騎士と魔女と御伽之話   作:十握剣

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すげぇ滅茶苦茶オリジナル話ですが、なまあたた


第10話「騎士さん竜宮城の戦魚達に無理矢理手伝わされる」

海淵雷魚(かいえん・らいぎょ)

 

竜宮グループ荒事専門部署で〝署長〟を務めている男の名だ。

 

年齢は二十歳と思わせる顔立ちと体格、そして言葉遣い。だが実際その雷魚という男は日本や世界の死線を幾度も乗り越えて来た非現実な男。

 

 

 

その眼光は全ての餌を見逃さず。

 

その口は獲物を喰い。

 

その鱗は鎧の高強度の防御を誇り。

 

その鰭は全てを凪ぎ払う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「なんだよ黒軋、相変わらず無表情な奴だね。だが『怒り』の感情は芽生えたみたいだねぇ。それもこれもお前の祖父(じい)さんのお陰かな?」

 

冷気。

 

例えるならそれが一番合うだろうか、今ガウェインと雷魚との間には冷気が入り乱れているのが一番に表現が合う。

 

凍てつく風が二人を包み込むように吹きあれると雷魚の方が一気に陽気そうな顔になる。

 

「こんな市街の入口で喧嘩するのは良くないよね。“奥方様”に迷惑が掛かる」

 

さっきまで身体の温度が一気に下がりそうになるような殺気を放っていた男とは思えない揚々しく話す雷魚。ガウェインは相変わらず無表情のまま雷魚と向き合う。

 

「だがイライラしてるのは間違いの無い事実だ。マジでイライラだよ♪ 殺したくなりそうな程に、なァ?」

 

「アンタの相手をするのはごめん(こうむ)るぞ。俺はバイトに行くんだ」

 

「あぁ別に良いさ、只お願いする為に待ってたんだからね」

 

カツカツとホストが着るような黒服の恰好をしている雷魚は懐に手を伸ばした。

その瞬間にガウェインは愛用バイク“GALL-10”の後部から隠されていた内蔵部から『刀』らしき武器を抜き、雷魚の首筋に添えた。

 

「反応は早いねぇ、最早人間業じゃないよ、だが洞察力には欠けてるな」

 

「・・・・・・・・・・何?」

 

「もし俺が懐に銃を忍ばせていたなら俺ならまず肢体全箇所に膨らみなどが無いかを目を配り、その後の行動等を思案する」

 

まぁ、それも洞察力とは言わん、ごく普通な対応だがな。と雷魚は首筋に刃物を添えられていると言うのにまるで怯えた様子など一片も見せずに語り出す。

ガウェインも長くなりそうだったので結局何が言いたいのかを聞くと、

 

「つまりはだ、俺は銃を取りだそうとしてる訳じゃない。これを見てもらいたい訳だ」

 

ぱらっと懐から出した物は写真だった。

そして少し離れていた場所から海月(くらげ)という少女がやっと声を掛ける。

 

「そそそそ、その写真に写っている人物に見覚えはあり、ありませんか? わ、私達は探してい、いるのですが見つからない、のです」

 

途切れ途切れだったが、

 

「名前は『浦島太郎』という男性で、優しく亀を助けてくれそうな人だ」

 

「・・・・竜宮城に行きそうな顔はしてるな」

 

雷魚が聞くとガウェインは刀を雷魚から離し、バイクにある鞘に収めた。

写真の中には好青年にも見え美青年にも見える端麗な顔付きなのだが幾分か青臭さが混じった感じにも見える褐色肌の顔だった。

 

「知らん顔だ」

 

ガウェインは何とも素っ気ない返答をしてバイクにまたがる。

 

「そうかい、じゃあ見かけたら俺に電話かメールをしてくれたら助か・・・・・」

 

ブォオン! とバイクをガウェインは雷魚の話を最後まで聞かないで走り去っていった。

 

 

雷魚は走っているガウェインの後ろ姿を見ていると海月が冷や汗を垂らしながら近付く。

 

「あ、あれが唯一、海淵署長と“まともに戦える”黒軋ガウェインくん・・・・なんですか?」

 

「あぁ・・・・・・そうさ」

 

『戦う』だなんて、マンガやアニメじゃあるまいしと思うだろうが、残念ながらこの雷魚という男はその『戦う』というものに取り憑かれた者なのだ。

 

雷魚はどこか嬉しそうな顔になりながらも行き場の無いイライラを発散する為、タバコに火を付けながら言う。

 

「スハァ・・・・・・戻るぞ」

 

「は、はい!」

 

雷魚は歩きながらタバコを吐き、御伽花市の市街地の内にへと足を進めた。海月はそんな雷魚の後をふわふわと付いて行った。

 

 

 

 

 

あれはガウェインはまだ中学生の時だった。

 

 

親からの身体的虐待と精神的苦痛を虐げられたことによる感情紛失。

 

子供の身体に受けるとは到底思えない程の刃物による傷痕、折ることなんて絶対にある筈も無いのに七ヵ所以上の骨折。

 

そして皮肉にも折れた骨はかなり丈夫な筋骨となり、ガウェインの武器ともなった。

だが如何に骨が丈夫になろうが筋肉も強くならなければ内側から肉を裂かれるような激痛にガウェインは毎日のように苦しんでいた。

いや、ガウェインに取って『苦』という感情は日常茶飯事であり、それを一々感じ取っていれば4日といかずに精神が破綻するだろう。だがそれは一番大切な感情であり、人間とって必要不可欠な感情なのがガウェインは知らないのだ。

 

 

そんなガウェインがこのまま成長すればどのような大人になるのかを誰よりも早く気付いたのがガウェインの祖父に当たる老人だった。

 

一時フェイ家から離れ、祖父の下で住んでいたガウェインはそこで数多くの大切な教えをそこで学んだ。

 

そして祖父は御伽学園学長である荒神洋燈(あらがみ・らんぷ)と同期らしく、権力もかなりあるらしい。祖父の下には“壊れた強さ”を持っている人たちが数人住み込みで居て、その中に海淵雷魚という男もそこに居た。

 

祖父にみっちりと鍛えられたその門下生たちは各々で戦い始め、ガウェインの始めて戦いを行なった対戦者が海淵雷魚だった。

 

当時中学生であったガウェインに問答無用に“殺し”に掛かる雷魚は正に鮫のように荒々しく、鯨の如く巨大な一撃を放つ雷魚は悪魔のようにガウェインには映っていただろう。

 

だがガウェインは生き残った。

 

だがそれは雷魚に一撃も放つことが出来なかったことも、心残った。

 

もう二度と戦いたくない。

 

 

もう二度と会いたくない。

 

 

あんな疲れる相手とは、もう二度と金輪際会いたくも話すことも嫌になった。

 

 

 

 

 

 

 

雷魚と会った次の日。

 

 

ガウェインはマジョーリカの部屋【魔女工房】に居た。

 

 

「今日は月曜・・・・・ということは」

 

「涼子たちが当番だヨー!」

 

グツグツとドデカイ鍋を掻き混ぜているトンガリ帽子を被ってマジョーリカは陽気にガウェインに返答するが、

 

「・・・日曜に会ったのか、雷魚(アイツ)と・・・・・・最悪だ」

 

部屋にあった机に項垂れるガウェイン。

 

「ありゃ、違ったのかヨー」

 

マジョーリカは気にしないで掻き混ぜる。

 

何かを。

 

 

(・・・・・絶対に面倒なことになりそうだ)

 

ガウェインが何かそんな風な予感をした途端に携帯電話のバイブレーションシステムが発動する。

ガウェインは片手で操作し、画面を見るとそこには『馬鹿魚』と出て居た。かなり怪訝そうな顔をするガウェインだったが一向に切れる様子がなかったので本当に面倒臭がりながら電話に出る。

 

『雷魚だ♪』

 

電話越しから聞こえた機嫌良さそうな声に若干の苛立ちを覚えるガウェイン。

 

『浦島太郎を見つけた手伝え』

 

 

何故俺が手伝う?

 

 

 

そうガウェインが言うと雷魚はとんでもない言葉の剣をガウェインの胸を貫いた。

 

 

『御伽学園潰すぞ♪』

 

 

ガウェインは返答をしないで通話を切る。

だが何もしない訳じゃ無い。すぐに雷魚の下へとダッシュしなければいけない。

 

あの男は決して冗談を言えるような面白い人間じゃ無い。

 

ヤクザや外国のマフィアを幾つも潰して来た雷魚が潰すと言って潰してこなかったものなど一度も無かった。

 

「急に青い顔してどうしたヨー?」

 

マジョーリカも心配そうにガウェインを上目遣いで見て来る。

 

「マカ・・・・」

 

そんな愛くるしいマジョーリカを見たガウェインはこれから海魔の手伝いしに行くのがかなり嫌になった。

 

「ちょっと、人助けに」

 

嘘では無い。

 

「顔色優れないヨー? 断っちゃえヨー」

 

ガウェインは本当に断りたかったのだが、雷魚が学園を潰しに来るのを何としても止めさせないといけない。マジョーリカの頭を撫で、そして綺麗な金髪を優しく掴み、キスをする。

 

「え、あ、ちょ/////」

 

素に戻って赤面になりながらも髪をわしゃくしゃにしてガウェインから離れるマジョーリカ。

ガウェインはそれを見て微笑み、雷魚の下へと向かった。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」

 

 

不機嫌MAXのガウェインは雷魚の下に集まった戦魚たち(の内二名)を轢き殺せる程の速度で横切った。

 

「また殺され掛けたぞ!?」

 

「何でまた愧鮫兄貴と俺が同時に引かれるんスか!!」

 

そしてガウェインが轢き殺そうとしたのは竜宮グループ荒事専門部署に所属している愧鮫と海蛇(かいだ)だった。

不機嫌なガウェインはすぐにタバコを吸って花壇に腰掛けている雷魚に尋ねる。

 

「高校生を脅すとは、腐ったな雷魚」

 

「いやだね黒軋、アレは脅しじゃはなくて脅迫と言うんだよ」

 

「漢字読めるか? 意味は同じだ」

 

会って早々に雷魚に突っ掛かるガウェインを見ていたその場の黒服の人たち。

 

「すごい・・・・・あの雷魚さんにあんな態度を取る人は初めて見た」

 

「スゲースゲー♪」

 

そしてその黒服の中には青い髪をポニーテールに纏め上げ、モデルのような綺麗な体つきをしている女性と。まるで雷魚が怒られているのを喜んでいるように笑っている小さな桃色の短髪少女が居た。

 

「・・・・・・・・・・誰だ、荒事専門部署には確か厳つい男共しか居なかったハズなんだが」

 

ガウェインは女が居た事に驚いていた、しかも二人だから尚驚いていただろう。

 

「別にこの部署は男だけが所属されているんじゃ無いんだよなぁ」

 

「・・・・・・なに?」

 

「竜宮グループ荒事専門部署、女性を守るため組織された部署なのは分かるな? そう、この部署に入ることは以外と簡単な事なんだ。軽い面接とその面接時にどれ程の知識を持っているかを確認。そして本題が『実技』だ」

 

ガウェインは話しだした雷魚を無視することも出来たが気になる話だったので無言でいる。雷魚も微笑みながらタバコの煙を吐きながら話す。

 

「その実技の担当するのがこの俺、海淵雷魚が直接相手することだ」

 

「・・・・最悪だな」

 

クハハハ、と笑いながら雷魚は周りに居る黒服たちを見る。

 

「ここに居る奴らはほとんどは俺が相手して臆(お()さなかった奴らだ」

 

「なんだと」

 

「まぁかなりビビっている奴も居たけどな、臆しても挑む精神の強さ、そして精神面だけでは無く純粋な強さを持つ奴ら・・・・・・そんな色々な奴らが竜宮グループ荒事専門部署に集められている」

 

ガウェインは純粋に驚いていた。この雷魚(バケモノ)相手に恐怖しなかった奴らが居たことに。

 

そして同時に、そんな恐怖さえ超える“何か”を構える者や、恐怖という大切な感情を無くした者でなければ勤まらない仕事に就いている黒服たちを見て何処か自分に似ている事に気付いたガウェインだった。

 

「説明してなかったな、昨日の海月(クラゲ)と同期入所した入夏(イルカ)美鮫(ミサメ)だ」

 

雷魚はタバコを口に加えながらクイクイッと二人を手招きすると礼儀正しく頭を下げて挨拶した黒服の青い髪の娘が鯆夏で、まだ大きめの黒服をぶかぶかにさせた桃色の短髪の少女が美鮫のようだ。

 

「い、入夏と申します!」

 

「は〜い、美鮫って言いま〜す」

 

入夏は真面目そうな性格で美鮫はどこか楽天的な性格そうだった。

 

「因みに美鮫は愧鮫の妹だ」

 

「サメ繋がりか」

 

「違わいッッ! と言いたいがそうだよッ!」

 

そしてさっきまでガウェインにビビりながら遠くで海蛇と見ていた愧鮫だったが携帯のマイク口を手で押さえながら雷魚に手渡した。

 

「・・・・・・俺だ」

 

雷魚はタバコを加えたまま電話に出る。

因みにもう日が完全に落ちている。

 

『はぁはぁ・・・・・・すみません。浦島さんを追い掛けていたのですが、ハァハァ、まかれまたした』

 

「分かった、引き続き浦島太郎の追跡を─────────」

 

『うわああああああああああああああああああああああああああ』

 

雷魚がそう言おうとした瞬間、電話の向こうから叫び声が通り過ぎたのを聞こえた。

 

『うぉあッ!? 浦島さん!? すみませんいきなり浦島さんを見つけました、至急に応援頼みます、現在地の場所をメールで送りますので!』

 

ツーツーと電話は切れて雷魚は好機! といった感じにニコ顔をする。

 

「出番だ、黒軋」

 

その時ガウェインは面倒な事に手伝ってしまったのを後悔していた。

 

 

 

 

 

 

浦島太郎は駆けていた。

黒服の男に捕まらないように、

 

「ちょ、まて、まって下さい。浦島さん! てか足速っ!?」

 

浦島は全力で走る。

黒服の男に捕まらないように、

 

「グォラァ! 待ては肌黒野郎ォォォォォォォ! この愧鮫サマが捕まえてやんよォォォォォォォ!!」

 

「ギャハハハは!! 愧鮫の兄貴がこう宣言しちゃったらもうお前捕まっちゃうよォ? マジで捕まっちゃうよォォォォォォォ!!!」

 

そう、例え鮫と海蛇が浦島を襲い掛かろうが駆ける。

 

「マジで美少年ムカつくんだよゴラァァァ!! モテてんじゃねぇぞゴラァァァ!! ぶっ殺す!」

 

「ホラ見ろ愧鮫の兄貴がひがんでクラスのモテてる男の子に醜く嫉妬する男子中学生のような思考でお前を捕まえようとしてっぞォォォォォォォ!! と言う訳で捕まれやァァァァァァァァ!!」

 

「怖いィィィィィィ!!」

 

だが浦島は怖すぎる追跡者に超必死で逃げていた。

しかも日が落ちているので暗い、そんな暗い中であんな叫び声を上げながら追いかけられたら堪ったもんじゃない。

 

「チキショー!! 何で姫様はこんな、こんな顔が良いだけの糞野郎にッッ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぶっっっっっっっ殺ぉぉぉぉぉぉぉす!!」

 

(はかね)ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「怖ぇぇぇぇぇええええええええええええええええええッッ!!」

 

 

本当に殺人鬼のような形相で追い掛けてくる愧鮫は死ぬほど怖かった。

浦島は人、など居ないが人混みをかき分け、路地を抜け、私有地を横切りそして・・・・・・。

 

 

「種馬ァァァァァァァァァ!!」

 

「もう変態みたいだよ愧鮫の兄貴ィィィィィィ!?」

 

前方に浦島が消えたのを気付かないで爆走する愧鮫と海蛇。

浦島は大神によって上手く隠れたのだ。

 

「・・・・・・お前恨まれてるじゃねえか」

 

大神は少し引いたような眼差しで浦島を見る。だが浦島は怖い鮫に追い掛けれた為にガクガクと身体を震わせていたので大神は引いた眼差しから同情の眼差しにへと移った、が。

 

パンッ!

 

「浦島さん、見つけました」

 

いきなり大神と浦島の前に飛んで現れたのは青い髪をポニーテールにした黒服の女性、鯆だった。

浦島は打って変わって至福を得た子供のような笑顔を出しながら両手を広げて立ち上がる。

 

「イルカちゃんじゃないか♪ どうせ捕まるなら君に・・・・・・」

 

「はぁ!? てめぇ逃げる為に俺たち手伝ってんだろうが!」

 

「すみません、確かに涼子さんのその魅力的で綺麗な美脚を見れなくなるのは確かに嫌なのでやめにします、ですが・・・・・やはり、イルカちゃんも捨てがたい!」

 

「死んどけ!」

 

大神が浦島を殴っているとクスクスと微笑みを掛けてきる女性に気づく。

 

「大丈夫ですよ、浦島さんを渡してくれたら貴女の望み通りにして上げますから・・・・・・」

 

そこで大神は気付いた、この鯆夏という女性から異様な威圧が掛かっているのに、手の汗が尋常じゃないほど溢れる。

 

「血祭りにして殺してあげますからそこの種馬渡してください♪」

 

 

 

ブワッと二人はすぐに逃走した。

 

 

 

「ああああ相変わらず変わった愛だなぁ、イルカちゃんはぁぁ♪」

 

「馬鹿野郎!! 死ぬほど怖かったぞあの人!?」

 

大神も何故か一緒に浦島と逃げてしまっているのに気付いていないまま爆走する。無言で追い掛けてくる鯆がかなり怖いのだ。

 

「お、お前あの女(ヒト)に絶対何かしただろ!?」

 

「いぃーえ! 断じてそんな下郎がやるような真似は死んでもやったりはしません!」

 

「じゃあ何だってんだよー!」

 

二人が街中を走っていると先回りしていたのか他の黒服の男たちを率いて走ってくる桃色の短髪少女、美鮫が居た。

 

「キャッチィー・・・・・・・・・・──────────」

 

「おっ!」

 

美鮫は勢い良く飛んだと思いきや俊敏な動きで浦島の懐に入り、小さい体なりで結構長身的な浦島を抱き止める。浦島はかなり嬉しそうな顔だったが、

 

「ちッ!」

 

「よし!」

 

そして浦島が捕まったのを大神が確認してすぐに二人を引き剥がそうとするが後ろから無表情なのに快気に満ちた声で喜んだ鯆夏を見て腰が引いてしまった。

鯆もこれを気に仕掛けようとするが、

 

「───────・・・・・・・・・・アンド、リリース☆」

 

「おっ・・・・」

 

美鮫は魚を河に返すような感じで浦島をリリースした。浦島はかなり残念そうな顔をしたが他の黒服たちの厳ついお兄さん達を見て正気に戻り逃走する。

 

「リリースするなァァァァァァァァァ!!?」

 

鯆はまさかの事態に混乱して美鮫のぶかぶかな黒服の胸ぐらを掴みグラグラと揺らす。

 

「あぃあぅあぇ〜アハハハハハハーー♪♪」

 

頭をがくんがくんさせながら楽しそうにしている美鮫を見て鯆はかなり頭を悩ませた。大神もその事態にすぐには理解出来なかったが浦島の後を追った。

 

 

 

 

「ハァハァ、い、いくら何でも、しつこ過ぎるだろこれは」

 

あの後も海の生き物の名前を持つ黒服たちに追いかけられかなり御伽花市の街中を駆け釣り回っている大神と浦島。流石に大神も市を何周も走り回っていれば疲れる。だが黒服たちも飽きられめておらず只今も追い掛け回れている。

 

『これは全く予想外の出来事ですの、黒服の人たちをこんな大人数で探索に出させる竜宮グループも凄いですが、竜宮グループに追いかけ回れているその浦島太郎とか言う人も“ある意味”凄いですの』

 

「もう嫌だ、こんな暗い街中走り回されるオレの身にもなってくれ」

 

『う〜ん、確かに涼子ちゃんをこれ以上夜遅くまで外出させているのは私が許しませんの、ですが一度受けた仕事を放棄するのは御伽銀行の名が落ちてしまいますの・・・・・・う〜ん』

 

因みに電話相手はりんごであり、浦島と大神は誰も居ない夜の公園に居た。

 

『鬼ヶ島高校の人たちも黒服のお兄さんたちのお陰で劇的に減少しましたが、逆に追い詰まれて来てますの。今さっき森野くんを応援に行かせました。森野くんの猟師的感覚で人の気配が無いルートで御伽学園に向かってですの』

 

「分かった」

 

『気を付けてくださいですの、この黒服の人たちを纏め上げている人は絶対に只者じゃ無いですの』

 

林檎からとても意味深な言葉を受けた大神は携帯電話を切り、休んでいる浦島に言う。

 

「ここに応援が来っからそれまで隠れてっぞ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

浦島に声を掛けるが何故が返事をしない浦島、大神が疑問に思って上がっていたジャングルジムから降りようとすると、

 

「あぁッッ! もうすぐで涼子さんのパンチラが!」

 

「っんな!!//////」

 

浦島はジャングルジムで電話していた大神の隙を突いてパンツを見ようとしていたらしく物静かにジャングルジムの中に入っていた。

 

「くぉのクズ野郎がァ!」

 

「ごはっ! なかなかのお手前で!」

 

馬鹿な浦島は見事に身動きが出来なくなっており大神の右ストレートをクリーンヒット、気持良く失神しようとした。

 

 

だが、

 

 

 

 

「見ィッつー、浦島太郎」

 

ジャリ、と現れたのはボサボサにした黄色い髪に、黒服を着崩し首にはチェーンを巻き、黒いサングラスを掛け、白いタバコから吸い上げ、そして気持ち良く吐き出す白煙混じりの声。

 

 

こんな夜にそんな恰好してればホストか何かをしている職業者だと大神は最初に思ったが浦島の名前を知っていたのですぐに黒服の人たちに関係する人物だと大神は判断した。

 

「チッ、しつこいな」

 

大神も逃げるのに疲れたのか、魔女さんが開発したメリケンサック型ねこねこナックルを両手に装備する。

 

「え、何すんの?」

 

そして戦闘体勢に入っている大神を見て黄色い髪をした青年は不思議そうな声で尋ねる。

 

(ワリ)いが引いて貰うぜ」

 

タンタンッとステップを足捌く大神。

 

「え、暴力なの?」

 

打って変わって青年は気怠(きだる)そうな声色でタバコを片指で挟みながら言う。

 

「あぁ、だが大人しくどっか行くなら許してやら────────」

 

 

 

ゾワッッッ!!!!

 

 

 

 

大神は首を絞め上げられそうな“何か”の感覚に襲われる。一瞬にしてだ。

 

「止めようよ、痛いだけだから」

 

そしてその“何か”の感覚を放出させていたのが目の前でタバコを吸っている青年、海淵雷魚から出ているのに気付く大神は思わず腰が引けてしまった。

 

何故か急に戦意というモノがどこかに消えた。

 

初めての感覚だった。

 

 

こんな次元の違う威圧感は初めてで、大神は嫌な喪失感と共にどんどんと腰を地にへと近付き、そしてとうとうペタリと座り混んでしまった。

 

「・・・・・ちょっと俺がイラっとしたらこれだよ。オレの威圧に()されちまったんだな」

 

雷魚は面倒臭いようにそう言いながら歩いて近付いて来る。

 

「・・・・・ぁ・・く・・!」

 

頑張って身構えようとするがやはり力が入らない。

 

「用があるのはソコで寝てる男だけだ、お前には手は出さない」

 

そう言って雷魚はジャングルジムの中で気絶してる浦島を訝しげに見ながら掴み掛かろうとした時、

 

 

 

「──────?」

 

ヒュンッと雷魚の差し出した右手が何か金属の玉のような球体が物凄い速度で飛んで掠めた。

 

「はぁ?」

 

雷魚は飛んで来た方向に目を向けるとそこにはパチンコを構えている男子高校生と、まるで西洋甲冑のようなライダースーツを着ている青年、ガウェインが居た。

 

「涼子さん!」

 

パチンコを構えていた男子高校生、森野亮士が大神の名を叫びながら近寄る。

 

そしてガウェインも雷魚に近寄る。

 

「雷魚、お前・・・・・・・・・・」

 

「何もしてないさ、ただ俺の威圧に耐えられなかっただけだ」

 

ガウェインは今にも雷魚に殴りかかる勢いで睨む。

 

「・・・・・何だよ」

 

雷魚もいつまでも睨んでいるガウェインを不愉快そうに顔を歪ませながらサングラスを取る。

 

「殺すぞ!?」

 

雷魚はさっきとは打って変わって限りない夥(おびただ)しい威圧感をガウェインに襲わせるが無表情に雷魚を睨み続ける。

 

「く、騎士先輩」

 

大神はなんとか亮士の肩を借りて立ち上がりガウェインに声を掛ける。

 

「そこの浦島も持って行け」

 

「あぁ!?」

 

ガウェインはジャングルジムで気絶している浦島を連れて行けと大神たち指示する、だが大神も亮士も驚いていたが一番に驚いていたのがガウェインに協力を求めていた雷魚だった。

 

「黒軋、お前何言ってんだ、そんなつまらない冗談はいらねぇんだよ?」

 

完全に口調が変わっている海淵雷魚、これが本当の雷魚なのかもしれない。

 

「ここは俺の言う通りにして貰うぞ、雷魚」

 

ガウェインは無表情ながらも幽かな怒気を含んだ言い方で雷魚を見る。

 

だがその時、

 

「見つけたぞォォォォォォォ!!」

 

草むらいきなり現れたのは相当なにかで浦島を恨んでいる愧鮫だった。

愧鮫は浦島を捕まえるべく近くに居て邪魔だった大神、亮士をぶっ飛ばす為に攻撃しようと、したその瞬間(とき)

 

「サメが・・・・・」

 

ガウェインの回し蹴りを後頭部をグシャッ! と強打し、一瞬にして地にへと俯せになる。そしてぴくりとも動かなくなる。

 

そんなガウェインを大神と亮士は単純に『強い』と思った。

なんと言えば良いのか、その『強さ』に何かを感じた二人だったのだがそれを大人しく見ていた雷魚は修羅の如き苛つきをを急に露にしてガウェインに殺しに掛かろうと、しようとした瞬間、プルループルルーと雷魚の携帯が鳴る。

 

雷魚は携帯を忌々しく思いながら携帯画面を見てみる、するとすぐに表情が変わり少々怯えた感じになった。

 

「はっ! こちら海淵雷魚ですが何かあったのですか? ・・・・・・ハイ、ハイ・・・・・・・・・・いえそれは俺のせいでは・・・・いえ何でもございません、すぐに部下を向かわせますのでどうかご無理をなさらないで下さい・・・・・・・・・・ハイ・・・・ハイ・・・・・・分かりました、俺も戻ります」

 

 

ガウェインは初めて携帯を持ちながらサラリーマンのように頭を下げながら喋っている姿の雷魚を見た。

 

パタンッと携帯を折りたたみ懐にへと戻す。

 

「・・・・・・・・・・・そこの馬鹿野太郎に行っといて下さい、今回は見逃す、次・・・殺す!!!」

 

それだけをはっきり言って気絶している愧鮫を引き釣れて歩いて行く。そして数歩歩ったと思えば振り返り、

 

「次、殺す!!!」

 

それだけ告げて闇夜の中にへと消えて行った。


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