マジョーリカさんめちゃ可愛いです!
そして浦島太郎の声優である浅沼さんやその他声優陣が有名!
声優陣半端無いスね(>ε<)
今回は結構残酷な表現がある話なので無理な方は無理をなさらずご覧下さい(涙)
ドスッ!
ドスッッ!!
誰も居ないボクシングジムに響くは余りにも鈍い音。
拳を思いきりサンドバッグを殴り付けた音だった。
その殴り付けた本人の後ろには付き従う『騎士』のように立つ二人組。
「・・・・その腕はどうしたんだい、《パーシヴァル》」
《パーシヴァル》と呼ばれた紫髪の男子高生はヒラリと自らの愛用するナイフで綺麗に突き刺した跡を見せる。
「いやなーに、少し自分の『殺意』が暴走しかけたから“自ら突き刺しただけ”だ」
異常。
まるで端から何も疑問に思っていないように話すパーシヴァル。
「・・・・そうかい」
そして聞いた本人も無関心のように聞き流す。
ドスッ!
そして再び鈍い音が響く。
「計画進行中・・・?」
「あぁ・・・・」
そして桃色の髪を小さいサイドポニーにした少女が静かに聞くと、聞かれた本人・白馬王子は苦り切った声が二人の脳裏に焼き付く。
「思い通りにいかない狼を狩りに行こうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
黒軋(くろきし)ガウェインは今、マジョーリカが居る『魔女工房』で暇を持て余していた。
それは何故か。
「『ねこねこナックル改』ですの?」
「そうだヨー! このグローブから伸びたコードは電気が流れてて、人を殴るとビリビリになるヨー☆」
「おぉー! ですの!」
「もちろん手は絶縁体で守られてるから安心と大丈夫のダブルセットなのヨー☆」
「凄い強力ですの、今回のねこねこナックルはっ!」
「・・・最早、女子高生が持つような代物じゃ無くなってきてるな」
ガウェインは魔女工房にある不思議な形をした椅子に座り、マジョーリカが嬉々(奇々?)とした笑顔でねこねこナックル改を赤井林檎(あかい・りんご)に渡している途中で話に割り込む。
「確かに荒事専門になって下さっている騎士先輩が居るので、涼子ちゃんにこのような可愛くもえげつないきょうき・・・・・・・・・・もとい凶器を持たせるのは私も納得はしていませんの」
「ノリノリでマカにアイディアを笑顔で提供していた者の発言とは思わせない口だな。それともといと言っておきながらハッキリと凶器と発言してるぞ」
「大丈夫だヨー!」
「何が大丈夫なんだ、マカ」
マジョーリカが元気良くヒラリと長いブレザーと共に回転してからピッと人差し指を立ててガウェインに言う。
「たかが五十万ボルトの電流が流れるだけだヨー☆」
「流された相手は“たかが”で済まされない危害だな」
だが生憎と感情が余り無いガウェインにとってその危害さも良く分かっていない状態なので『まぁ・・・良いか』で済まされた。
その後はまた別の開発について話が発展していき、ガウェインはマジョーリカに断ってから御伽学園を彷徨(さまよ)う。
「酔(よ)う? ガーイン邪(じゃ)ないカ」
「また俺の呼び名が変わっているな“ケイ”よ」
そして本当にやることが無いガウェインの前に現れたのはまた奇天烈な恰好をした『円卓の騎士』の一人でもある本名不明である“ケイ”だった。
今日は何故か袴の上にブレザーを着て、鰐(ワニ)の覆面を被っている、何故か。
背後から声を掛けられたので一目見れば仰天ものだったのがガウェインは相変わらず何も反応しないでいつも通りの対応する。
ケイもその変わらない対応につまらなそうに溜め息を吐く。
「何だ、その妻羅無(つまらな)い犯能(はんのう)は」
「何か反応すれば良かったのか?」
「・・・・妻羅乱(つまらん)」
鰐の覆面のアゴをフガフガとしながら袴の懐からプリントを取り出す。
プリントがグシャグシャに折り曲がっていた。
「副会長からだ」
「・・・・・」
ケイの“変舌”は無くなっており、ざわめくような不愉快な発音をしないでまともな口調で話すケイ。
ガウェインもそのグシャグシャに折り曲がったプリントを受け取る。
「亡妖(ないよう)は素手に訊かされてると重(おも)うが、“霊(れい)の嫌(けん)”だ」
(“例の件”・・・・・・・・・・)
副会長という名を聞いたガウェインはすぐに顔色を変え(大した変わって居ないが)、グシャグシャになったプリントを綺麗に両手で折り畳みケイに返す。
「・・・・南(なん)だ?」
「・・・副会長には分かったと伝えてくれ、そして現代文はちゃんと勉強しといた方が良いぞ、ケイ」
それを言い残し、ガウェインは御伽学園の校門にへと向かって行った。
残されたケイは覆面であるワニの大きな顎を揺らし、綺麗に折り畳まれたプリントを開くとそこには。
「・・・・!・・・島った・・・之(これ)は現代文のテストプリントだっ多!」
赤い字で『0点』と清々しく書かれてあった。
教師のコメントらしきものあり、そこには『ちゃんとした日本語でお願いします・・・』と泣く泣く書かれてあった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よぉ、あんた大神さんかい?」
振り向いた瞬間に見えた柄の悪い集団。
まずったか、大神は心の中で舌打ちをする。ここには依頼で来たはずだ、なのに来たのはこいつら。完璧に嵌められた。
大神は男たちの数を数える。合計十五人か、流石にこれは多すぎる。今ここにいるのは大神と亮士だけ。
しかも、最悪なことに大神の目の前にいる男たちの制服は悪名高き鬼ヶ島高校のものだ。御伽花市立鬼ヶ島高校、それは市内唯一の公立校。御伽学園が創立される以前から御伽花市にあったこの高校は、御伽学園やその他の私立高ができたことにより様変わりした。
ほとんどの人間はそれらの高校の流れ、貧しい家でも、そこそこの成績があるか、素行がまずなければ奨学金を受け取ることによって、それらの私立に通うことができたのだ。
そしてそれらの学校に通うことが出来なかった、もしくは素行の悪さにより拒否された者たちが鬼ヶ島高校に流れ込むようになった。
そして今、鬼ヶ島高校は不良の吹きだまりとして近隣高校に恐れられる存在になっている。
「涼子さん、どうしましょう」
亮士がビクビクしながらもどうにか大神の前に出ようとする。視線の多さにやられ物凄いスローモーションで遅々(ちち)として進んでいないが。
どうする、どうする? 大神は内心焦りつつも強気な態度を崩さない。
ここは奴らのテリトリーじゃないはずだ。なのにここまで出張ってくるとは。
「これまたわいたもんだな、一匹見たら〜ってやつか?」
「ヒヒヒッ、強がっちゃって可愛(かわウィ)〜ねぇー!」
馬鹿一人が前に出て来た。
この馬鹿は前にガウェインにコンビニの前で群がっていた所を注意され、衝撃の場面を目の当たりにした高山(たかやま)だった。佐林(さはやし)と言う先輩とよく一緒にいる鬼ヶ島高校生だ。
「・・・・で、鬼ヶ島の連中がいったいオレになんの用だ」
大神は当然のように無視して他の鬼ヶ島高校生の奴に聞く。無視された高山は不良とは思えない程純粋に無視されて落ち込んでしまい口を閉ざした。
「いやね、うちらのボスがお前のこと欲しいらしいんだよ。あとちょっとは反応してやってくれよ・・・可哀想だろ」
そして答えたのは高山と仲の良い佐林(さはやし)だった。佐林が言った言葉を聞いた大神はまた焦りが総毛立つ。
「というわけで、ついてきてくれないかなー」
他の不良が嫌らしい笑顔でそう言う。大神は考えて考えて─────結論が出た。逃げられない。何もまして人数が多いのだ。この数に打ち勝てる程大神は強くない。
「・・・・・・・・・・用があるのはオレだけか?」
大神さんは静かに聞いた。
「そうだな、野郎が居たってしょうがねえだろ。ほんとはもう一人女が来る予定だったらしいがいねぇし」
りんごを連れて来なくて正解だった。大神は少しだけ安堵の溜め息。
「分かった。というわけだ。亮士、お前は帰れ。どうせお前がいてもなんの役にもたたないしな」
大神は亮士の顔を見ずに言う。
─────な
「えっ?」
信じられないと大神を窺(うかが)う亮士。
「だから消えろ、邪魔だ」
─────くな
「でも」
食い下がる亮士。
─────ないで
「帰れって言ってんだろうが!! お前がここにいても盾にすらならねぇんだよ!!」
とうとう怒鳴る大神。唇を噛み締め、拳を握りしめ、これ以上ないほど悔しさに顔を歪めた亮士は絞り出すようにして言った。
「・・・・・分かった・・・・っス」
亮士は大神に背を向け走り出した。
それを見ながら大神は、
──────行かないでっ!!
安堵し、絶望し、心の隙間からかすかに漏れてきた本音に愕然とした。
『─────行かないで!!』・・・・か。
「・・・・・ははっ」
思わず自嘲する大神。
「・・・・・はははっ」
昔とまったく変わってなかった自分に苦笑いが漏れる。
大神は気がついた。強くなったと思っていたが、ただ自分が強いと自分に嘘をついていただけだったことに。
大神は気がついた。亮士がいなくなるだけで嘘を突き通せなくなるほど亮士を頼りにしていたのに、自分は一人で大丈夫だと自分に嘘をついていたことに。
大神は気がついた。自分の嘘に気がつきながら、それを押し込めて自分を騙して見てみぬふりをしていたことに。
大神のついていた嘘。自分に偽るための嘘。
あまりに情けなさに笑いが漏れる。
「ははははっ」
笑いながら大神は亮士にかけた言葉を思い出す。
『帰れ』・・・・・か。かっこいいな。
「ははははっ」
この自嘲も、どう猛な笑みに見えているだろう。
・・・なんだ、オレは嘘つきじゃないか。
認めようオレは嘘つきだ。大神さんがぎょろりと視線を向けると、視線を向けられた男たちはビクッとして一歩下がる。
ほら、みんな騙されてる。
大神が嘘と嘘の間に出来たわずかな隙間を嘘で埋めている中。
むさい男たちだけの中に小柄な身長をして桃色の髪をした女の子が立っていることに大神は気付いていないまま、オレは強いと嘘の毛皮を被る。
「おいおいこっこいいな本当に彼氏いっちまったぞ」
「ふん、はなからあんなやつ頼りにしてねえよ(“こっこいいな”?)」
「高山、高山っ! お前カッコつける為に早口で言ったから噛んで“かっこいいな”を“こっこいいな”と言ってるぞ!」
「うぇっ!! マジでスか佐林さん!? オレそんな事言ったんスか!」
「言ったからツッコんでじゃねぇか。あと大神も不思議そうに考え込んでるぞ」
そう言われて高山は大神を見て、数秒の間を挟んでから。
「やっ・・・・んのかゴラァァァアアっ!!」
『『『えっキレたっ!?』』』
鬼ヶ島高校生の皆はハモるように高山のキレ加減が分からず、思わずツッコミを入れてしまい。各々赤面しながら高山の後に続いて大神に襲いに掛かる。
「はっ、ただの女だと思ってると痛い目見るぞ」
嘘つき大神(オオカミ)さんは自分は一人で大丈夫だと嘘をつき、頼る者も誰もいないと嘘をつき、自分は強いと嘘をついて・・・・・
「てめぇら、・・・・オレを怒らせたんだ。ただで帰ると思うなよっ!!」
・・・・・大声で
「オラァァァァァ!!」
まず一番に突っ込んで来たのは大声を張り上げて素人丸出しで殴り掛かってきたのは高山だった。
「ふっ!」
問答無用の文字が一番しっくりくる殴る音が高山の溝に入る。
「ぐははははは!! 俺には効かねぇぇぞ大神ぃぃぃぃぃ」
と叫ぶ高山だが、顔は気持ち悪い程紫色に染まり、何か症状が発病したみたい蒼白になっていく。殴った大神(ほんにん)も少しビクッとして後ずさる。
「高山ぁぁぁぁぁ!!」
愛する後輩が倒れてしまい佐林はすぐに駆けつける。
「大丈夫か高山っ! うわっ気持ち悪ッ!」
佐林は弱々しく横になった高山を抱き抱えるように浮かせたが、余りにも蒼白になり過ぎていた高山が気持ち悪過ぎてゴンッ! とコンクリートの地面に後頭部を打つ。
溝と後頭部の強打で自然に高山は倒れた。
「よくも高山ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
「お前がやったんだろうがっ!」
コントかっ、と大神がツッコミしながらも他の不良もとい鬼ヶ島高校生の連中を相手する。
佐林は後頭部を押さえて悶えている後輩を椅子にしてその乱闘を見物する。決して佐林は強いから高みの見物に洒落込んでいる訳では無く、あんなバトル漫画みたいな展開の中に突っ込む程自分が強くないことくらい理解している。だから見物するしか佐林のやる事は無いのだ。後輩を治療するという選択肢もあるが面倒なので快く却下する。
「強ぇな、大神。鬼ヶ島高校の連中相手に食いついてくるなんてよ」
悶えて椅子になっている高山に返ってくる返答を期待しないで話す佐林。
三人目が丁度大神のパンチを顔面に食らって気絶した。
「っんとうに女かよ、大神」
佐林が暢気にそんな風に言っていると、女に殴られて尻を地に着かされた事で完全に頭に血が登り、懐からバタフライナイフを取り出していた。それに気付いた佐林はすぐに血相変えてそいつを止めようと駆け出す。だが間に合わない。
だがその時だった。
────ジャラリッ・・・・・
佐林が聞いたのは鉄の摩り合う鈍り音だった。
そしてその聞いた瞬間にバタフライナイフを持っていた鬼ヶ島高校生は腕に鎖が絡まれていた。
その一瞬の出来事にその場に静寂に包まれた。
大神もそこで逃避すればなんとかなったものなのだが、鎖が繋がれている元を見て思考が停止してしまったのだ。
「喧々囂々(けんけんごうごう)」
そう言ったのは桃色の髪が似合うとても可愛らしい小さな女の子だった。
立っているだけで等身大の人形なのではと思わせてしまう程表情が固まっていて、その固まった表情の少女の腕にはとても可愛らしい少女には似気(にげ)ない鈍りの鎖がジャラジャラと巻き付けていた。
ジャラッと鎖が鳴る。
(あの制服、御伽学園(ウチ)のやつだ!)
大神は可愛らしい少女と不釣り合い過ぎる鎖を巻き付けている女の子に目を向けて声を掛けようとするが。
「それ・・・・なに?」
腕に鎖を巻き付けた少女がバタフライナイフを持っている鬼ヶ島高校生に問う。
だがその鬼ヶ島高校生は答えない。不審がった大神がその男子に目を向けるとそこにはガタガタと震えている“鬼ヶ島高校生”が居た。
よく周りを見渡すと全員が口を閉ざして俯いていた。
なんだこの状況?
大神がそう思っていると、鎖で繋がれていた鬼ヶ島高校生が震える口で答える。
「あぁぁ、いや、そのこれは・・・・・・・・・・」
「それ・・・・・なに?」
また同じ問いにビクッと少女より大きな身体をした男子高生が戦(おのの)く。
そして何とかこの状況を打破しようと、バタフライナイフを持っていた男子高生が口を開こうとした瞬間だった。
「短刀禁止・・・だよ」
それを呟いたと思ったら少女は勢い良く男子高生の腕に絡まれて鎖を『引き戻した』のだ。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああーーーッッッ!!!」
グチャッァ! と絡まれていた鎖を男子高生の腕の衣服と共に『皮膚』を千切(ちぎ)り戻したのだ。男子高生は苦痛で絶叫しながら肉が剥がれた腕を押さえ込んで踞(うずくま)る。
ジャラッと少女の腕には相変わらず似気(にげ)ない鎖が巻いてある。
その鎖を良く見れば所々に腐敗した『何かの肉』が挟まっており、かなり不気味と言うより『気持ち悪い』が一番に当てはまった。
彼女が気持ち悪いのでは無く、彼女の周りに漂う空気・空間・感覚が人を気持ち悪くさせるのだ。
彼女が現れた瞬間に鬼ヶ島高校の不良たちは驚くほど大人しくなった。彼女の異様な雰囲気と壊(イカ)れ具合が鬼ヶ島高校にいる生徒たちを黙らせたのだ。
どう考えてもあの小さな女の子が行なった行為は絶対に楽しくなるような行為では無いことくらいは馬鹿な佐林や高山でも理解しているつもりだった。
だがその残酷な行為を最愛のように至高の微笑みを浮かばせている少女が鎖を鳴らしていた。
「クスクスクス・・・・楽しいなぁ・・・・・壊すの楽しい」
ブツブツと鎖にこびりついた腐肉を見つめながらうっとりとしていた。
おかし過ぎる。
そして果てしなく気持ち悪い。
それを今この場を支配していた。
やがて鎖から目を離すのを勿体無さそうにして、大神を見た。
ビクッ!! と大神は一瞬にして心臓が跳ね上がった。鎖に対しての恐怖なのか、それとも人の肉を愛しそうにして削り抉(えぐ)ったあの小さな可愛らしい女の子に対しての恐怖なのか分からなかった、判断出来なかった。
「アナタの顔を傷つけては駄目なの」
今の大神にはあの近寄ってくる少女の言葉を聞き取る事で精一杯だった。構えすら出来ないでいるのだ。
「アナタの顔・・・綺麗」
ググッと少女は大神の顔を覗き込む。
「人品骨柄(じんぴんこつがら)」
「・・・・えっ?」
「知らない? 人品骨柄──その人にそなわっている品性」
大神はなぜこの無垢そうで純粋そうな少女が人を『物』みたいな目で見れているのか理解出来なかった。
「サハヤシ、タカヤマ」
「「え゛っ!?」」
急に少女から自分たちの名が出るとは思わなかったのか、佐林と高山は変な声で返事をする。
「サハヤシタカヤマ」
「は、はい!」
「なななな何でしょうスか!」
佐林と高山はすぐにその少女の“辺り”まで近寄る。佐林が繋げて呼ばないで下さいと空気を読まずにツッコミを入れようとしたが、そうすれば次に肉を抉られるのが己になるかもしれなかったので言わないでいた。
高山は少女の両腕に巻かれている鎖を見てガタガタと震えていた。
「どーしたタカヤマ?」
「あふぇっ!? ななな何がでしょうなんでしょうスね!?」
(死んだな)
佐林はビビりまくりの高山を心の中で合掌した。だがそんな高山の変な言葉に少女は声を上げて笑った。
「アハハハハッ、タカヤマ変な言葉」
「はひぃっ!! ずみ゛ま゛ぜん!」
高山はもう涙声と涙目でまともで居られなかった。
「じゃあ、この子を連れて先に行く」
「お、俺たちが連れて行くと?」
「サハヤシ、そう」
少女はそう言って佐林に早く行くように促した。
「あ、あの・・・あなたは?」
佐林は高山と一緒に大神を挟むように立って小さな可愛らしい少女に聞いた。すると少女は至福に満ちた顔と声で返答する。
「私は、これから人品骨柄に値しない『物』を壊すから先に行ってて欲しい・・・・♪」
それを聞いた佐林はすぐに血相を変えた。意味を分かったからだ。
「早く行かないなら・・・・・サハヤシタカヤマも壊す♪」
本当に幸せそうにして少女は佐林に腕に巻かれた鎖を見せる。鎖から漂う肉の腐敗臭を嗅ぐとすぐに大神の腕を掴んで目的地にへと向かった。
背後から『あとで“パルツィ”が迎いに来る・・・・』と同時に悲鳴と絶叫が聞こえてきた。
「クソックソックソッ! こんなっ、こんなヤバい事なんて聞いてねえぞ!!」
「うぶぅ、はぁはぁ・・・・おぇぁ・・・・おぶぅぅぅ!!!」
「バカ山もちゃんとしやがれッ! 大神を絶対に逃がすなよ! 逃がしたら腕じゃなく顔の肉を抉り取られるか、下手すれば殺される!」
佐林は涙目になりながら必死に大神の腕を掴んで連れて行き、背後からはまた蒼白の顔になりながらも必死に着いて来ている高山が目的地へと向かった。
大神は必死に嘘の毛皮を深く何度も被り直して、佐林と高山の言う通りに連れて行かれた。
もう・・・・・毛皮を深く被るしかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
御伽学園生徒会副会長がケイを通してからの言付け。
“例の件”
ガウェインはそれを懸念に抱きながら御伽花市を歩いていた。
長身で黒いフードを着ていれば本当に目立っていた。
ピピピピピッ♪
無表情のまま歩いていたガウェインは懐から何の特徴も無い電子音が鳴り響く。
歩きながら携帯を取り出して電話に出る。
「・・・・・もしもし」
『僕だよ、黒軋くん』
その声を聞いた瞬間に動きをすべて停止するガウェイン。
「・・・・・・・・・・・・副会長」
“副会長”と呼ぶガウェインは道路の通行に邪魔にならないように端に寄って、耳をしっかりと立て副会長の声を聞く。副会長から流れる通話マイクから元気な子供たちの声が聞こえてきた。
「・・・・初等部か幼等部に居られるのですか?」
『ハハハ、今日は初等部だよ。体育館で皆とバスケを勤しんでいた所さ』
陽気な副会長の声にガウェインは溜め息を漏らした。それを聞き逃さなかった副会長はガウェインに労う。
『本当に済まないね、初等部に関する書類を届けに来ただけだったんだけど子供たちの元気な声を耳にしてね。遊び心が見事に回帰してきたんだよ』
「はぁ・・・」
そんなガウェインに副会長は急に静かな、重さのある言葉を耳にする。
『西区153の7番地』
「・・・・・・・・・・」
『それじゃあ、僕はバスケから鬼ごっこに勤しむ事にするよ。元気な子供を見るとこっちまで元気になってくるよ♪』
それじゃあ、と言って副会長は電話を切る。
ある事言ったら速終了といった感じだった。
「・・・・・・・・・・・・」
ガウェインは無言のまま携帯をまた懐に戻して、副会長が言い残した場所にへと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
────足りない。
────まだ壊し足りない。
壊して壊して“彼”の道を開かせたい、邪魔にならぬよう無(ゼロ)に壊(もど)したい。
ジャラジャラと血だらけになった鎖を引き摺りながら少女は思った。
『破壊衝動』
人間の様々な事柄により発作的に沸き起こる衝動。物事を壊し尽くしたりしないと“我慢”という苦痛のストレスを味わう。
少女は目にうつる“全ての者・物”を壊さないといけないという衝動に襲われるのだ。自分でもそれはいけない事だと分かっていても抑えきることが苦痛でしかなく、我慢すればするほど病的なまでに狂い苦しむのだ。少女は自殺を何回も行なった。こんな衝動に刈り立たされて“モノ”を壊すのが嫌だったのだ。
だが実際に壊していけばいくほどそれは至高なまでにストレスの発散と苦痛から救われる唯一の方法だったのだ。
だが唯一、唯一少女が壊さずに見れた“モノ”があった。
白馬王子。
天から授けられた色々なものを詰め仕込まれた王子は壊す対象として衝動が沸き起こらなかった。そして驚くことに彼と一緒に居るだけで我慢というストレスと苦痛が無くなっていたのだ。彼の近くに居れば“普通の女の子”として居られる。生きていけるんだと喜んだのだ。
命を救われたと同じだ。
少女は彼の為ならこの救われた命さえ捧げよう。
彼に害する『モノ』があれば喜んで“壊し尽くそう”。
彼の願いを叶えられるものであれば喜んで全てをあげよう。
この鎖で全部“破壊”する。
王子(かれ)の近衛騎士として破道(みち)を切り開きたい。
少女は鎖をジャラッと鈍り音を鳴らして西区にある廃工場にへと向かった。
「大丈夫、・・・・王子は、ただ座ってれば良いんだよ・・・・・・・・・・・・破道(みち)を作るのが、私と“パルツィ”の騎士としての務め」
可愛いらしい小さな少女騎士は、駆けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
場所を見つけるのに以外と時間が掛かったガウェインはやっとの思いで着く。
ガウェインの目の前には大きな廃工場があり、そこから騒がしい乱闘の声が聞こえていた。
鬼ヶ島高校の奴らか? ガウェインはそう思いながら廃工場の上の階に上がる階段を静かに登り、上から様子を窺うと。そこにはマジョーリカによって改造されたねこねこナックル改をはめて殴り飛ばし、電流を浴びせている大神涼子の姿とスリングショットで大神を見事に援護射撃を繰り出している森野亮士が上の階から射っていた。
鬼ヶ島高校生の連中は突っ込んで来る大神を飛んで火にいる夏の虫と、囲もうとするが亮士の鉛玉が邪魔をする。一対一ならば大神も後れをとることはない。しかも今の大神には新兵器を身につけている。パンチ一発で気絶ものだ。
どんどんと男たちを一撃で沈めていく二人。
そしえガウェインは前髪で隠れていない片目で大神の表情を見た。とても気分の良さそうな動きで相手を沈めていってる大神にガウェインは少し安堵の溜め息を吐く。
「・・・・・良いコンビじゃないか」
無表情ながらもガウェインは少し嬉しそうな顔でそう呟いた。
確かに大神の背後を守るように狙撃していってる亮士は凄かった。的確な狙撃で相手の邪魔をしているのに関心していたガウェインだったが、新手らしき不良が赤井林檎を人質にしていた。会話を聞き取ることまで出来なかったが色々とマジョーリカからか弱い女の子として護身用の『兵器』を幾つか持たせていることを思い出して、一応飛び出す準備をしていたがバヂバヂバヂィィィィィ!! と電流が流れる音がしたと思えばりんごを人質にしていた不良がどすんっと倒れ、尚も倒れた不良にスタンガンらしき物で再び向けているりんごが居た。
「えげつない、という言葉が合うか?」
一人ボソリと呟くと、ぴくぴくと痙攣している不良を横にすっきりした良い笑顔で汗を拭くりんごを見て間違いないではないな、と再び頷く。
このままなら大丈夫だな、とガウェインは判断すると身を回れ右して戻ろうとした。
だが、
「いやー大丈夫だったかい?」
そんな声を聞いた瞬間にある“騎士”二人を思い出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「・・・・・白馬先輩?」
大神が王子に目をやる。すると王子は心配そう顔で大神に話し掛ける。するとりんごが警戒感を隠そうとせずにスタンガン片手に大神の前に庇うように立った。
「佐藤君が君たちの所に行ったんだろう? 彼女はね、ボクシング部のマネージャーなんだよ。だからね、僕が振られた所を見てたらしいんだ。彼女は僕が好きだったらしくて、僕を振った大神さんが許せなかったそうだよ。ほんとに巻き込んでごめん」
頭を下げる王子。
「じゃあ、この場所がわかったのは?」
「佐藤君に教えてもらったんだ。彼女が罪の意識に耐えかねて告白してきたんだよ」
「それでは、彼女とそこで転がっている彼らとの接点はなんですの?」
「それには僕にも分からないよ。彼女は真面目な人だったから」
王子は本当に残念そうに言う。その王子にりんごは笑って言った。
「じゃあ、私が教えてあげましょうか?」
その言葉に固まる王子。がどうにか持ち直すと笑顔で聞いた。
「どういうことだい?」
「ここだけの話、あの支店は防犯カメラが仕掛けられてるんですのよ。だから、彼女が来たときから暇人の頭取さんが一部始終見てたんですの。で、なんとなくきな臭く感じた頭取さんはいろいろ調べてみたんですの。私たちに集まってくる情報はかなり多いですし、貸しを使えば聞き込みもスムーズですし、一歩も出ないでその場で調べられたらしいですのよ? 奇妙な特技を持ってますし」
流石ですね〜と人事のように言うりんご。
「それでですの。彼女が嫉妬を感じたのは本当、彼氏と別れたのも本当ですの。ただ、彼氏の方がしつこく迫っているというのは嘘。そして、彼女の嫉妬を煽ったのはあなた。彼女はあの場面を見てません。見たというのは嘘で、実際はあなたが落ち込んだ様子を見せて、心配した彼女に振られたことを悲しそうに話した。さらに調子を崩した“ふり”をして対抗戦で苦戦してみせて、涼子ちゃんへの心配を憎しみに変えさせる。どうせ、そこまでやるなら負ければよかったですのに。やっぱりプライドですの?」
可愛らしく小首をかしげて聞くりんご。王子は笑顔で返事をしない
りんごの推理は次々と的を射ていく。
王子が全ての計画を企てていたことを見抜かれたのだ。
「まったく・・・・・。せっかく、限界まで追いつめられた大神くんを颯爽と助けて惚れさせようとしたのになぁ」
「びっくりするど陳腐な作戦ですのね」
「まーね。僕もそう思うよ。でもね、とても効果的ではあるんだよ。実際大神君は追いつめられてあと一歩で崩れるってところまで行ったしね。そこでかっこよく助けだし、その折れた心を優しく支えてあげれば一丁上がりだ」
ずっと見ていた王子に趣味の悪さがすぐに分かる。
「う〜ん、僕の敗因は君たちの情報収集能力を侮ったことだねぇ」
「それもあるんですけど、一番は森野君ですのよ。でないと間に合わなかったですの」
「ん〜あのヘタレ君がこんな特技を持っていたとはね」
「正直言えば私もびっくりですの」
りんごと王子の会話が終わったところで、大神は聞いた。
なぜオレなのだと。
王子は大神の素材が最高で、磨けば光る容姿に、その強い心。強気な大神を自分の思いのたたにできたら、それは素晴らしいことだと思うらしい。
「僕はね、自分で言うのもなんだけど努力家なんだ。客観的に見ると容姿家柄才能すべてに恵まれているように見えるだろう? 確かに欲しいものはだいたい手に入れてきた。それでも僕はこの世が思い通りにならないと知っている。それが嫌なので僕は努力する。この世が僕の望み通りに回るように。すべてが僕の思い通りに行くように。そして努力でできないことをなくしていった結果、今の僕があるわけだよ」
「ふん、こいつらもその努力の成果というわけか? 確かに努力家なんだろうがはっきり言って反吐(へど)が出る」
「いいねいいね、その反抗的な態度。最初から思い通りになるもの、それはそれでいいんだよ、ただね、やっぱり自分の思い通りにならないものが思い通りになる、その喜びに勝るものはない」
「だから、おまになびかなかったオレを努力で自分のものにしようとしたわけか」
「ま、そういう訳だよ。ちなみに君の質問答えると、そこに転がっている彼らも僕が努力して人脈を作っていった成果だよ。そう、人脈も力なんだよ。表だけでなく裏でも力を持ってないと、なかなかすべてを思い通りにはできないよね。ただ、そこに転がっている役立たずたち、これは努力というまでのことでもなかったんだけど。金であっという間に懐柔されちゃったし。ま、その分使えなさすぎだけど」
全くとあきれ顔の王子は肩をすくめ、そして急に笑顔に戻ると言った。
「で、君たち。時間稼ぎはこの辺までにしてもらおうか。助けが来る前に、君たちを動けなくして大神君と赤井君を持って帰るよ。ま、そのあとは楽しい一時を過ごさせてもらう」
「断る。作戦が失敗したら、今度は無理矢理に自分のものにしようってか?」
「その通りだよ。力づくでも自分の思い通りにするには変わり無い。さっきも言ったように僕は、この世のすべてが都合良く回るわけがないと知っている。理解している。ただ、理解するのと、納得するのは別物だよね? 腹が立つものは腹が立つんだよ、僕の思い通りに行かないと」
「とんだ我儘おぼっちゃまですの。それでなぜ連れ帰るリストに私が加わってますの?」
「いや、君もなかなか反抗的だから、思い通りにすることができたら、とても気持ち良いだろうなと」
「・・・・最悪ですの」
げんなりと本気で嫌な顔をするりんご。
「りんご下がれ、こいつはオレがぶん殴る」
「できるつもりかい? 一週間もスパーリングしてたんだから、僕の力はわかっているだろう?」
「一人ならな・・・・・亮士!!」
大神はそう叫びながら走り出す。が、
「おっと、させないよ」
王子は大神の懐に入り込んだ。
「なっ!」
驚く大神。しかし、反射的に殴りかかる。
「当たらないよ」
いったんバックステップで下がりパンチん避けると、再び接近し大神の腹を思い切り殴る。
「ぐはっ」
たったの一撃でよろめく大神。
「確かに、その物騒なものをつけている君のパンチが当たってしまったら一撃でおしまいだ。だけど当たらなければ意味が無い。ちなみに僕はボディしか殴らないから。顔殴ると手が痛いし、顔が壊れるとしらけるしね。ちなみにボディでダウンするのは苦しいらしいよ。僕は経験ないけど」
「うるせぇよ」
その様子を見て二匹の犬は王子に襲いかかり、
「邪魔だよ」
その一言ともに吹き飛ばされた。
「っ! エリザベスちゃん! フランソワちゃん! 森野君、援護は?」
上手く大神を盾にして亮士の狙撃をさせないようにして王子はボディにパンチを叩き込む。
「がっ!」
ほとんど気力だけで崩れ落ちるのをこらえる大神。
「どうだい? お腹が重くなってきたかな? でもあまり屈まないで欲しいなぁ、盾にならないし、まぁ、もう一発くらいかな」
王子は笑顔を絶すことなく止めを刺しにはいる。が、その時だった。
カバッ!! と突如王子は黒い何かに押さえ込まれた。
「くあっ!」
いきなり上からの襲撃により、王子は抵抗しようも無いようにその襲撃者に目を向けるとそこには、黒いフードに片目を隠すほど長い前髪に、無表情な顔をした御伽学園の通称『黒騎士』、黒軋ガウェインだった。
「堕ちたな、白馬王子」
「「「騎士先輩っ!」」」
思わぬ助け舟にりんごと大神、亮士は誰よりも強く、信頼する助っ人が来たことにより安堵の息を吐く。
だが、それがいけなかった
王子が笑っていることを気付いていないことに―――。
「、《モルドレット》」
「「はっ」」
王子がその騎士名を呟くと同時にガウェインは廃工場から引き摺らすように“引かれ”たのだ。
ガウェインの視界に映った後輩たちの顔。
希望から絶望に変わる瞬間。
それはあってはいけない。
ガウェインはすぐに廃工場の外にある錆びた部品を掴む。
「パルツィ、今」
「あぁ、分かっているさぁ!」
そして言葉を聞いたと同時にガウェインは身を捻るように曲げ暴れるように足を回す。
「こォのっ!」
ガウェインの足が丁度良く相手の手に掴まれていたナイフを弾いた。
「プリンス・ナイトか」
ガウェインは未だに身体に巻かれた鎖をなんとか力で押さえ込みながら相手を確認した。
「《パーシヴァル》、《モルドレット》」
パーシヴァルと呼ばれたのは紫色の髪をオールバックにした少年、そして小さな身体がとても可愛らしく桃色の髪をした少女はモルドレットと呼ばれた。
「王子の邪魔をするなと、アレ程言ったのだがなあぁあ!!」
パーシヴァルはどこからともなく表したナイフを次々とガウェインの急所に狙い飛ばす。ガウェイン自分の身体に巻き付かれた鎖を激しく揺らして直線上に向かってくるナイフを次々と落として、次に鎖を思いきり引く。所詮は男と女と力なのでモルドレットは苦い顔をして引かれる。
「馬鹿がっ!」
だがパーシヴァルが引かれるモルドレットの鎖を途中で掴み、ガウェインと綱引きの如き引き合いをする。
片手で鎖を引いたパーシヴァルはもう片方にナイフ三本を指に挟み、軌道を読んで今度は正確に狙いを定め。
「死ねッ!」
ヒュンッと凶刃がガウェインに向かう。
「ぐっ」
ガウェインは片腕を盾にして急所を守るようにする。グチュッ!! とナイフがガウェインの腕と肩に突き刺さる。思わず痛みで声を漏らすが顔は全然変わっておらず、無表情でナイフを刺されたまま鎖を引こうとした瞬間だった。
ガクッと身体がバランスを崩す。引っ張られたのでは無く、引こうとした瞬間に弛(ゆる)まれたのだ。
「・・・・・っ!?」
そしてガウェインの前から迫って来たのは片腕を鎖で巻き、まるでボクサーグローブのようにして駆け抜ける勢いでガウェインの顔をぶん殴った。
グチャアッ!! と顔の皮膚が鎖によって抉られる感触がガウェインを襲う。
そして次に襲って来たのは。
「ふんッ!」
ブチュアッッ! と両方の太股にナイフを突き刺されたのだ。皮膚と筋を綺麗に突き刺されていく感覚が何故か聡明に感じられた。
「・・・ッッッッ!!!」
声を押し殺しながらもまだ移動して行ったモルドレットは上手い具合に鎖でガウェインを捕縛した。
「何が円卓の騎士『最強』の名を持つ黒騎士だ・・・・雑魚が王子の邪魔をするんじゃねぇぞ」
パーシヴァルはガウェインの太股に突き刺したままのナイフを勢い良く蹴る。
ギチャアッ! また筋を断つ音が生々しく聞こえた。ナイフの柄まで太股に深く突き刺さってしまった。
「・・・・・ッッ!!」
「チッ、悲痛の叫びも上げられないか」
パーシヴァルは鎖で巻かれたガウェインを侮蔑の含んだ目で見たあと直ぐに見向きもしないで王子の元に向かった。
「ガウェイン、我慢」
それだけを言い残し、片腕の鎖を全部使いガウェインを錆びた工場の柱に縛り付けた。そしてジャラジャラと鎖を引き摺りながらモルドレットも王子の元に向かった。
※
パーシヴァルとモルドレットが戻った時には白馬王子は惨めにも横に倒されていた。
「「王子ッ!?」」
二人は焦りながら王子の身を心配して近寄る。すると顔に殴られ、電流が流された形跡があった。それをみたパーシヴァルは人間とは思えない程の『殺意』が大神たち向けられた。
「貴様ラァァ!!! 死ぬ覚悟は出来てるかッッ!!」
またも数本のナイフを取り出して大神と対峙するが、
「待て、パーシヴァル」
王子がモルドレットに支えられながら立ち上がる。
「おぉ! 王子よ! 大丈夫か!」
パーシヴァルはナイフをすぐに捨てて王子に肩を貸す。王子はパーシヴァルの言葉に耳を貸さずに大神たちに言う。
「トドメは刺しておくべきだったね。おっと動かない方が良いよ。身体が痺れてふらふらするけど、半死半生の大神君に今の僕でも勝てるし、パーシヴァルやモルドレットが居る。そこの彼、名前は忘れたけど視線が怖いんだったよね。今僕の視線を受けて固まっちゃってるし」
「そこお二人方は」
「赤井君は知ってそうだけど、この二人は王子近衛騎士(プリンス・ナイト)であるパーシヴァルとモルドレットだよ。本名は流石に言わないけどね、全く、うれしいねぇ」
「うれしいだぁ」
「当たり前だよ。苦労すればするほど、努力すればするほど、願いが叶ったときは嬉しいものだろう? いや、しぶりだよこんなに苦労したのは。ほんと楽しみで楽しみで仕方ないよ。君たちを僕の思い通りに出来たら、どれだけ楽しくて気持ちいいのかな? どれだけの感動があるのかな? 全然想像もできないよ」
そう言って、心のそこから笑みを浮かべる王子。
「いやいや、強い女の子はいいねぇ。ほんと征服しがいがあるというか」
その王子の様子に、大神とりんごは悔しさで顔を歪め、憎しみの瞳で王子を睨む。パーシヴァルとモルドレットは満足そうに、そして何処か王子を心配そうに見ていた。
そして大神が口を開こうとしたそのとき、
「ふざけるな!!」
それよりも先にそう言う叫び声が響いた。
「ん? なんだい? 邪魔なんでそこで固まっててよ」
王子は亮士を殺気を込めた瞳で睨み付ける。パーシヴァルはその殺気を感じ取り王子を横から静かに見る。
「ふざ・・・・・ける・・・・・な」
その視線を受けながらも亮士は足を一歩踏み出した。
「この・・・・・馬鹿野郎が・・・・・涼子さんはな・・・・・強いんじゃない」
また一歩踏み出す。
「・・・・・強くあろうとしてるんだよ!!」
もう一歩。
「必死に努力して」
一歩。
「誰にも助けを求めずに」
一歩。
「一人で」
一歩。
大神は一歩ずつ王子に向かっていく亮士を見る。りんごはその大神の手をそっと握る。
「初めて涼子さんを見たとき、おれは見た目と中身が合ってないような変な違和感を覚えた。最初はなんでか分からなかった」
亮士は顔を上げ、王子の視線を真っ正面から受け止める。
「でも、側にいるようになって理由がわかってきた。涼子さん・・・・・・本当はかわいい女の子なんだよ。かわいいものが好きで恥ずかしがり屋で赤面症で素直じゃない。そんな普通の女の子なんだよ」
“普通の女の子”
モルドレットはぎゅっと王子の服を掴みながら大神を見る。
「なのに、嘘をついて自分を隠して強がっている。自分に、嘘ついて嘘ついて嘘ついて・・・・・そうしないと強がれないほど、涼子さんは弱いんだ」
王子の視線をさらされつつもいつの間にか亮士は王子の前、そして亮士は大きく拳を振り上げる
「でもそんな自分が嫌でがんばってるから、嘘ついてでも強くあろうとしてるから、だから・・・・だから涼子さんは強いんだよこのボケがっ!!」
視線にさらされているため、ぎこちなく弱いパンチ。パーシヴァルとモルドレットに離れろ、と命令する。ふらふらの王子にも避けられる。そして王子はカウンターで殴り飛ばされる亮士。しかし唇から流れた血をぬぐいながら立ち上がる。
「なんだい、君は彼女の騎士(ナイト)のつもりかい? さっきまで彼女の後ろでこそこそ隠れていたくせに」
馬鹿にするように笑う王子。亮士はその王子の目をまっすぐ見つめ返す。
「・・・おれは騎士なんかじゃないよ。・・・・盾にも剣にもなれない、・・・・・ただ後ろに隠れてちまちま援護するしか能がない・・・・おれはね」
視線を耐えつつ、再びゆっくりとした動きで王子に向かっていく亮士。少しずつぎこちなさが消えていく亮士の身体。
「でも・・・・・だからこそできることもある」
そして再び王子の前へと進んで行く。その亮士の顔に王子のパンチが突き刺さる。
「ぐっ」
吹き飛ばされる亮士、しかし亮士は倒れない。
「なら、なんだというんだ君は!」
全く自分の思い通りにならない亮士に王子は初めて怒りをあらわにした。
そして怒りのまま亮士を殴り、そのパンチは狙い違わず亮士の顔にめり込む。が、亮士は倒れずその腕を掴んだ。
無意識だった。
何をしたいのか分からない内に王子に従う騎士二人が駆け抜けた。
あの亮士とかいう奴がやることを逸早く理解して無意識に反応してしまったのだ。
二人はもう分かっていたかもしれない。
今この場でこの亮士を倒してしまえば王子がこれから進む人生に何かが欠けることになることを。
パーシヴァルの『殺人衝動』とモルドレットの『破壊衝動』は既に抑えられていた。王子が近くに居ただけでこんなにも落ち着き、余裕が生まれ、王子のこれからの事まで考えられるようにまでなっていた。
パーシヴァルはナイフを、モルドレットは鎖を亮士目掛けて放とうとした時だった。
黒い流星の如き速さでパーシヴァルとモルドレットを亮士から引き剥がした人物が二人を抑え込んだ。
黒軋ガウェイン。
無理矢理鎖を千切ったのか肩に刺さっていたナイフから血液が流血し、太股は大量に血が流れていた。
「黒騎士・・・・」
「・・・ガウェイン」
ガウェインはモルドレットの鎖を使い二人を捕まえ、亮士に目を向ける。
「おれは・・・・・涼子さんを・・・・・自分が出来る方法で守る。おれは、涼子さんの・・・・」
そして王子の腕をつかんだまま残った右腕を振り上げ、
「くっ離せ」
「狩人だっ!!!」
渾身の力で降り下ろした。
「ぐはっ」
ぎこちなさの消えた亮士渾身の一撃は、見事に王子の顔に突き刺さり、そしてそのまま王子は崩れ落ちた。
その様子を見届けた亮士は・・・・・
「それに・・・涼子さんを仕留めるのは・・・・・おれだ」
問題発言とともに前のめりに倒れた。
ガウェインは男前に王子を倒した亮士を見て微笑んでいた。それを間近で見たパーシヴァルとモルドレットはかなり驚いた様子でゆっくりと立ち上がった。
「まさか黒騎士が微笑む日が来ようとはな」
「とても貴重」
既にガウェインが二人を押さえ込む力無いのに気付いていたのかガウェインと向かい合う。
「気付いているだろうが、パーシヴァルの『殺人衝動』はかなり薄れてきた筈だ。現にオレはお前に殺されていない、全て急所を狙っての攻撃だったが俺の動きを計算して放ったことで『上手く急所を外す箇所』をナイフで狙ったことにる。まぁ太股は完全に感覚が無くなる程深く突き刺したがな」
「知ったような口を開くな黒騎士、オレは本気で貴様を殺しにいったのだ」
パーシヴァルはナイフを取り出し、不気味な微笑み浮かばせてガウェインに向ける。モルドレットはりんごと何やら話している大神に目を向けていた。
(“普通の女の子”・・・)
モルドレットが感じたように、大神も本当は普通の女の子みたいになりたいんだ。と腕に巻かれた鎖をジャラリと地面に落とした。
そして同時に倉庫の扉が開き始める。
「間に合わなかったか!!」
「そんな・・・・」
悔やむ大神たちに王子の声がかかる。
「ぐっ、はは、どうやら僕の・・・・勝ちみたいだね」
「てめぇ、まだ生きてやがったのか。往生際がわりぃ!!」
大神は立ち上がり、もう一度電撃を食らわせようとする。が、間に合わない。
錆びた音を立てながら扉は開ききり大神は・・・・・・・・・・現れた人影に絶句した。
そこにいたのは、ガスマスクをつけ、はたきを持ったメイドと、ガスマスクをつけほうきを持った魔女と、ガスマスクをつけたなんの変哲もないこともない燕尾服の少年。そしてガスマスクをつけドレスと西洋の甲冑が組み合わされた感じに改造された征服を着た騎士とオレンジ色をした長い髪をして白い服装に身に包んだ女性がそこに居た。
「せっ、先輩?」
大神がその五人に恐る恐る聞いてみる。それ以外考えられないが、それでも思わず疑問系。
「お待たせしました」
「ちょっとおくれちゃったかナー? かナー?」
「いやいや、大丈夫かい? どうにか大丈夫なようだね? よかったよかった?」
「・・・・あの適当副会長めぇ・・・・・」
「ふふふふ、凄い展開ねぇ」
大当たり。この異次元からやってきたような五人にりんごは叫ぶ。
「頭取さん、おつう先輩、魔女先輩、外に誰かいませんでしたの!? いないなら迎え撃つか逃げないといけませんの!!」
「ああ、その方たちでしたらそこで皆さんよく寝てらっしゃいます」
外がよく見えるように脇に避ける五人。すると地面に倒れ込んだ六人ほどの男の姿が見えた。咳き込んだり涙を流したりして呻いている。
良く見てみればその六人の中にトリスタンが混ざっており物凄い勢い涙を流しながら咳き込んでいた。
「えっと・・・・・」
「あやしいし、この中に入ろうとしてたからやっつけちゃったのヨー」
ハイテンションなマジョーリカが答える。
「なっ、そいつらはそれなりに使える奴らだぞ!?」
王子が驚きの声を上げる。その間に入ってきたのは『円卓の騎士』の一人にして“最強”の名を持つフェイル・サーベル・ド・ランスロットだった。
「私の前ではそんなものは意味を成さないのです」
「トリスタンは単なる巻き添えだけどねぇ、うふふふ」
「そしてフェイルが倒した後はトドメのあちき特製、催涙弾、涙ぽろぽろあもひでぽろぽろ君一号でやっつけたヨー!!」
その様子と恰好を見て何をしたか悟る。
そして頭取が大神たちに説明をすると同時にフェイルは王子の前までカツンカツンッと歩み寄ろうとしたが、
「・・・・・なんの真似です・・・・?」
フェイルの前には王子を守るようにパーシヴァルとモルドレットが立っていた。
「主君を護るのが騎士(ナイト)の務めだろう?」
「王子は護る」
「パーシヴァル・・・・・モルドレット・・・」
最後まで着いて来てくれた騎士パーシヴァル、騎士モルドレット。王子は二人の背を見た。
「・・・・私は『円卓の騎士』の纏め役として使命があります。主君を護るという騎士道精神は立派ですが、今回の件は・・・・・」
なら、とパーシヴァルはナイフを取り出す。フェイルも腰に差してある愛用のサーベルに手に掛けようとした時だった。
「どうして」
声がした発した元を見てみると、そこにはボロボロの王子がパーシヴァルとモルドレットを見て呟く。
「どうして、だい? どうしてそんなに僕を守ろうとするんだ? そんな、そんな傷だらけの背中で!!」
パーシヴァルとモルドレットの背中を、いや、傷だらけの姿を見て王子は素直にそう思った。二人がどんな理由でここまで自分の為に何をしてきたのか王子は分からないでいた。
「僕がどれだけ我儘をやってきたのか、僕がどれだけグズのやるようなことをしてきたのか一番分かっているのは君たちだろ!?」
王子は今の自分を再確認する。
「今の僕を見ろ・・・・・これが本当の僕なんだ。いくら努力を積み重ねてきても所詮はこの程度・・・何も僕は持ってないのさ」
王子は立ち上がる。
そしてパーシヴァルとモルドレットの間を通りすぎようとした瞬間だった。
がしっ
王子は服を掴まれてしまう。振り返ればそこには涙を流しているモルドレットの姿があった。
「王子、持ってるよ、王子・・・は、私を“普通の女の子”にしてくれた。王子が居たから、わ、私は“普通”になれたんだ。なにも・・・持ってないなんて言わないでよぅ・・・・」
まるで子供のように小さな声ですすり泣くようにゆっくり、ゆっくりと王子のお腹に顔を埋もらせる。
こんな小さな女の子が僕を守ってくれてたのか。
王子は自分がやってきた数々を思い出す。
パーシヴァルも王子の横に立つ。
「王子よ、オレも王子が居たから人を殺さずに済んだ、暴走した時も王子が止めに入ってこれたから怪我で済ませらせた。普通の人間の生活を送れてこれたんだ」
パーシヴァルはナイフを地面に捨てる。
「恐らく、オレたちは『主君と騎士』という間柄では無く。『友達』という絆で繋がれていたのかもしれんな」
パーシヴァルは全ての武器を捨て、抵抗の無い意思を見せた。
「・・・・・ありがとう」
王子は誰よりも思っくれる小さな女の子の騎士を背負い、横には誰よりも頼りになる長身の男の騎士を連れて、御伽学園にへと帰った
フェイルも三人を連れ学園に戻ると頭取に言い残し、ルーカンはトリスタンを引き摺りながらフェイルと一緒に戻って行った。
大神とりんごは何とも言えない感じに終わったことに少し不満だった。
だがカッコイイ亮士と一発は殴れたから少しだけ、本当に少しだけ気が晴れた大神は倒れている亮士の元に向かう。
猟師は狼を仕留めることが出来るのかは、赤頭巾ちゃんが暖かく見守ることになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
パーシヴァルから受けたナイフを全部抜き取り、止血をしているガウェインは今廃工場の裏に居た。
大神やりんご、亮士には自分に大量の血液とナイフが刺さっているのは上手い具合に隠していたのでバレずに済み。今も一人でなんとか止血している。
だが肩の方はなんとか止血出来たが、太股の方はまだ血が止まらないでいた。
子供の頃に親からナイフで切られた感覚を思い出したガウェインは不愉快と、片目が疼く感覚に襲われながら。さて、どうしようかと悩んでいた時だった。
「・・・・ガーくん」
ピクッとガウェインは反応して、声がした方向に目を向けると、いつもの魔女の恰好をしたマジョーリカが立っていた。
「ガーくんが途中で居なくなってたのは知ってたヨー」
そう言ってマジョーリカはどこからともなく取り出した救急箱を開き、的確な止血方法をして行った。
そして止血をやっている間、マジョーリカは黙々と作業をする。ガウェインも何も言わず止血されていると、ふわぁっとガウェインの顔を抱くようにマジョーリカは抱きつく。ガウェインは腰を下ろしているのでマジョーリカでも余裕でガウェインの首に手を回せる位置だった。
そして数秒そうした後、マジョーリカは手をガウェインの両頬に添えると真っ直ぐに目をガウェインと合わせた。
「また、身体をボロボロにさせて・・・・死にたいの?」
口調はいつもガウェインと二人で居る時だけ使う普通の口調で話した。それだけマジョーリカは真剣にガウェインに語りかけているのだ。
ガウェインはマジョーリカの瞳に涙が少しだけ溜まっているのが分かった。
「ガーくんが後輩たちの為に身体を張るのは確かにカッコイイし、強いし、・・・・私も嬉しくなる。でもそれでこんな、こんな傷だらけになっちゃうなら私は・・・嫌だなぁ・・・・」
マジョーリカはガウェインの横に座り背中に手を優しく回して抱き着く。顔をガウェインの顔にくっつく程近い位置に落とし、ぎゅっとガウェインの服を掴むマジョーリカ。
「・・・・マカ」
マジョーリカはもうそれ以上喋らず、静かにガウェインに抱き着いていた。ガウェインもマジョーリカの背中に手を回す。マジョーリカの綺麗で長い金髪が当たる。
「泣かないで、マカ」
「・・・・・泣いてないもん」
ガウェインの首に顔を踞(うずくま)せるマジョーリカ。
心配してくれてありがとう。
そして泣かせてごめん。
呟くようにガウェインは言った。
王子様を少しだけアレンジ!
ちなみに鬼ヶ島高校生の佐林と高山は大神さんを廃工場まで連れて行った後は仲間に預けて逃げました。
ギャグとシリアスを入れた今回の話は長くなってしまいましたが、これでやっとこさ一巻終了です!
次はいざ!
二巻へ!
感想やコメントを本当に待ってます!
お願いします!!
しゃーコラァアァアアァア!!
やっと一巻終わったしゃこらぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ…………┐('~`;)┌