠回りに見守る姉』のような表情をしていた。

 

そんな風に皆で若干大神を微笑ましく見守っていたのだが、今日の要件は別にあることにりんごがいち早く気付いた。

 

「涼子ちゃん、感動の再会はそのへんにして、まずはおつう先輩の方をどうにかしましょうですの」

 

「うー・・・・しゃーねーな、わかったよ。・・・・・またあとでな」

 

大神は渋々犬二匹とお別れし、そして玄関前に立つ。そこには緊張・・・・・・とは程遠い、とも言えない、というか何考えているのか読めない無表情のガウェインが突っ立ったままドアノブに手をかけた。

 

そして勢い良く、そう、躊躇無く開けようとしたので後ろに居る後輩たちは『え、あ、ちょっ!』と身構える瞬間をずらしてしまい、開いた先に目に入った光景が、

 

「おかえりなさいませご主人様」

 

「ただいま」

 

相変わらずメイドな鶴ヶ谷おつうが笑顔で出迎えてくれた。

 

「ぉお・・・ですの、開ける側のクるものでは無く、この騎士先輩とおつう先輩のやり取りに、何か、こう、高校生のやり取りじゃなく新婚さんのやり取りに見えてしまい、クるものがありましたの」

 

「う・・・わぁ、凄え/////」

 

「ガウェインさん、男っス!」

 

ガウェインの動揺無しの対応に後輩たちは讃えるかのように鶴ヶ谷とガウェインを見ていた。そしてその直後、ヴォンッッッ!!! と空を撃つ音がその場に居た者全員の鼓膜に響いた。

 

しゅぅ~~・・・・、とガウェインの背中から白煙が静かに上へ上へと舞い上がっていた。

 

ガウェイン以外の視線がマジョーリカに向けられる。

 

「テヘッ♪ 撃っちまったヨー♪」

 

(((いやいやいやいやいやッッッ!?!?)))

 

可愛らしく小首を傾げて言うマジョーリカだが、片手にはもう魔法の杖よろしくバズーカから砲口から白煙が虚しく舞い上がっていた。

先輩ですけどテヘッじゃねぇよ! とツッコミ入れるべきだが常識をまず考えましょう。

日本の玄関先でバズーカ撃つ人は居ません。居たとしても危険人物認定されるのは時間の問題。

 

「だだだ大丈夫ですの騎士先輩!?」

 

「すげぇ音だったぞ!?」

 

「ガウェインさん!?」

 

三人共にガウェインの心配をするが当の本人は『大丈夫』と目で語りながら靴を脱いでいた。

 

「いや何気にスルーしようとしないでくださいよ!?」

 

大神が焦るようにガウェインに言うと、ガウェインはきちんと靴を手で揃えて綺麗に並べると、

 

「ちゃんと並べろよ?」

 

「はいヨー」

 

「あ、ハイ」

 

「分かりましたの」

 

「了解っス」

 

と皆綺麗に靴を揃えて並べてから上がる。

 

「・・・・さて、行くか」

 

「「「いやいやいやいやいや!?」」」

 

今日これから『いやいや』って何回言うんだろう、と軽く呟く三人組。

 

「マカは作った武器を考えて使うから大丈夫だ」

 

「いやものすごい音響きましたけど!?」

 

「空気の波長で耳から伝わった音が激しかったんだヨー、実際は周辺まで音は響かないし伝わらない設定ヨー♪ 空気は凄まじいけど」

 

とそこでガウェインの一歩前から待つように立っていた鶴ヶ谷が四人に気付く、というより前もって知っている。

 

「涼子さまにりんご様、それに亮士様にマジョーリカ様もいらっしゃいませ」

 

素敵な笑顔で迎えてくれるメイドに大神とりんご、涼子は少し苦笑。

 

「あんな音したのに動揺あんまねーな、おつう先輩」

 

「メイドたる者、なんたる時も動揺しては完璧のメイドとは言いません!」

 

びしっと鶴ヶ谷は自信に満ち溢れた顔で宣言する。大神も気圧されながら『お、おぉう』と返事する。

 

そんな風に玄関先で騒いでいた一同に突然声が掛かってきた。

 

「よう、亮士にガウェイン帰ったのか? ・・・・・・・・・・なんだ客か?」

 

鶴ヶ谷の後ろの長身でぼさぼさに伸びた髪を無造作に後ろで縛った化粧っ気のない眼鏡の女性がガウェインと亮士に声をかけた。

 

「ただいまっす雪女(ゆきめ)さん」

 

「ゆっゆきさん!?」

 

ガウェインもただいまを言おうとした瞬間に大神が少し高くした声を出し、驚きながら雪女を見てフリーズする。

 

「おう。で、その三人はなんだ? 亮士とガウェインのコレか?」

 

小指を立てる雪女。

 

「違うっス。というかその小指立てるのはおばさんくさい通り越しておっさんくさいっスよ」

 

「うるせえよっ! ・・・・・まあ、あんたらもせっかく来たんだ、あがってきな。茶と茶菓子ぐらいはでるぞ」

 

がっはっはと笑う豪快な雪女さん、そんな雪女に『豪快』じゃなくて『豪雪』の方が何か名前的にも雰囲気的にも合ってると勝手に頭の中で考えていたガウェイン。

こう、押し積もらす感じ・・・?

 

 

まぁ、とりあえず。

 

 

フリーズしたオオカミさんとまた何か背中に魔法の杖を押し付けてきた魔女さんをどうにかするか・・・・。とまた考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

居間に通されたガウェインや大神たち。とりあえず座るのだが、ガウェインの隣には当たり前のようにマジョーリカが座っていた。

雪女はそんなマジョーリカに微笑みながら大神たちの向かいに座る。

 

「初めまして、私は森野君のクラスメイトの赤井林檎と申しますの」

 

「・・・・おっ、大神涼子です」

 

「マジョーリカ・ル・フェイだヨー!!」

 

ニコニコなりんごとカチコチな大神、そしてバリバリのマジョーリカ。

 

「亮士の叔母の村野雪女だ。呼ぶなら雪女と呼んでくれ。にしても・・・・亮士もガウェインもやるじゃねえか。こんな可愛い子を二人ずつはべらかすなんてな」

 

「ほほほほ、ご冗談をですの」

 

「まったくだ」

 

「ガーくんはまだそんな事してないヨー」

 

りんごと大神は頬を染めること無く全くの素で返し、マジョーリカで素で現状の報告をする。

 

「亮士の方はやっぱりかで終わるんだが・・・・ガウェインの方はマジか?」

 

「さて、紅茶の用意しているおつうの手伝いでも────────」

 

「お飲み物を持って参りました」

 

「─────・・・・・ありがとう、おつう」

 

婦人からの質問を逃れようとした騎士がメイドの手伝いをしようと思えば、メイドが早速持って来ていたので見事逃げ口を潰され、渋々とメイドからの紅茶を受け取る騎士ガウェイン。

 

「あっはっはっは! 初めて逃げようとすっからだガウェイン!」

 

「そうですの騎士先輩! ここで一気に吐いた方が楽ですのよ!!」

 

「なんか、酒を飲みすぎた人に対する言い掛けだな」

 

聞きたくてしょうがないりんごは上半身を乗り出してガウェインに聞く。

逃げ道を失ったガウェインは素直に話すしかないか、と若干疲れたような表情になりながら話す。

 

昨日、鶴ヶ谷を助けたことにより、わざわざ家に来てまで恩返しをする行動力の凄まじさなどを大神やりんご、亮士に話した。

大神とりんごは前から話には聞いていたのか『あぁ~そのことか』といった感じに納得したが亮士の方は唖然呆然と驚いていた。

鶴ヶ谷の義理堅さに驚いたのか、はたまた行動力の凄まじさに驚いたのか。亮士はただ唖然としていた。

 

「そういう事でしたのね」

 

「まさかおつう先輩の恩返しだったとはな」

 

「凄まじいっス」

 

三者三様に反応する大神たちにガウェインは少し荷が降りた感じだった。だが何故かまだマジョーリカは不満顔だった。

牛乳瓶底型の眼鏡で隠れた瞳にどんな色でガウェインを見ているのか、気になってしまうガウェイン。

とその時、空になったガウェインのカップに鶴ヶ谷が紅茶を淹れてくれる。ガウェインの後ろに控えていた鶴ヶ谷が目を配っていたのだ。

 

マジョーリカも紅茶をおかわりするように『こっちにもヨ~』とカップを浮かす。

にこやかに微笑みながら鶴ヶ谷はマジョーリカのカップに紅茶を淹れる、すると丈が大きすぎるブレザーで上手くカップを掴めなかったマジョーリカは紅茶を淹れたカップを落としてしまう。

変な体勢で受け取ろうとしたので落下する場所はマジョーリカの身体の一部。淹れたての紅茶を被れば火傷とまでいかないかもしれないが女の子の肌にとって良い方向にいかないだろう。

 

だがその落下するカップからマジョーリカを庇うように覆い被さるガウェイン。

隣に座っていたので素早くマジョーリカを抱くように庇い、ガウェインの横腹辺りにカップは落下する。

 

その間わずか1.5秒くらいだった。

 

その数秒の間にガウェインの尋常では無い反応速度でマジョーリカを庇ったのだ。

 

「早過ぎですの!?」

 

「早ぇな!!」

 

「早いっス!!・・・って、ガウェインさん大丈夫っスか!?」

 

とその場に居た者全員が驚いている中、ガウェインは床に頭をぶつけないようにマジョーリカの後頭部に腕を回して横になっていたので、マジョーリカとの顔の距離がかなり近かったりする。

 

端からみれば顔同士近付いてるのでキスしてる感じに見えていた。

 

「おぉっとぉー! ToLOVEる的瞬間ですの!」

 

「うおぉおっ! マジか!」

 

りんごと大神はガウェインの火傷より、押し倒してる感じになって微動に動かない二人にテンションが急に上がった。

亮士は一人あたふたとして、雪女も口笛を吹いてこのハプニングに笑みを浮かばせていた。

 

ガウェイン本人はというと、

 

(・・・・・意外と・・・・・・・・・・・・・・・熱い・・・・・・・・・・)

 

一人熱さにもがいていた。

微動にも動かないで。

 

 

そしてマジョーリカはと言うと、恥ずかしがる事も嫌がる事も無く、ただジッとガウェインの顔を見ていた。至近距離でである。

 

唇と唇がくっつきそうになりそうでならない微妙な間がある。

 

「ああ、とんだ粗相を。申し訳ありません。早くこちらに」

 

なんにもしていないのに何故か畏(かしこ)まってガウェインに近寄り、連れ出そうとする。

 

(助かった)

 

ガウェインは熱さより目前の問題(二つの意味で)をどうしようと困っていたので鶴ヶ谷の誘いは今までに無い助け船だった。

ガウェインは遠慮なくその助け船に乗るべくマジョーリカに回していないもう片方の腕を使って起き上がろうとする。

だがその立てたもう片方の腕で丁度良くマジョーリカとガウェインの顔が隠れ。

その僅かな瞬間に、ペロッとガウェインの唇に温かくて柔らかく、そしてどこか蠱惑的過ぎる感覚がガウェインの脳を雷に打たれたように刺激された。

 

 

「ヴハァガッッ!!!!」

 

「ガウェインさま!?」

 

瞬速の如く直立するガウェイン。危うくぶつかりそうになった鶴ヶ谷はいきなり過ぎたガウェインの反応に数歩下がってしまった。

だがガウェインは鶴ヶ谷のことまで頭が回らないでいた。

ガウェインはすぐにマジョーリカを見てみると、厚い牛乳瓶底型眼鏡を少しずらし、白く玉のような柔らかい唇に舌を舐め回すようにしてから薄く笑った。

 

カチコチと不動に固まってしまったガウェインを今だと鶴ヶ谷がガウェインの腕を引く。

 

長身ゆえにか鶴ヶ谷の力では動かないガウェイン、それを見かねたマジョーリカは『手伝うヨー!』とずれた眼鏡を戻してガウェインの背を押す。

すると微動にだが段々と動くガウェインに同級生二人は頑張って風呂場にへと連れて行った。

 

居なくなった先輩三人に、残った大神たちと雪女たちは互いに顔を合わせて、

 

「きゃあぁあ~~! 見ましたの見ましたの!? あの生真面目過ぎる騎士先輩が、動揺しちゃってましたの!」

 

「かなり焦ってたぞ、オレもあんな騎士先輩見たの初めてだ」

 

「ガウェインさん、大丈夫っスかね・・・・」

 

「火傷の心配ですの? それとも男の心境として心配してるんですの?」

 

亮士以外は全員女性だったのがガウェインにとって痛かったんじゃないのか? と亮士は思っていた。火傷の方は無事に直立した時に『えっ、あ、大丈夫だったの?』くらいにまで心配度は下がったので今の心配はやっぱりトラブルはいえ女性にキスしてしまったガウェインが心配だった。

 

「まぁ、ガウェインは真面目だからなぁ。庇ったとはいえ無断でキスはなぁ~(ニヤニヤ)」

 

「心配してるんならそのニヤニヤやめるっスよ、あとキスしたかは分からないっスよ?」

 

「いやぁ~。あのマジョーリカっていう娘の顔見たらニヤ顔になってもおかしくないぞ? あとガウェインの反応からすれば・・・・まぁそれは各々のご想像で、だな」

 

たばこいい? と聞いたあと、たばこに火をつける雪女。

 

「おれ、心配なんで見に行って来るっス!」

 

亮士がやはりガウェインの状態が気になったのか連れていた所にへと向かった。

 

残る大神とりんご、そして雪女。

 

「じゃあま、ガウェインやおつうの事もあるが、ちょうど良く亮士もいなくなったことだし、学校でのあいつの話なんかしてくれねぇか? あのヘタレを預かっているあたしとしてはそこんところ把握しておきたいんだよ」

 

「わかりましたの、騎士先輩には悪いですけど」

 

りんごはガウェインに合掌を送りながら、とりあえず、亮士くんのおおかみさんストーキング事件のあたりから。

必然的に大神は羞恥プレイに突入した。

 

 

その後は亮士や大神について話せば大神の理想とする男像がどうなのか雪女がそれを言い当て、りんごがそれを褒め称え、大神が再びまっ赤に染まる。それを見て嬉しそうに笑っている雪女、かわいい甥っ子の惚れた相手が大神であったことがとても嬉しいのだろう。話を聞いたあと雪女は二人を気に入り晩御飯を食べていけ、と勧める。

 

「えっでも・・・・・」

 

恐縮する大神だが・・・・・

 

「いいから、いいから。まあそれまで適当に過ごしてな。外で犬ころと遊んでても良いぞ」

 

「ご馳走になります」

 

見事に犬につられた。あと、鶴ヶ谷をどうにかしに来た・・・・という訳じゃないが、最初の目的を完全に忘れていた。

 

日も沈み辺りは薄暗くなってきている。時間は夜七時。大神が時間も忘れて犬たちと戯れていると、どこからか声が聞こえてきた。

 

『てめーら、飯だぞー』

 

家に至る所にスピーカーが取り付けられているらしい。

 

「あ、はい」

 

「わかりましたのー」

 

大神はまたもや名残惜しそうに犬たちと別れ家に入る。

無茶苦茶広いダイニングに大神とりんごが行くと、初めて窶(やつ)れた姿のガウェインを目にした。ガウェインが座っている傍らにはもちろん鶴ヶ谷にマジョーリカ。

 

「・・・よぅ、亮士。騎士先輩どうしんたんだ?」

 

「・・・・・////////」

 

「・・・おい、亮士。なに顔赤くしてんだ?」

 

「・・・・・ガウェインさんは、勇者っス・・・・・」

 

大神が少し離れた場所でガウェインを心配そうに見ているのかと思えば敬意を払っていた。

 

あれからガウェインは全身を綺麗に“洗われそう”になったのだ。

マジョーリカの雷撃的な行動によって見事に脳内をショートしていたガウェインだったのだが必死に脳内を治し、意識を戻らせたと思えば制服が既に脱がされており、目の前では『ガーくんをお風呂に入れさせるのはあちきだヨー!』とマジョーリカが言い放てば『いいえ! ここはメイドであるわたくしめの役目です、信念です!』と見事に打ち返され『し、信念とまできたらちと困っちまうヨー』と優しいキャットファイトを繰り広げていた。

ガウェインはゆっくりと脱出する。だがすぐに捕まりお風呂に直行される、鶴ヶ谷はガウェインの腕を引っ張るのだが微動だにしない。しかし頑張っている鶴ヶ谷に悪いかな、と罪悪感が生まれたガウェインは取り敢えず服だけを着替える。そして風呂には入らなかったのだが膝枕をさせられ、耳掃除までされてしまった。二人順番にだ。

よくマジョーリカに鼓膜を破かずに耳掃除できな、と感心しつつ、普通ならばまるで夢のようなひとときだったのに違いないのだが、真面目、というより素直に《騎士道》や《武士道》といったルールを自分で決めているガウェイン、そうしてやっと人となる倫理規範を築けていっているのだ。

そんなガウェインはどのようにしてこの二人を相手をしり反応すれば良いのか分からぬまま苦悩に陥ってしまい。今の現状に当たった。

 

「わはははは、まあ、こいつは真面目だからな!」

 

十人がけの大きなダイニングテーブル、一番端の上座というか特等席とあうかお誕生日席に座った雪女が快哉(かいさい)に笑っていた。

 

「じゃまーおまえらも適当に座りな。みんな揃ったら飯にすっから」

 

すると、ダイニングにブラウンの髪をした男女二人組が仲良く入ってきた。

 

「こいつらは、ヘンゼルとグレーテル。見た目は外人だがずっと日本に住んでるから中身は日本人だ。ドイツと日本のハーフだとよ。兄妹でここの一号室と二号室に住んでる。おまえらと同じ学校だったはずだぞ」

 

その説明を聞きながら二人を見たりんごは声を上げた。

 

「あらまあ、生徒会長じゃないですの?」

 

「ん? 新しい顔たね」

 

興味深そうにりんごたちを見るヘンゼルにグレーテルが耳打ち。

 

「お兄様、御伽学園学生相互扶助協会の・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ああ、桐木君のところの。興味ないから憶えてなかったよ」

 

「んもう、お兄様! 失礼ですよ!」

 

「おまえのことならなんだって憶えてるんだけどね、グレーテル?」

 

「まあ、ヘンゼルお兄様ったら・・・・」

 

ヘンゼルの言葉に頬を染めるグレーテル。どう見ても兄妹の壁を飛び越えてしまっている。

 

「わははは、おもしろいだろこいつら」

 

雪女が相変わらず笑っている。おもしろいなんて言葉でながしちゃいけない気がしますが、雪女的には面白いからOKなのだろう。

 

次に現れたのは・・・・

 

「おう、真昼(まひる)。相変わらず暗いな!」

 

「・・・・すいません」

 

真昼と呼ばれたのは魔女さんことマジョーリカに匹敵しようとかというぐるぐる分厚いレンズの黒縁メガネで三つ編みの少女。しかし、印象はマジョーリカとはまったく違う。暗い、暗すぎる。無茶苦茶名前負けしている真昼。猫背で身体を丸め、そのまま黙って椅子に座る。それを見届けた雪女はキッチンの方に声をかける。

 

「おう、若人(わかと)揃ったぞ」

 

「じゃあ、人数多いし何人か配膳手伝ってくれるかな?」

 

ひとのよさそーなにーちゃんが現れた。これが雪女の旦那さん、村野若人。雪女に代わり炊事洗濯等々家事全般を難なく楽勝にこなすスーパー主夫。近所付き合いも大良好。最近近所のお婆さんから梨(なし)を貰っていたのを見かけた。

 

「あ、ハイわかりましたの」

 

「はい」

 

大神とりんごが立ち上がろうとするが。

 

「い・・・や、ここは俺が・・・」

 

と耳掃除(いくさ)に負けた騎士の姿は痛々しくも、若人の手伝いに名乗りを上げるガウェイン。だがそこを鶴ヶ谷に押さえつけられる。

 

「いいえ・・・ここはわたくしに・・・・お任せください」

 

鶴ヶ谷に押しとどめられたガウェインは力なく椅子に凭(もた)れる。

椅子に戻ったガウェインを見届けた後に配膳に移る鶴ヶ谷。

 

「いやあ、ありがとう」

 

にこにこ礼を言う若人に鶴ヶ谷も笑顔で返す。

だがガウェインはそこで鶴ヶ谷の表情に“何か”あるのに気付くまですぐには掛からなかった。

 

移動する鶴ヶ谷の足取りが怪しく見えたガウェインは静かに立ち上がる、今度はさっきまでとは別格に違う芯のある立ち方だった。

そして鶴ヶ谷が配膳を始めようとして、

 

「いえ・・・・当たり前のことを・・・・・しているだけ・・・です」

 

そして鶴ヶ谷はふらついたかと思うと、糸が切れたように倒れた。


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