騎士と魔女と御伽之話   作:十握剣

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第11話「雷の魚は哀愁の荒波を泳ぐ」

 

 

 

浦島太郎を無事に連れ帰った大神さんご一行。

 

勿論ガウェインも一緒にだ。

 

雷魚との遭遇で一気に戦意を削り取られた大神は黙々とガウェインの後を付いて行くだけだった。

 

何を話せば良いのか良く分からない。

 

それが大神の頭に渦巻いているのだろう。

だからガウェインは簡単に率直に言う。

 

 

 

 

 

──考えるな、思考を巡らせた所であの雷魚(バケモノ)の強さは理解出来ない。

 

 

 

(涼子は多分、まだ考えているのだろうな。涼子は何処か“強さ”という所に何かしら、しがみついているように見える)

 

ガウェインはそんな風に考えながら御伽銀行地下本店にへと歩いていた。

浦島を連れ戻したのが二日前のこと。外部の人間であること、且つ此処のことは漏らさないという誓約書を書かせることで、浦島は御伽銀行地下本店に匿(かくま)われているのだ。

 

「確かに盲点だろうな、逃避した筈がまた元の場所に戻っているなんて」

 

誰か居るハズも無く、ガウェインは独り言を呟きながら人差し指で黒縁(くろぶち)メガネをカチャと直す。

 

黒長いコートを揺らしながら歩いて行くガウェインはピタリと歩を止める。

何故止まったかと言うと、目線の前に立っていた人物に驚いたからだ。

 

「・・・・やぁ、黒軋(くろきし)」

 

「──────ッ!!?」

 

そう、御伽銀行地上店の扉の前には黒服を着て、雷のように黄色い髪、そしてギラギラとした瞳を隠すように掛けているサングラス、学園内だから煙草を吸って折らず代わりにガムを噛んでいる青年のような顔立ちの男性、海淵雷魚(かいえん・らいぎょ)が立っていたのだ。

 

「構えないでくれよ、思わず・・・・・いや、何でもない。気にするな」

 

 

『ぶっ殺す!』。

 

絶対に思わず・・・・・の後に言おうとした言葉だ。

 

これはまた学園内なのか物騒な言葉を吐かない雷魚にガウェインは不気味極まり無く警戒する。

するとガウェインと同じくらいの背丈の雷魚の背後からひょこっと現れた人物にガウェインは目を丸くさせた。

 

「これはこれは、貴方様が“雷魚”の言っていたお方なのですか?」

 

出て来たのは純和風の美少女だった。

顔は小さく、鼻梁は整い、肌は白く、その黒髪は腰へとまっすぐに流れ、まるで人形のような美少女だった。左目の下にある泣きぼくろが色っぽい。

 

だがガウェインはそこでは無く彼女の放った言葉の中にとてつもなく気になる言葉があった。

 

 

 

──今、『雷魚』って呼び捨てにしなかったか? と。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

ガウェインは呆然とする、雷魚の前では絶対にこんな無防備な体勢にはならないのだが、今は呆然とするしかない。

それほど驚いていたガウェインだった。

 

「・・・お嬢様、お早く用を済ませましょう。狩り立てる衝動が弾いてしまいます」

 

「そうですね、では中でお話しましょう。名前もそこで紹介します」

 

そう言って純和風な美少女は御伽銀行地上店の扉を上品良くノックして中にへと入る。雷魚も後に続き、後ろに居たガウェインを怪訝そうに『早く入れ殺すぞ!!』的な念が入った睨みを当てながらガウェインを中に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

御伽銀行地上店で当番をしていた一年生の大神にりんご、そして亮士が中で浦島の事について話していた時だった。

扉から控えめなノックが響いた。

 

「はい、どうぞですの」

 

りんごのその声に答えたのは綺麗な声。

 

「失礼いたします」

 

入ってきた純和風な美少女に少しだけ驚いた三人だったが、後から入って来た人物にガタッと大神と亮士が反応した。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

二日前、黒服達から逃れたと思った時に現れた黄髪黒服の青年。

そして大神を、腰を抜かせる程の威圧を糸も簡単に放つ男、雷魚(ソイツ)だった。

 

「え、えーと、お名前を聞いてもよろしいですの?」

 

いきなり異様な反応をした二人を一旦座らせ、客である二人を向かいのソファに座らせる。黒服の青年だけは少女の後ろにキシッと立つだけ。そして名前を聞くりんご。

 

「お初にお目にかかります。私の名は竜宮乙姫と申します」

 

そして、と乙姫と名乗った純和風の美少女は後ろにいる黒服の青年に手を向ける。

 

「このサングラスを掛けているのは海淵雷魚と申す者です」

 

雷魚は浅い礼をしてまたぴしゃりと突っ立つ。

 

動作や仕草、立ち振舞いの隅々から気品が少女から漂い、不機嫌MAXオーラをビンビンと漂わせる黒服青年。

 

「おい・・・・・」

 

大神はりんごの耳元で囁(ささや)く。

 

「はい、苗字から見て間違いなく竜宮グループの関係者だと思いますの。そしてあの黒服の人・・・・・ちょっと待って下さいの」

 

ノートパソコンでいろいろ調べ出すりんご、その間大神が会話をつなぐ。

 

「それでなんの用だ?」

 

「はい、人を探してます。名前は浦島太郎。ここに来たと伺っているのですけど・・・・・」

 

どうやら完璧に知られているようなので大神は肯定する。

 

「ああ、確かにここに来たな。だが、帰ってもらった。オレらは基本的に部外者の依頼は受けないんだよ。だからどこに行ったかは知らないな」

 

チラッと雷魚を見る大神、連れ去る所を見ていない筈なのでそう告げた大神。

 

この娘は浦島を見失いどうにもならなくなったのて手がかりを求めてやって来たということだろうな。そう推測した大神、だったが、雷魚の口元がニッと微笑してるのを目撃する。

 

一瞬焦った大神だったが、

 

「そうなんですか」

 

とても残念そうな顔をする乙姫、そのしょぼーんとした雰囲気はすさまじく庇護欲をそそる。

 

「ううっ」

 

大神は可愛いもの好きの本能が身体を乗っ取ろうとする。もし理性が本能に敗北したら大神は、乙姫を抱きしめ、どんな依頼でも受けてやると叫び出すけと請け合いだ。

それほどまでに乙姫は可愛い美少女なのだ。

 

そんな脳内で色々と死闘が行われている大神を横にりんごが調べ物を終えたのか、会話に復帰してきた。

 

「ごほん。それでは竜宮さん、すみませんがいくつか質問をしても宜しいですの?」

 

「はい、よろしいですけど・・・・なんでしょう?」

 

「あなたは何故その方を追っているんですの? 竜宮グループ代表の一人娘であるあなたが、そしてその竜宮グループ荒事専門部署の署長を務めておられる海淵さん。それを聞かせていただければお力になれるかもしれませんの」

 

「やっぱり太郎様の居場所を知っているんですか!?」

 

「いえ、涼子ちゃんの言ったように基本的に部外者には手を貸しませんの。ですから今は知りませんの。ただ、理由によっては協力する場合もあります。ですから理由を聞かせていただれば・・・・・」

 

「分かりました」

 

りんごの言葉に神妙に乙姫は頷く。そして大神と亮士はあの黒服達を纏め上げていた人物が雷魚だと知り、冷や汗を垂らす。

 

「ではその前ないくつか質問を。それで、あなたと浦島さんの関係はなんですの?」

 

「恋人です」

 

迷いなく即答して言い切る乙姫。

 

そんな乙姫の回答にりんごの後ろで亮士と大神がぼそぼそと話している中、雷魚は静かに入ってずっと会話に参加せずに壁に寄りかかっていたガウェインを見る。

 

何やら嫌な顔をしている雷魚。

 

すると乙姫と浦島の関係をもっと良く知る為に二人のなれそめを聞くことになった。

 

雷魚はチッ! と聞こえない舌打ちをしてサングラス越しに見えた瞳が一気に温度が下がった感じだった。

 

 

 

ガウェインは祖父から聞いた事があった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

青年のような歳に見えるこの男、海淵雷魚には『娘』が居た。

 

まだ若そうに見える雷魚、まだ結婚はしていない、娘とは血の繋がりは無い、とは言い切れなく少しある。

 

極道に生きていた雷魚の家族は他の組に殺されてしまい天涯孤独となる筈だった。

だがそんな雷魚に数年後娘と名乗る女の子が現れたのだ。

母親の姉の娘、つまり従妹(いとこ)だった。

 

その女の子も組の奴らによって両親を殺されてしまい、身内は雷魚だけらしく歳が離れている事を良いことに娘と名乗ったのだ。

 

だが雷魚は何も言わずに『娘』としてその女の子を雷魚なりに育ててきた。

 

一緒に住んで行く内にその娘と仲良くなっていき、誰もが仲の良い『家族』だと思われた。

 

 

 

だが神は雷魚を海の淵へと叩き付けた。

 

 

 

誘拐。

 

 

テレビのニュースなどで良く示される言葉。

 

そんな出来事が雷魚との家族で起きた。

 

『極潰し』を何回もしてきた雷魚に恨みを持つ者の仕業だった。

 

 

 

娘を拐った、返して欲しくば一人で来い。

 

 

簡単な脅迫状だったが雷魚はすぐに向かった。

 

向かった場所で待っていたのは・・・・・、

 

 

 

 

 

無理矢理に、“強姦”された娘の姿だった。

 

 

 

 

きっと抵抗したのだろう、衣服がボロボロに破られており。抵抗の際に暴力(チカラ)で黙らせた誘拐した犯人な下卑た微笑みで強姦を止めない。

 

きっと嫌悪したのだろう、自殺を計(はか)ろうとした雷魚の娘は舌を噛み千切ろうと咀嚼しようとしたが、顎に指を挟んで死ぬことも許さんと誘拐犯は止めなかった。

 

 

 

 

その後の雷魚は最早人間の領域を超越した狂乱ぶりで荒れ狂った。

 

ありとあらゆる人の形をした醜い生物をグチャグチャにする。

たったそれだけを雷魚は一瞬にしてやって退けた。

 

 

意識が薄れて倒れている娘を泣き上げながら抱き上げる雷魚。

 

だが雷魚にグチャグチャにされた組の生き残りが銃を取り出して雷魚の背後を撃った。

 

 

だが雷魚に弾は届かなかった。

 

 

 

意識が霞んでいた中、最愛の父親を護る為に、娘が盾となったのだ。

 

 

娘が生き残るのなら雷魚はいつ死んでも良かった。

 

 

 

だが、その娘はどうしようも無い駄目な父親を、大好きで愛していた父親を護る為に盾になり、死んでしまった。

 

実に呆気なく死んだ。

 

『死』を幾度無く見続けていた雷魚にとってそれは見馴れた光景であり、確実に見たくなかった光景であった。

 

 

 

もう駄目だ。

なんだこれは。

世界はこんな灰色だったのか。

 

 

 

その言葉を吐き捨てた雷魚は銃を撃った男を跡形も無く抹殺した。

 

 

 

それが壊(いか)れた雷魚(サカナ)の人生の始まりだった。

 

 

◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

そして今、雷魚の前には“瓜二つ”に娘に似ている乙姫が楽しげに、幸せそうに浦島とのなれそめを話している。

 

 

 

 

 

「(生きていれば、もうこんな歳だな)」

 

 

本当に聞こえない。微かな声でそう言った言葉に誰も反応しない。

 

だが聞こえた者が一人居た。

 

ガウェインだ。

ガウェインは目だけ雷魚に向けて、後は乙姫の話を聞いた。

 

 

乙姫の浦島との過去の話を聞いた御伽銀行の一年生組とガウェイン。

 

「・・・・・そんなことがあって、私は頑張ったんです。痩せて身だしなみに気をつけました。いつも首を縮めて背中を丸めた亀みたいだった姿勢を背筋を伸ばして、そしておしゃれに気をつけて、いつも綺麗に笑っていることを目指しました。内面的にも綺麗であろうと努力し、困っている人を助けるように、人の悪口は言わないように、自分が自分を好きでいられるように、自信を持てるように」

 

そんな素敵なことを言う乙姫。

 

「おいおい、むちゃくちゃいい子じゃねぇか」

 

「そうっスね」

 

大神と亮士もちょっと感動。

 

(・・・・・輝かしいじゃないか)

 

ガウェインも乙姫の頑張りに称賛を讃える。

雷魚は無表情のまま動かない。

 

そしてそんな風にどれだけ熱心に浦島を愛し、探しているのかを大神、亮士、りんごに熱弁している中。

 

 

 

────ブブー・・ブブー・・ブブー・・!

 

 

雷魚の懐から携帯の震動音が鳴る。

 

 

「・・・・・・・あァ、俺だ。・・・・・愧鮫と海蛇が車に跳ねられた?・・・・知るかほっとけ・・・・・ああ、それじゃあイルカと美鮫、あと鯨良(くじら)が・・・・・・・・・・・・今お嬢様に代わる」

 

雷魚は逃げていた獲物が引っ掛かり、喰い殺しに向かいそうな表情で乙姫に携帯を渡す。

 

「はい乙姫です。・・・・・・・・・・・・本当ですか! 太郎様が!!」

 

電話越しから聞こえてくるのは女性の声で、ガウェインはその声の主が先日会った鯆夏(イルカ)と名乗る青髪の女性の声だと認識する。

 

(ん?・・・・太郎だと・・・・・、何故外に?)

 

「はい・・・・・はい、そのまま私の下に連れてきてもらえますか。居場所は・・・・・そうですね、感動の再会ですし・・・・・この付近には確か竜宮城の十五号店がありましたわね。そこに連れてきてくださいまし。もちろん最上階ですのよ?」

 

新たな展開に大神が耳を澄ますと電話口から幽かに声が聞こえてきた。

 

『うおー! 何をする! 放ひぇ! 俺(おひぇ)は男(おほろ)に触(ひゃふぁ)られる趣味(ふゅい)はない! ふぇか口(ふち)にネギを入(ひ)れるひゃなーい! 苦(ひが)ッ!! 苦(ひが)いしハゲのオヤジの顎(あほ)じゃりで削(へふ)られるのが嫌(ひや)らぁー! 苦(ひが)ッッッ!?』

 

『煩い奴じゃ、何でこんな若造が姫さんと、姫さんとォォォォォォォ!!』

 

『もっとネギを口に入れましょう鯨良さん! もう口が張り裂ける程入れましょう、てかネギで窒息死させてしまいましょう!』

 

『アハハハッ!! 太郎さん気絶しちゃいますって、てかどんだけ鯆夏(イルカ)はネギでこの人殺そうとしてんですかー? ある意味拷問並につらそう〜って美鮫(ミサメ)も齧(かじ)っちゃうぞ♪』

 

「少々手荒な真似をしてもかまいません。逃がさないことを優先的に」

 

乙姫は電話口から聞こえる奇声を笑顔で聞きながら指示する

 

『うべぇッ! 何処が“少々手荒”だーッ!? ておいちょっとおまっ、おまっ! ぎゃーーーハゲ筋肉ダルマオヤジ嫌だー! 汗くさいの嫌だぁぁー! ってイルカちゃんそんな腐ってるネギ持ってどうしたのですか!? 目が据わってるますがって・・・・・・・・・・・・ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!??──────』

 

「ではよしなに」

 

乙姫は電話を切り、その電話を雷魚に手渡した。

 

「太郎様が見つかったそうです。ですのでお暇(いとま)させていただきます。それではお手数をおかけしました」

 

そう言って優雅に一礼し雷魚と共に立ち去る。

それを見届けたあと、慌てて大神は言った。

 

「おい、なんで浦島が外で捕まってんだ?」

 

「知りませんの! でもとりあえずは下に」

 

ばたばたと地下へと走る大神たちとガウェイン、すると・・・・・

 

「なんかこんな紙がテーブルに置いてあったヨー」

 

「見せてくれ」

 

地下でまったりとして居た魔女さんことマジョーリカが持っていた紙をガウェインに渡す。

 

 

 

【女の子と新たな出会いがありそうな予感がしたので少し出てきます。晩ご飯までには戻ります。晩ご飯はもちろん君で。     あなたの浦島太郎より】

 

そう紙に書いてあった。

因みにそれを読み上げたのはガウェインで、それを聞いたりんごは叫ぶ。

 

「アホなんですのあの方は! しかも今日に限って誰も下に・・・・・あら、魔女先輩が居らしたのに何故浦島さんは外に!?」

 

「恐らくマカはずっと魔女工房に込もっていたからじゃないか?」

 

ガウェインの言葉にりんごは頭を押さえる。

 

「でも、どうやって抜け出したんっスか!?」

 

「たぶんここですの!」

 

部長の席の後ろにある大きな掛け軸。りんごがずらすとそこには扉が。

 

「これ秘密の脱出口だな、何故この出口を浦島が・・・」

 

「女に対する執念じゃねえですか?」

 

ガウェインに変な敬語で返答する大神、あまりにも予想外すぎる出来事に固まるりんご。しかしりんごは打たれ強い。すぐさま復活すると指示を出す。

 

「騎士先輩、涼子ちゃん、森野君、騎士先輩の二輪自動車(バイク)で追いかけてくださいの────────」

 

「済まん、サイドカーは今付いてない」

 

とそこにガウェインが付け加える。

 

「な、何故ですの?」

 

「久しぶりに付けてみたんだが色々と錆びている場所があったので今知り合いに見てもらっているんだ」

 

ガウェインが申し訳無さそうにそう言うとすぐにりんごは別の打開策を思い浮かべる。

 

「なら裏にある自転車で追いかけてくださいの! 場所は竜宮城・・・・・ちょっと待ってくださいの」

 

パソコンをいじると右の棚に置かれたプリンターから紙が吐き出されてくる。

 

「地図です。この通りに行けば最短距離になりますの。ここから目的地までは車で行こうとすれば回り道になりますの。どこで捕まったか知りませんけど、流石にここからあまり遠いということは無いと思いますの。だから急げばどうにか先回り出来るかもしれませんの。乙姫さんがストーカーなのか、そうでないならどんな理由で逃げ回っているのか聞いてくださいの。それを聞いてその後どうするかは涼子ちゃんに一任しますの。馬鹿ですが一応それでも依頼人なのでベストを尽くしましょう。というか、一発殴りたいですの」

 

「任せろ、おまえの分までぶん殴ってやる」

 

「了解しましたっス」

 

走り出す二人、その二人の背中に向けりんごは叫んだ。

 

「私もすぐに追いかけますのよ〜」

 

そこでひょいっとガウェインの裾を掴むりんご。

 

「騎士先輩には先に行ってもらいたいんですの、絶対に竜宮城付近に護衛として駐在している荒事専門部署の方々が居ると思うんですの」

 

「・・・・・竜宮グループ荒事専門部署《戦魚(いくざかな)》の奴らか」

 

「調べて分かったんですが部署の最高責任者はあの海淵雷魚という方みたいですが、前任の署長・海間海凶(かいま・みきょう)さんは現在《戦魚》の副署長を務めているらしいんですの」

 

 

りんごの言葉にガウェインは口が渇いていくのが分かった。

 

 

海間海凶(かいま・みきょう)。

 

 

通称『朱染(しゅぜん)の海魔(クラーケン)』や『水淵(すいえん)の海凶(リヴァイアサン)』と呼び慕まれている屈強の老兵だ。

 

昔海兵として幾戦もの戦争に身を投じ、生き残った日本兵士の一人だ。

老人とは思えぬ筋力と思考力。

 

戦艦を体一つで落としたという話も上がっている程の化物だ。

 

ガウェインはその話は作り話だと祖父に何度も聞いたが、祖父の顔が引き吊っていたのが脳裏を横切る。

 

「ま、まさかその海間さんと雷魚が、待ち受けていると?」

 

かなり汗を流しているガウェインにりんごは無情にも頷いた。

 

 

ガウェインは後輩を見捨てる事も出来るハズが無く、これから戦魚たちと戦いを身を投じる騎士となった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「オラ〜♪ さっさと歩けこの種馬〜♪」

 

「くあ、み、美鮫ちゃん、そんな肉食獣が腐った獲物を見ているような目で僕を見ないでくれーー・・・・・興奮してしまいます!!」

 

「骨の髄まで腐ってますねー♪」

 

そんな褐色の肌が目立つ青年・浦島太郎はブカブカの黒服を着ている女の子、美鮫に縄で引きずりながら竜宮城、つまりはラブホの十五階にへと連れて行っていた。

美鮫の兄、愧鮫はこの浦島(バカ)を追い掛けている途中車に跳ねられ、竜宮グループが営業している医療センターにへと運び込まれているのだ。

 

カツカツッと若干苛立ち覚えの足音が美鮫と浦島の背後から聞こえた。

 

「チィッ! 関東支部荒事専門部署が潰されたっつー話は本当か天貝(あまがい)」

 

『はぁー、何かそうらしいっスよ? 自分が確認しに行ったらどっかのクソガキ共が警察(サツ)に捕まってる所でしたわ、火炎ビンやら火炎放射器やらね、日本の何処に販売していやがったんだ的な武器チラホラとねぇ、あぁ後ですね高層ビルの屋上からスナイパーらしき人物を見たっつー話も出てるんスよ、考えましたよねぇ、電磁力を使った狙撃銃を使用したみたいでスわ』

 

「んあァ? 多分そりゃ磁力式狙撃銃系だな、フランス辺りで俺に狙撃してきやがった銃(やつ)だ」

 

『はぁ~・・・・・・まぁよく生きていましたね・・・・・・・・・まぁ、いいスわ、狙撃は繊細で距離はおよそ、600メートルくらいスかね、気流や突風も考えてこれだけ────────』

 

「オイ・・・・・」

 

『え、へっ! な、なんスか・・・」

 

そこで美鮫と浦島は背後から聞こえた元を見た。

 

そこは暗い階段を照らす黄色い灯りしかなかったが、すぐに声の主が分かった。

 

「襲った奴らを根絶やしにしろ、それ以外の命令は無(ね)ぇんだよ? あァ天貝? テメェの身体(かい)の中の臓器(ぐ)を全部引きずり出されてぇのか、ゴラァ?」

 

声の主はそれだけ言って通話を切った。

 

「美鮫、早く太郎“さん”を奥の間に入れろ、面倒を増やすな」

 

なんとも至極嫌そうに『さん』付けして浦島を行かすように指示する。

 

「アハハー、もうちっと待って下さいよショチョー、イルカちゃんと鯨良のオヤジが掃除してますからー♪」

 

署長。

この竜宮グループが運営する人がいれば一番に思い浮かぶ人物、竜宮グループ荒事専門部署署長、海淵雷魚しか居なかった。

雷魚はまだ苛立ちが収まっていないのか懐から煙草を取り出す。

 

そう、かなり苛立っているのだ。

 

サングラスを掛けているからまだ良いのか、サングラス越しに見える目はギラギラと輝いており、すぐに『誰かを殺してしまいそう』な意思を込めた睨みが空を泳がせる。

 

もう浦島は雷魚が前に居るだけで息が出来ずに居る、心拍数が莫大にかけ上がり、息を吸う回数も増えてもう口の中は乾燥しまくっている。

 

が、そんな虎をも睨みだけで殺せそうな雷魚に命知らずが言った。

 

「ちょっとちょっとショチョー! たばこはちゃんと喫煙所に行ってやって下さーい」

 

ノォォォォォ!!? 何を言っちゃったのこの可愛い娘ちゃんはァァァァ!!。

 

浦島が美鮫にそんな風に言おうとしたが、雷魚はピタッと手が止まる。

 

「・・・・・面倒臭ぇ」

 

「じゃあ仕方ない♪」

 

「良いのかよっ!?」

 

思わずツッコンでしまった浦島が青白くしながら雷魚を見ると、詰まらなそうな顔で、

 

「うるせぇ」

 

「すみませんでしたァァァァァァァァ!!」

 

雷魚が一瞥してジャッンピング土下座した浦島を横切り廊下に出る。

 

そんな雷魚にまた電話が掛かる。

 

雷魚は面倒臭そうに携帯を取り出し、画面を見ると【海月(くらげ)】の文字。

 

「・・・・・どうした」

 

『あひゃい! はいあのそのですね、物凄い速さでこっち向かってくる黒いバイクを発見しました』

 

かなり焦った感じの少女の声が雷魚の耳に届く。

 

「黒い、バイク」

 

そして雷魚はそのバイクに乗る知り合いが一人居た。

 

『黒軋ガウェインさん、です、確認しました』

 

そして的中、黒軋だった。

 

(・・・・やっと見つけたんだ、お嬢様の願いが叶うんだぞ。邪魔する気か・・・・・・・・・・・・)

 

雷魚は体を引き返す。

 

「俺が出る、海月も戻っておいで」

 

雷魚はいつの間にか穏やかな口調に戻っていた、いや、戻そうとしていた。

 

雷魚はパタンッと折り畳み式の携帯を折り、懐に入れ、吸い始めた煙草を指と指で挟み白煙を吐く。

横過ぎた美鮫と目障りな浦島をまた一瞥して外に出ようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔はさせねぇぞ、クソ騎士が」

 

 

 

雷の魚はそれだけ吐き捨てた。

 

 

 

 

△▼▽▲▽▲▽

 

 

 

 

街中をぶっ飛ばして走って来た黒い騎士の黒鉄馬、その黒鉄馬が止まったのは竜宮グループが運営しているラブホの少し離れた場所だった。

 

何故止まったか、それは単純に運転の邪魔を去れたからだ。

 

 

どうやって?

 

 

 

これも簡単。

 

 

走っていたバイクの横から爆撃並の衝撃波が襲われたからだ。

 

グガァドガワン!! とガウェインは黒鉄馬(バイク)GALL-10と共に売り地となっていた空いてあった土地にへと吹っ飛ばされた。

 

「死んだか?」

 

 

そして衝撃波が放たれた方向からそんな声が聞こえた。

 

「堪ったもんじゃねえよな、後輩の願い聞いただけでラブホの横でおっ破(ぱ)死ぬなんてよォ」

 

ガタンッ! と何か重い金属が道路に落ちた音がした。

 

「超電磁力爆撃式大砲、俺が潰した闇会社の開発した『兵器』だ、名前からして一発屋よろしくの兵器。使い道がいつかあると思ったんで残してたが、チッ、ガキ殺すのに使うたァ俺も老いたな、あぁ~嫌だね老い」

 

そしてその超電磁力爆撃式大砲(バズーカ)を放った男、雷魚は飛んで行った売り地に足を踏み込む。

バズーカのせいか黒煙が辺りを占めていた。

 

「死んでねぇんだろ、出て来いクソ騎士が」

 

そう言った時だった。

ブワッと黒い煙を鎧のように胴体から撒き散らして歩いて来た騎士甲冑姿(ライダースーツ)の青年、黒軋ガウェインだった。

 

「モロに喰らって骨折無しか? お前どんな仕組みになって───────」

 

 

グキィッ!

 

 

 

「──────ッ!?」

 

 

衝撃。

 

 

 

雷魚の溝に一発の衝撃が走った。

 

 

 

「があああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

雷魚は貫かれる衝撃に耐えきれず後ろに足をよろめかせる。

 

 

 

「確実に“普通”の人間だった死んでたぞ」

 

そして雷の魚の前に、騎士が立つ。

 

「ハァハァ、何だぁ? テメェは『普通』じゃねぇのかよ?」

 

雷魚は溝を摩りながら力強く踏み締める。

主の為に、何よりあの乙姫(こ)の為に雷魚は口に加えていた煙草を吐き捨てた。

 

 

「来いよ、雑魚が」

 

 

黒い騎士は黒き鎧を纏いながら、軋む体を鞭打ち立ち向かう。

 

 

 

「駄騎士が吠えろ」

 

 

 

 

 

 

騎士と化魚(ばけざかな)の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして無事ラブホ前に到着した大神と亮士。

 

 

「おい、何か向こうで工事やってんのか凄い音したぞ」

 

「なんか爆弾みたいな感じでしたっスよ!?」

 

 

 




ラブホの横でバトル場面突入ですよ!?

何スかこれ!!
自分で描いてびっくりですわ!


感想やコメントお待ちしておりますε=┏(; ̄▽ ̄)┛


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