騎士と魔女と御伽之話   作:十握剣

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第13話「白馬の王子とその従騎士」

 今日の地上店は一年生が担当という事でガウェインは地下にある大きな部屋で地上店を映しているモニターを見ながら緑茶を(すす)りながら見ていた。

 

 そして目の端に少しだけ映るのは同じ御伽銀行メンバー。

 

 頭取はパソコン画面を使ってシューティングゲームをしているのか、なかなか奮闘中で、桐木アリスは御伽銀行に関する情報をパソコンを使って整理したりしている。同じパソコンを使っているのにも関わらずここまで差が丸わかりなのは頭取の非労働意欲から湧き出ているのからか? とガウェインは思いながらまた目を泳がす。

 

 つつがなくメイドな鶴ヶ谷が部屋を掃除をしていた。

 ガウェインは緑茶を一気に飲み干し、掃除をしている鶴ヶ谷を呼ぶ。

 すると鶴ヶ谷は直ぐに反応してニコニコ笑顔でガウェインから湯飲みを預かる。

 

「おつう、緑茶を二つだ」

 

「?・・・・誰かお飲みになるのですか?」

 

「そうだ」

 

 鶴ヶ谷は可愛いらしく小首を傾げ、疑問を抱きながら湯飲みに緑茶を入れる。

 

「緑茶です」

 

 鶴ヶ谷はわざわざお盆に湯飲みを置いてガウェインの元に持って来た。ガウェインは緑茶が入った二つの湯飲みを取り、テーブルに置くと鶴ヶ谷に『座れ』とジェスチャーするガウェイン。

 

「・・・?・・・」

 

 鶴ヶ谷は不思議がりながらも座る、するとガウェインは緑茶の二つの内一つを鶴ヶ谷の目の前まで移動させる。

 

「休めよ、地下(ここ)は設備が良いから外との温度が極端に違う。掃除ばかりやっていれば体が持たない」

 

そう言ってガウェインは入れてくれた緑茶を飲む。

そして座っている鶴ヶ谷に微かに聞こえる『・・・うまい』と呟く。

すると鶴ヶ谷もガウェインの気遣いに気付き、目の前に置かれた湯飲みを上品に両手で掴み取ってガウェインに顔を向けると。

 

「ふふふ、ありがとうございます。ガウェインさま」

 

 可愛らしい微笑みで礼を言う鶴ヶ谷、メイドスキーな人ならば理性を吹き飛ばしてしまいそうな笑顔だったのだが、ガウェインは無表情な顔のままコクリと頷いてモニターに眼を向ける。

 

 鶴ヶ谷もガウェインと一緒にモニターを見ていると、地上店のボロ部室にトレーニングウェア姿の王子が部室へ入ってきた。

 

「あの方は王子さまですね」

 

白馬王子(はくば・おうじ)か・・・・・・・・・・・・」

 

 鶴ヶ谷は緑茶を半分まで飲むと太股の上に両手で掴みながら置いてモニターに入ってきた人物の名を言うと、ガウェインは虚ろのような目をしながら名を呟く。

どうやら王子は前に作った『貸し』を返しにきてもらったらしく、りんごが話を進めていく。

 王子はどうやらもうすぐ始まる対抗戦の為に減量をしているらしく、初夏の入ったこの季節に厚手のトレーニングウェアをきっちり着込んで走り込みをしていたらしい。

 御伽花市にある三つの私立高校の運動部は定期的に対抗戦を行うらしく、会場はそれぞれの高校が持ち回りで担当している。以前は御伽花市唯一の公立高校も加盟していたらしいが、参加しなくなって久しい。

そして今回の会場となるのが御伽学園と決まっており、会場となれば応援も増えるので負けたくないというのが王子の気持ちらしい。

そこで王子は大神をスパーリングパートナーとして来て欲しい、と言うことでこの御伽銀行まで来ていた。

 

 と、そこまで話をモニター越しで聞いていたガウェインだったが、立ち上がり地上店へと繋ぐ階段にへと向かう。

 

「何かご用事なのですか?」

 

 鶴ヶ谷はガウェインに聞くと、

 

「少し、王子の『近衛騎士(ガーディアンナイト)』を会いに行ってくる」

 

 ただそれだけを伝えてガウェインは上がって行った。

 

「ガーディアン・・・・・、ナイトさまですか?」

 

 鶴ヶ谷がガウェインの言った言葉を疑問に思いながら頭取やアリスに顔を向けると、頭取は相変わらずゲームに夢中で代わりにアリスが鶴ヶ谷の質問に答えた。

 

「『近衛騎士(このえきし)と漢字で書き、読みはガーディアンナイトと読みます。データでは・・・鶴ヶ谷さんと同じ高等部二年生の───────・・・・、」

 

「えっ!」

 

 鶴ヶ谷はその名前を聞いて驚いていた。

 

 

そ の王子近衛騎士の人物の名は、

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 ガウェインは地下本店をバレないように別の入口から出て、また地上店であるボロ部室に向かうと、入口の所には王子を待っている二人組が居た。ガウェインはその二人組の近くまで近寄ろうと足を一歩踏もうとした瞬間だった。

 

「おやおや、これはこれはぁ、御伽学園名物の『黒騎士』ではないかぁ」

 

「・・・・本当だ、ガウェインだ」

 

 二人組はガウェインの微かな気配を感じてすぐに振り向く。

そこには王子と同じトレーニングウェアを着ている男子高生と女子高生の二人が居た。男子高生の方は背がガウェインと同じくらいの長身であるのだが、見事に不釣り合いな小さい身長をしている女子高生と共に王子を待っているらしい。

 

 それぞれ色違いのトレーニングウェアで、男子高生の方は紫色の線が入ったトレーニングウェア。女子高生の方は桃色の線が入ってあるのだが男子高生のトレーニングウェアより洒落気があり『最近の若いスポーツ少女風』な感じのトレーニングウェアだった。恐らくこの御伽花市で一番売られているのは間違い無く女子専用の物が多い。

 単にこの御伽花市を牛耳っている御伽学園学園長である|荒神洋燈(あらがみ・らんぷ)が大の女好きだからか、それとも何か狙いがあって女子専用の物を集中的に力を入れてやっているのか・・・・・・・・・・謎のままである。

 

 そんな洒落気のある桃色の線が入ったトレーニングウェアを来ていた女子高生は服の線の色と同じ髪色を靡かせながらガウェインの元まで近寄る。

 

「ガウェイン、何か用?」

 

 小さな身長なので自然と上目遣いになってしまうその少女にガウェインは男子高生の方を向いたまま答える。

 

「確かに用があって来た。同じ『円卓の騎士』としてな」

 

 ガウェインがそう言うと男子高生は薄ら笑いを浮かばせて足を運ぶ。

因みにこの男子高生はトレーニングウェアに入ってある紫色の線と同じ髪色が特徴的である。

 

「ほほぅ・・・・それで何用かな黒騎士?」

 

 紫髪の男子高生は狂気染みた眼差しでガウェインに近づいていく、もし普通の人間ならば尋常じゃないこの紫髪の男子高生の眼差しには耐えられないだろう。素人でも分かるような“狂ったような目”でどんどんと詰め寄せられれば恐怖が自然と流れ出るものなのだが生、憎とガウェインは『普通の人間』では無いので怯む筈も無く平然と立ったまま喋り続ける。

 

「あの白馬王子と言う人物についてだ」

 

 そこまで言った瞬間だった。

 

 スゥーと何かが静かに“切れて”いた。

 

 切れた場所はガウェインの喉元で、綺麗に横線に切られている。

ガウェインは紫髪の男子高生の手元を見てみると、彼の脈の所に小さなナイフを仕舞う所だった。

 

「残ァ念な事に人を殺してはいけないと王子と約束しているのでなぁ。殺さない程度に忠告してやったぞ?」

 

 彼は物の数秒でナイフを取り出し、そして綺麗に喉元を“(かす)り切る”行為をしてやったのだ。そして見えなかった『仕舞う動作』も並の人間神経でやれる筈も無い。

 

 

 これが『円卓の騎士』の一人の実力。明らかに高校生がする行動から掛け離れていた。

 

 

「王子に関わるなよ? 王子の邪魔をしようと言うのならば黒騎士、貴様を刺し殺す」

 

「ダメ、そういう危ない言葉も使っちゃダメって王子言ってた」

 

「おっとそうだったなぁ、如何せん言葉と言うのは本当に難しいなぁ。やはり話すより殺した方が良い、殺した方が話さくて良いじゃないか、殺しは楽だ。よく言うじゃないか『死人は口無し』とな? クハハハ」

 

 

 やはり(いか)れている。

 ガウェインはすぐにそう思うと同時に、自分もその部類に入っているんだと認識させられる。するとボロ部室から出てきた王子は話をしているガウェイン達の輪に入っていく。

 

「やぁ、黒軋君。何の楽しい話をしていたんだい?」

 

 王子の笑顔にはガウェインは少なくとも気が引くような感覚に陥った。

 壊れた騎士を従える王子。

 

(少なくとも、この二人の性格は分かっている筈だ)

 

 ガウェインは疑問に思ったこの二人の性格の取り扱いと、何処か陰険な感じがする王子にもう一度話を振ろうとすると、

 

「話は今終わった、走り込みを続けようか、王子よ」

 

「うん、そうだね。それじゃ二人共行こうか」

 

「競争」

 

 紫髪の男子高生が話を終えたと王子に伝え、王子もそれを確認して走り込みを続けに御伽学園の校門まで走って行った。勿論走っている王子を見ていた女の子たちは黄色い歓声を上げていた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ガウェインは王子を守るように走る騎士二人組を後ろから見ながら思想を巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 御伽学園は運動施設も充実している。

グラウンドも第五まであり体育館は三つ、武道館、弓道場などもある。そんな豪華施設の中でボクシング部も専用の施設が用意されているのだが、ボクシング部のジムの外観はボロい。

そんなボロいボクシング部のジムの前に立っているのは、上は大きめのTシャツ、手にはバンデージを既に巻いてあり、小脇にグローブを抱えている大神涼子。そしてその隣に立っていたのは黒いコート姿の黒軋ガウェインだった。

 

「・・・・どうして騎士先輩が居るんですか?」

 

「・・・それは偶然重なっただけだ、俺も用事があってここに来た」

 

 まぁ良いですけどね、と大神が呟きながらノックをして扉を開ける。

すると中から熱気と汗のにおいが流れてくる。

 

「失礼します」

 

「・・・・失礼します」

 

 先に大神が入り後からガウェインが入って扉を閉める。大神とガウェインが中に入るとボクシング部員が近寄ってきて聞いた。

 

「あれ、黒軋じゃねえか。それと君は・・・新入部員?」

 

 どうやらガウェインと同じ二年生なのか、ガウェインを気軽に苗字で呼び掛けてから横に居る大神に気付く。

 

 大神が説明しようとしたときに聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「そこの女性は王子の練習相手として来てくれた娘だよ、そしてそこで黒く突っ立っている奴は、知らん」

 

「部長の?・・・・・て、スパーリングパートナーって」

 

「その娘だ。おーい、王子っ、姫様の到着だ」

 

その声主は王子近衛騎士の一人であるあの紫髪の男子高生だった。

 

「あのッ!」

 

 そして紫髪の男子高生の言葉が気に入らなかったのか、大神はズンズンと物怖じしないで彼の目の前で来るとギンッと睨みながら、

 

「姫様とか、言わないでもらえますか?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 大神の態度に周りのボクシング部員たちがシンッと急激に静かになった。何故か温度も下がったような気がした。

 

(まさかアイツッ!)

 

 ガウェインは最悪な予想を浮かばせて一気に駆け出す。

 

 なんとかアイツをっ!

 

 

 その考えでガウェインはすぐに大神の間まで来るとすぐにガウェインは大神を守るように後方にへと下がらせた。

 

「・・・?・・・騎士先輩?」

 

 大神も流石に急に静かになったボクシング部員たちに気付いて疑問がっていたが今は紫髪の男子高生だ。

 

「・・・・言葉というのは本当(ほんとー)に、実に面倒だ・・・・・・・・・・」

 

 ガウェインはグローブを着けている紫髪の男子高生を注意しながら言葉を発する。

 

「この間のような真似は止せ、“王子に迷惑”を掛けて良いのか?」

 

 ガウェインは一か八かの賭けでその王子の話を出すと紫髪の男子高生はチッと舌打ちをし、ガウェインの背後ろに居る大神に顔を向けて笑顔で、

 

「いや済まない、以後気をつける事を誓おう」

 

 本当に謝っているのか、と聞きたくなるような笑顔で言う紫髪の男子高生。だが聞けない、その笑顔には『狂気と殺意』に染まっていたから。

 

 その後は何の支障出さないで王子のスパーリングパートナーとして練習出来たのだが、ガウェインはずっと紫髪の男子高生と向き合ったままで外に居た。他の部員も少し狼狽えていたがきちんと練習して帰って行った。

 

 

「何か用なのかぁ、用が無ければ俺は王子の元に─────」

 

「待て」

 

 ガウェインは紫髪の男子高生の肩を掴もうとすると、逆に腕を掴まれ壁に叩きつけられるようにしてガウェインを押し付ける。

 するとガウェインの目前には怒り狂っていた彼の顔があった。

 

「抑えきれねぇんだよッッ!! 殺したくたくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくてェッ! 掻き剥き出すこの衝動を抑えきる事が苦痛以外の何でも無ぇんだよ!! なぁ殺して良いかぁ? 殺して良いよなぁ? つか殺されろよォォォォォォォォォッッッッ!!!」

 

 

 途中までは言葉として聞きとれていたが後半からは奇々な絶叫となってナイフを押し付ける紫髪の男子高生、ガウェインは黙って待つ。

 

 すると彼は自分が今どんな状況なのか理解して、すぐに抑えようと自らの(・ ・ ・)腕にナイフ(・ ・ ・ ・・)を軽く刺し、痛覚で正気に戻す。

 

「ハァハァ、クソッ。誰も居ないな」

 

 彼は周りを見渡しながら腕から流れ出る血を布地で隠す。

 

「ハァハァ、貴様は、ハァ、貴様は黙って見ていれば良いのだ、そして─────」

 

何かを口にした彼はすぐに帰路に着いて帰って行った。

 

 

「そんなにも、自分が苦しんでも王子の為に己を抑えるのか」

 

 




どうでしたか?

また個性的なキャラかな、と思って書きましたが、やはり難しいです!


因みに魔女/マジョーリカさんの名前(姓)は『アーサー王物語』に登場するモーガン・ル・フェイから取られています。
そしてモーガンの姉は『円卓の騎士』であるガウェインの母・モルゴースであり、よく劇場や小説ではモーガンとモルゴースを同一人物として描かれていたりするのです!

こんな風に『円卓の騎士』たちを色んな元キャラとして使っていきますので、どうかお楽しみにっ!

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